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17章 再開の約束
24-1 攻略の糸口
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24-1 攻略の糸口
「さて、そうと決まれば……まずは、みんなと合流しないとな」
「桜下。ここに落とされたのは、お前たちだけか?」
「いや、俺の仲間以外にも、クラーク……一の国の勇者のパーティーもいるはずだ」
そう、そのはず……今もまだ、生きていればだが。俺は恐ろしくって、さすがに口にはできなかった。
「そうか。確か、お前の仲間はここからそう遠くないのだったな?」
「そのはずだ。このまま歩いて行けば、そのうち会えるよ」
「わかった。お前に従おう」
ペトラはそう言うと、俺たちの後をついてくる。だがその時でも、たっぷり三人分は距離を取っていた。せっかく協力することになったのに、まだよそよそしい。
「なあ、ペトラ。さっき近寄るなって言ってたけど、あれは、俺が信用できなかったからなのか?」
「うん?ああいや、そうではない。あれはどちらかと言えば、お前を心配しての発言だ」
「へ?俺?」
それはつまり、ペトラに近づくと危険だってことか?
「ははは。それは、いくら何でも過保護じゃないか?取って食われるってわけでもないんだろ」
「いいや。取って食われるぞ」
「は?」
「見ただけでは恐らくわからんだろう。今の私は、簡単に言えば、呪われているんだ」
の、呪いだって?俺は慌ててペトラに振り返った。しかし、平然と歩く彼女の姿を見る限り、別にどこも呪われては居なさそうだが……?
「セカンドにちょっとしたまじないを掛けられたのさ。私が単身城に乗り込んだことは話したな?」
「あ、ああ。そういや、そのことをまだ訊いていなかったな。どうしてこんなところにいたんだ?」
「結果から言えば、私は奴に敗北した。情けない話、まともな打撃すら与えることができなかったと思う。むしろ、奴の警戒心を高めてしまった可能性が高い。すまなかったな」
「いや、謝らないでくれ……」
俺は苦い気持ちで首を振った。確かにセカンドは奸計を巡らせていたが、見抜けなかったのは結局俺たちだ。
「私は敗れ、奴に捕らえられた。さすがに死んだと思ったな」
「で、でも……大丈夫だったんだよな?」
「こうして生きているからな。が、万事良好とまでは行かなかった」
「それが、呪いか……」
「ああ。檻に入れられ、そのまま殺されるものかと思ったが、どうにも奴は、私をおもちゃにしようと思い立ったらしい」
「え……お、おもちゃ?」
なんだ……?セカンドの過去の悪行を考えると、すごく嫌な予感がするんだけど。しかしペトラは、そんな俺の心を読んだのか、気にするなとばかりに手をひらひらする。
「そんなに深刻に考えるな。おかげでこうして逃げ伸びることもできた。私も私で、魔力には耐性があるんだ」
「お、おお。さすがは魔王の娘……じゃあ、本当に大したことないんだな?」
「その通り。ちょっとした後遺症が残っただけだ。だが、それもそこまで酷いものじゃないさ。ただ、今お前に触れられると、お前を押し倒して手籠めにしてしまうくらいで」
なに……?唖然とする俺をよそに、ロウランの行動は素早かった。俺をひょいと抱え上げると、脱兎のごとく飛び跳ね、ペトラからたっぷり五メートルは離れた。
「こ、こら!ロウラン!露骨すぎるだろ!」
「ぜーったいに、ダメ!そんなことになったらアタシ、脳みそバクハツしちゃうの!」
ロウランは包帯までうねうねさせて、全身でペトラを威嚇している。気持ちは分からなくもないが、失礼だろ!
