五百禁軍の姫【中華風異能バトルファンタジー】

白楠 月玻

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三章 微笑む蓮と黒い槍

三章 [9/10]

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「一番安心できるのは、飛露とびつゆんとこか?」

 赤覇せきはは赤茶の髪をかき上げながら、飛露を見た。

「そうですね」と王紀おうきも賛同する。

 泉蝶せんちょうも、監視という点では一番の適任だろうと思い浅くうなずいた。
 できれば、自分の部隊で面倒を見たいが、泉蝶の率いる聳孤しょうこ軍は護衛部隊だ。後宮や帝の私的空間の警護が主で、最も帝に近づきやすい。もし水蓮が桃源を害そうとしているのなら、泉蝶の部隊ほど都合の良いところはないだろう。

 逆に飛露の角端かくたん軍は長距離攻撃専門の弓部隊。城壁の上や、宮殿を見下ろせる山岳地帯に配置されることが多く、帝と接触する機会は最も少ないと言える。

「わたしは奴が少しでも帝に危害を加えるようなことをしたら、射殺いころすぞ」

 飛露はそう言って、背負った弓の弦を軽くはじいた。

「だからいいんですよ」

 笑顔で残酷なことを言う王紀。

「そんな~」と異を唱えるのは志閃のみ。それも完全に無視されている。

「それでは、水蓮さんが配属されるのは、飛露の弓部隊角端かくたん軍でよろしいですね」

 志閃だけは「よろしくない~」と文句を言っているが、それ以外の将軍はうなずいた。

「それと泉蝶、一つお願いがあるのですが、いいですか?」

「なにかしら?」

「水蓮さんはまだ完全に傷が治りきっていませんが、日常生活ができる状態までは回復しているそうです。彼女を、女性用兵舎のできれば泉蝶の目が届く部屋に移して、日常の監視をお願いしてもよろしいですか? 四六時中一緒にいる必要はありませんし、できる限りでいいですから」

「それは、構わないけど……。あたしは水蓮が妙な術を使っていても気づけないわよ」

「構いません。本当に何か危険な気の動きがあれば、志閃が我に返って教えてくれるでしょう」

 王紀は圧力的な笑みを浮かべて志閃を見た。

「その、今の俺が正気じゃないみたいな言い方やめてくんね?」

「申し訳ありません」

 口では謝りつつも、申し訳ないと思っている様子は皆無だ。

「さて、それでは引き続き会議を行いましょうか。最近の軍の様子はどうですか? 僕の隊は、今のところ異常なしです」

「うちもよ。みんな普通に見えるわ」

「オレの歩兵部隊は、二十人前線に送るよう言われて選抜してるとこだな。明日には名簿を作って見せる」

「わかりました。飛露は?」

「最近の若者は、怠け癖があって困る。あと、矢を無駄遣いするのが――」

 飛露はそう言うが、彼が厳しすぎるのだ。

「いつもの事ですね。異常なしでよろしいですか?」

「……うむ」

「では、志閃のところは――?」

「昨夜、俺んところにも人が来た。回復系、補助系の人を前線に回すよう指示されて、今朝十四人前線に送った。メンツは、会議前に王紀に渡した通り。代わりに別軍とか、研究機関から人を借りるように手をまわしてるけど、帝の近くには配置させられないし、少しその辺は弱くなると思って。優秀な後衛仙術師はもうかなりの人数前線に回されちゃってるから、借りれた人の能力もそこそこだし。
 水蓮ちゃん欲しかった。昨日、水蓮ちゃんに治療してもらったけど、鍛えれば秋夕しゅうゆうちゃん並みの回復術が使えると――」

「往生際が悪いですよ」

 王紀が冷たく言った。

「では、次――」

 王紀が次々に議題を上げていき、それを五人の将軍で話し合う。
 志閃は終始はぶてていたが、そのおかげかいつもより話し合うことは多かったにもかかわらず、速やかに案件を片付けられた。
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