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17章 再開の約束
18-3
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「アルア。俺の知ってる範囲でよければ、全部あんたに教えるよ」
「え」
「え?」
む。なんだよ、アルアもフランも、予想外だって顔をしている。
「なんだ?何か文句ある人は挙手してくれよな」
「文句は、ないけど……本当にいいの?秘密にしろって言われたのに」
フランはそう言いつつも、内心じゃかなり不満そうだ。顔を見ればわかる。
「確かにそうだ。けどどういうわけか、もうすでに噂は広まっちまってるみたいだし。それに、もやもやしたままじゃ、剣先が鈍るかもしれないだろ」
アルアの苦悩は、俺もよく知るところだ。悶々としたまま戦って、あっけなくやられたんじゃ困る。
「さて、アルア。確認するけど、どこまで知ってる?」
「……魔王が、勇者の名を騙っている、と。人によっては、その正体が勇者ファーストだと思っている者もいるようです」
やっぱり、かなりの部分が漏洩しているな。ごまかしようがないだろう。俺はうなずく。
「その通りだ。ファーストかどうかは分からないけど、勇者である可能性は……拭いきれないと思う」
「証拠が、あるのですね」
「ある。詳しく話すと長くなるから割愛するけど……どうやら、そいつが今の魔王軍を率いているらしい」
「そんな……勇者が、魔王に?あり得るんですか、そんなことが……では、どうしてファーストなどと騙るのですか」
「過去の英雄の名を騙るってのは、よくある話なんじゃないのか。びびらせて尻込みさせるとか」
「そんな、下らない目的のために、あの方の名を……!」
アルアが悔しそうに、ぎゅっと拳を握る。
「一体、何者なんですか、その勇者は。何を考えて……」
「さてな……この話を聞かせてくれたやつは、魔王は勇者ファーストだと思っているらしいけど」
「そんなこと、あり得ない!信じられるものか!」
ま、だよな。アルアなら、きっとそう言うだろう。
「それに、その話が事実だとすると、人類に裏切り者がいるということになります」
「そうだな。あまり考えたくないけど」
「なら、この戦争の目的はなんですか?人類に対して、怨みを持っているとでも?なぜ、勇者が……」
「あー……」
いや、確かにそう考えれば、怨みを持つ理由は、思い当たる。この前、フランと話した通りだ。
「……俺たちは、そういうこともあるかもしれないって、思ってるんだ」
「え?」
「信じられないかもしれないけどな。いろいろあんだよ、勇者にも」
「……」
アルアは黙ったまましばらくうつむくと、だしぬけに言った。
「ファーストも、そうだったんでしょうか」
「え?」
「あなたは確か、勇者をやめたと言っていましたよね。それはつまり、あなたも勇者がイヤになったという事でしょう」
「いや、まあ、そうだけど」
「私はそれを、ただ単に面倒くさくなって、責任から逃れたいがためなのだと思っていたんです。正直に言えば、軽蔑していました」
「はは……知ってるよ」
「すみません。ただ今は、そんな不純な理由ではないと知っています。今までのあなたたちの活躍を見れば、いやでも分かります」
「そうか?それは、どうも」
「ですが、そうなると疑問が残ります。あなたはどうして、勇者をやめたのか。もしかしてそれは、今私たちが戦っている相手にも関連することなんじゃありませんか?」
む、鋭いな。感情的になっているのかと思えば、意外とよく考えている。
「実は俺たちも、そう考えていたんだ。そいつは、俺よりもよっぽど深く、そのことについて思いを募らせていたのかもしれない」
「だとしたら……ファーストも、同じように考えたことが、あったのかも知れないってことです」
「……そうか?聞く限り、ファーストは正義感が強くって、リーダーシップがあって……まさしく理想の勇者みたいだったんだろ」
「私だって、そう思ってました。だから、その姿に一歩でも近づこうと……けど、それすらも間違いなんだとしたら……私は一体、何を目指せばいいの?」
アルアは両手で顔を覆うと、深いため息をつく。まさか、泣いているんじゃ……だが、嗚咽は聞こえてこない。けど、限界まで膨らんだ風船みたいだ。
「……そんなの、知らないよ」
え?フランが冷たい目で、アルアを見据えている。アルアは手を放してフランを見た。
「自分が何になりたいかなんて、自分で見つけるしかない」
「……あなたは強いから、そんな風に思えるんです。私みたいに、なんの才能もない人間は、一つに向かってがむしゃらに進むことしかできないんですよ」
「あっそ。それなら、一生そうやって悩んでればいい」
「え?」
「しょせんその程度なら、最初からファーストになんてなれっこないってこと」
え、おい、フラン!なんでそんなケンカ腰なんだ?俺は止めようかとも思ったが、ぐいと手を引っ張られた。振り返ると、アルルカが首を横に振っている。黙って見てろってことか?それとも、単に面白がっているだけなのか。
「ど、どういう意味ですか、それは」
「言葉の通り。自分でも分かってるんでしょ。あなた、ファーストみたいにはなれないよ」
「……撤回してください」
「いや。絶対しない」
「撤回しろ!」
がっと、フランの胸倉をアルアが掴む。フランは涼しい顔だ。
「そもそも、意味がない。わたしが何と言ったって、事実は変わらない」
「黙れ!」
アルアが揺さぶってくるので、フランは無造作に手を払いのけた。勢い余って、アルアは地面に倒れた。
「ぐっ……!」
「お前はどうやったって、お前以外にはなれない。誰かになれる人間なんて、そもそもいるわけないでしょ」
「……」
「だったら、ファーストがどうだったかなんて関係ない。お前、もし本当に魔王の正体がファーストだったら、人間の敵になる気?」
「っ。違う!ファーストは、魔王になんてならない!私も同じだ!」
「なら、そうすればいい。ファーストが本当はどうだったかなんて、関係ない」
……!そうか、フランのやつ。本当はこのために……
「……ええ、そうさせてもらいますよ」
アルアは乱暴に立ち上がると、ぎりっとフランを睨みつけて、それからくるりと踵を返していってしまった。
「……ちっ。ごめん、上手く伝わらなかったみたい」
苦々し気にフランが言うと、アルルカがくすくす笑った。
「いや、案外そうでもないかもしれないわよ?」
「ん?」
「あんたに八つ当たりしたおかげで、吹っ切れたみたいね。憑き物が落ちた顔してたわ」
「……なら、いいけど」
うん、俺もそう思う。ここ最近、ずっと張り詰めていたアルアだが、ちょうどいいガス抜きができたみたいだ。
「できれば、あいつの願いのためにも、なにかしてやれたらいいんだけどな……」
「……じー」
「あ、違うぞ。あくまで、ちょっとした善意と良心から言ってるんだからな」
「ふぅ……でも、それも難しいんじゃない。結局のところ、あの子の最終目標は、魔王を倒すことでしょ」
「そんなこと、たとえ勇者であっても難しいよなぁ……」
伝説の勇者の孫であり、勇者になれなかった女の子、アルア。彼女の結末が、せめてハッピーなものになればいんだが。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「え」
「え?」
む。なんだよ、アルアもフランも、予想外だって顔をしている。
「なんだ?何か文句ある人は挙手してくれよな」
「文句は、ないけど……本当にいいの?秘密にしろって言われたのに」
フランはそう言いつつも、内心じゃかなり不満そうだ。顔を見ればわかる。
「確かにそうだ。けどどういうわけか、もうすでに噂は広まっちまってるみたいだし。それに、もやもやしたままじゃ、剣先が鈍るかもしれないだろ」
アルアの苦悩は、俺もよく知るところだ。悶々としたまま戦って、あっけなくやられたんじゃ困る。
「さて、アルア。確認するけど、どこまで知ってる?」
「……魔王が、勇者の名を騙っている、と。人によっては、その正体が勇者ファーストだと思っている者もいるようです」
やっぱり、かなりの部分が漏洩しているな。ごまかしようがないだろう。俺はうなずく。
「その通りだ。ファーストかどうかは分からないけど、勇者である可能性は……拭いきれないと思う」
「証拠が、あるのですね」
「ある。詳しく話すと長くなるから割愛するけど……どうやら、そいつが今の魔王軍を率いているらしい」
「そんな……勇者が、魔王に?あり得るんですか、そんなことが……では、どうしてファーストなどと騙るのですか」
「過去の英雄の名を騙るってのは、よくある話なんじゃないのか。びびらせて尻込みさせるとか」
「そんな、下らない目的のために、あの方の名を……!」
アルアが悔しそうに、ぎゅっと拳を握る。
「一体、何者なんですか、その勇者は。何を考えて……」
「さてな……この話を聞かせてくれたやつは、魔王は勇者ファーストだと思っているらしいけど」
「そんなこと、あり得ない!信じられるものか!」
ま、だよな。アルアなら、きっとそう言うだろう。
「それに、その話が事実だとすると、人類に裏切り者がいるということになります」
「そうだな。あまり考えたくないけど」
「なら、この戦争の目的はなんですか?人類に対して、怨みを持っているとでも?なぜ、勇者が……」
「あー……」
いや、確かにそう考えれば、怨みを持つ理由は、思い当たる。この前、フランと話した通りだ。
「……俺たちは、そういうこともあるかもしれないって、思ってるんだ」
「え?」
「信じられないかもしれないけどな。いろいろあんだよ、勇者にも」
「……」
アルアは黙ったまましばらくうつむくと、だしぬけに言った。
「ファーストも、そうだったんでしょうか」
「え?」
「あなたは確か、勇者をやめたと言っていましたよね。それはつまり、あなたも勇者がイヤになったという事でしょう」
「いや、まあ、そうだけど」
「私はそれを、ただ単に面倒くさくなって、責任から逃れたいがためなのだと思っていたんです。正直に言えば、軽蔑していました」
「はは……知ってるよ」
「すみません。ただ今は、そんな不純な理由ではないと知っています。今までのあなたたちの活躍を見れば、いやでも分かります」
「そうか?それは、どうも」
「ですが、そうなると疑問が残ります。あなたはどうして、勇者をやめたのか。もしかしてそれは、今私たちが戦っている相手にも関連することなんじゃありませんか?」
む、鋭いな。感情的になっているのかと思えば、意外とよく考えている。
「実は俺たちも、そう考えていたんだ。そいつは、俺よりもよっぽど深く、そのことについて思いを募らせていたのかもしれない」
「だとしたら……ファーストも、同じように考えたことが、あったのかも知れないってことです」
「……そうか?聞く限り、ファーストは正義感が強くって、リーダーシップがあって……まさしく理想の勇者みたいだったんだろ」
「私だって、そう思ってました。だから、その姿に一歩でも近づこうと……けど、それすらも間違いなんだとしたら……私は一体、何を目指せばいいの?」
アルアは両手で顔を覆うと、深いため息をつく。まさか、泣いているんじゃ……だが、嗚咽は聞こえてこない。けど、限界まで膨らんだ風船みたいだ。
「……そんなの、知らないよ」
え?フランが冷たい目で、アルアを見据えている。アルアは手を放してフランを見た。
「自分が何になりたいかなんて、自分で見つけるしかない」
「……あなたは強いから、そんな風に思えるんです。私みたいに、なんの才能もない人間は、一つに向かってがむしゃらに進むことしかできないんですよ」
「あっそ。それなら、一生そうやって悩んでればいい」
「え?」
「しょせんその程度なら、最初からファーストになんてなれっこないってこと」
え、おい、フラン!なんでそんなケンカ腰なんだ?俺は止めようかとも思ったが、ぐいと手を引っ張られた。振り返ると、アルルカが首を横に振っている。黙って見てろってことか?それとも、単に面白がっているだけなのか。
「ど、どういう意味ですか、それは」
「言葉の通り。自分でも分かってるんでしょ。あなた、ファーストみたいにはなれないよ」
「……撤回してください」
「いや。絶対しない」
「撤回しろ!」
がっと、フランの胸倉をアルアが掴む。フランは涼しい顔だ。
「そもそも、意味がない。わたしが何と言ったって、事実は変わらない」
「黙れ!」
アルアが揺さぶってくるので、フランは無造作に手を払いのけた。勢い余って、アルアは地面に倒れた。
「ぐっ……!」
「お前はどうやったって、お前以外にはなれない。誰かになれる人間なんて、そもそもいるわけないでしょ」
「……」
「だったら、ファーストがどうだったかなんて関係ない。お前、もし本当に魔王の正体がファーストだったら、人間の敵になる気?」
「っ。違う!ファーストは、魔王になんてならない!私も同じだ!」
「なら、そうすればいい。ファーストが本当はどうだったかなんて、関係ない」
……!そうか、フランのやつ。本当はこのために……
「……ええ、そうさせてもらいますよ」
アルアは乱暴に立ち上がると、ぎりっとフランを睨みつけて、それからくるりと踵を返していってしまった。
「……ちっ。ごめん、上手く伝わらなかったみたい」
苦々し気にフランが言うと、アルルカがくすくす笑った。
「いや、案外そうでもないかもしれないわよ?」
「ん?」
「あんたに八つ当たりしたおかげで、吹っ切れたみたいね。憑き物が落ちた顔してたわ」
「……なら、いいけど」
うん、俺もそう思う。ここ最近、ずっと張り詰めていたアルアだが、ちょうどいいガス抜きができたみたいだ。
「できれば、あいつの願いのためにも、なにかしてやれたらいいんだけどな……」
「……じー」
「あ、違うぞ。あくまで、ちょっとした善意と良心から言ってるんだからな」
「ふぅ……でも、それも難しいんじゃない。結局のところ、あの子の最終目標は、魔王を倒すことでしょ」
「そんなこと、たとえ勇者であっても難しいよなぁ……」
伝説の勇者の孫であり、勇者になれなかった女の子、アルア。彼女の結末が、せめてハッピーなものになればいんだが。
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