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二章 瞑目する蓮と仙術師
二章 [8/8]
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「かまいません。なんでしょうか?」
王紀はほほえんだ。
「わたしはご存じのとおり、占い師です。今まで桃源に起こる様々な吉兆や凶兆を事前に見てきました。もちろん、今回の戦のことも――。ただ、陛下のご覧になった夢のことは、わたしのあずかり知らぬことです。陛下自身も高度な仙術を修められておりますので、陛下の夢のお告げをただの夢と切り捨てることは致しません。しかし、わたしの予知に救世主は出ず、さらに、彼女の訪れは……、見えなかった」
彼の占いに出てこなかったということだ。
「その点だけはお伝えしておきたくて――」
「それは、悪いことなのですか? 良いことなのですか?」
「わかりません。彼女が正真正銘の神仙の類で、わたしの予知の能力が及ばない神秘の存在である可能性もあります。逆に、桃源にとってとるに足らないただの少女だから見えなかった可能性も。はたまた、わたしの占いを妨害したのか……。戦の行く末に夢中になるあまり、わたしが見逃してしまったのか……」
白伝は苦笑いを浮かべた。
「あなたは、見逃してしまったとは思っていないように見えますが……」
王紀が笑顔のまま首をかしげる。その仕草は、挑発しているようにも見えた。
「そうですね」
白伝は苦笑いを残したまま、首をめぐらせた。彼が向いたのは禁軍拠点の方向だ。
「彼女の気は、うまく隠していますが、なかなか大きいのです。わたしは自分の先読みの能力に絶大な自信を持っています。たとえ彼女が神や仙であったとしても、あの大きさの気の訪れに気付けなかったことは引っかかる」
白伝は水蓮の訪れを予知できなかった様々な可能性をあげたものの、最終的には水蓮が気付かせないように何かしらの妨害をしたせいだと言いたいようだった。
「なるほど」
「ですから、どうぞ、彼女からは目をそらさないよう――。陛下も言われていましたが、彼女は救世主であるかもしれないし、我々を破滅に導く者であるかもしれない」
「もとより、我々も彼女を信じ込んで自由にさせるつもりはありません」
王紀は穏やかに笑んでいるものの、その表情にはどこかしらすごみが感じられた。
「よろしくお願い致します。この先、桃源の情勢はさらに悪くなる。悪い気が満ち、悪しきものが付け入る隙がたくさんできるでしょう。ただし、真の救世主が生まれる余地もある。しかしこれは、まだ不確かな未来。道がたくさんありすぎて、見えるようで見えない。勘でしかありませんけどね。『占い師の勘』ですが」
『占い師の勘』と言われると、とたんに彼の言葉に信憑性が増した気がする。占い師が「そんな気がする」と言えば、それはすでに予知になるのではないだろうか。
「本来ならば、証拠と確証の得られない予知はお伝えしないことにしているのですが……」
白伝はそう肩をすくめている。
「わかりました。わたしたちは白伝様の悩みを聞いただけ。そういうことでよろしいですか?」
「そうですね。また、何かありましたらご相談させていただくかもしれません……」
王紀の言葉に白伝も合わせた。王紀は穏やかにうなずく。
「それでは、わたしはこれで――」
白伝も凛々しい顔でうなずき返して踵を返した。
「……大丈夫なの?」
彼を見送りながら、泉蝶は小さくつぶやいた。
「さぁ?」
王紀は淡い笑みを崩していないが、その目は鋭い。頭の中では、先ほど得たあいまいな情報が飛び交っているのだろう。
占い師は、禁軍将軍の間に暗い不安を残していった。あたりを吹き渡る熱を帯びた風が不気味で気持ち悪い。
先ほどまで何とも思わなかったことさえ、なにか悪い予兆に感じられた。
「とにかく、戻りましょう」
無言で考え込む王紀に言って、泉蝶は大きく足を踏み出した。体にまとわりつく風も、不穏な予感もすべて鋭く断ち切るように――。
王紀はほほえんだ。
「わたしはご存じのとおり、占い師です。今まで桃源に起こる様々な吉兆や凶兆を事前に見てきました。もちろん、今回の戦のことも――。ただ、陛下のご覧になった夢のことは、わたしのあずかり知らぬことです。陛下自身も高度な仙術を修められておりますので、陛下の夢のお告げをただの夢と切り捨てることは致しません。しかし、わたしの予知に救世主は出ず、さらに、彼女の訪れは……、見えなかった」
彼の占いに出てこなかったということだ。
「その点だけはお伝えしておきたくて――」
「それは、悪いことなのですか? 良いことなのですか?」
「わかりません。彼女が正真正銘の神仙の類で、わたしの予知の能力が及ばない神秘の存在である可能性もあります。逆に、桃源にとってとるに足らないただの少女だから見えなかった可能性も。はたまた、わたしの占いを妨害したのか……。戦の行く末に夢中になるあまり、わたしが見逃してしまったのか……」
白伝は苦笑いを浮かべた。
「あなたは、見逃してしまったとは思っていないように見えますが……」
王紀が笑顔のまま首をかしげる。その仕草は、挑発しているようにも見えた。
「そうですね」
白伝は苦笑いを残したまま、首をめぐらせた。彼が向いたのは禁軍拠点の方向だ。
「彼女の気は、うまく隠していますが、なかなか大きいのです。わたしは自分の先読みの能力に絶大な自信を持っています。たとえ彼女が神や仙であったとしても、あの大きさの気の訪れに気付けなかったことは引っかかる」
白伝は水蓮の訪れを予知できなかった様々な可能性をあげたものの、最終的には水蓮が気付かせないように何かしらの妨害をしたせいだと言いたいようだった。
「なるほど」
「ですから、どうぞ、彼女からは目をそらさないよう――。陛下も言われていましたが、彼女は救世主であるかもしれないし、我々を破滅に導く者であるかもしれない」
「もとより、我々も彼女を信じ込んで自由にさせるつもりはありません」
王紀は穏やかに笑んでいるものの、その表情にはどこかしらすごみが感じられた。
「よろしくお願い致します。この先、桃源の情勢はさらに悪くなる。悪い気が満ち、悪しきものが付け入る隙がたくさんできるでしょう。ただし、真の救世主が生まれる余地もある。しかしこれは、まだ不確かな未来。道がたくさんありすぎて、見えるようで見えない。勘でしかありませんけどね。『占い師の勘』ですが」
『占い師の勘』と言われると、とたんに彼の言葉に信憑性が増した気がする。占い師が「そんな気がする」と言えば、それはすでに予知になるのではないだろうか。
「本来ならば、証拠と確証の得られない予知はお伝えしないことにしているのですが……」
白伝はそう肩をすくめている。
「わかりました。わたしたちは白伝様の悩みを聞いただけ。そういうことでよろしいですか?」
「そうですね。また、何かありましたらご相談させていただくかもしれません……」
王紀の言葉に白伝も合わせた。王紀は穏やかにうなずく。
「それでは、わたしはこれで――」
白伝も凛々しい顔でうなずき返して踵を返した。
「……大丈夫なの?」
彼を見送りながら、泉蝶は小さくつぶやいた。
「さぁ?」
王紀は淡い笑みを崩していないが、その目は鋭い。頭の中では、先ほど得たあいまいな情報が飛び交っているのだろう。
占い師は、禁軍将軍の間に暗い不安を残していった。あたりを吹き渡る熱を帯びた風が不気味で気持ち悪い。
先ほどまで何とも思わなかったことさえ、なにか悪い予兆に感じられた。
「とにかく、戻りましょう」
無言で考え込む王紀に言って、泉蝶は大きく足を踏み出した。体にまとわりつく風も、不穏な予感もすべて鋭く断ち切るように――。
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