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17章 再開の約束
18-1 ファーストの子孫
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18-1 ファーストの子孫
「勇者サードに、勇者セカンド、ねえ……」
俺はエドガーたちの下を後にしながら、ぼそりと呟いた。フランがつん、と肘でつついてくる。
「あんまり外でその話はしないでよ」
「おっと、そうだった。でもさぁ……あんな話、他に誰が信じるよ?」
「まあ、そうだけど」
あまりにも、荒唐無稽だ……だが、まったく真実味がないかと言われれば、そうでもないのが困りどころだ。
「あの場にいたみんな、正直半信半疑って感じだったぞ」
「まあ、それでもいいんじゃない。あいつのこと、完全に信用できるってわけじゃないんだし」
「そうなんだが……できれば、確証を得たいところだな」
するとライラが、俺の前に回り込んで、顔を覗き込んでくる。
「桜下は、あいつのことを信じたいの?」
「うん?情報の真偽とかは抜きにしてってことか?うーん……まあ、ちょっと同情はするよ。なんであれ、勇者であることは間違いないっぽいし」
同郷のよしみ、とでも言おうか。できることなら、信じてやりたい気もするが……と、アルルカが不満そうに鼻を鳴らす。
「ふん。あんた、感情で物事量ったら痛い目みるわよ。敵はそういうところに付け込んでくるんだから」
「はぁ、分かってるよ。あいつが魔王の仲間じゃないって保証も、どこにもないからな」
「そうよ。あんな風におあつらえ向きに登場するなんて、出来過ぎなのよ。魔王がよっぽどのバカじゃない限り、あんな情報のかたまりみたいな奴をおいそれと逃がすわけないでしょうが」
「む、確かに。アルルカ、意外とよく見てるんだな」
「そうよ!それと、意外とは余計よ」
確かに、話が俺たちにうますぎるよな。たまたま伝説の勇者サードが、魔王城で仲間になるなんて。ゲームのイベントじゃあるまいし。
「うーん、やっぱりもう少し確かめてみたいな。そうだ、レーヴェにもう一度話を訊いてみようか。サードの話が本当かどうか、あいつならわかるんじゃないか」
幸いというかあいにくというか、まだ連合軍は動き出しそうにない。それだけ怪我人の治療に手間取っているんだろう。ウィルもロウランも、まだまだ戻ってはこられなさそうだ。
「俺たちは俺たちで、できることをしておくべきだな。早速行こう」
善は急げとばかりに、俺たちはレーヴェを探す。だが、彼女が前に捕らえられていた馬車は、下のキャンプ地に置いて行かれてしまったらしい。どれだけ探しても見当たらない。諦めかけたその時、フランが目ざとく見つけた。
「いた。あそこだ」
「え!?ど、どこだ?」
「あっち。兵士に囲まれてる」
おお、確かに。周りをぐるりと囲まれているが、確かにあの頭の耳は、レーヴェだ。
「捕虜も連れてきてたんだな。よかった」
「そりゃあ、いると便利だからね」
アルルカが訳知り顔でいう。
「便利?レーヴェ一人が、何の役に立つんだよ。荷物持ちもできないだろ」
「だから、人質よ。捕虜の使い道なんて、それくらいしかないじゃない。あいつを盾にすれば、敵の手が鈍るかもしれないわ」
「うっわ、お前ってやつは、本当に……ええい、とにかく行くぞ。つっても、何て言って話させてもらうか……」
「それなら、ライラに言い考えがあるよ!」
ライラが胸を張ると、両手を前に出す。魔法を?
