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一章 大神殿の仲間
一章四節 - 子連れヒロイン[2]
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疑問は増える一方だが、とりあえず言われた通りシャワーを浴びるか。
脱衣所は今までいた居室と変わらない白大理石製。こちらの床は石だが、大きなじゅうたんが敷かれていた。靴を置いておくらしき小さな棚と、脱いだ服を入れるらしき中くらいのかご。その横にはタオルが置かれている。二つあるドアのうち片方は浴槽もあるシャワー室、もう片方はトイレだった。水洗ではなく、下に肥溜めがあるぼっとん便所式なのが気になるが、臭いはない。便座は座るタイプの洋式だ。思っていたよりも元世界に近い。これなら初めて来た銭湯感覚で使えるだろう。俺はほっと息をついた。
シャワーの蛇口は一つだったが、ひねった瞬間からちょうどいい温度のお湯が出る。この点は元の世界よりも優れているだろう。ソープは石鹸が一つ。これで体も髪も洗えということか。髪の毛がキシキシしそうだが仕方ない。
俺は全身を洗い、シャワー室を出た。「シャワーを浴びて」と言われたときは、突然の提案すぎて戸惑ったが、今は非常にすっきり、さっぱり気分だ。
体をふいて脱衣所に戻ると、そこには下着と服が何着か置いてある。汚い字で「せんたくものわここえ」と書かれたかごにタオルを投げ込み、俺は衣装選定をはじめた。
下着は色や丈の長さが違う以外は、似たものばかり。この国にはゴムがないらしく、そのどれもがウエストをひもで絞めるタイプだった。とりあえず、一番肌触りの良いタンクトップとトランクスと似たサイズ感のパンツを身に着けたが、問題はここからだ。
あやめが用意してくれた服は、多種多様だった。ローブにスーツにシャツにズボンに和服に、なぜか女性もののドレスもある。
「うーん……」
魔法の世界で生活するのならば、やはりローブが王道だろうか。俺はまず、白いそれに手を伸ばした。ローブだから当たり前なのだが、ワンピース状――ようするに裾がスカートになっている。
「…………」
手に取ってみると、想像以上にひらひらだ。スカートを履くのには、どうしても若干の抵抗と恥じらいがあった。これは「ローブ」でこの世界では男女とも当たり前に着ているものだとしても、慣れない文化に馴染むためには相応の時間がかかる。
「でも、一応試すべきだよな?」
幸い、今この部屋にいるのは俺だけだ。誰にも見られていないなら恥ずかしくないはず……。俺はローブの裾に頭を突っ込んだ。頭を通して手を離すと、すとんと裾が落ちていく。すねをやさしくたたく布地の感触と、衣服を身にまとっているのかどうか疑わしくなる服と肌の隙間の多さ。
俺は今どんな風に見えているのだろうか。鏡があればよかったのだが、残念なことに見当たらない。隣室にいるであろうあやめに確認してもらおうか。
そう思って一歩踏み出した瞬間、足を涼しい風が包み込んだ。俺が動くたびにローブの裾から外気が入り込むのだ。すねが涼しいくらいなら許せたかもしれないが、それが太ももや股間、腹まで届くとなると――。大事なところが守られていない感がひしひしとする……。寝巻や部屋着としてならワンチャンあるかもしれないが、これで外を歩くなど恐ろしい。
これは、ナシだ。俺はローブを脱ぐことにした。丈が長いせいで難儀したが……。
和服も日本人なら身につけられるとかっこいいのだろうが、着方がわからないのでナシ。
燕尾服やタキシード、上着にきらびやかな刺繍が施された宮廷服もあるが、あまりガチガチフォーマルに決めるのは疲れそうだ。そもそも、正しい着こなしがわからないし。もちろん、ドレスや女性ものは論外。というか、あやめは俺がこういうのを好むと思ったのだろうか?
