念願の異世界に召喚されましたが、無能判定されて元の世界に帰されそうです。~救ってくれたのはゲーミング柴犬でした~

白楠 月玻

文字の大きさ
9 / 11
一章 大神殿の仲間

一章三節 - 子連れヒロイン[1]

しおりを挟む
「こわいいぃぃぃ!! いたいぃぃぃぃ!!」

 ん? もしかして、俺の能力、赤ん坊の言葉もわかる系か? どう聞いても少女のものではなさそうな叫びに、俺は立ち上がった。

「なに?」

 少女はゆっくり歩み寄ってくる俺に警戒の視線を向けている。彼女の持っていた網はいつの間にか消えていた。あれもきっと魔法のたぐいだったのだろう。

「いや、赤ちゃんが……」

 俺は言葉をにごしつつ、少女の背中に負われた赤ん坊に手を伸ばした。

「大丈夫だぞー。痛くないぞー」

 もしかしたら、この子は足を犬にかまれたと勘違いしているのかもしれない。俺はパンパンの足をやさしく撫でた。張りがあって、ぷにぷにだ。風船みたいな足の裏は、俺の手のひらの半分くらいの大きさしかない。

「だあぁぁぁぁ!!」

 俺が足の裏をくすぐってやると、赤ん坊は意味をなさない声をあげる。しかし、先ほどより機嫌が良くなったことは察せた。

「君は今回の召喚者だよね?」

 体を前後左右にゆすって赤ん坊をあやしながら、少女が尋ねてきた。春の空のような水色の瞳には、まだ警戒の色がある。

「そうです」

 赤ん坊が少し落ち着いたこともあり、俺は少女から離れた。これで彼女の敵意が薄れればいいが。

「お名前は?」

色葉いろは和音わおんです」

「ふむ……」

 青い前髪の下で、吊り上がっていた眉が少し穏やかになるのが見えた。

「私は『あやめ』ね。こっちの赤ちゃんはまだ名前ないんだけど……」

 どうやら警戒を解いてもらえたようだ。

「よろしくお願いします」

 さらに友好度を高めるために、俺は笑顔を浮かべた。すると、あやめも「よろしくねー」と笑う。うん、悪くない。

「あの、あやめさん、さっきの柴犬は?」

 立って赤子をあやすあやめにならって、俺も立ったまま会話することにした。

「『シバイヌ』? あの害獣のこと?」

「害獣、なんですか?」

 とりあえず、この世界に柴犬はいないらしい。そして、あいつはここでは嫌われものの害獣と。

「そうだよー。調理場や食堂の食べ物を盗んだり、服を毛だらけにしたり、子どもを泣かせたり、大人をからかったり、夜道から突然出てきてびっくりさせたり、虹色に光って睡眠を妨害したり、超害獣だもんね」

「それ、いたずらみたいなもんでは?」

 害獣と言うから、人間を食い殺したり、危険な病気を媒介したりしているのかと思ったが……。

「超! 害獣! だもんね!!」

「あ、はい」

 しかし、彼女がそう言うなら、そういうことにしておこう。俺はあやめの勢いに押し負けてうなずいた。

「ほら、君の服だって毛まみれじゃん」

「それは確かに」

 犬飼いにとっては普通のことすぎるが、確かに俺のシャツにもズボンにも虹色の毛がついている。というか、あいつの抜け毛もゲーミング仕様なんだな。まばゆく光り輝いてはいないが、ゆっくり色が移り変わっている。

「あと、靴も穴開いてるし! どうしたの? 害獣にかまれたの?」

「あ、いえ。これはゴルメド=ソードに……」

「攻撃されたの? ダッサ。……じゃなくて、災難だったねぇ」

 あれ? 何か引っかかった気がするが、気にしない方がいいよな。

「というか、ローグは?」

 あやめは室内を見回しながら話題転換していく。

「今はいません」

「お着換えかな? あの子、召喚着嫌いだし」

 あの子? 十代後半くらいの少女が、老人のローグを「あの子」呼び? ちょくちょく気になる点があるが、指摘するほど見過ごせない違和感でもない。

 でも、引っかかるんだよなぁ。金糸でつる草模様が刺繍ししゅうされた洋風ワンピースに和風の帯、やけに目立つお花の髪飾りに赤ん坊という、ちぐはぐな格好もそうだし、そもそも赤ん坊を背負っていること自体が謎だ。実子? でも、失礼な言い方かもしれないが、彼女にはあまり母性が見られないんだよなぁ。あとそうだ。名前も妙だ。「あやめ」って完全に和風名だろう。このヨーロッパ風の異世界では浮いている。

「もしかして。あなたも召喚者、とか?」

 名前の件に関しては、それなら納得できるが……。

「君、めっちゃ話題転換してくるじゃん」

 こいつにだけは言われたくないが、俺は理性的に黙っておいた。

「うーん……。ある意味そうかもしれんけど、違うかな。私はずーっと遠いところから来たんだよ」

「???」

 この世界のどこかに日本的な場所があるということだろうか。これが漫画なら、俺の頭の上に疑問符が浮かんでいたことだろう。

「ごめん、難しいこと言ったね。そのうちわかるよ。謎の多い女の子って素敵でしょー?」

 あやめはにやっと笑った。確かに謎の多い女の子は魅力的だが、それを自分で言ってしまうのは違うだろう、というツッコミは飲み込んでおく。

「とりあえず、ローグが戻ってくる前にシャワー浴びてお着換えしたら?」

 ほらやっぱり、こいつの方が話題転換激しいだろう?

「ほらほらー」

 しかもかなり強引だ。俺は見かけによらない怪力で、あっという間に部屋の隅に押しやられてしまった。あやめに合わせて立っていたのがあだになったな。

「このドアの先、脱衣所とお風呂だから! お湯は今回だけはサービスしてあげるもんね」

「お湯サービスってなんですか?」

 俺は脱衣所に押し込まれながら尋ねたが答えはない。

「あとで脱衣所に何種類か服を用意しといてあげるからねー」

 明るい声とともに、俺の鼻先で扉が閉じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...