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17章 再開の約束
25-2
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「セカンドの能力は、多岐にわたっている」
初めにペトラはそう告げた。確かにエドガーからも、そんなような話を聞いたな。けどだ。
「なあ。そもそも、どうしてセカンドだけ、そんなにたくさん能力があるんだよ」
俺は純粋な疑問を口にした。というのも、勇者の能力は、基本一つじゃないのか?
俺の能力は当然、死霊術。クラークは雷魔法。尊……は、水と地の二つの魔法を使えたが、それでも二つだ。そして魔法の属性という意味では、四つが最大であり限界だ。俺の隣にいる小さな魔法使い、ライラがその唯一の実例だ。
「セカンドだけ特別だなんて、あり得るのかよ?」
「あり得るな」
ペトラはあっさりと肯定した。
「だがそこには、当然からくりがある。元々は、奴の能力はたった一つだった」
「え。最初は、あいつも普通だったのか?」
「その通り。ある一つの能力が、奴に数多の力をもたらしたのだ」
一つの能力……?どういう意味だろう。俺は黙って、続きを待つ。
「それは、闇の魔力。セカンドは、七つある闇の魔法、全ての使い手だ」
闇の魔力……!あらゆる悪意を叶える力になるという、最悪の魔力。とても希少な属性で、俺の知る限り、仮面の危険人物マスカレードしかその使い手はいない。だが、セカンドもまた、その魔力を持っていた……?
「でも、待ってよ!」
突然ライラが、がばっと身を乗り出した。
「闇のまほーは、心に影響を与えるだけでしょ!それと能力と、何の関係があるの?」
あ、そうか。闇の魔法は、唯一心に作用することが可能な魔法だって聞いた事がある。以前俺はその魔法を喰らって、心の中の最悪な記憶と感情を、無理やり呼び起こされた。
(そう言う意味では……ペトラがやられた、さ、催淫魔法っていうのも、心に作用しているのか)
やっぱり、最悪な魔法だな。そんなのをセカンドが持っているなんて、考えただけでも気分が悪くなる。……っと、考えが逸れたな。今は、どうしてセカンドが多くの能力を持っているのかだ。
「そうだな。今、お前は心と言ったが。心だけだと捉えるから、うまく理解できないのだろう」
「……?どーゆう意味?」
「逆に問おう。心とは、なんだ?」
「へ?そ、それは……」
なんだ、哲学的な話になってきたな。俺ならなんて答えるかな?感情?それとも記憶とか脳か?心臓って意味じゃないだろうし。
「うーん……」
「まあ、答えは何でもいいんだが。要するに、闇の魔力の本質は、心だけへの影響に留まらないということだ」
ペトラはすっと指を伸ばし、ライラの顔へと向ける。ライラはびくっとしたが、ペトラは触れることはしなかった。呪いの影響があるからな。
「例えば、記憶」
ペトラの指が、ライラの額を指す。ライラの目が指先を凝視する。
「例えば、言葉。例えば、精神」
ペトラの指は、次第に下がってくる。口、のど元を通り過ぎ……
「そう言った目に見えないものは、あいまいで、一括りにされがちだ。だが、それらは一つの源流から出でるという点で共通している。その源こそが……」
ぴたり。ライラの胸の中心で、ペトラの指は止まった。
「魂だ」
魂……?ライラは胸を突かれたわけでもないのに、ひっと息をのんで、慌てて後ろに下がってしまった。
「つまり……闇の魔力が影響を与えるのは、魂だと?」
ペトラはうなずいた。
「魂というのが最も近いだろう。私たちはアニマ、あるいはカルマとも呼ぶが、そう言ったものに働きかけるのが、闇の魔力の本質だ。その中の一つに、お前たちが心と呼ぶものがある」
「魂に、働きかける魔法……そんなの、あり得るのかよ」
「何を言うか。では、お前の能力はどうなんだ、桜下?」
あ、そうか。ペトラの言う通り、俺の能力も似た性質を持つ。あり得ない話じゃないのか……
「魂に作用すれば、その者の精神を操ることや、命そのものに干渉することも可能になる。お前たちも見ただろう。結晶に閉じ込められた、あの憐れな少女たちを」
「っ!まさか、ロアたちか?」
「そうだ。何とか阻止しようとしたんだがな……力が及ばなかった。すまない」
「え、ちょっと待ってくれ。あんた、その場にいたのか?」
「いた。まさしく、奴が彼女らを閉じ込めようとしている矢先にな。そのまま戦いが始まったが、さっきも言った通り、私は敗れた。その後で、彼女たちに再び術を掛けたのだろう」
マジかよ……それなら、ロアやコルトがああなったのは、つい最近のことなんだな。
「……あいつらは、死んだわけじゃないんだよな?」
「ああ。命の鼓動を固定されただけだ。生きてはいないが、死んだわけではない。枷を外せば、再び鼓動は脈打つはずだ」
よかった……あの魔法の説明をしたのはサード、に扮していたセカンドだ。本当かどうか怪しかったけど、どうやらあの説明に関しては、嘘をついてはいなかったみたいだな。けど今考えれば、ロアたちの生存を信じるということは、すなわちセカンドの言葉を信じることになっていたんだ。そうやって奴は、まんまと自分を信用させていったってわけだな……くそ、狡猾な奴。
「それで……闇の魔法が、魂に関するということはわかったよ」
ずっと黙っていたクラークが、おもむろに口を開いた。彼もさすがに、会話に興味が出てきたようだ。
「でも、能力のからくりにどう結びつくのかが分からない。そのからくりとは、一体何なんだい?」
クラークが続きを促すと、ペトラはうなずいて話を続ける。
「闇の魔法の一つに、ロブゴブリンという魔法がある。それを使えば、相手の能力を奪い取り、自らのものにできるのだ」
「なっ……なんだ、それは!」
能力を奪うだと?言葉の意味自体は分かりやすいが、そんなことが可能なのか?