残った選択肢は、Tシャツなど着やすいもの。ただ、この世界のTシャツは形こそ同じだが、生地は天然素材っぽいし、柄もよく見るプリントTシャツではない。模様を織り込んだ布から作られていたり、植物や動物、魔法陣的な模様が刺繍されていたり。形は一緒でもデザインや肌触りは全く違う。
「エスニックって感じ」
大きなショッピングモールに一軒はある、インドや東南アジア系の洋服雑貨店で売られているシャツがこういうタイプだよな。忌憚ない言い方をすれば、俺の好みではない。
消去法的に俺はワイシャツと黒いスラックスを身に着けることにした。これなら着やすし、動きやすい。上着を羽織ればフォーマル感も出る。スーツは男を魅力的にするって昔SNSで見たしな。
ベルトを締め、新しい革靴を履き、俺は脱衣所を出た。
脱衣所は今までいた居室と変わらない白大理石製。こちらの床は石だが、大きなじゅうたんが敷かれていた。靴を置いておくらしき小さな棚と、脱いだ服を入れるらしき中くらいのかご。その横にはタオルが置かれている。二つあるドアのうち片方は浴槽もあるシャワー室、もう片方はトイレだった。水洗ではなく、下に肥溜めがあるぼっとん便所式なのが気になるが、臭いはない。便座は座るタイプの洋式だ。思っていたよりも元世界に近い。これなら初めて来た銭湯感覚で使えるだろう。俺はほっと息をついた。
シャワーの蛇口は一つだったが、ひねった瞬間からちょうどいい温度のお湯が出る。この点は元の世界よりも優れているだろう。ソープは石鹸が一つ。これで体も髪も洗えということか。髪の毛がキシキシしそうだが仕方ない。
俺は全身を洗い、シャワー室を出た。「シャワーを浴びて」と言われたときは、突然の提案すぎて戸惑ったが、今は非常にすっきり、さっぱり気分だ。
体をふいて脱衣所に戻ると、そこには下着と服が何着か置いてある。汚い字で「せんたくものわここえ」と書かれたかごにタオルを投げ込み、俺は衣装選定をはじめた。
下着は色や丈の長さが違う以外は、似たものばかり。この国にはゴムがないらしく、そのどれもがウエストをひもで絞めるタイプだった。とりあえず、一番肌触りの良いタンクトップとトランクスと似たサイズ感のパンツを身に着けたが、問題はここからだ。
あやめが用意してくれた服は、多種多様だった。ローブにスーツにシャツにズボンに和服に、なぜか女性もののドレスもある。
「うーん……」
魔法の世界で生活するのならば、やはりローブが王道だろうか。俺はまず、白いそれに手を伸ばした。ローブだから当たり前なのだが、ワンピース状――ようするに裾がスカートになっている。
「…………」
手に取ってみると、想像以上にひらひらだ。スカートを履くのには、どうしても若干の抵抗と恥じらいがあった。これは「ローブ」でこの世界では男女とも当たり前に着ているものだとしても、慣れない文化に馴染むためには相応の時間がかかる。
「でも、一応試すべきだよな?」
幸い、今この部屋にいるのは俺だけだ。誰にも見られていないなら恥ずかしくないはず……。俺はローブの裾に頭を突っ込んだ。頭を通して手を離すと、すとんと裾が落ちていく。すねをやさしくたたく布地の感触と、衣服を身にまとっているのかどうか疑わしくなる服と肌の隙間の多さ。
俺は今どんな風に見えているのだろうか。鏡があればよかったのだが、残念なことに見当たらない。隣室にいるであろうあやめに確認してもらおうか。
そう思って一歩踏み出した瞬間、足を涼しい風が包み込んだ。俺が動くたびにローブの裾から外気が入り込むのだ。すねが涼しいくらいなら許せたかもしれないが、それが太ももや股間、腹まで届くとなると――。大事なところが守られていない感がひしひしとする……。寝巻や部屋着としてならワンチャンあるかもしれないが、これで外を歩くなど恐ろしい。
これは、ナシだ。俺はローブを脱ぐことにした。丈が長いせいで難儀したが……。
和服も日本人なら身につけられるとかっこいいのだろうが、着方がわからないのでナシ。
燕尾服やタキシード、上着にきらびやかな刺繍が施された宮廷服もあるが、あまりガチガチフォーマルに決めるのは疲れそうだ。そもそも、正しい着こなしがわからないし。もちろん、ドレスや女性ものは論外。というか、あやめは俺がこういうのを好むと思ったのだろうか?
残った選択肢は、Tシャツなど着やすいもの。ただ、この世界のTシャツは形こそ同じだが、生地は天然素材っぽいし、柄もよく見るプリントTシャツではない。模様を織り込んだ布から作られていたり、植物や動物、魔法陣的な模様が刺繍されていたり。形は一緒でもデザインや肌触りは全く違う。
「エスニックって感じ」
大きなショッピングモールに一軒はある、インドや東南アジア系の洋服雑貨店で売られているシャツがこういうタイプだよな。忌憚ない言い方をすれば、俺の好みではない。
消去法的に俺はワイシャツと黒いスラックスを身に着けることにした。これなら着やすし、動きやすい。上着を羽織ればフォーマル感も出る。スーツは男を魅力的にするって昔SNSで見たしな。
ベルトを締め、新しい革靴を履き、俺は脱衣所を出た。
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