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17章 再開の約束
16-3
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崩れた柱の中から現れた、謎の男。そいつは気絶しているのか、ぐったりと倒れて動かない。
「……ぱっと見、人間に見えるな」
「けど、あの柱みたいなやつって、三幹部の一人なんでしょ」
「一応は、そうらしい……なら、あれも人型の魔物か?」
するとウィルが、そいつにそろそろと近づいて行った。
「……なんだか、縛られてるみたいですよ。それに気を失っているのか、ぴくりとも動きません」
ウィルがロッドでその男をつつく。確かに、動く気配はない。それに、縛られている?どういうことだろう。
「みな、近寄るんじゃないぞ!敵の新たな罠かもしれん」
エドガーのであろう、太いだみ声が聞こえてきた。しばらくしてから、エドガーの指揮の下、数人の兵士が男に接近を試みた。全身フルプレートの重装甲兵が、盾をしっかり構えて、すり足で男に近寄っていく。じり、じり……見ているこっちも緊張してしまう。やがて、数メートル足らずの所まで近寄ると、兵士は槍をそろそろと伸ばして、先端で男を突いた。
「っ……」
なにも、起こらない。男が目を覚ます様子もない。兵士の一人が、こちらに振り返った。
「隊長殿!この者、どうやら完全に気絶している様子。さらに、口枷や手枷までされています」
なんと。それはまた、妙に厳重だな。ていうかどう考えても、敵に対してすることだ。あいつは、三幹部の一体のはずだろ?
「なんで、味方を縛るようなマネを……?」
するとライラは横目で、ちらりとアルルカを見た。アルルカは憤慨した様子で「一緒にすんじゃないわよ!」と怒鳴った。はは……まさか、緊縛プレイを楽しんでいたわけじゃないだろう。
その後もしばらく、兵士たちは槍で突いたり、周囲を慎重に観察したりしたが、変わったことは起きなかった。新しい罠、というわけではないらしい。
「ぬーう。敵ではないのか?」
「隊長。調べてみる価値はあるかもしれません」
エドガーとヘイズの会話が、ここまで聞こえてくる。
「……よし!そいつを連れてこい。ただし、拘束具は解かずにな」
謎の男は、接収されることになったみたいだ。確かに、気になるよな。ヴォルフガングは、あの男を……正確には、あの男が包まれていた柱らしきものを、三幹部だと言ったんだ。その中に囚われていた男が、何も知らないはずがない。
「ちょっと、気になるな……俺たちも話を聞けないか、訊きに行ってみようか?」
「部外者が行って、怒られないでしょうか?」
「おっと、こっちには今回の立役者がいるんだぜ?嫌な顔はさせないさ」
俺はライラの肩をポンポンと叩いた。ライラが誇らしげに胸を張る。
「あ、そうでした。なら、心配無用ですね」
「そういうこと。さあ、行こう」
兵士たちの間を歩いて行く。さっきの爆弾虫との戦闘で怪我をした人たちを、シスターやブラザーが懸命に治療している。中にはキサカや、デュアンの姿も見えた。真面目に働くデュアンを見たのは、これが初めてかもしれない。
「くそ、急いで倒したつもりだったが、結構やられたな……」
怪我人の大半は、火傷を負った人たちだ。程度に差はあれど、そういうやつらはそこまでひどい怪我じゃない。重症なのは、内側をやられたやつらだ。何人かはロウランと同じく、体内にまで潜り込まれたらしい。口から吐いた血で、胸元が真っ赤に染まった男を、シスターが三人がかりで治療している。ううぅ……
「……桜下さん。すみません、私やっぱり、向こうを手伝ってきます!」
怪我人たちを見ていたウィルが、居ても立っても居られない様子で言う。
「私の回復魔法はたかが知れていますが、これでも一応シスターです。今は幽霊の手であっても借りたい状況のはず。だから……」
言い訳を続けようとするウィルの肩に、俺はぽんと手を置いた。
「わかった。ウィル、頼む。どうせ俺じゃ役に立てないからな。代わりに頼んでいいか?」
「ええ、もちろんです!それに、私は難しいお話を聞いて、作戦を立てることはできません。だからそちらは、桜下さんにお任せしますね」
「よし、わかった。適材適所ってやつだな」
俺がにっと笑うと、ウィルも笑顔でうなずいた。すると、ロウランも俺たちから離れて、ウィルの隣に並んだ。
「じゃあ、アタシもこっちをお手伝いしよっかな。さすがに一人じゃタイヘンでしょ?」
「ロウランさん……心強いです。お願いします!」
ロウランは俺にぱちりとウィンクすると、ウィルと一緒に怪我人の下へ向かっていった。
「あいつら……まったく、心強い仲間たちだ」
俺は二人の背中を見送った後、残った仲間たちと一緒に、エドガーのいるところへ向かった。
「ちょうどよかった。こちらから呼びに行こうかと思っていたぞ」
俺たちが顔を見せると、エドガーとヘイズ、それに何人かの将校たちが出迎えてくれた。くだんの男は、その輪の中心に転がされている。
「そりゃ、グッドタイミングだな。でもよエドガー、どうして俺たちなんだ?」
「それが、なかなかどうして、この男を縛る枷が壊れんのだ。とんでもなく頑強で、ちょっとやそっとじゃ壊せそうにない。だがお前のとこには、オーガ並みの馬鹿力がいただろう」
「ああ、フランのことかいででで!」
俺があっさり納得したのを見て、フランが足を踏んづけてきた。
「なにすんだフラン!」
「まだわたしのことなんて言ってないでしょ!」
「だって、馬鹿力っつたらお前しか……あ、わかったわかった。睨むなって。おいエドガー、淑女に向かって失礼だろ!」
「……で?もう漫才は終わったのか?そろそろ本題に入りたいのだが」
エドガーがイライラした口ぶりで言う。後ろでアルルカが腹を抱えて笑っているせいで、フランはその何倍もイライラした様子だった。俺は必死になだめすかして(かなり歯の浮くような言葉も言う羽目になった)、なんとかフランの協力を引き出した。
「で?こいつの拘束を解けばいいの?」
「全部を壊す必要はないぞ。さしあたり、尋問に必要な目と口だけでいい」
「ん」
フランはそっけなくうなずくと、拘束具の金具を掴んだ。
「ふんっ」
バキ。フランが力をこめると、枷はあっさりと外れた。ひゅう、さすがだな。エドガーとヘイズはともかく、他の将校たちはフランの怪力に度肝を抜かれている。エドガーは満足げにうなずくと、余計なことを口走った。
「なんだ、やはりばかぢ」
「それ以上言ったら、お前のあごをこうしてやる」
エドガーは言葉を無理やり飲み込んだせいで、結果的にむせてしまった。代わりにヘイズが礼を言う。
「助かったぜ。これでようやく会話ができるようになった。さすがに口が利けないと、コイツが敵か味方かも分かんねえからな」
いよいよ本題ってわけだな。ヘイズが男の側に屈みこんだ。ぺちぺちと、頬を叩く。
「おい。生きてるか」
「……ぅぅ」
おっ、今、呻いたぞ。ヘイズがもう一度叩くと、男のまぶたがピクピクして、やがてうっすら開かれた。
つづく
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続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……ぱっと見、人間に見えるな」
「けど、あの柱みたいなやつって、三幹部の一人なんでしょ」
「一応は、そうらしい……なら、あれも人型の魔物か?」
するとウィルが、そいつにそろそろと近づいて行った。
「……なんだか、縛られてるみたいですよ。それに気を失っているのか、ぴくりとも動きません」
ウィルがロッドでその男をつつく。確かに、動く気配はない。それに、縛られている?どういうことだろう。
「みな、近寄るんじゃないぞ!敵の新たな罠かもしれん」
エドガーのであろう、太いだみ声が聞こえてきた。しばらくしてから、エドガーの指揮の下、数人の兵士が男に接近を試みた。全身フルプレートの重装甲兵が、盾をしっかり構えて、すり足で男に近寄っていく。じり、じり……見ているこっちも緊張してしまう。やがて、数メートル足らずの所まで近寄ると、兵士は槍をそろそろと伸ばして、先端で男を突いた。
「っ……」
なにも、起こらない。男が目を覚ます様子もない。兵士の一人が、こちらに振り返った。
「隊長殿!この者、どうやら完全に気絶している様子。さらに、口枷や手枷までされています」
なんと。それはまた、妙に厳重だな。ていうかどう考えても、敵に対してすることだ。あいつは、三幹部の一体のはずだろ?