「ブリーズアイヴィ!」
ピュウゥー!つむじ風が舞ったかと思うと、突然、レーヴェを囲んでいた兵士たちがぎこちなく動き出した。
「う、うお!?なんだこれ!」
「あ、足が勝手に……!」
兵士たちは、レーヴェから少しずつ離れていく。まさかライラのやつ、魔法で連中を無理やり動かしたのか?無茶なことするなぁ……
「けど、効き目バッチリだぜ、ライラ!」
「今のうちに、早く!」
よし。ライラの魔法が続いているうちに、俺は素早くレーヴェの下へ近づいた。
「よう、レーヴェ」
「ム……」
レーヴェは頭の耳をピクリとこちらに向けると、それから顔を向けた。
「またお前カ。ということは、お前たちのシワザだナ」
「さて、なんのことだ?」
「とぼけるナ。急にカンシがいなくなったゾ。それと入れ替わるようニ、お前がきタ。」
「へえ、不思議な偶然もあるもんだ。でも好都合だな。ちょうどお前と話がしたかったんだよ」
「ハナシ、だと?」
首をかしげるレーヴェ。俺はうなずいてから、彼女の前に屈んだ。足のない彼女の目線に合わせるためだ。
「そうだ。さっきの戦闘の後で、柱の中から男が出てきたんだよ。そいつは自分のことを、伝説の勇者サードだって言うんだけど。お前、サードの名前を聞いた事あるか?」
「サード……」
レーヴェは数秒ほど考えてから、こくりとうなずいた。
「あル」
「え!それは、魔王軍の中でか?」
「うン。直接会ったことはなイ。けど、ヴォルフガング様がそんなことを言っていたのを、聞いた事があル」
ヴォルフガングが……魔王の右腕であるあいつが知っているとなると、だいぶ信憑性が上がってきたな。あいつは、本当にサードなんだろうか。
「じゃあ、これも訊いてみたかったんだ。その男が、魔王の正体は、勇者セカンドだって言うんだけど」
「セカンド?」
今度ばかりは、レーヴェも疑問符を頭上にうかべた。
「それは、知らなイ。初耳ダ」
「そうだよな……お前は、魔王の正体をファーストだと思ってるんだもんな」
「あア。魔王様は、ファースト本人だ……けド」
「うん?」
「魔王様が、自分とは違う名前を使うことは、あるかもしれなイ」
違う名前を……つまり、偽名か。
「ファーストが、セカンドの名を騙ってるって言いたいのか?」
「さあナ。レーヴェは、そのサードとかいうオスのことは知らなイ。そいつがただの嘘つきなのかもしれないゾ」
それは、まあそうだ。だからこそ、こうして確かめに来ているわけだし。
「じゃあ……そうだ、サードはセカンドと相討ちになりかけて、お互い大怪我を負ったそうだけど。今の魔王にも、そういう話があったりしないか?」
「それは、あるナ。魔王様は、かつての大戦の時に深い傷を負ったそうダ」
「お、マジか」
それは重要な……と浮足立ったところで、フランが肩を掴んできた。見れば、首を横に振っている。
「それは、全部に当てはまるよ」
「ん、どういう意味だ?」
「魔王がセカンドでもファーストでも、どっちにしても大怪我を負っているってこと」
あ、そうか。ファーストはセカンドに刺されているし、セカンドはサードと共に倒れた。つまり、過去に怪我を負ったというだけでは、どちらの可能性も残されるってわけか。さらにアルルカが付け加える。
「それに、魔王本人って可能性もあるわよ。魔王自身、ファーストにコテンパンにやられてるんだからね」
「ああ、そうか……くそ、誰が本当の死者なのか分かんないから、もはや何でもありだな」
魔王も勇者たちも、とっくに死んでいるはずじゃないのか?どうしてこんなことになったんだか。
「レーヴェが教えられるのは、それくらいダ」
「いや、十分参考になったよ。ありがとうな」
「いイ。それに、お前たちの戦いも見ていタ。約束、守ってくれて嬉しいゾ」
そうか、前のフロアの戦いを、レーヴェも見ていたのか……
「礼を言われるような事じゃないよ。約束は約束だってだけさ」
さて。そろそろ、ライラの魔法も限界が来そうだ。ここらが引き上げ時だな。俺は立ちあがると、ライラに合図した。彼女はうなずいてから魔法を解く。
「とりあえず、ウィルたちの方が落ち着いたか見に行こうか。その後で……」
と、その時だ。俺たちの背後から、つかつかと早歩きの足音が迫ってくる。しまった、見とがめられたか……?
「あの、すみません」
「うわ、ごめんなさい!って、あんたは……」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺はエドガーたちの下を後にしながら、ぼそりと呟いた。フランがつん、と肘でつついてくる。
「あんまり外でその話はしないでよ」
「おっと、そうだった。でもさぁ……あんな話、他に誰が信じるよ?」
「まあ、そうだけど」
あまりにも、荒唐無稽だ……だが、まったく真実味がないかと言われれば、そうでもないのが困りどころだ。
「あの場にいたみんな、正直半信半疑って感じだったぞ」
「まあ、それでもいいんじゃない。あいつのこと、完全に信用できるってわけじゃないんだし」
「そうなんだが……できれば、確証を得たいところだな」
するとライラが、俺の前に回り込んで、顔を覗き込んでくる。
「桜下は、あいつのことを信じたいの?」
「うん?情報の真偽とかは抜きにしてってことか?うーん……まあ、ちょっと同情はするよ。なんであれ、勇者であることは間違いないっぽいし」
同郷のよしみ、とでも言おうか。できることなら、信じてやりたい気もするが……と、アルルカが不満そうに鼻を鳴らす。
「ふん。あんた、感情で物事量ったら痛い目みるわよ。敵はそういうところに付け込んでくるんだから」
「はぁ、分かってるよ。あいつが魔王の仲間じゃないって保証も、どこにもないからな」
「そうよ。あんな風におあつらえ向きに登場するなんて、出来過ぎなのよ。魔王がよっぽどのバカじゃない限り、あんな情報のかたまりみたいな奴をおいそれと逃がすわけないでしょうが」
「む、確かに。アルルカ、意外とよく見てるんだな」
「そうよ!それと、意外とは余計よ」
確かに、話が俺たちにうますぎるよな。たまたま伝説の勇者サードが、魔王城で仲間になるなんて。ゲームのイベントじゃあるまいし。
「うーん、やっぱりもう少し確かめてみたいな。そうだ、レーヴェにもう一度話を訊いてみようか。サードの話が本当かどうか、あいつならわかるんじゃないか」
幸いというかあいにくというか、まだ連合軍は動き出しそうにない。それだけ怪我人の治療に手間取っているんだろう。ウィルもロウランも、まだまだ戻ってはこられなさそうだ。
「俺たちは俺たちで、できることをしておくべきだな。早速行こう」
善は急げとばかりに、俺たちはレーヴェを探す。だが、彼女が前に捕らえられていた馬車は、下のキャンプ地に置いて行かれてしまったらしい。どれだけ探しても見当たらない。諦めかけたその時、フランが目ざとく見つけた。
「いた。あそこだ」
「え!?ど、どこだ?」
「あっち。兵士に囲まれてる」
おお、確かに。周りをぐるりと囲まれているが、確かにあの頭の耳は、レーヴェだ。
「捕虜も連れてきてたんだな。よかった」
「そりゃあ、いると便利だからね」
アルルカが訳知り顔でいう。
「便利?レーヴェ一人が、何の役に立つんだよ。荷物持ちもできないだろ」
「だから、人質よ。捕虜の使い道なんて、それくらいしかないじゃない。あいつを盾にすれば、敵の手が鈍るかもしれないわ」
「うっわ、お前ってやつは、本当に……ええい、とにかく行くぞ。つっても、何て言って話させてもらうか……」
「それなら、ライラに言い考えがあるよ!」
ライラが胸を張ると、両手を前に出す。魔法を?
