じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
816 / 860
17章 再開の約束

24-5

しおりを挟む
24-5

「クラーク様……いい加減に、してください」

ミカエルは、体も声も激しく震えていたが、それでもきっぱりと言った。俺たちは突然の出来事に、唖然とするばかりだ。

「……なにを、するんだよ」

横っ面を思い切り引っ叩かれ、衝撃で尻もちをついたクラークは、叩かれた頬を押さえながらゆっくりと立ち上がった。その声には、明らかな怒気が込められている。

「ご自身でも分かっているはずです。こんなの、クラーク様らしくありません!」

「ははは。僕らしく?君に、僕の何が分かるっていうんだ」

「分かりますよ。これまで、ずっと一緒に旅を……」

「そんなの、たかだか一年とちょっとじゃないか!それだけで、僕を分かったつもりなのか?だとしたらミカエル、君はおめでたいにもほどがあるね」

辛らつな言葉に、ミカエルは傷ついた顔をする。

「おいクラーク、お前少し冷静に……」

「黙っていろよ、桜下。これはミカエルが始めたんだ。君に止められる筋合いはない。僕は今、こいつと向き合っているだけだ」

ぐっ、そう言われると口を挟みづらいが……だがミカエルも、クラークに賛同するように、小さくだがうなずいている。手を出すなってことか?くそ、ほんとに大丈夫かよ。

「で、ミカエル。君の中の僕っていうのは、いったいどんな奴なんだろうね?」

「それは、もちろん……」

「正義の雷か?はははは、素晴らしい冗談だ。僕が本当に、正義のために命を懸けていると思っていたのか?」

「え?」

「そんなはずないだろ。世界のために命を懸ける勇者?そんなの、おとぎ話の中にしか出てこないな。そして僕は、物語の人物じゃない。生きた、人間だ!」

……驚いたな。クラークのやつ、本心ではそんなことを考えていたのか?ただ正直、軽蔑はしていない。だってそれは、俺と同じ考え方だ。むしろ、やつと俺が根本では似通っていたことに驚いている。

「ああそうだよ。僕は、正義の追従者たらんとした。皆に求められる姿を演じ、そうあろうと努力してきたさ。だが、その結果がこれだ!尊さんは殺され、連合軍も今頃壊滅させられてる。僕たちだって、もうおしまいだ」

「そんなこと……」

「あるだろ!僕ら全員、あいつに手も足も出なかったじゃないか!床に這いつくばって、文字通りにな。はははは!」

クラークはのけ反るように笑うと、金髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。金髪碧眼の、絵に描いたような勇者・クラーク。それが今は、俺と同い年の、ただの少年に見えるから不思議だ。

(いや……)

今までが、無理をしていたってことか。そうだよな……勇者だなんだって言ったって、所詮、俺たちは一人の人間だ。俺はこの世界に召喚されてから、そうそうにそのことに気付いてしまった。けど、クラークは違った。彼の場合は、たった今、それに気づいたんだ。

「クラーク様、そうじゃありません。私が言いたいことは……」

「そういうことだろう!ミカエル、君だって結局は、他の大人たちと同じだ!僕に強く、完璧であることを望んでいる!僕が勇者だから!勇者は強くて完璧だから!けど、もううんざりなんだよ!」

クラークは乱暴に腰元を探ると、剣の鞘を外して、足下に投げつけた。ガラーンという音が、闇の中にこだまする。

「もう、勘弁してくれよ……ここまで来て、一体僕に何を望むんだ?僕らは負けた。どうあがいたっておしまいだ。それとも、最後まで足掻いて、もがいて、その末に死ねっていうのか?なんでそんなに残酷なんだよ……」

「ちが、違います!クラーク様、聞いてください!そうじゃありません!」

ミカエルはぶんぶんと頭を振ると、祈るように語り掛ける。

「私は、クラーク様に戦えと言いたいわけじゃありません!勇者がどうとか、正義がどうとか、本当はどうでもいいんです!」

「なに……?何を言っているんだ」

「分からないんですか?私、一度だって、クラーク様に戦ってほしいなんて言ったことありません。本当は私だって、戦うのは嫌いなんです……」

それは、確かにそうだ。ミカエルは本当に臆病で、クラークのパーティーにいるのが不思議なくらい引っ込み思案だったから。

「なら……君は一体、僕に何を望んでいるんだ」

「私が望むのは、一つだけ。諦めないでほしいんです」

「はっ、なんだそんなの……結局戦えってことじゃないか」

「違います!私は、生きるのを諦めないでほしいんです!そんな風に自暴自棄じゃ、生きて帰れなくなってしまいます!」

「だから、もうその必要もないんだって!たとえ僕が生きて戻ったとしても、もう連合軍は……」

「連合軍?何言っているんですか!あなたが帰るのは、コルルさんのところでしょう!」

コルルの名前が、ようやくクラークの心に刺さったようだ。やつの濁った眼に、やっとわずかな光が戻った。

「コルル……」

「そうです。私が求めるのは、コルルさんの伴侶としてのクラーク様です。でも、今のクラーク様を見たら、とてもコルルさんを幸せにできるとは思えません。きっとこのままじゃ、コルルさんと、生まれてくる赤ちゃんは不幸になります。そんなの私、絶対に許せません」

そうだ……クラークには、待ってくれている人がいる。一人じゃない。二人だ。

「クラーク……」

アドリアが、しばらくぶりに口を開いた。いつも飄々とした彼女にしては珍しく、その声はか細い。

「私も、ミカエルと同じ意見だ。正義だなんだは、この際置いておけばいい。だが、コルルのことも捨てる気か?」

「……」

クラークは、がっくりと膝をついた。床に手をつくと、うつむいて動かなくなる。もしや、本当に心が折れてしまったのか?コルルのことすら、どうでもいいと言うつもりだろうか……もしそうなら、今度こそ自分を押さえられないぞ。

「……めん」

クラークが何かをつぶやいた。俺は耳を澄ます。

「……ごめん。ミカエル。アドリア。そして、コルル……」

クラークはそのままダンゴムシのように丸々と、小さな声ですすり泣いた。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...