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17章 再開の約束
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兵士たちの下へと戻ってきた。あまり長く離れては、兵士たちが困惑するっていうのもあるけれど、それより一刻も早く、あの部屋を離れたかった……
クリスタルの中に閉じ込められて、物言わぬ彫像と成り果てた人たちの姿を見るのは、苦しい。だがある意味では、それは希望でもあった。少なくとも彼女たちは、死んじゃいない。死んでいないのなら、きっと取り戻すチャンスがあるはずだ。今からその方法を探さなくちゃならない。
「さて……話を聞く前に」
ヘイズが、エドガーを含む、各国の将校たち、そして俺たちとクラーク一行、尊を見回す。
「みなさん、ここで聞いた事は、絶対に他言無用でお願いしますよ。彼の話が真実か分からない以上、余計な噂は立たないに越したことはない」
ここだけの話ってことだな。みなはうなずいたが、唯一クラークだけが、微妙な顔をしている。
「あの……」
「なんですか、一の国の勇者殿?」
「いえ、彼を殺さないように言っておいてなんですが……彼の言うことは、参考になるんでしょうか?」
「んんっと、そいつは、現時点じゃ分からないっすね。けど、今んところ一番有力な情報ではあると思いますが」
「でもその人、捕まっていたんですよね。そんなので、確かな情報が分かるんですか?」
「もちろん、真偽は慎重に吟味する必要があるでしょうね。が、まずは聞いてみなくちゃ分からない」
ヘイズはわずかに苛立ちを見せた。クラークの言い分ももっともだが、今蒸し返したところでどうにもならないだろ。クラークはなおも不満げだったが、とりあえず黙った。その後ろにいる尊は、よく事態が分かっていないようで、ぽやーっとしている。ははは、一番場違いなのは、尊かもしれないな……
場が静かになったところで、ヘイズは改めて、サードに振り返った。
「そんじゃ、話してもらおうか。魔王について」
サードはこくりとうなずいた。いよいよか……今まで魔王については、先の戦争の時と、レーヴェから聞いたのと、二つの姿を知っている。サードだけに、第三の魔王像が現れたりしないだろうな?
サードは今、両手首を前で縛られた状態で、椅子に座らされている。地べたに転がしたままじゃさすがに話しづらいからと、ヘイズが用意したんだ。足首には鎖がはまっていて、それが椅子の足に繋がっていた。
「では、僕の知っている魔王について、話させてもらおう。まず……」
サードは話を脳内で話を整理しているのか、数秒ほど黙った。
「……ではまず、ここからだな。驚かないで聞いてほしい。実は、今の魔王は、モンスターじゃない。人間なんだ」
しーん。驚きの静寂じゃない。だってそれは、みんな聞かされているから。レーヴェが先に話してくれた内容だ。俺たちが顔色一つ変えないので、逆に驚いたのはサードのほうだ。
「え、っと。驚かないでと言った手前、当然なのかもしれないけれど。それにしても、全く反応が無いとは思わなかったな」
「その件に関しちゃ、もう知ってんだ。先に捕えた、別の捕虜からな」
「別の捕虜……?」
サードがすっと、目を細めた。
「それは、一体何者だ?」
「さてね。その話、今関係あるか?雑談に興じる気はないんだが」
ヘイズは面倒くさそうに首を振る。けど恐らく、それは演技だ。レーヴェのことを話したら、男が共謀するかもしれないと考えたんだろう。囚人のジレンマって言うじゃないか?
「……わかった。確かに、今は関係のないことだ。ふぅ、しかし、そうだったのか。魔王が人だと知っている……それなら、それが誰なのかも、もう聞いているのかな」
「ああ、いちおうは、な。勇者ファーストだって?」
ファーストの名前が出ると、クラークと、一の国所属であろう将校が、露骨に顔をしかめた。さすがに割って入るほどじゃなかったが、やっぱり気に食わないらしい。するとなぜか、サードまでもが、眉をひそめた。
「ファースト?何のことだ?なぜ彼の名が?」
「なに?勇者ファーストが魔王の正体だと、その捕虜は言ったんだ。お前もそうじゃないのか?」
「まさか。彼はあの戦いで死んだだろう。彼のはずない」
え?なんだって?さすがにこれには、みんなも驚きを隠せなかった。ファーストじゃないのか?いやもちろん、信じてはいなかった。サードの言う通り、ファーストは死んだはずだから。でもじゃあ、一体誰が?
「それならお前は、一体誰が、魔王の正体だというんだ?」
ヘイズが緊張した顔で問いかける。
「ああ。僕の知る、魔王の正体は……勇者、セカンドだ」
「なっ」
……んだって?おいおい、ファースト、サードと来て、セカンドもかよ?参ったぜ、頭が痛くなってきたな……ヘイズも額を押さえている。
「おいおい、どれだけ死人の名を持ち出せば気がすむんだ?ここは墓場のダンスホールだったか」
「いいや。君たちの認識が誤っているんだ。死人と、生者の。勇者ファーストは、確かに死んだ。だがセカンドと、そして僕は、死んではいなかった」
「そうだろうとも。あんたがサードなら、セカンドだって、ついでにオレのばあちゃんだって生きてるかもな」
ヘイズのいい加減な返事に、サードは顔をしかめる。と、今まで黙って聞いていたクラークが、とうとう口を挟んできた。
「あり得ない……こんな奴の話、信じられるんですか?」
クラークは訝しむを通り越して、完全に敵を見る目でサードを睨む。ヘイズは疲れた様子で首を回した。
「オレもちっとばかし、自信が無くなってきましたよ。なあおい、サードさん。再三で悪いんだがな、それを信じられる根拠はあるんだろうな?」
すると、サードはやるせなさそうに首を横に振った。
「おいおい、ないのかよ?」
「いや、ある。あるけれど、なんだか切なくなってしまってね」
「は?切ない?」
「てっきり僕は、勇者サードが生きていると知れたら、みな少しは喜んでくれると思っていたんだよ。当然疑われるだろうとも思っていたが、まさか誰一人嬉しそうなそぶりすら見せないなんて」
お……っと。確かに、そう考えると俺たちは、ずいぶん薄情に見えてくるな。もし彼が本当にサードだったら、そうでなくとも俺たちの味方になり得る人間だったとして、これほど疑って掛かられたら、協力する気も失せてしまうかもしれない。
「おい、クラーク」
俺は肘で突っつくと、小声で話しかけた。
「なんだよ」
「あんまり言いすぎんなよ。忘れたか?こいつは少なくとも、勇者であることは間違いないんだぜ。つまり、俺たちと同じ身の上だ」
「う。わ、分かってる。あくまで、慎重に考えたほうがいいって言いたかっただけだよ……」
そうは言いつつも、クラークもさすがに言い過ぎたと思っているようだ。顔に書いてある。ヘイズは一つ咳払いをした。
「あー……確かに。同じ人間として、少々礼節には欠いたな。だが分かれよ。なにぶん、今は戦争中だ。親恋人でも疑うのが戦争ってもんだろう」
「ああ……そうだったね。あの時から、ずっと続くこの戦争のせいだ。なにもかも、全て」
サードの言葉には、様々な思いが感じられた。裏切り、敗北、後悔……それらは真新しい光沢はまるでなく、長い歳月のほこりと錆を纏った言葉だ。出まかせの言葉じゃ、この雰囲気は纏えない。ひょっとして、彼は、本当に……?
「ふぅ……それならやはり、僕がサードだと証明するところから始めようか。その後でなら、セカンドが生きているという話も、信じやすくなるだろう」
サードはちらりとクラークを見る。クラークはわずかに顔をしかめたが、そのまま黙っていた。サードはそれを見てうなずくと、落ち着いた声で語り始めた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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クリスタルの中に閉じ込められて、物言わぬ彫像と成り果てた人たちの姿を見るのは、苦しい。だがある意味では、それは希望でもあった。少なくとも彼女たちは、死んじゃいない。死んでいないのなら、きっと取り戻すチャンスがあるはずだ。今からその方法を探さなくちゃならない。
「さて……話を聞く前に」
ヘイズが、エドガーを含む、各国の将校たち、そして俺たちとクラーク一行、尊を見回す。
「みなさん、ここで聞いた事は、絶対に他言無用でお願いしますよ。彼の話が真実か分からない以上、余計な噂は立たないに越したことはない」
ここだけの話ってことだな。みなはうなずいたが、唯一クラークだけが、微妙な顔をしている。
「あの……」
「なんですか、一の国の勇者殿?」
「いえ、彼を殺さないように言っておいてなんですが……彼の言うことは、参考になるんでしょうか?」
「んんっと、そいつは、現時点じゃ分からないっすね。けど、今んところ一番有力な情報ではあると思いますが」
「でもその人、捕まっていたんですよね。そんなので、確かな情報が分かるんですか?」
「もちろん、真偽は慎重に吟味する必要があるでしょうね。が、まずは聞いてみなくちゃ分からない」
ヘイズはわずかに苛立ちを見せた。クラークの言い分ももっともだが、今蒸し返したところでどうにもならないだろ。クラークはなおも不満げだったが、とりあえず黙った。その後ろにいる尊は、よく事態が分かっていないようで、ぽやーっとしている。ははは、一番場違いなのは、尊かもしれないな……
場が静かになったところで、ヘイズは改めて、サードに振り返った。
「そんじゃ、話してもらおうか。魔王について」
サードはこくりとうなずいた。いよいよか……今まで魔王については、先の戦争の時と、レーヴェから聞いたのと、二つの姿を知っている。サードだけに、第三の魔王像が現れたりしないだろうな?
サードは今、両手首を前で縛られた状態で、椅子に座らされている。地べたに転がしたままじゃさすがに話しづらいからと、ヘイズが用意したんだ。足首には鎖がはまっていて、それが椅子の足に繋がっていた。
「では、僕の知っている魔王について、話させてもらおう。まず……」
サードは話を脳内で話を整理しているのか、数秒ほど黙った。
「……ではまず、ここからだな。驚かないで聞いてほしい。実は、今の魔王は、モンスターじゃない。人間なんだ」
しーん。驚きの静寂じゃない。だってそれは、みんな聞かされているから。レーヴェが先に話してくれた内容だ。俺たちが顔色一つ変えないので、逆に驚いたのはサードのほうだ。
「え、っと。驚かないでと言った手前、当然なのかもしれないけれど。それにしても、全く反応が無いとは思わなかったな」
「その件に関しちゃ、もう知ってんだ。先に捕えた、別の捕虜からな」
「別の捕虜……?」
サードがすっと、目を細めた。
「それは、一体何者だ?」
「さてね。その話、今関係あるか?雑談に興じる気はないんだが」
ヘイズは面倒くさそうに首を振る。けど恐らく、それは演技だ。レーヴェのことを話したら、男が共謀するかもしれないと考えたんだろう。囚人のジレンマって言うじゃないか?
「……わかった。確かに、今は関係のないことだ。ふぅ、しかし、そうだったのか。魔王が人だと知っている……それなら、それが誰なのかも、もう聞いているのかな」
「ああ、いちおうは、な。勇者ファーストだって?」
ファーストの名前が出ると、クラークと、一の国所属であろう将校が、露骨に顔をしかめた。さすがに割って入るほどじゃなかったが、やっぱり気に食わないらしい。するとなぜか、サードまでもが、眉をひそめた。
「ファースト?何のことだ?なぜ彼の名が?」
「なに?勇者ファーストが魔王の正体だと、その捕虜は言ったんだ。お前もそうじゃないのか?」
「まさか。彼はあの戦いで死んだだろう。彼のはずない」
え?なんだって?さすがにこれには、みんなも驚きを隠せなかった。ファーストじゃないのか?いやもちろん、信じてはいなかった。サードの言う通り、ファーストは死んだはずだから。でもじゃあ、一体誰が?
「それならお前は、一体誰が、魔王の正体だというんだ?」
ヘイズが緊張した顔で問いかける。
「ああ。僕の知る、魔王の正体は……勇者、セカンドだ」
「なっ」
……んだって?おいおい、ファースト、サードと来て、セカンドもかよ?参ったぜ、頭が痛くなってきたな……ヘイズも額を押さえている。
「おいおい、どれだけ死人の名を持ち出せば気がすむんだ?ここは墓場のダンスホールだったか」
「いいや。君たちの認識が誤っているんだ。死人と、生者の。勇者ファーストは、確かに死んだ。だがセカンドと、そして僕は、死んではいなかった」
「そうだろうとも。あんたがサードなら、セカンドだって、ついでにオレのばあちゃんだって生きてるかもな」
ヘイズのいい加減な返事に、サードは顔をしかめる。と、今まで黙って聞いていたクラークが、とうとう口を挟んできた。
「あり得ない……こんな奴の話、信じられるんですか?」
クラークは訝しむを通り越して、完全に敵を見る目でサードを睨む。ヘイズは疲れた様子で首を回した。
「オレもちっとばかし、自信が無くなってきましたよ。なあおい、サードさん。再三で悪いんだがな、それを信じられる根拠はあるんだろうな?」
すると、サードはやるせなさそうに首を横に振った。
「おいおい、ないのかよ?」
「いや、ある。あるけれど、なんだか切なくなってしまってね」
「は?切ない?」
「てっきり僕は、勇者サードが生きていると知れたら、みな少しは喜んでくれると思っていたんだよ。当然疑われるだろうとも思っていたが、まさか誰一人嬉しそうなそぶりすら見せないなんて」
お……っと。確かに、そう考えると俺たちは、ずいぶん薄情に見えてくるな。もし彼が本当にサードだったら、そうでなくとも俺たちの味方になり得る人間だったとして、これほど疑って掛かられたら、協力する気も失せてしまうかもしれない。
「おい、クラーク」
俺は肘で突っつくと、小声で話しかけた。
「なんだよ」
「あんまり言いすぎんなよ。忘れたか?こいつは少なくとも、勇者であることは間違いないんだぜ。つまり、俺たちと同じ身の上だ」
「う。わ、分かってる。あくまで、慎重に考えたほうがいいって言いたかっただけだよ……」
そうは言いつつも、クラークもさすがに言い過ぎたと思っているようだ。顔に書いてある。ヘイズは一つ咳払いをした。
「あー……確かに。同じ人間として、少々礼節には欠いたな。だが分かれよ。なにぶん、今は戦争中だ。親恋人でも疑うのが戦争ってもんだろう」
「ああ……そうだったね。あの時から、ずっと続くこの戦争のせいだ。なにもかも、全て」
サードの言葉には、様々な思いが感じられた。裏切り、敗北、後悔……それらは真新しい光沢はまるでなく、長い歳月のほこりと錆を纏った言葉だ。出まかせの言葉じゃ、この雰囲気は纏えない。ひょっとして、彼は、本当に……?
「ふぅ……それならやはり、僕がサードだと証明するところから始めようか。その後でなら、セカンドが生きているという話も、信じやすくなるだろう」
サードはちらりとクラークを見る。クラークはわずかに顔をしかめたが、そのまま黙っていた。サードはそれを見てうなずくと、落ち着いた声で語り始めた。
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