「ブリーズアイヴィ!」
ピュウゥー!つむじ風が舞ったかと思うと、突然、レーヴェを囲んでいた兵士たちがぎこちなく動き出した。
「う、うお!?なんだこれ!」
「あ、足が勝手に……!」
兵士たちは、レーヴェから少しずつ離れていく。まさかライラのやつ、魔法で連中を無理やり動かしたのか?無茶なことするなぁ……
「けど、効き目バッチリだぜ、ライラ!」
「今のうちに、早く!」
よし。ライラの魔法が続いているうちに、俺は素早くレーヴェの下へ近づいた。
「よう、レーヴェ」
「ム……」
レーヴェは頭の耳をピクリとこちらに向けると、それから顔を向けた。
「またお前カ。ということは、お前たちのシワザだナ」
「さて、なんのことだ?」
「とぼけるナ。急にカンシがいなくなったゾ。それと入れ替わるようニ、お前がきタ。」
「へえ、不思議な偶然もあるもんだ。でも好都合だな。ちょうどお前と話がしたかったんだよ」
「ハナシ、だと?」
首をかしげるレーヴェ。俺はうなずいてから、彼女の前に屈んだ。足のない彼女の目線に合わせるためだ。
「そうだ。さっきの戦闘の後で、柱の中から男が出てきたんだよ。そいつは自分のことを、伝説の勇者サードだって言うんだけど。お前、サードの名前を聞いた事あるか?」
「サード……」
レーヴェは数秒ほど考えてから、こくりとうなずいた。
「あル」
「え!それは、魔王軍の中でか?」
「うン。直接会ったことはなイ。けど、ヴォルフガング様がそんなことを言っていたのを、聞いた事があル」
ヴォルフガングが……魔王の右腕であるあいつが知っているとなると、だいぶ信憑性が上がってきたな。あいつは、本当にサードなんだろうか。
「じゃあ、これも訊いてみたかったんだ。その男が、魔王の正体は、勇者セカンドだって言うんだけど」
「セカンド?」
今度ばかりは、レーヴェも疑問符を頭上にうかべた。
「それは、知らなイ。初耳ダ」
「そうだよな……お前は、魔王の正体をファーストだと思ってるんだもんな」
「あア。魔王様は、ファースト本人だ……けド」
「うん?」
「魔王様が、自分とは違う名前を使うことは、あるかもしれなイ」
違う名前を……つまり、偽名か。
「ファーストが、セカンドの名を騙ってるって言いたいのか?」
「さあナ。レーヴェは、そのサードとかいうオスのことは知らなイ。そいつがただの嘘つきなのかもしれないゾ」
それは、まあそうだ。だからこそ、こうして確かめに来ているわけだし。
「じゃあ……そうだ、サードはセカンドと相討ちになりかけて、お互い大怪我を負ったそうだけど。今の魔王にも、そういう話があったりしないか?」
「それは、あるナ。魔王様は、かつての大戦の時に深い傷を負ったそうダ」
「お、マジか」
それは重要な……と浮足立ったところで、フランが肩を掴んできた。見れば、首を横に振っている。
「それは、全部に当てはまるよ」
「ん、どういう意味だ?」
「魔王がセカンドでもファーストでも、どっちにしても大怪我を負っているってこと」
あ、そうか。ファーストはセカンドに刺されているし、セカンドはサードと共に倒れた。つまり、過去に怪我を負ったというだけでは、どちらの可能性も残されるってわけか。さらにアルルカが付け加える。
「それに、魔王本人って可能性もあるわよ。魔王自身、ファーストにコテンパンにやられてるんだからね」
「ああ、そうか……くそ、誰が本当の死者なのか分かんないから、もはや何でもありだな」
魔王も勇者たちも、とっくに死んでいるはずじゃないのか?どうしてこんなことになったんだか。
「レーヴェが教えられるのは、それくらいダ」
「いや、十分参考になったよ。ありがとうな」
「いイ。それに、お前たちの戦いも見ていタ。約束、守ってくれて嬉しいゾ」
そうか、前のフロアの戦いを、レーヴェも見ていたのか……
「礼を言われるような事じゃないよ。約束は約束だってだけさ」
さて。そろそろ、ライラの魔法も限界が来そうだ。ここらが引き上げ時だな。俺は立ちあがると、ライラに合図した。彼女はうなずいてから魔法を解く。
「とりあえず、ウィルたちの方が落ち着いたか見に行こうか。その後で……」
と、その時だ。俺たちの背後から、つかつかと早歩きの足音が迫ってくる。しまった、見とがめられたか……?
「あの、すみません」
「うわ、ごめんなさい!って、あんたは……」
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