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17章 再開の約束
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……僕のことを語る前に少し、あの戦争について話そうか。
君たちも知っているだろう。そう、あの戦いの終末……ファーストが刺され、セカンドが僕らを裏切った後のことだ。僕らはセカンドを、とある谷の果てまで追い詰めた。一度も人が訪れたことのないような、深く、険しい、寂れた谷だった。
戦いは熾烈を極めたよ。セカンドは激しく抵抗した。だが最終的に、僕は奴の心臓に剣を突き立て、そして僕も深い傷を負ってしまった。僕らはそのまま、谷の底へと落ちて行った……
うん、そうだ。ここまでは、君たちも聞いている話だろう。だがこの先は、僕と、そしてセカンドしか知らない話だ。そしてこれこそが、紛れもない、真実の歴史なんだよ。
僕らが谷底へと落ちて行った時、セカンドは、死に際に何かの魔法を放ったんだ。僕がその時最後に見た光景は、僕とセカンドの体を、透明な結晶が包み込んでいく姿だった。
「それって、ロアたちと同じ……」
「そうだ。フリーズ・フェニックス。生き物の時間を止め、永遠に閉じ込める魔法だ。誰も知らなかったけれど、セカンドは、闇の魔力を持っていたんだ」
奴はその力のことを、巧妙に隠していた。その時が来たら、僕らの不意を突けるようにしていたんだろう。一体いつから、あんな恐ろしい計画を立てていたのか……彼の狡猾さには舌を巻くよ。
とにかく、その魔法によって、僕らの時間は止まった。その間の記憶はないけれど、推測することはできる。闇の魔法によって、死の間際だったセカンドは、一時的に命を取り留めた。そしてその間に、何らかの手段で……僕の予想では、奴の仲間かしもべのしわざだろうが……奴は治療され、息を吹き返した。術をかけた本人だからな、解除も自由にできたんだろう。そしてその後、僕のことも治療したんだ。
「あんたのことも?」
「そうだ。だからこうして、僕は生きている。どういう方法を使ったのかは分からないが……目覚めた時、傷は跡形もなく消えていた。セカンドの傷も、そうやって癒したんだろう」
だが、さすがに自由にさせてもらえるはずもなかった。僕の魔法が解除されたのは、牢獄の中さ。以来、僕はずっと囚われてきた。なぜ僕を生かしたのかって?僕の、魔力が目的だろう。僕は三人の勇者の中では最弱と言われたが、それでも、腐っても勇者だ。並の人間の何倍もの魔力を持っている。その魔力が目的だよ。セカンドは、様々な実験に精を出していたようだから。
「ちょっと、待ってほしい」
腕を組んだクラークが、硬い声でサードを遮った。
「今聞いた中で、あなたを信じるにたる証拠は、何一つ見つからないよ」
「そうかい?」
「そうだ。これが真実なんだと言われても、証人があなただけではね。結局は、あなたの主観ということになってしまう」
「うん、確かにそうだな。これはあくまで、僕が経験しただけだから。では、君らも知っている話をしよう」
「僕たちが?」
「あの戦いの後、つまり僕とセカンドが谷に落ちた後だが、何が起こった?」
「なにって……二人が死んだ後には、魔王が復活して……あ!」
クラークがくわっと目を見開く。俺もあんぐり口を開けた。まさか本当に、そういうことなのか?
「まさか、もうその時には……!」
「その通り。復活した魔王とは、セカンドそのものだ。彼が、倒れた魔王に成り代わる形で、魔王軍を掌握したんだ」
「掌握って……無茶だ!いくら勇者でも、たった一人で、魔物全てを支配できるわけないじゃないか!」
「もっともだな。だが、一人ではなかった。他ならぬ魔物側に、内通者がいたんだ」
「な、内通者?」
「そいつは、鳥の骨そっくりの頭部を持つ魔物だ。魔王の右腕と呼ばれ、三幹部の一角を担っている」
ヴォルフガング……!俺たちをあわや全滅まで追い込んだ、あの野郎が!
「彼はセカンドを崇拝している。おそらく、瀕死のセカンドを治療したのも彼だろう」
「な、なんで魔物が、人間の勇者を?」
「真意までは分からない。だけど、おそらく取引があったんだ。あの魔物はその見返りとして、高い地位を与えられた。利害関係の一致、だと僕は考えている」
「いや、でも……たまたま、時期が重なっただけじゃ?偶然がそう見せただけで、セカンドが魔王だっていう証拠には……」
「では、その後の魔王軍はどうなった?君たちは一度も違和感を覚えなかったのか。戦争の前と後、明らかに魔王軍の在り方が異なる、と」
これにはさすがに、クラークも口をつぐむしかなかった。だって、魔王軍の様子がおかしいというのは、さんざん聞かされてきた話だから。
(戦争の後、魔王軍の活動は極めて散発的になった……目的も不明瞭で、ともすれば、やる気がないようにすら感じられた……)
だから今まで、魔王軍と人類は、睨み合いが続く膠着状態だったんだ。その理由が、魔王が入れ替わったからだとすれば、すんなり納得できる。なにより俺たち自身、そういう推論を立てていたくらいだ。
「セカンドは、軍へ積極的に指示を出すことはしなかった。主に国境を守ることを重点に置いていたようだ」
「くっ……魔王の座を奪うことはできても、軍略家ではなかったということか。でも!それでも、全く被害がなかったわけじゃない!国境近くの村では、誘拐が頻発していたそうじゃないか。魔王軍としての活動も、時々はあったということだろう!」
む、確かにそうだ。今回の戦争も、誘拐事件が端を発したんだから。
「それは……僕にも、詳しいことは分からない。けれど、セカンドは何かを計画しているらしい。魔王の座についたのも、理由があるみたいだ。誘拐もそれに関与している可能性が高い」
「計画だって?それがなにか、全く分からないのか?」
「すまないが、具体的なことは……けれど、放っておけば、取り返しのつかないことになる気がするんだ」
サードはそう言うと、今までにないほど真剣な顔になった。
「頼む。セカンドを、止めてくれないか。彼が魔王として、攫われた哀れな乙女たちに呪いをかけた以上、君たちも彼を無視できないはずだ」
サードはすっと頭を下げた。
「僕のことは信じられなくてもいい。だけど、この話は信じてほしい。もたもたしていたら、手遅れになってしまう」
「……あなた自身の保身は、二の次でもいいと?」
「ああ。もちろん、死にたくはない。けどそれは、ただ生き永らえたいからではない。……僕だって、勇者だ。あの戦いを、全て無駄には、したくないんだよ」
「……」
あの戦いを、か……俺たちは、昔話としてしか知らない。けれど、当時を知る人間からしたら……あるいは、自分の生き死によりも、大事なことなのかもしれない。
「……言われなくとも、僕たちは、魔王を倒す」
クラークがぎりっと、サードを睨みつける。
「だけど、あなたは?僕らに頼むだけ頼んで、自分は何もしないつもりなのか」
「無論、そのつもりはない。出来得る限りの協力はしよう。信用できなければ、こうして縛ったままでも構わないよ。僕としては、セカンドが倒れさえすれば、なんだっていいのだから」
サードはそう言うと、やるせない笑みを浮かべた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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君たちも知っているだろう。そう、あの戦いの終末……ファーストが刺され、セカンドが僕らを裏切った後のことだ。僕らはセカンドを、とある谷の果てまで追い詰めた。一度も人が訪れたことのないような、深く、険しい、寂れた谷だった。
戦いは熾烈を極めたよ。セカンドは激しく抵抗した。だが最終的に、僕は奴の心臓に剣を突き立て、そして僕も深い傷を負ってしまった。僕らはそのまま、谷の底へと落ちて行った……
うん、そうだ。ここまでは、君たちも聞いている話だろう。だがこの先は、僕と、そしてセカンドしか知らない話だ。そしてこれこそが、紛れもない、真実の歴史なんだよ。
僕らが谷底へと落ちて行った時、セカンドは、死に際に何かの魔法を放ったんだ。僕がその時最後に見た光景は、僕とセカンドの体を、透明な結晶が包み込んでいく姿だった。
「それって、ロアたちと同じ……」
「そうだ。フリーズ・フェニックス。生き物の時間を止め、永遠に閉じ込める魔法だ。誰も知らなかったけれど、セカンドは、闇の魔力を持っていたんだ」
奴はその力のことを、巧妙に隠していた。その時が来たら、僕らの不意を突けるようにしていたんだろう。一体いつから、あんな恐ろしい計画を立てていたのか……彼の狡猾さには舌を巻くよ。
とにかく、その魔法によって、僕らの時間は止まった。その間の記憶はないけれど、推測することはできる。闇の魔法によって、死の間際だったセカンドは、一時的に命を取り留めた。そしてその間に、何らかの手段で……僕の予想では、奴の仲間かしもべのしわざだろうが……奴は治療され、息を吹き返した。術をかけた本人だからな、解除も自由にできたんだろう。そしてその後、僕のことも治療したんだ。
「あんたのことも?」
「そうだ。だからこうして、僕は生きている。どういう方法を使ったのかは分からないが……目覚めた時、傷は跡形もなく消えていた。セカンドの傷も、そうやって癒したんだろう」
だが、さすがに自由にさせてもらえるはずもなかった。僕の魔法が解除されたのは、牢獄の中さ。以来、僕はずっと囚われてきた。なぜ僕を生かしたのかって?僕の、魔力が目的だろう。僕は三人の勇者の中では最弱と言われたが、それでも、腐っても勇者だ。並の人間の何倍もの魔力を持っている。その魔力が目的だよ。セカンドは、様々な実験に精を出していたようだから。
「ちょっと、待ってほしい」
腕を組んだクラークが、硬い声でサードを遮った。
「今聞いた中で、あなたを信じるにたる証拠は、何一つ見つからないよ」
「そうかい?」
「そうだ。これが真実なんだと言われても、証人があなただけではね。結局は、あなたの主観ということになってしまう」
「うん、確かにそうだな。これはあくまで、僕が経験しただけだから。では、君らも知っている話をしよう」
「僕たちが?」
「あの戦いの後、つまり僕とセカンドが谷に落ちた後だが、何が起こった?」
「なにって……二人が死んだ後には、魔王が復活して……あ!」
クラークがくわっと目を見開く。俺もあんぐり口を開けた。まさか本当に、そういうことなのか?
「まさか、もうその時には……!」
「その通り。復活した魔王とは、セカンドそのものだ。彼が、倒れた魔王に成り代わる形で、魔王軍を掌握したんだ」
「掌握って……無茶だ!いくら勇者でも、たった一人で、魔物全てを支配できるわけないじゃないか!」
「もっともだな。だが、一人ではなかった。他ならぬ魔物側に、内通者がいたんだ」
「な、内通者?」
「そいつは、鳥の骨そっくりの頭部を持つ魔物だ。魔王の右腕と呼ばれ、三幹部の一角を担っている」
ヴォルフガング……!俺たちをあわや全滅まで追い込んだ、あの野郎が!
「彼はセカンドを崇拝している。おそらく、瀕死のセカンドを治療したのも彼だろう」
「な、なんで魔物が、人間の勇者を?」
「真意までは分からない。だけど、おそらく取引があったんだ。あの魔物はその見返りとして、高い地位を与えられた。利害関係の一致、だと僕は考えている」
「いや、でも……たまたま、時期が重なっただけじゃ?偶然がそう見せただけで、セカンドが魔王だっていう証拠には……」
「では、その後の魔王軍はどうなった?君たちは一度も違和感を覚えなかったのか。戦争の前と後、明らかに魔王軍の在り方が異なる、と」
これにはさすがに、クラークも口をつぐむしかなかった。だって、魔王軍の様子がおかしいというのは、さんざん聞かされてきた話だから。
(戦争の後、魔王軍の活動は極めて散発的になった……目的も不明瞭で、ともすれば、やる気がないようにすら感じられた……)
だから今まで、魔王軍と人類は、睨み合いが続く膠着状態だったんだ。その理由が、魔王が入れ替わったからだとすれば、すんなり納得できる。なにより俺たち自身、そういう推論を立てていたくらいだ。
「セカンドは、軍へ積極的に指示を出すことはしなかった。主に国境を守ることを重点に置いていたようだ」
「くっ……魔王の座を奪うことはできても、軍略家ではなかったということか。でも!それでも、全く被害がなかったわけじゃない!国境近くの村では、誘拐が頻発していたそうじゃないか。魔王軍としての活動も、時々はあったということだろう!」
む、確かにそうだ。今回の戦争も、誘拐事件が端を発したんだから。
「それは……僕にも、詳しいことは分からない。けれど、セカンドは何かを計画しているらしい。魔王の座についたのも、理由があるみたいだ。誘拐もそれに関与している可能性が高い」
「計画だって?それがなにか、全く分からないのか?」
「すまないが、具体的なことは……けれど、放っておけば、取り返しのつかないことになる気がするんだ」
サードはそう言うと、今までにないほど真剣な顔になった。
「頼む。セカンドを、止めてくれないか。彼が魔王として、攫われた哀れな乙女たちに呪いをかけた以上、君たちも彼を無視できないはずだ」
サードはすっと頭を下げた。
「僕のことは信じられなくてもいい。だけど、この話は信じてほしい。もたもたしていたら、手遅れになってしまう」
「……あなた自身の保身は、二の次でもいいと?」
「ああ。もちろん、死にたくはない。けどそれは、ただ生き永らえたいからではない。……僕だって、勇者だ。あの戦いを、全て無駄には、したくないんだよ」
「……」
あの戦いを、か……俺たちは、昔話としてしか知らない。けれど、当時を知る人間からしたら……あるいは、自分の生き死によりも、大事なことなのかもしれない。
「……言われなくとも、僕たちは、魔王を倒す」
クラークがぎりっと、サードを睨みつける。
「だけど、あなたは?僕らに頼むだけ頼んで、自分は何もしないつもりなのか」
「無論、そのつもりはない。出来得る限りの協力はしよう。信用できなければ、こうして縛ったままでも構わないよ。僕としては、セカンドが倒れさえすれば、なんだっていいのだから」
サードはそう言うと、やるせない笑みを浮かべた。
つづく
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