だが幸い、ペトラは気を悪くするでもなく、逆に不可解そうな顔をしている。
「安心しろ、ロウラン姫。触れさえしなければ大丈夫だ。それに、私からすれば、お前たち人間は別の種族の生き物だ。例えばお前は、犬や猫に劣情を抱くか?」
「そーいう人もいるの!」
えっ。いや、お前……
「おっと、そうなのか?ふむ、人間は奥が深いな」
あーあー、ほら見ろ。ペトラに誤った知識が……
「ともかく。そもそも私には、お前たちで言う、性欲に当たるものは存在しないんだ」
「なら、さっきのはどーいう意味なの!ちゃんと説明して!」
「そうなるように仕向けられたんだが……仕方ない、誤解を解くためにも、包み隠さず伝えよう」
ペトラは淡々と語り始めた。
「セカンドは、私に強力な催淫魔法をかけたんだ。闇の魔法の一種で、ラフ・オブ・サキュバスという。これは、人間相手なら一発で自我を失わせ、色欲以外のことを考えられなくするような代物らしい。が、そもそも私は人間でないし、魔法への耐性もある。結果、魔法は上手くかからず、セカンドの思惑通りにはならなかった」
うっ……わ。やっぱり、思った通りじゃないか。だが、まだ話は続く。
「腹を立てたセカンドは、私の人格や意識ごと作り替えようとした。あらゆる闇の魔法を動員し、私の記憶や、脳内のあらゆる情報を改ざんしようとした。これは流石に、しんどかったな……奴はとにかく、自分の失敗を認めようとしなくてな。三日ほど、私に掛かりきりだったよ。正直その間の記憶は曖昧なので、正確かどうかは分からないがね」
そ、それって、一体どんな魔法を……?いや、よそう。聞くのが怖い。
「結局私は、奴の理想通りにはならなかったが、かなりの呪いを受けてしまった。今の私は、人間に触れられると、それが誰であろうと襲い掛かるように意識を改造されてしまっている。奴が私にやらせようとしていたことを、そのまま実行してしまうだろう」
「だ……だい、じょうぶ、だったの……?」
「ん、セカンドにバレなかったのかという意味か?ああ、この通り、見かけ上は何の変化もないからな。本当なら自分から股を開くようにしたかったようだが。さっきも言った通り、奴はわずかなミスも認めたがらない。そこが幸いした。奴は私を城の奥深くに隠し、最初からなかったことにしたんだよ。おかげで隙をついて脱出して、ここに身を潜められたというわけだ」
「……」
ロウランは完全に絶句してしまった。俺だってそうだが……
「セカンドの奴……あいつには、理性ってものが存在しないのか?過去にあれだけのことをしておいて、未だにこれだなんて」
こうなると、ロアやコルトが結晶に閉じ込められたことも、よかったと思えてくる。少なくともああなら、セカンドの餌食に掛かることもないから……くそったれめ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「桜下。ここに落とされたのは、お前たちだけか?」
「いや、俺の仲間以外にも、クラーク……一の国の勇者のパーティーもいるはずだ」
そう、そのはず……今もまだ、生きていればだが。俺は恐ろしくって、さすがに口にはできなかった。
「そうか。確か、お前の仲間はここからそう遠くないのだったな?」
「そのはずだ。このまま歩いて行けば、そのうち会えるよ」
「わかった。お前に従おう」
ペトラはそう言うと、俺たちの後をついてくる。だがその時でも、たっぷり三人分は距離を取っていた。せっかく協力することになったのに、まだよそよそしい。
「なあ、ペトラ。さっき近寄るなって言ってたけど、あれは、俺が信用できなかったからなのか?」
「うん?ああいや、そうではない。あれはどちらかと言えば、お前を心配しての発言だ」
「へ?俺?」
それはつまり、ペトラに近づくと危険だってことか?
「ははは。それは、いくら何でも過保護じゃないか?取って食われるってわけでもないんだろ」
「いいや。取って食われるぞ」
「は?」
「見ただけでは恐らくわからんだろう。今の私は、簡単に言えば、呪われているんだ」
の、呪いだって?俺は慌ててペトラに振り返った。しかし、平然と歩く彼女の姿を見る限り、別にどこも呪われては居なさそうだが……?
