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四章 探す蓮と大剣士
四章 [2/16]
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禁軍拠点内の演習場は五角形に並べられた兵舎の内側にあった。
ただの更地があるかと思えば、わざと地面に岩を置き起伏を付けた場所もある。
演習場のところどころに、あずまやがありそこで休憩中の兵士が冷たい水や軽食を無言でとっていた。かつては笑い声さえ聞こえた休憩所だが、戦のせいでみな表情が厳しい。演習場で木剣や竹刀を打ち合わせる者も真剣だ。
水蓮は演習場の隅にある木陰にあぐらをかいて座り、その風景を眺めていた。飛露の弓部隊――角端軍に配属されてからほとんど毎日、日の出から日没まで瞑想している。
彼女の肩を過ぎるくらいまで伸ばしたまっすぐな黒髪を揺らす風は生暖かく、体中に汗がにじんだ。
「水蓮、劉克、気が乱れておる」
「はいっ」
背後から聞こえた飛露の声に、額の汗をぬぐった水蓮はあわてて目を閉じて集中した。
近くで稽古をしている人々の気配が遠くなり、逆に風の音や鳥の鳴き声が近くなる。自分が自然の一部になって溶けていくような感覚だ。
「うむ……」
すぐに安定した水蓮の気に、飛露は目を細める。物分りはいいようだ。
「劉克も集中しろ」
一方、水蓮と同時に注意した青年の方は、気の乱れが消えない。むしろ注意した時より乱れているのではないだろうか。
「劉克」
「うるせぇ」
もう一度名を呼んだところで、劉克が立ち上がった。近くで瞑想していた人々が、何事かと顔をあげる。
「上官に逆らうのか」
「弓部隊に入ったのに、瞑想ばかりで弓に触るのは一日に数十分じゃ、逆らいたくもなるだろ」
「気に入らぬならやめるが良い。陛下の指示がない限り禁軍所属は変わらぬが、自主的に来なくなる分には、何とも思わぬ」
飛露はそれだけで言うべきことはすべて言ったのか、劉克に背を向け瞑想する部下たちに視線を戻した。
「飛露将軍には逆らわない方がいいですよ」
劉克の隣にいた古株の隊員がそう忠告するが、それは彼の感情を逆なでするだけだ。
「偉そうにっ!」
そう叫んで、飛露にとびかかろうとして――。
気づいた時には、先端をつぶした練習用の矢の穂先が眉間に突きつけられていた。正面には矢を弓につがえて構えた飛露がいる。
「瞑想を続けろ。射させてくれるな、矢がもったいない」
先がつぶされているとはいえ、眉間に突き付けられた矢を放たれれば、ただでは済まない。
「くそっ。偉ぶりやがって」
劉克は悪態をつきつつも、先ほどまで自分がいた場所に座った。まだ怒りで気が乱れているが、飛露はもう彼に声をかけようとはしない。注意しても無駄と判断したのだ。
飛露は水蓮に視線を戻した。今の出来事の間も気を乱さずに集中している。これが普通の部下ならば、優秀だと褒めるところだが、彼女は敵国の間者かもしれない油断ならない相手だ。
まだ彼女には傷が治りきっていないことを理由に、弓を持たせていない。もちろん、禁軍としての仕事を任せたこともない。
しかし、彼女の腕にはもう傷の治癒を助ける札はなく、かさぶたもほとんど取れている。そろそろ弓の稽古をさせるべきかもしれない。
飛露の部下の中には、なぜ彼が水蓮に瞑想しかさせないのか、いぶかしんでいる者もいる。禁軍内に余計な不安の種をまかないためにも、将軍以外の隊員には水蓮の事はただかわいそうな境遇をもつだけの少女だと思わせておく必要があった。
「よし、みな少し休め。休憩後は各自弓稽古をするよう」
飛露はそう指示を出しながら、瞑想を終えて顔をあげた水蓮に近づいた。
「水蓮、右腕を出すが良い」
いきなり声をかけられ水蓮は驚いたようだったが、反射的に右手をつき出した。白くほっそりした二の腕にまだ赤みのある傷跡が残っている。飛露がその傷の上を慎重に押さえた。
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