21 / 103
二章 瞑目する蓮と仙術師
二章 [8/8]
しおりを挟む
「かまいません。なんでしょうか?」
王紀はほほえんだ。
「わたしはご存じのとおり、占い師です。今まで桃源に起こる様々な吉兆や凶兆を事前に見てきました。もちろん、今回の戦のことも――。ただ、陛下のご覧になった夢のことは、わたしのあずかり知らぬことです。陛下自身も高度な仙術を修められておりますので、陛下の夢のお告げをただの夢と切り捨てることは致しません。しかし、わたしの予知に救世主は出ず、さらに、彼女の訪れは……、見えなかった」
彼の占いに出てこなかったということだ。
「その点だけはお伝えしておきたくて――」
「それは、悪いことなのですか? 良いことなのですか?」
「わかりません。彼女が正真正銘の神仙の類で、わたしの予知の能力が及ばない神秘の存在である可能性もあります。逆に、桃源にとってとるに足らないただの少女だから見えなかった可能性も。はたまた、わたしの占いを妨害したのか……。戦の行く末に夢中になるあまり、わたしが見逃してしまったのか……」
白伝は苦笑いを浮かべた。
「あなたは、見逃してしまったとは思っていないように見えますが……」
王紀が笑顔のまま首をかしげる。その仕草は、挑発しているようにも見えた。
「そうですね」
白伝は苦笑いを残したまま、首をめぐらせた。彼が向いたのは禁軍拠点の方向だ。
「彼女の気は、うまく隠していますが、なかなか大きいのです。わたしは自分の先読みの能力に絶大な自信を持っています。たとえ彼女が神や仙であったとしても、あの大きさの気の訪れに気付けなかったことは引っかかる」
白伝は水蓮の訪れを予知できなかった様々な可能性をあげたものの、最終的には水蓮が気付かせないように何かしらの妨害をしたせいだと言いたいようだった。
「なるほど」
「ですから、どうぞ、彼女からは目をそらさないよう――。陛下も言われていましたが、彼女は救世主であるかもしれないし、我々を破滅に導く者であるかもしれない」
「もとより、我々も彼女を信じ込んで自由にさせるつもりはありません」
王紀は穏やかに笑んでいるものの、その表情にはどこかしらすごみが感じられた。
「よろしくお願い致します。この先、桃源の情勢はさらに悪くなる。悪い気が満ち、悪しきものが付け入る隙がたくさんできるでしょう。ただし、真の救世主が生まれる余地もある。しかしこれは、まだ不確かな未来。道がたくさんありすぎて、見えるようで見えない。勘でしかありませんけどね。『占い師の勘』ですが」
『占い師の勘』と言われると、とたんに彼の言葉に信憑性が増した気がする。占い師が「そんな気がする」と言えば、それはすでに予知になるのではないだろうか。
「本来ならば、証拠と確証の得られない予知はお伝えしないことにしているのですが……」
白伝はそう肩をすくめている。
「わかりました。わたしたちは白伝様の悩みを聞いただけ。そういうことでよろしいですか?」
「そうですね。また、何かありましたらご相談させていただくかもしれません……」
王紀の言葉に白伝も合わせた。王紀は穏やかにうなずく。
「それでは、わたしはこれで――」
白伝も凛々しい顔でうなずき返して踵を返した。
「……大丈夫なの?」
彼を見送りながら、泉蝶は小さくつぶやいた。
「さぁ?」
王紀は淡い笑みを崩していないが、その目は鋭い。頭の中では、先ほど得たあいまいな情報が飛び交っているのだろう。
占い師は、禁軍将軍の間に暗い不安を残していった。あたりを吹き渡る熱を帯びた風が不気味で気持ち悪い。
先ほどまで何とも思わなかったことさえ、なにか悪い予兆に感じられた。
「とにかく、戻りましょう」
無言で考え込む王紀に言って、泉蝶は大きく足を踏み出した。体にまとわりつく風も、不穏な予感もすべて鋭く断ち切るように――。
王紀はほほえんだ。
「わたしはご存じのとおり、占い師です。今まで桃源に起こる様々な吉兆や凶兆を事前に見てきました。もちろん、今回の戦のことも――。ただ、陛下のご覧になった夢のことは、わたしのあずかり知らぬことです。陛下自身も高度な仙術を修められておりますので、陛下の夢のお告げをただの夢と切り捨てることは致しません。しかし、わたしの予知に救世主は出ず、さらに、彼女の訪れは……、見えなかった」
彼の占いに出てこなかったということだ。
「その点だけはお伝えしておきたくて――」
「それは、悪いことなのですか? 良いことなのですか?」
「わかりません。彼女が正真正銘の神仙の類で、わたしの予知の能力が及ばない神秘の存在である可能性もあります。逆に、桃源にとってとるに足らないただの少女だから見えなかった可能性も。はたまた、わたしの占いを妨害したのか……。戦の行く末に夢中になるあまり、わたしが見逃してしまったのか……」
白伝は苦笑いを浮かべた。
「あなたは、見逃してしまったとは思っていないように見えますが……」
王紀が笑顔のまま首をかしげる。その仕草は、挑発しているようにも見えた。
「そうですね」
白伝は苦笑いを残したまま、首をめぐらせた。彼が向いたのは禁軍拠点の方向だ。
「彼女の気は、うまく隠していますが、なかなか大きいのです。わたしは自分の先読みの能力に絶大な自信を持っています。たとえ彼女が神や仙であったとしても、あの大きさの気の訪れに気付けなかったことは引っかかる」
白伝は水蓮の訪れを予知できなかった様々な可能性をあげたものの、最終的には水蓮が気付かせないように何かしらの妨害をしたせいだと言いたいようだった。
「なるほど」
「ですから、どうぞ、彼女からは目をそらさないよう――。陛下も言われていましたが、彼女は救世主であるかもしれないし、我々を破滅に導く者であるかもしれない」
「もとより、我々も彼女を信じ込んで自由にさせるつもりはありません」
王紀は穏やかに笑んでいるものの、その表情にはどこかしらすごみが感じられた。
「よろしくお願い致します。この先、桃源の情勢はさらに悪くなる。悪い気が満ち、悪しきものが付け入る隙がたくさんできるでしょう。ただし、真の救世主が生まれる余地もある。しかしこれは、まだ不確かな未来。道がたくさんありすぎて、見えるようで見えない。勘でしかありませんけどね。『占い師の勘』ですが」
『占い師の勘』と言われると、とたんに彼の言葉に信憑性が増した気がする。占い師が「そんな気がする」と言えば、それはすでに予知になるのではないだろうか。
「本来ならば、証拠と確証の得られない予知はお伝えしないことにしているのですが……」
白伝はそう肩をすくめている。
「わかりました。わたしたちは白伝様の悩みを聞いただけ。そういうことでよろしいですか?」
「そうですね。また、何かありましたらご相談させていただくかもしれません……」
王紀の言葉に白伝も合わせた。王紀は穏やかにうなずく。
「それでは、わたしはこれで――」
白伝も凛々しい顔でうなずき返して踵を返した。
「……大丈夫なの?」
彼を見送りながら、泉蝶は小さくつぶやいた。
「さぁ?」
王紀は淡い笑みを崩していないが、その目は鋭い。頭の中では、先ほど得たあいまいな情報が飛び交っているのだろう。
占い師は、禁軍将軍の間に暗い不安を残していった。あたりを吹き渡る熱を帯びた風が不気味で気持ち悪い。
先ほどまで何とも思わなかったことさえ、なにか悪い予兆に感じられた。
「とにかく、戻りましょう」
無言で考え込む王紀に言って、泉蝶は大きく足を踏み出した。体にまとわりつく風も、不穏な予感もすべて鋭く断ち切るように――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる