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17章 再開の約束
25―1 勝利への条件
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25―1 勝利への条件
「ちっ。たく、クラーク。ようやく目が覚めたか?」
「ああ……ぐすっ。ああ」
クラークはまだぐしゅぐしゅだったが、あいにくこいつにそこまで優しくしてやる義理はねえ。泣き止むまでなんて待ってやるもんか。まったく。
「どうして忘れていたんだろう……僕には、待ってくれている人がいる。その人たちのために、ここでくじけるわけにはいかないんだ」
「そうだ。お前がどうしようとお前の勝手だけどな、コルルに恨まれるのは俺たちなんだぞ。余計な迷惑かけんじゃねーよ」
「まったく、君と来たら……はぁ。けど、その憎まれ口も、今はありがたく聞こえるよ。もう、大丈夫」
「そうでないと困るぜ」
俺は首の後ろをかくと、ぼそりと付け加える。
「悲しいのは、俺も同じだ。だけど今は、嘆いてる場合じゃないだろ」
「うん……それで、どうにかなるわけでも、ないんだ」
クラークの声が一瞬詰まったが、どうにか持ちこたえた。それだけミカエルの一撃と、コルルのことが効いたんだろう。これが一番の特効薬だな。
「さて……諸君。話は落ち着いただろうか」
俺とクラークは、同時に顔を上げた。ペトラが静かな瞳で、俺たち二人を見ている。
「今戦える全員が揃ったようだ。そろそろ次の段階に進まねばな」
冷たくも聞こえるペトラの言葉。彼女は、俺たち人間の悲しみだとか、愛だとかには疎いのだろうか。だけど、ペトラの言う通りだ。時間は残されていない。
「わかった、ペトラ。作戦会議と行こう」
「あの、桜下……この人は?」
クラークが戸惑った顔で訊ねてくる。ああそうか、まだ紹介もしていなかったっけ?
「忘れてた。クラーク、お前が腑抜けてたからだぞ」
「う、悪かったって……で?さすがに敵ではないんだよね?」
「ああ、もちろん。敵では、ない……」
けど、完全に味方とは言いづらいな。手を結ぶことにはなったが、本質的に俺たちは対立関係だ。下手なことを言うと、コイツの場合、要らない誤解を与えかねないし……さて、なんと言ったものか。考えあぐねていると、ペトラが先に口を開いてしまった。
「私は、ペトロイド=フォン=スカルツベルト。魔王テオドールの娘にあたる」
どさっ。ミカエルは勢い良くのけ反り過ぎて、そのまま後ろに倒れてしまった。アドリアも目をくわっと見開いている。クラークもあんぐりと口を開けた。おお、神よ。
「ペトラ!お前、説明には順序ってやつが……」
「なんだ、それは?これがもっとも簡潔だと思うが」
「急がば回れって知らないのか?ああもう……」
まいったな、どうすりゃいいんだ。いまさら取り繕ったところで、かえって印象を悪くするだろうし。
「……わたしも、不思議には思ってたんだけど」
と、フランが慎重な様子で口を開いた。
「じゃあこれは、実家に帰ってきたってこと?」
「実家か。お前たちのそれとは、かなり異なってくるだろうな」
「じゃあ、なにか目的があるってことなんだよね」
あ、そうか!フラン、ナイスパス!
「そうだ、ペトラ。どうしてお前がここにいるのか、それをもう一度話してやってくれ」
「了解した。ではまず、城に殴り込みをかけたところから……」
ペトラは、さっき俺に聞かせてくれたことを、かいつまんでみんなにも話した。
「……魔王の娘が、僕らと共に戦う、だって?」
話を聞き終わった後、クラークは意味が分からないという顔で、俺を見た。どうしてペトラじゃなくて俺を見るんだ、俺を?
「ああ。さっきからそう言ってるだろ」
「……彼女の言っていることが本当だったとして、君はどうして、一緒に戦うことを承知したんだ?」
「どうしてって、話聞いてなかったのか?セカンドを倒すために……」
「いや、それは分かるけれど。僕だって、味方が増えることには賛成だ。必ず生きて帰るためにも、四の五の言うつもりはないよ。けど……」
クラークが言い淀む。まあ、何となく言いたいことは分かるが……するとその後を、アドリアが引き継いだ。
「それではセカンドを倒したとしても、第二の魔王が生まれるだけなのではないか?そちらは、魔王の娘なのだろう」
ぐっ、やっぱりそこにぶつかるか。
「それでは、魔王の手助けをするのと同じだ。今度こそ、連合軍は壊滅するぞ」
「でも、ペトラが必ずそうするなんて、分からないじゃないか」
「もちろんだ。だが、そうしないという証拠もない。桜下、どうしてお前は、彼女を信じれる?」
そういう言い方をされると、言葉に詰まるな。俺は、彼女を信じている。だけど今は、客観的な証拠を出せって言ってるんだろ?そんなの、あるわけない。
「はあ……つーわけなんだが、ペトラ?あんた、人類を滅ぼす気なのか?」
もう、直接本人の口から言ってもらうしかないだろう。とにかく今は、ペトラのことを信用してもらわないと。
「そのつもりはない。私の目的は、今の魔王……その座についている人間を、排除することだ」
アドリアがすかさず言い返す。
「それを信じる理由は?」
「ないな」
きっぱりと首を横に振るペトラ。ま、まずいんじゃないか……?
