上 下
818 / 860
17章 再開の約束

25-2

しおりを挟む
25-2

「セカンドの能力は、多岐にわたっている」

初めにペトラはそう告げた。確かにエドガーからも、そんなような話を聞いたな。けどだ。

「なあ。そもそも、どうしてセカンドだけ、そんなにたくさん能力があるんだよ」

俺は純粋な疑問を口にした。というのも、勇者の能力は、基本一つじゃないのか?
俺の能力は当然、死霊術ネクロマンス。クラークは雷魔法。尊……は、水と地の二つの魔法を使えたが、それでも二つだ。そして魔法の属性という意味では、四つが最大であり限界だ。俺の隣にいる小さな魔法使い、ライラがその唯一の実例だ。

「セカンドだけ特別だなんて、あり得るのかよ?」

「あり得るな」

ペトラはあっさりと肯定した。

「だがそこには、当然からくりがある。元々は、奴の能力はたった一つだった」

「え。最初は、あいつも普通だったのか?」

「その通り。ある一つの能力が、奴に数多の力をもたらしたのだ」

一つの能力……?どういう意味だろう。俺は黙って、続きを待つ。

「それは、闇の魔力。セカンドは、七つある闇の魔法、全ての使い手だ」

闇の魔力……!あらゆる悪意を叶える力になるという、最悪の魔力。とても希少な属性で、俺の知る限り、仮面の危険人物マスカレードしかその使い手はいない。だが、セカンドもまた、その魔力を持っていた……?

「でも、待ってよ!」

突然ライラが、がばっと身を乗り出した。

「闇のまほーは、心に影響を与えるだけでしょ!それと能力と、何の関係があるの?」

あ、そうか。闇の魔法は、唯一心に作用することが可能な魔法だって聞いた事がある。以前俺はその魔法を喰らって、心の中の最悪な記憶と感情を、無理やり呼び起こされた。

(そう言う意味では……ペトラがやられた、さ、催淫魔法っていうのも、心に作用しているのか)

やっぱり、最悪な魔法だな。そんなのをセカンドが持っているなんて、考えただけでも気分が悪くなる。……っと、考えが逸れたな。今は、どうしてセカンドが多くの能力を持っているのかだ。

「そうだな。今、お前は心と言ったが。心だけだと捉えるから、うまく理解できないのだろう」

「……?どーゆう意味?」

「逆に問おう。心とは、なんだ?」

「へ?そ、それは……」

なんだ、哲学的な話になってきたな。俺ならなんて答えるかな?感情?それとも記憶とか脳か?心臓って意味じゃないだろうし。

「うーん……」

「まあ、答えは何でもいいんだが。要するに、闇の魔力の本質は、心だけへの影響に留まらないということだ」

ペトラはすっと指を伸ばし、ライラの顔へと向ける。ライラはびくっとしたが、ペトラは触れることはしなかった。呪いの影響があるからな。

「例えば、記憶」

ペトラの指が、ライラの額を指す。ライラの目が指先を凝視する。

「例えば、言葉。例えば、精神」

ペトラの指は、次第に下がってくる。口、のど元を通り過ぎ……

「そう言った目に見えないものは、あいまいで、一括りにされがちだ。だが、それらは一つの源流から出でるという点で共通している。その源こそが……」

ぴたり。ライラの胸の中心で、ペトラの指は止まった。

「魂だ」

魂……?ライラは胸を突かれたわけでもないのに、ひっと息をのんで、慌てて後ろに下がってしまった。

「つまり……闇の魔力が影響を与えるのは、魂だと?」

ペトラはうなずいた。

「魂というのが最も近いだろう。私たちはアニマ、あるいはカルマとも呼ぶが、そう言ったものに働きかけるのが、闇の魔力の本質だ。その中の一つに、お前たちが心と呼ぶものがある」

