じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

24-2

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24-2

「……ロウラン。ペトラに謝れよ。今のは、お前が悪いぞ」

俺はロウランを嗜める。ロウランは素直に謝った。

「ご、ごめんなさいなの。嫌なこと訊いちゃったよね……?」

「構わんさ。むしろ、お前たちの方が、聞いていて不快だろう。だから話したくなかったんだ」

「そんなことないの!事情は分かったから。アタシも気を付けるね」

「そうしてくれると助かる。さあ、早くお前たちの仲間の下へ行こう。時間もあまりないことだ」

この話はここまでにしようってことだな。ロウランもそれ以上は言わずに、口を閉ざした。俺は暗闇の中を指さす。

「こっちだ」

みんなの魂の位置は、俺にしか分からないからな。俺は感覚を頼りに、暗い道を進んでいく。

「ところで、ここはどこなんだろう?ヘルズニルの中ではあるんだよな」

「そうだ。ここは城に無数に存在する、隙間の一つだ」

「隙間?」

「お前たち人間は、建物に無駄な空間を造らないらしいな。私たちは、そういう四角四面なこととは縁遠いんだ」

ははぁ、なるほど。ここに来る前、あの魔法の鏡……今思えば、あれもセカンドの猿芝居だったわけだが。とにかく、あれを見つけた空間も、ここと同じような用途不明の部屋だった。まあこの城は外観からして、人間のそれとはかけ離れているしな。

「あと、これだけ訊かせてくれ。ペトラ、あんたはセカンドと戦ったんだよな?てことは、奴の能力も目にしてるんじゃないか?」

「ああ、もちろんだ。……だが、その話は後でもいいだろうか?どうせお前の仲間にも聞かせねばならんから、合流してからの方が都合いいだろう」

「そうだな。わかった」

俺はうなずいて了承した。みんなの魂の気配は、もうだいぶ近くまで来ている。じきにみんなに会えるだろう……



一方その頃、フランとアルルカは、ほこりまみれになってすっかり意気消沈しながら、闇の中を歩いていた。
アルルカの自慢の黒髪はススまみれで白くなっているし、フランは右肩から先がない。敗残兵、落ち延びた兵士といった表現がすっかり様になっていた。おまけに二人の仲は、まさしく犬猿だ。

「……ちっ」

口火を切ったのはフランだった。黙々と歩く中では、さほど大きな音でなくてもよく響く。アルルカはぴくりと眉を動かした。

「……あんた今、舌打ちした?」

「してない」

「嘘おっしゃいよ。聞こえよがしにしたでしょうが」

「してないってば」

「あ~あ~ソウデスカソウデスカ。んじゃあんたが鎌首もたげたヘビみたいにシューシュー言ってるように見えるのも、きっと見間違いね!」

「うるさいな!黙って歩けないの!」

「先にうっさくしたのはあんたでしょーが!ぶっ飛ばすわよ!」

「やれるもんならやってみろ!」

「上等じゃない!」

アルルカは杖をぶんと振り上げ、フランは足に力をこめてキックの体勢を取った。が、ゴングが鳴らされることはなかった。

「……徒労ね」

「無駄な骨折り、か」

アルルカはだらりと杖を下ろし、フランはため息をついた。二人が犬猿の仲だったことは、どうやら過去のことになりつつあるようだ。

「負けたのね、あたしたち」

「……お前の自虐癖に付き合う気はないよ」

「そ、そんなんじゃないわよ!それに、こんなの誰だってごめんでしょ」

フランは何も言い返せなかった。口の中は苦い味でいっぱいだ。

「……あいつ、くたばってないでしょうね」

「……絶対に。ロウランが、あの人に包帯を伸ばすのが見えたの」

「でも、それだって絶対じゃないでしょう。あの見えない力に押されて、あたしだって一キュビットも飛べなかったのよ。もしあの勢いのまま、床に叩きつけられてたら……」

「ううん、きっと大丈夫。分かるんだよ……魂が、繋がってるから」

アルルカは半信半疑だった。そう信じたい気持ちはあるが、あいにくと信ずるものが救われるとは微塵も思っていない。だが、あえて口には出さなかった。フランもフランで、それは痛いほど分かっているはずだと思ったからだ。これはどちらかと言えば、フラン自身が信じたいことなのだろう。

「まあ、そうね。あいつは悪運だけは強いから、きっとひょっこり顔出すに決まってるわ」

「うん。とにかく、みんなを探すのが先決だ。じっとしてたんじゃ、いつまで経っても合流できない」

「分かってるって。……にしても、あいつ、なにもんなの?あんな力、見たことないわ」

アルルカの「あいつ」の言い方がまるっきり変わったので、フランは話題が変わったのだと分かった。

「セカンドが、魔王だったんだ。ならきっと、あれは闇の魔法だよ」

「つったってあの黒い炎、人間に扱えるシロモノじゃないはずよ」

「……どういう意味?あれを知ってるの?」

フランは失った右肩を押さえて訊ねる。

「まあね。あたしの、生まれ故郷って言えばいいのかしら?そこに伝わる魔法よ」

「……お前にも、ふるさとがあったんだ」

「あんたね、あたしを何だと思ってんの?まあいいけど……それでその魔法、強力だけど、習得には百年掛かるって言われてんのよ」

「それは、確かに無理だね。生まれてすぐに修業を始めないと間に合わない」

「でしょ?だから意味わかんないのよね……あいつが百歳を超えてるとは思えないし」

確かに不可解だとフランは思った。なぜその魔法が使えるのかも気になりはしたが、今はそれよりも、もっと別のところに興味がある。

「ねえ、知ってるなら教えて。あの炎、普通とどう違う?」

「あー……」

アルルカがふいと目を逸らす。

「あの炎は、ね。ちょこっと、火力が高いのよ」

アルルカにしてはめずらしく、遠慮がちにはぐらかすような言い方だ。フランは食い下がる。

「ちゃんと言って。だいたい予想は付いてるから」

「……はぁ。わーったわよ……あの炎は、呪いの火なの。水をかけても消えないし、何でも燃える。例え魔法であっても、あの炎は貫けないわ。魔力ごと燃やしてしまうから」

「……それに燃やされると、どうなるの?」

「それに燃やされたものは……えー……」

「言って」

「……呪われんの。梢を燃やしたなら、もう二度とそこから新芽は芽吹かない。野を燃やしたなら、そこはずうっと荒れ野になる。泉を燃やせば、そこは一生干からびたままよ。つまり、その呪いがある限り、そこは永久に失われることになるの。だから……」

「……わたしの腕は、元に戻らない」

予感はしていたとはいえ、フランの胸には、鉛がどすんと投げ込まれたようだった。

「で、でも、分からないわよ?あいつの死霊術なら、何事もなく元通りにできるかもしれないわ!あたしの記憶だって、もう百年も前のものだし?」

アルルカが気遣うようなことを口にするなんて、これが初めてのことだった。しかしフランには、そのことに気付く心の余裕はなかった。利き腕を失った事実は、単に攻撃力が半分になったなどという、簡単な図式で表せるようなものじゃない。
フランは今までだって片腕だけで戦うこともしばしばあったが、それはあくまで急場しのぎだった。そして今回は、セカンドという巨悪との戦い。万全な状態ですら互角とも言えないのに、これでは……

(……いや。まだ、諦めない)

フランはうつむきかけていた顔を上げた。片腕でも、できることはある。それに、あの人ならきっと諦めない。この闇の中でも、必死に足掻く方法を考えているはずだ。彼が諦めない以上、自分がうつむくわけにはいかない。

「進もう。きっとあの人も、こっちに向かってる」

フランはずんずんと進んでいく。アルルカは何も言わずに、その背中について行った。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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