「だがこのままでは、お前たちはむしろ、同胞に滅ぼされることになるのではないか?」
ペトラの言葉は、アドリアのみぞおちに刺さったようだ。
「……そうかもしれない」
「そうだろう。お前たちには、二つの選択肢がある。自分たちだけで戦うのか、私と協力するのか。どちらを選んでもらっても構わないが、セカンドの力を甘く見ないほうがいいぞ」
「見てきたような口ぶりだな……いいや、実際に見ているのだったか」
そうだ、ペトラは実際に、セカンドと戦っている。俺たちは完全に不意を突かれたから、戦いなんて呼べるものじゃなかったし。
「そうだペトラ。さっきも一度訊いたけど、セカンドのことを話してくれよ。協力するにしても、相手のことが分からなくちゃ、どう戦ったらいいかわからないだろ?」
敵の力が分かれば、おのずと共闘しようって方向に行くんじゃないか?幸い、ペトラは素直にうなずいてくれた。
「いいだろう。では次は、私の知り得る限りの、奴の能力について話すとしよう」
セカンドの能力。黒い炎を操り、俺たちを重力で押しつぶし、自らの顔すらも自在に変えて見せた。一体どんな能力でなら、あれだけ多彩なことができるんだ?さらにエドガーの話では、あれ以外にも様々な技能があるらしい……
「セカンドは、実に様々な力を有している。私もすべてを把握しているわけではない。それに、現実的でもないしな」
「現実的?」
「桜下、奴が百の能力を有していたとして、百の対策を立てられるか?」
「ああ……調べるだけ無駄ってことか」
「その通り。変幻自在な相手に合わせようとしても、後手に回るだけだ」
でもそれだと、セカンドに弱点なんてないってことになるじゃないか……沈んだ空気があたりに漂ったが、ペトラはそれに染まることはなかった。
「だが、一つ一つの能力に注目していけば、決して無理な話ではない。奴の力を各個撃破していけば、奴を丸裸にすることも可能だ。ここにいる皆の力を合わせれば、必ず成し遂げることができると、私は信じている」
ペトラが堂々と言い放つと、みんながぐっと引き付けられ、話を聞く姿勢になったのが分かった。ようし、良い調子だぞ!
「ではこれから、その方法について話していこう」
つづく
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続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ああ……ぐすっ。ああ」
クラークはまだぐしゅぐしゅだったが、あいにくこいつにそこまで優しくしてやる義理はねえ。泣き止むまでなんて待ってやるもんか。まったく。
「どうして忘れていたんだろう……僕には、待ってくれている人がいる。その人たちのために、ここでくじけるわけにはいかないんだ」
「そうだ。お前がどうしようとお前の勝手だけどな、コルルに恨まれるのは俺たちなんだぞ。余計な迷惑かけんじゃねーよ」
「まったく、君と来たら……はぁ。けど、その憎まれ口も、今はありがたく聞こえるよ。もう、大丈夫」
「そうでないと困るぜ」
俺は首の後ろをかくと、ぼそりと付け加える。
「悲しいのは、俺も同じだ。だけど今は、嘆いてる場合じゃないだろ」
「うん……それで、どうにかなるわけでも、ないんだ」
クラークの声が一瞬詰まったが、どうにか持ちこたえた。それだけミカエルの一撃と、コルルのことが効いたんだろう。これが一番の特効薬だな。
「さて……諸君。話は落ち着いただろうか」
俺とクラークは、同時に顔を上げた。ペトラが静かな瞳で、俺たち二人を見ている。
「今戦える全員が揃ったようだ。そろそろ次の段階に進まねばな」
冷たくも聞こえるペトラの言葉。彼女は、俺たち人間の悲しみだとか、愛だとかには疎いのだろうか。だけど、ペトラの言う通りだ。時間は残されていない。
「わかった、ペトラ。作戦会議と行こう」
「あの、桜下……この人は?」
クラークが戸惑った顔で訊ねてくる。ああそうか、まだ紹介もしていなかったっけ?
「忘れてた。クラーク、お前が腑抜けてたからだぞ」
「う、悪かったって……で?さすがに敵ではないんだよね?」
「ああ、もちろん。敵では、ない……」
けど、完全に味方とは言いづらいな。手を結ぶことにはなったが、本質的に俺たちは対立関係だ。下手なことを言うと、コイツの場合、要らない誤解を与えかねないし……さて、なんと言ったものか。考えあぐねていると、ペトラが先に口を開いてしまった。
「私は、ペトロイド=フォン=スカルツベルト。魔王テオドールの娘にあたる」
どさっ。ミカエルは勢い良くのけ反り過ぎて、そのまま後ろに倒れてしまった。アドリアも目をくわっと見開いている。クラークもあんぐりと口を開けた。おお、神よ。
「ペトラ!お前、説明には順序ってやつが……」
「なんだ、それは?これがもっとも簡潔だと思うが」
「急がば回れって知らないのか?ああもう……」
まいったな、どうすりゃいいんだ。いまさら取り繕ったところで、かえって印象を悪くするだろうし。
「……わたしも、不思議には思ってたんだけど」
と、フランが慎重な様子で口を開いた。
「じゃあこれは、実家に帰ってきたってこと?」
「実家か。お前たちのそれとは、かなり異なってくるだろうな」
「じゃあ、なにか目的があるってことなんだよね」
あ、そうか!フラン、ナイスパス!