「なんで、味方を縛るようなマネを……?」
するとライラは横目で、ちらりとアルルカを見た。アルルカは憤慨した様子で「一緒にすんじゃないわよ!」と怒鳴った。はは……まさか、緊縛プレイを楽しんでいたわけじゃないだろう。
その後もしばらく、兵士たちは槍で突いたり、周囲を慎重に観察したりしたが、変わったことは起きなかった。新しい罠、というわけではないらしい。
「ぬーう。敵ではないのか?」
「隊長。調べてみる価値はあるかもしれません」
エドガーとヘイズの会話が、ここまで聞こえてくる。
「……よし!そいつを連れてこい。ただし、拘束具は解かずにな」
謎の男は、接収されることになったみたいだ。確かに、気になるよな。ヴォルフガングは、あの男を……正確には、あの男が包まれていた柱らしきものを、三幹部だと言ったんだ。その中に囚われていた男が、何も知らないはずがない。
「ちょっと、気になるな……俺たちも話を聞けないか、訊きに行ってみようか?」
「部外者が行って、怒られないでしょうか?」
「おっと、こっちには今回の立役者がいるんだぜ?嫌な顔はさせないさ」
俺はライラの肩をポンポンと叩いた。ライラが誇らしげに胸を張る。
「あ、そうでした。なら、心配無用ですね」
「そういうこと。さあ、行こう」
兵士たちの間を歩いて行く。さっきの爆弾虫との戦闘で怪我をした人たちを、シスターやブラザーが懸命に治療している。中にはキサカや、デュアンの姿も見えた。真面目に働くデュアンを見たのは、これが初めてかもしれない。
「くそ、急いで倒したつもりだったが、結構やられたな……」
怪我人の大半は、火傷を負った人たちだ。程度に差はあれど、そういうやつらはそこまでひどい怪我じゃない。重症なのは、内側をやられたやつらだ。何人かはロウランと同じく、体内にまで潜り込まれたらしい。口から吐いた血で、胸元が真っ赤に染まった男を、シスターが三人がかりで治療している。ううぅ……
「……桜下さん。すみません、私やっぱり、向こうを手伝ってきます!」
怪我人たちを見ていたウィルが、居ても立っても居られない様子で言う。
「私の回復魔法はたかが知れていますが、これでも一応シスターです。今は幽霊の手であっても借りたい状況のはず。だから……」
言い訳を続けようとするウィルの肩に、俺はぽんと手を置いた。
「わかった。ウィル、頼む。どうせ俺じゃ役に立てないからな。代わりに頼んでいいか?」
「ええ、もちろんです!それに、私は難しいお話を聞いて、作戦を立てることはできません。だからそちらは、桜下さんにお任せしますね」
「よし、わかった。適材適所ってやつだな」
俺がにっと笑うと、ウィルも笑顔でうなずいた。すると、ロウランも俺たちから離れて、ウィルの隣に並んだ。
「じゃあ、アタシもこっちをお手伝いしよっかな。さすがに一人じゃタイヘンでしょ?」
「ロウランさん……心強いです。お願いします!」
ロウランは俺にぱちりとウィンクすると、ウィルと一緒に怪我人の下へ向かっていった。
「あいつら……まったく、心強い仲間たちだ」
俺は二人の背中を見送った後、残った仲間たちと一緒に、エドガーのいるところへ向かった。
「ちょうどよかった。こちらから呼びに行こうかと思っていたぞ」
俺たちが顔を見せると、エドガーとヘイズ、それに何人かの将校たちが出迎えてくれた。くだんの男は、その輪の中心に転がされている。
「そりゃ、グッドタイミングだな。でもよエドガー、どうして俺たちなんだ?」
「それが、なかなかどうして、この男を縛る枷が壊れんのだ。とんでもなく頑強で、ちょっとやそっとじゃ壊せそうにない。だがお前のとこには、オーガ並みの馬鹿力がいただろう」
「ああ、フランのことかいででで!」
俺があっさり納得したのを見て、フランが足を踏んづけてきた。
「なにすんだフラン!」
「まだわたしのことなんて言ってないでしょ!」
「だって、馬鹿力っつたらお前しか……あ、わかったわかった。睨むなって。おいエドガー、淑女に向かって失礼だろ!」
「……で?もう漫才は終わったのか?そろそろ本題に入りたいのだが」
エドガーがイライラした口ぶりで言う。後ろでアルルカが腹を抱えて笑っているせいで、フランはその何倍もイライラした様子だった。俺は必死になだめすかして(かなり歯の浮くような言葉も言う羽目になった)、なんとかフランの協力を引き出した。
「で?こいつの拘束を解けばいいの?」
「全部を壊す必要はないぞ。さしあたり、尋問に必要な目と口だけでいい」
「ん」
フランはそっけなくうなずくと、拘束具の金具を掴んだ。
「ふんっ」
バキ。フランが力をこめると、枷はあっさりと外れた。ひゅう、さすがだな。エドガーとヘイズはともかく、他の将校たちはフランの怪力に度肝を抜かれている。エドガーは満足げにうなずくと、余計なことを口走った。
「なんだ、やはりばかぢ」
「それ以上言ったら、お前のあごをこうしてやる」
エドガーは言葉を無理やり飲み込んだせいで、結果的にむせてしまった。代わりにヘイズが礼を言う。
「助かったぜ。これでようやく会話ができるようになった。さすがに口が利けないと、コイツが敵か味方かも分かんねえからな」
いよいよ本題ってわけだな。ヘイズが男の側に屈みこんだ。ぺちぺちと、頬を叩く。
「おい。生きてるか」
「……ぅぅ」
おっ、今、呻いたぞ。ヘイズがもう一度叩くと、男のまぶたがピクピクして、やがてうっすら開かれた。
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