「ど、どういう意味なんだい?」
「より正確に言えば、その者の経験を奪うのだ。能力とはすなわち、その者が培ってきた経験と努力によって成り立つだろう。そこを根こそぎ盗むわけだ」
「そ……そんなものがあったら、セカンドの能力は、十や二十どころじゃない。あらゆる人の、あらゆる力を持つことになるじゃないか!」
確かに……そんなの、対策のしようがないぞ。だがペトラは、静かに首を横に振る。
「理論上はそれも可能だが、実際はそうではないだろう。第一に、お前は極めて優れた武器百本を手に入れたとして、それで強くなったと言えるのか?それらを全て扱うことができるわけでもないのに」
「え?それは、その通りだろうけど」
「そうだろう。セカンドの場合も同じだ。あらゆる力を手に入れたとしても、それを扱う術者が耐え切れん」
「そうかもしれないけど……けど、それならとある武人の力をそっくり手に入れていたとしたら、あいつは、その武人と同じように戦えるという事かい?」
「いいや、それも難しい。戦いの技術というものは、一つ二つの技能ではない。第二になるが、この魔法で奪えるのは、一対象につき一つの能力のみだ。奪われた方は死んでしまうからな」
ペトラはさらりと言ったが、俺たちの顔は凍り付いた。
「なら……セカンドの、多くの能力は……殺して、奪い取ったものだと?」
「そうだ。ロブゴブリンは、殺した相手の魂の一部を奪い取る。故に、魂の性質に由来する属性魔法でも、自在に使うことができるわけだ」
それなら奴は、今まで、何人もの人を……?
「怪物め……」
クラークはそう吐き捨てた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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初めにペトラはそう告げた。確かにエドガーからも、そんなような話を聞いたな。けどだ。
「なあ。そもそも、どうしてセカンドだけ、そんなにたくさん能力があるんだよ」
俺は純粋な疑問を口にした。というのも、勇者の能力は、基本一つじゃないのか?
俺の能力は当然、死霊術。クラークは雷魔法。尊……は、水と地の二つの魔法を使えたが、それでも二つだ。そして魔法の属性という意味では、四つが最大であり限界だ。俺の隣にいる小さな魔法使い、ライラがその唯一の実例だ。
「セカンドだけ特別だなんて、あり得るのかよ?」
「あり得るな」
ペトラはあっさりと肯定した。
「だがそこには、当然からくりがある。元々は、奴の能力はたった一つだった」
「え。最初は、あいつも普通だったのか?」
「その通り。ある一つの能力が、奴に数多の力をもたらしたのだ」
一つの能力……?どういう意味だろう。俺は黙って、続きを待つ。
「それは、闇の魔力。セカンドは、七つある闇の魔法、全ての使い手だ」
闇の魔力……!あらゆる悪意を叶える力になるという、最悪の魔力。とても希少な属性で、俺の知る限り、仮面の危険人物マスカレードしかその使い手はいない。だが、セカンドもまた、その魔力を持っていた……?