「そうだ、ペトラ。どうしてお前がここにいるのか、それをもう一度話してやってくれ」
「了解した。ではまず、城に殴り込みをかけたところから……」
ペトラは、さっき俺に聞かせてくれたことを、かいつまんでみんなにも話した。
「……魔王の娘が、僕らと共に戦う、だって?」
話を聞き終わった後、クラークは意味が分からないという顔で、俺を見た。どうしてペトラじゃなくて俺を見るんだ、俺を?
「ああ。さっきからそう言ってるだろ」
「……彼女の言っていることが本当だったとして、君はどうして、一緒に戦うことを承知したんだ?」
「どうしてって、話聞いてなかったのか?セカンドを倒すために……」
「いや、それは分かるけれど。僕だって、味方が増えることには賛成だ。必ず生きて帰るためにも、四の五の言うつもりはないよ。けど……」
クラークが言い淀む。まあ、何となく言いたいことは分かるが……するとその後を、アドリアが引き継いだ。
「それではセカンドを倒したとしても、第二の魔王が生まれるだけなのではないか?そちらは、魔王の娘なのだろう」
ぐっ、やっぱりそこにぶつかるか。
「それでは、魔王の手助けをするのと同じだ。今度こそ、連合軍は壊滅するぞ」
「でも、ペトラが必ずそうするなんて、分からないじゃないか」
「もちろんだ。だが、そうしないという証拠もない。桜下、どうしてお前は、彼女を信じれる?」
そういう言い方をされると、言葉に詰まるな。俺は、彼女を信じている。だけど今は、客観的な証拠を出せって言ってるんだろ?そんなの、あるわけない。
「はあ……つーわけなんだが、ペトラ?あんた、人類を滅ぼす気なのか?」
もう、直接本人の口から言ってもらうしかないだろう。とにかく今は、ペトラのことを信用してもらわないと。
「そのつもりはない。私の目的は、今の魔王……その座についている人間を、排除することだ」
アドリアがすかさず言い返す。
「それを信じる理由は?」
「ないな」
きっぱりと首を横に振るペトラ。ま、まずいんじゃないか……?
「だがこのままでは、お前たちはむしろ、同胞に滅ぼされることになるのではないか?」
ペトラの言葉は、アドリアのみぞおちに刺さったようだ。
「……そうかもしれない」
「そうだろう。お前たちには、二つの選択肢がある。自分たちだけで戦うのか、私と協力するのか。どちらを選んでもらっても構わないが、セカンドの力を甘く見ないほうがいいぞ」
「見てきたような口ぶりだな……いいや、実際に見ているのだったか」
そうだ、ペトラは実際に、セカンドと戦っている。俺たちは完全に不意を突かれたから、戦いなんて呼べるものじゃなかったし。
「そうだペトラ。さっきも一度訊いたけど、セカンドのことを話してくれよ。協力するにしても、相手のことが分からなくちゃ、どう戦ったらいいかわからないだろ?」
敵の力が分かれば、おのずと共闘しようって方向に行くんじゃないか?幸い、ペトラは素直にうなずいてくれた。
「いいだろう。では次は、私の知り得る限りの、奴の能力について話すとしよう」
セカンドの能力。黒い炎を操り、俺たちを重力で押しつぶし、自らの顔すらも自在に変えて見せた。一体どんな能力でなら、あれだけ多彩なことができるんだ?さらにエドガーの話では、あれ以外にも様々な技能があるらしい……
「セカンドは、実に様々な力を有している。私もすべてを把握しているわけではない。それに、現実的でもないしな」
「現実的?」
「桜下、奴が百の能力を有していたとして、百の対策を立てられるか?」
「ああ……調べるだけ無駄ってことか」
「その通り。変幻自在な相手に合わせようとしても、後手に回るだけだ」
でもそれだと、セカンドに弱点なんてないってことになるじゃないか……沈んだ空気があたりに漂ったが、ペトラはそれに染まることはなかった。
「だが、一つ一つの能力に注目していけば、決して無理な話ではない。奴の力を各個撃破していけば、奴を丸裸にすることも可能だ。ここにいる皆の力を合わせれば、必ず成し遂げることができると、私は信じている」
ペトラが堂々と言い放つと、みんながぐっと引き付けられ、話を聞く姿勢になったのが分かった。ようし、良い調子だぞ!
「ではこれから、その方法について話していこう」
つづく
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