「セカンドにちょっとしたまじないを掛けられたのさ。私が単身城に乗り込んだことは話したな?」
「あ、ああ。そういや、そのことをまだ訊いていなかったな。どうしてこんなところにいたんだ?」
「結果から言えば、私は奴に敗北した。情けない話、まともな打撃すら与えることができなかったと思う。むしろ、奴の警戒心を高めてしまった可能性が高い。すまなかったな」
「いや、謝らないでくれ……」
俺は苦い気持ちで首を振った。確かにセカンドは奸計を巡らせていたが、見抜けなかったのは結局俺たちだ。
「私は敗れ、奴に捕らえられた。さすがに死んだと思ったな」
「で、でも……大丈夫だったんだよな?」
「こうして生きているからな。が、万事良好とまでは行かなかった」
「それが、呪いか……」
「ああ。檻に入れられ、そのまま殺されるものかと思ったが、どうにも奴は、私をおもちゃにしようと思い立ったらしい」
「え……お、おもちゃ?」
なんだ……?セカンドの過去の悪行を考えると、すごく嫌な予感がするんだけど。しかしペトラは、そんな俺の心を読んだのか、気にするなとばかりに手をひらひらする。
「そんなに深刻に考えるな。おかげでこうして逃げ伸びることもできた。私も私で、魔力には耐性があるんだ」
「お、おお。さすがは魔王の娘……じゃあ、本当に大したことないんだな?」
「その通り。ちょっとした後遺症が残っただけだ。だが、それもそこまで酷いものじゃないさ。ただ、今お前に触れられると、お前を押し倒して手籠めにしてしまうくらいで」
なに……?唖然とする俺をよそに、ロウランの行動は素早かった。俺をひょいと抱え上げると、脱兎のごとく飛び跳ね、ペトラからたっぷり五メートルは離れた。
「こ、こら!ロウラン!露骨すぎるだろ!」
「ぜーったいに、ダメ!そんなことになったらアタシ、脳みそバクハツしちゃうの!」
ロウランは包帯までうねうねさせて、全身でペトラを威嚇している。気持ちは分からなくもないが、失礼だろ!
だが幸い、ペトラは気を悪くするでもなく、逆に不可解そうな顔をしている。
「安心しろ、ロウラン姫。触れさえしなければ大丈夫だ。それに、私からすれば、お前たち人間は別の種族の生き物だ。例えばお前は、犬や猫に劣情を抱くか?」
「そーいう人もいるの!」
えっ。いや、お前……
「おっと、そうなのか?ふむ、人間は奥が深いな」
あーあー、ほら見ろ。ペトラに誤った知識が……
「ともかく。そもそも私には、お前たちで言う、性欲に当たるものは存在しないんだ」
「なら、さっきのはどーいう意味なの!ちゃんと説明して!」
「そうなるように仕向けられたんだが……仕方ない、誤解を解くためにも、包み隠さず伝えよう」
ペトラは淡々と語り始めた。
「セカンドは、私に強力な催淫魔法をかけたんだ。闇の魔法の一種で、ラフ・オブ・サキュバスという。これは、人間相手なら一発で自我を失わせ、色欲以外のことを考えられなくするような代物らしい。が、そもそも私は人間でないし、魔法への耐性もある。結果、魔法は上手くかからず、セカンドの思惑通りにはならなかった」
うっ……わ。やっぱり、思った通りじゃないか。だが、まだ話は続く。
「腹を立てたセカンドは、私の人格や意識ごと作り替えようとした。あらゆる闇の魔法を動員し、私の記憶や、脳内のあらゆる情報を改ざんしようとした。これは流石に、しんどかったな……奴はとにかく、自分の失敗を認めようとしなくてな。三日ほど、私に掛かりきりだったよ。正直その間の記憶は曖昧なので、正確かどうかは分からないがね」
そ、それって、一体どんな魔法を……?いや、よそう。聞くのが怖い。
「結局私は、奴の理想通りにはならなかったが、かなりの呪いを受けてしまった。今の私は、人間に触れられると、それが誰であろうと襲い掛かるように意識を改造されてしまっている。奴が私にやらせようとしていたことを、そのまま実行してしまうだろう」
「だ……だい、じょうぶ、だったの……?」
「ん、セカンドにバレなかったのかという意味か?ああ、この通り、見かけ上は何の変化もないからな。本当なら自分から股を開くようにしたかったようだが。さっきも言った通り、奴はわずかなミスも認めたがらない。そこが幸いした。奴は私を城の奥深くに隠し、最初からなかったことにしたんだよ。おかげで隙をついて脱出して、ここに身を潜められたというわけだ」
「……」
ロウランは完全に絶句してしまった。俺だってそうだが……
「セカンドの奴……あいつには、理性ってものが存在しないのか?過去にあれだけのことをしておいて、未だにこれだなんて」
こうなると、ロアやコルトが結晶に閉じ込められたことも、よかったと思えてくる。少なくともああなら、セカンドの餌食に掛かることもないから……くそったれめ。
つづく
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