「でも、待ってよ!」
突然ライラが、がばっと身を乗り出した。
「闇のまほーは、心に影響を与えるだけでしょ!それと能力と、何の関係があるの?」
あ、そうか。闇の魔法は、唯一心に作用することが可能な魔法だって聞いた事がある。以前俺はその魔法を喰らって、心の中の最悪な記憶と感情を、無理やり呼び起こされた。
(そう言う意味では……ペトラがやられた、さ、催淫魔法っていうのも、心に作用しているのか)
やっぱり、最悪な魔法だな。そんなのをセカンドが持っているなんて、考えただけでも気分が悪くなる。……っと、考えが逸れたな。今は、どうしてセカンドが多くの能力を持っているのかだ。
「そうだな。今、お前は心と言ったが。心だけだと捉えるから、うまく理解できないのだろう」
「……?どーゆう意味?」
「逆に問おう。心とは、なんだ?」
「へ?そ、それは……」
なんだ、哲学的な話になってきたな。俺ならなんて答えるかな?感情?それとも記憶とか脳か?心臓って意味じゃないだろうし。
「うーん……」
「まあ、答えは何でもいいんだが。要するに、闇の魔力の本質は、心だけへの影響に留まらないということだ」
ペトラはすっと指を伸ばし、ライラの顔へと向ける。ライラはびくっとしたが、ペトラは触れることはしなかった。呪いの影響があるからな。
「例えば、記憶」
ペトラの指が、ライラの額を指す。ライラの目が指先を凝視する。
「例えば、言葉。例えば、精神」
ペトラの指は、次第に下がってくる。口、のど元を通り過ぎ……
「そう言った目に見えないものは、あいまいで、一括りにされがちだ。だが、それらは一つの源流から出でるという点で共通している。その源こそが……」
ぴたり。ライラの胸の中心で、ペトラの指は止まった。
「魂だ」
魂……?ライラは胸を突かれたわけでもないのに、ひっと息をのんで、慌てて後ろに下がってしまった。
「つまり……闇の魔力が影響を与えるのは、魂だと?」
ペトラはうなずいた。
「魂というのが最も近いだろう。私たちはアニマ、あるいはカルマとも呼ぶが、そう言ったものに働きかけるのが、闇の魔力の本質だ。その中の一つに、お前たちが心と呼ぶものがある」
「魂に、働きかける魔法……そんなの、あり得るのかよ」
「何を言うか。では、お前の能力はどうなんだ、桜下?」
あ、そうか。ペトラの言う通り、俺の能力も似た性質を持つ。あり得ない話じゃないのか……
「魂に作用すれば、その者の精神を操ることや、命そのものに干渉することも可能になる。お前たちも見ただろう。結晶に閉じ込められた、あの憐れな少女たちを」
「っ!まさか、ロアたちか?」
「そうだ。何とか阻止しようとしたんだがな……力が及ばなかった。すまない」
「え、ちょっと待ってくれ。あんた、その場にいたのか?」
「いた。まさしく、奴が彼女らを閉じ込めようとしている矢先にな。そのまま戦いが始まったが、さっきも言った通り、私は敗れた。その後で、彼女たちに再び術を掛けたのだろう」
マジかよ……それなら、ロアやコルトがああなったのは、つい最近のことなんだな。
「……あいつらは、死んだわけじゃないんだよな?」
「ああ。命の鼓動を固定されただけだ。生きてはいないが、死んだわけではない。枷を外せば、再び鼓動は脈打つはずだ」
よかった……あの魔法の説明をしたのはサード、に扮していたセカンドだ。本当かどうか怪しかったけど、どうやらあの説明に関しては、嘘をついてはいなかったみたいだな。けど今考えれば、ロアたちの生存を信じるということは、すなわちセカンドの言葉を信じることになっていたんだ。そうやって奴は、まんまと自分を信用させていったってわけだな……くそ、狡猾な奴。
「それで……闇の魔法が、魂に関するということはわかったよ」
ずっと黙っていたクラークが、おもむろに口を開いた。彼もさすがに、会話に興味が出てきたようだ。
「でも、能力のからくりにどう結びつくのかが分からない。そのからくりとは、一体何なんだい?」
クラークが続きを促すと、ペトラはうなずいて話を続ける。
「闇の魔法の一つに、ロブゴブリンという魔法がある。それを使えば、相手の能力を奪い取り、自らのものにできるのだ」
「なっ……なんだ、それは!」
能力を奪うだと?言葉の意味自体は分かりやすいが、そんなことが可能なのか?
「ど、どういう意味なんだい?」
「より正確に言えば、その者の経験を奪うのだ。能力とはすなわち、その者が培ってきた経験と努力によって成り立つだろう。そこを根こそぎ盗むわけだ」
「そ……そんなものがあったら、セカンドの能力は、十や二十どころじゃない。あらゆる人の、あらゆる力を持つことになるじゃないか!」
確かに……そんなの、対策のしようがないぞ。だがペトラは、静かに首を横に振る。
「理論上はそれも可能だが、実際はそうではないだろう。第一に、お前は極めて優れた武器百本を手に入れたとして、それで強くなったと言えるのか?それらを全て扱うことができるわけでもないのに」
「え?それは、その通りだろうけど」
「そうだろう。セカンドの場合も同じだ。あらゆる力を手に入れたとしても、それを扱う術者が耐え切れん」
「そうかもしれないけど……けど、それならとある武人の力をそっくり手に入れていたとしたら、あいつは、その武人と同じように戦えるという事かい?」
「いいや、それも難しい。戦いの技術というものは、一つ二つの技能ではない。第二になるが、この魔法で奪えるのは、一対象につき一つの能力のみだ。奪われた方は死んでしまうからな」
ペトラはさらりと言ったが、俺たちの顔は凍り付いた。
「なら……セカンドの、多くの能力は……殺して、奪い取ったものだと?」
「そうだ。ロブゴブリンは、殺した相手の魂の一部を奪い取る。故に、魂の性質に由来する属性魔法でも、自在に使うことができるわけだ」
それなら奴は、今まで、何人もの人を……?
「怪物め……」
クラークはそう吐き捨てた。
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