「魂に、働きかける魔法……そんなの、あり得るのかよ」

「何を言うか。では、お前の能力はどうなんだ、桜下?」

あ、そうか。ペトラの言う通り、俺の能力も似た性質を持つ。あり得ない話じゃないのか……

「魂に作用すれば、その者の精神を操ることや、命そのものに干渉することも可能になる。お前たちも見ただろう。結晶に閉じ込められた、あの憐れな少女たちを」

「っ!まさか、ロアたちか?」

「そうだ。何とか阻止しようとしたんだがな……力が及ばなかった。すまない」

「え、ちょっと待ってくれ。あんた、その場にいたのか?」

「いた。まさしく、奴が彼女らを閉じ込めようとしている矢先にな。そのまま戦いが始まったが、さっきも言った通り、私は敗れた。その後で、彼女たちに再び術を掛けたのだろう」

マジかよ……それなら、ロアやコルトがああなったのは、つい最近のことなんだな。

「……あいつらは、死んだわけじゃないんだよな?」

「ああ。命の鼓動を固定されただけだ。生きてはいないが、死んだわけではない。枷を外せば、再び鼓動は脈打つはずだ」

よかった……あの魔法の説明をしたのはサード、に扮していたセカンドだ。本当かどうか怪しかったけど、どうやらあの説明に関しては、嘘をついてはいなかったみたいだな。けど今考えれば、ロアたちの生存を信じるということは、すなわちセカンドの言葉を信じることになっていたんだ。そうやって奴は、まんまと自分を信用させていったってわけだな……くそ、狡猾な奴。

「それで……闇の魔法が、魂に関するということはわかったよ」

ずっと黙っていたクラークが、おもむろに口を開いた。彼もさすがに、会話に興味が出てきたようだ。

「でも、能力のからくりにどう結びつくのかが分からない。そのからくりとは、一体何なんだい?」

クラークが続きを促すと、ペトラはうなずいて話を続ける。

「闇の魔法の一つに、ロブゴブリンという魔法がある。それを使えば、相手の能力を奪い取り、自らのものにできるのだ」

「なっ……なんだ、それは!」

能力を奪うだと?言葉の意味自体は分かりやすいが、そんなことが可能なのか?

「ど、どういう意味なんだい?」

「より正確に言えば、その者の経験を奪うのだ。能力とはすなわち、その者が培ってきた経験と努力によって成り立つだろう。そこを根こそぎ盗むわけだ」

「そ……そんなものがあったら、セカンドの能力は、十や二十どころじゃない。あらゆる人の、あらゆる力を持つことになるじゃないか!」

確かに……そんなの、対策のしようがないぞ。だがペトラは、静かに首を横に振る。

「理論上はそれも可能だが、実際はそうではないだろう。第一に、お前は極めて優れた武器百本を手に入れたとして、それで強くなったと言えるのか?それらを全て扱うことができるわけでもないのに」

「え?それは、その通りだろうけど」

「そうだろう。セカンドの場合も同じだ。あらゆる力を手に入れたとしても、それを扱う術者が耐え切れん」

「そうかもしれないけど……けど、それならとある武人の力をそっくり手に入れていたとしたら、あいつは、その武人と同じように戦えるという事かい?」

「いいや、それも難しい。戦いの技術というものは、一つ二つの技能ではない。第二になるが、この魔法で奪えるのは、一対象につき一つの能力のみだ。奪われた方は死んでしまうからな」

ペトラはさらりと言ったが、俺たちの顔は凍り付いた。

「なら……セカンドの、多くの能力は……殺して、奪い取ったものだと?」

「そうだ。ロブゴブリンは、殺した相手の魂の一部を奪い取る。故に、魂の性質に由来する属性魔法でも、自在に使うことができるわけだ」

それなら奴は、今まで、何人もの人を……?

「怪物め……」

クラークはそう吐き捨てた。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

息抜き庭キャンプ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,128pt お気に入り:8

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,385pt お気に入り:1

最後の時

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

あなたに私を捧げます〜生き神にされた私は死神と契約を結ぶ~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:633pt お気に入り:104

雪の王と雪の男

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:20

チェンジ

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

俺の妹になってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,114pt お気に入り:9

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:348

処理中です...