30 / 103
三章 微笑む蓮と黒い槍
三章 [9/10]
しおりを挟む
「一番安心できるのは、飛露んとこか?」
赤覇は赤茶の髪をかき上げながら、飛露を見た。
「そうですね」と王紀も賛同する。
泉蝶も、監視という点では一番の適任だろうと思い浅くうなずいた。
できれば、自分の部隊で面倒を見たいが、泉蝶の率いる聳孤軍は護衛部隊だ。後宮や帝の私的空間の警護が主で、最も帝に近づきやすい。もし水蓮が桃源を害そうとしているのなら、泉蝶の部隊ほど都合の良いところはないだろう。
逆に飛露の角端軍は長距離攻撃専門の弓部隊。城壁の上や、宮殿を見下ろせる山岳地帯に配置されることが多く、帝と接触する機会は最も少ないと言える。
「わたしは奴が少しでも帝に危害を加えるようなことをしたら、射殺すぞ」
飛露はそう言って、背負った弓の弦を軽くはじいた。
「だからいいんですよ」
笑顔で残酷なことを言う王紀。
「そんな~」と異を唱えるのは志閃のみ。それも完全に無視されている。
「それでは、水蓮さんが配属されるのは、飛露の弓部隊角端軍でよろしいですね」
志閃だけは「よろしくない~」と文句を言っているが、それ以外の将軍はうなずいた。
「それと泉蝶、一つお願いがあるのですが、いいですか?」
「なにかしら?」
「水蓮さんはまだ完全に傷が治りきっていませんが、日常生活ができる状態までは回復しているそうです。彼女を、女性用兵舎のできれば泉蝶の目が届く部屋に移して、日常の監視をお願いしてもよろしいですか? 四六時中一緒にいる必要はありませんし、できる限りでいいですから」
「それは、構わないけど……。あたしは水蓮が妙な術を使っていても気づけないわよ」
「構いません。本当に何か危険な気の動きがあれば、志閃が我に返って教えてくれるでしょう」
王紀は圧力的な笑みを浮かべて志閃を見た。
「その、今の俺が正気じゃないみたいな言い方やめてくんね?」
「申し訳ありません」
口では謝りつつも、申し訳ないと思っている様子は皆無だ。
「さて、それでは引き続き会議を行いましょうか。最近の軍の様子はどうですか? 僕の隊は、今のところ異常なしです」
「うちもよ。みんな普通に見えるわ」
「オレの歩兵部隊は、二十人前線に送るよう言われて選抜してるとこだな。明日には名簿を作って見せる」
「わかりました。飛露は?」
「最近の若者は、怠け癖があって困る。あと、矢を無駄遣いするのが――」
飛露はそう言うが、彼が厳しすぎるのだ。
「いつもの事ですね。異常なしでよろしいですか?」
「……うむ」
「では、志閃のところは――?」
「昨夜、俺んところにも人が来た。回復系、補助系の人を前線に回すよう指示されて、今朝十四人前線に送った。メンツは、会議前に王紀に渡した通り。代わりに別軍とか、研究機関から人を借りるように手をまわしてるけど、帝の近くには配置させられないし、少しその辺は弱くなると思って。優秀な後衛仙術師はもうかなりの人数前線に回されちゃってるから、借りれた人の能力もそこそこだし。
水蓮ちゃん欲しかった。昨日、水蓮ちゃんに治療してもらったけど、鍛えれば秋夕ちゃん並みの回復術が使えると――」
「往生際が悪いですよ」
王紀が冷たく言った。
「では、次――」
王紀が次々に議題を上げていき、それを五人の将軍で話し合う。
志閃は終始はぶてていたが、そのおかげかいつもより話し合うことは多かったにもかかわらず、速やかに案件を片付けられた。
赤覇は赤茶の髪をかき上げながら、飛露を見た。
「そうですね」と王紀も賛同する。
泉蝶も、監視という点では一番の適任だろうと思い浅くうなずいた。
できれば、自分の部隊で面倒を見たいが、泉蝶の率いる聳孤軍は護衛部隊だ。後宮や帝の私的空間の警護が主で、最も帝に近づきやすい。もし水蓮が桃源を害そうとしているのなら、泉蝶の部隊ほど都合の良いところはないだろう。
逆に飛露の角端軍は長距離攻撃専門の弓部隊。城壁の上や、宮殿を見下ろせる山岳地帯に配置されることが多く、帝と接触する機会は最も少ないと言える。
「わたしは奴が少しでも帝に危害を加えるようなことをしたら、射殺すぞ」
飛露はそう言って、背負った弓の弦を軽くはじいた。
「だからいいんですよ」
笑顔で残酷なことを言う王紀。
「そんな~」と異を唱えるのは志閃のみ。それも完全に無視されている。
「それでは、水蓮さんが配属されるのは、飛露の弓部隊角端軍でよろしいですね」
志閃だけは「よろしくない~」と文句を言っているが、それ以外の将軍はうなずいた。
「それと泉蝶、一つお願いがあるのですが、いいですか?」
「なにかしら?」
「水蓮さんはまだ完全に傷が治りきっていませんが、日常生活ができる状態までは回復しているそうです。彼女を、女性用兵舎のできれば泉蝶の目が届く部屋に移して、日常の監視をお願いしてもよろしいですか? 四六時中一緒にいる必要はありませんし、できる限りでいいですから」
「それは、構わないけど……。あたしは水蓮が妙な術を使っていても気づけないわよ」
「構いません。本当に何か危険な気の動きがあれば、志閃が我に返って教えてくれるでしょう」
王紀は圧力的な笑みを浮かべて志閃を見た。
「その、今の俺が正気じゃないみたいな言い方やめてくんね?」
「申し訳ありません」
口では謝りつつも、申し訳ないと思っている様子は皆無だ。
「さて、それでは引き続き会議を行いましょうか。最近の軍の様子はどうですか? 僕の隊は、今のところ異常なしです」
「うちもよ。みんな普通に見えるわ」
「オレの歩兵部隊は、二十人前線に送るよう言われて選抜してるとこだな。明日には名簿を作って見せる」
「わかりました。飛露は?」
「最近の若者は、怠け癖があって困る。あと、矢を無駄遣いするのが――」
飛露はそう言うが、彼が厳しすぎるのだ。
「いつもの事ですね。異常なしでよろしいですか?」
「……うむ」
「では、志閃のところは――?」
「昨夜、俺んところにも人が来た。回復系、補助系の人を前線に回すよう指示されて、今朝十四人前線に送った。メンツは、会議前に王紀に渡した通り。代わりに別軍とか、研究機関から人を借りるように手をまわしてるけど、帝の近くには配置させられないし、少しその辺は弱くなると思って。優秀な後衛仙術師はもうかなりの人数前線に回されちゃってるから、借りれた人の能力もそこそこだし。
水蓮ちゃん欲しかった。昨日、水蓮ちゃんに治療してもらったけど、鍛えれば秋夕ちゃん並みの回復術が使えると――」
「往生際が悪いですよ」
王紀が冷たく言った。
「では、次――」
王紀が次々に議題を上げていき、それを五人の将軍で話し合う。
志閃は終始はぶてていたが、そのおかげかいつもより話し合うことは多かったにもかかわらず、速やかに案件を片付けられた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる