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四章 探す蓮と大剣士
四章 [7/16]
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先に赤覇を入れた志閃は、閉めた扉に札を貼って小さく何かを唱えた後、赤覇に向き直った。
「何をした?」
「盗み聞ぎされたくないからねー。ちょっと仙術で細工してみた」
不機嫌な問いに、志閃はいつもの軽い調子で答えてみせる。
「盗み聞ぎって、ここは桃源の拠点だろ」
「『障子に耳あり壁に目あり』って言うじゃん?」
「逆だろ」
赤覇はため息をついたが、「仙術を使えばそういうことも可能ってこと」と志閃はよくわからないことを言っている。
「まっ、ぶっちゃけ、本気で内通者がいるんじゃね? って思いはじめたんだよねー」
志閃は先ほどまでと変わらない軽い口調で重大なことを言ってのけた。
「は?」
「俺がここまで来たのも、帝都からそういう気の流出を見つけたからだし。小さい紙切れだけどね。それを気の力であっちの廣国軍の拠点まで飛ばしたみたいよ。急なことだったから、止められずにみすみす向こうに情報をくれてやるハメになっちゃったけど」
「内通者は捕まえたのか?」
軽い調子の志閃に反して、赤覇は真面目な口調になった。
「んや。まだ」
志閃は首を横に振る。
「俺が見つけられたのは術式だけだったからねぇ……。まずいと思って、すぐに追いかけてきちゃったし。馬より術の方が何倍も速いから、正直意味はないかもって思ったけど、まぁ、来てよかったかなぁー」
彼が来てよかったと言ったのは、先ほど砦で起こった騒ぎが関係しているのだろう。
「あれは何だったんだ?」
赤覇は騒ぎの真相を尋ねた。
「砦の結界が破られたみたいね」
志閃は何ともないことのように答えた。
「は!?」
しかし、どう考えても大問題だ。
この砦は、仙術で厳重に守られている。
仙術に疎い赤覇でも、守護結界の強度には信頼を置いていた。何度模擬戦をやっても、志閃の扱う結界は破れなかったし、何十人もの術師が協力して作り上げているこの砦の結界はそれ以上に頑丈だ。
「最初、でかい音がしたじゃん? あれ、俺が仕込んだ警報なんだよね。万一、砦の結界が破られたとき砦中の人がみんな気付くようにって。けど、そう簡単に破れるようなやわな結界じゃないはずなんだけどなぁ……」
志閃は困ったように鳥の巣頭を掻いて、髪の毛を一層ぼさぼさにした。
「俺、結構本気で術式組んだのよ? しょっちゅう手入れにも来たし、前来た時も全然ほころびなんてなかった。そもそも、この砦で桃源軍全体の仙術師を指揮してる人――鴎老師っていう爺さんだけど、あの人もかなりすごい使い手よ? あの人の目の前でこの守護結界を壊せるとは正直思ってなかったわ」
口調は相変わらず軽いが、次第に掻き乱されていく頭に志閃もいらだっているのだろうと赤覇は察した。
「この砦にも内通者がいるのか?」
「そりゃ、まだわかんね。ただ、可能性はあるんじゃね? この砦ん中は、みんなピリピリしてて気の流れが変則的。一人一人の緊張で気が乱れてて、全然読めない。敵や内通者が身をひそめられる余裕は十分あるね。まぁ、赤覇も気を付けたらいいんじゃないの?」
何とも投げやりな言い方だ。
しかも、志閃は話すことはすべて言ったと言わんばかりに、部屋を出ようと扉の取っ手に手をかけている。
「気が読めねぇのに、どうやって気を付けろってんだ?」
赤覇はそれをそう呼び止めた。
「それを気が読める人間に聞いてもねぇ……」
再度赤覇の方へ向き直って、志閃はそう首を傾げた。
「まぁ、おかしな動きをしてないか監視するしかないんじゃね? けど、あれだけ強い結界を破れるのは、強い術師か強力な術の込められた武器を扱える人だけ。どんな結界か見分けられるのも、気を感じられる才能のある人だけ。術師を中心に監視を頼むよ。結界のほころびから侵入しようとしてきた廣の兵士は八人。全員が仙術の心得と高度な体術を持っていた。少数精鋭で忍び込んで、悪さをするつもりだったみたいね。けど、そいつらがどうやって結界を解いたのか、俺がさっきちらっと見ただけじゃ全然わかんなかった。もしかしたら、桃源軍の誰かが結界を壊して招き入れようとしたのかも」
志閃の言い方は先ほどより若干の誠意が感じられた。
「……いろいろとまずいな」
「俺もそう思うよ」
志閃は困ったよな弱々しい笑みを浮かべている。
「何をした?」
「盗み聞ぎされたくないからねー。ちょっと仙術で細工してみた」
不機嫌な問いに、志閃はいつもの軽い調子で答えてみせる。
「盗み聞ぎって、ここは桃源の拠点だろ」
「『障子に耳あり壁に目あり』って言うじゃん?」
「逆だろ」
赤覇はため息をついたが、「仙術を使えばそういうことも可能ってこと」と志閃はよくわからないことを言っている。
「まっ、ぶっちゃけ、本気で内通者がいるんじゃね? って思いはじめたんだよねー」
志閃は先ほどまでと変わらない軽い口調で重大なことを言ってのけた。
「は?」
「俺がここまで来たのも、帝都からそういう気の流出を見つけたからだし。小さい紙切れだけどね。それを気の力であっちの廣国軍の拠点まで飛ばしたみたいよ。急なことだったから、止められずにみすみす向こうに情報をくれてやるハメになっちゃったけど」
「内通者は捕まえたのか?」
軽い調子の志閃に反して、赤覇は真面目な口調になった。
「んや。まだ」
志閃は首を横に振る。
「俺が見つけられたのは術式だけだったからねぇ……。まずいと思って、すぐに追いかけてきちゃったし。馬より術の方が何倍も速いから、正直意味はないかもって思ったけど、まぁ、来てよかったかなぁー」
彼が来てよかったと言ったのは、先ほど砦で起こった騒ぎが関係しているのだろう。
「あれは何だったんだ?」
赤覇は騒ぎの真相を尋ねた。
「砦の結界が破られたみたいね」
志閃は何ともないことのように答えた。
「は!?」
しかし、どう考えても大問題だ。
この砦は、仙術で厳重に守られている。
仙術に疎い赤覇でも、守護結界の強度には信頼を置いていた。何度模擬戦をやっても、志閃の扱う結界は破れなかったし、何十人もの術師が協力して作り上げているこの砦の結界はそれ以上に頑丈だ。
「最初、でかい音がしたじゃん? あれ、俺が仕込んだ警報なんだよね。万一、砦の結界が破られたとき砦中の人がみんな気付くようにって。けど、そう簡単に破れるようなやわな結界じゃないはずなんだけどなぁ……」
志閃は困ったように鳥の巣頭を掻いて、髪の毛を一層ぼさぼさにした。
「俺、結構本気で術式組んだのよ? しょっちゅう手入れにも来たし、前来た時も全然ほころびなんてなかった。そもそも、この砦で桃源軍全体の仙術師を指揮してる人――鴎老師っていう爺さんだけど、あの人もかなりすごい使い手よ? あの人の目の前でこの守護結界を壊せるとは正直思ってなかったわ」
口調は相変わらず軽いが、次第に掻き乱されていく頭に志閃もいらだっているのだろうと赤覇は察した。
「この砦にも内通者がいるのか?」
「そりゃ、まだわかんね。ただ、可能性はあるんじゃね? この砦ん中は、みんなピリピリしてて気の流れが変則的。一人一人の緊張で気が乱れてて、全然読めない。敵や内通者が身をひそめられる余裕は十分あるね。まぁ、赤覇も気を付けたらいいんじゃないの?」
何とも投げやりな言い方だ。
しかも、志閃は話すことはすべて言ったと言わんばかりに、部屋を出ようと扉の取っ手に手をかけている。
「気が読めねぇのに、どうやって気を付けろってんだ?」
赤覇はそれをそう呼び止めた。
「それを気が読める人間に聞いてもねぇ……」
再度赤覇の方へ向き直って、志閃はそう首を傾げた。
「まぁ、おかしな動きをしてないか監視するしかないんじゃね? けど、あれだけ強い結界を破れるのは、強い術師か強力な術の込められた武器を扱える人だけ。どんな結界か見分けられるのも、気を感じられる才能のある人だけ。術師を中心に監視を頼むよ。結界のほころびから侵入しようとしてきた廣の兵士は八人。全員が仙術の心得と高度な体術を持っていた。少数精鋭で忍び込んで、悪さをするつもりだったみたいね。けど、そいつらがどうやって結界を解いたのか、俺がさっきちらっと見ただけじゃ全然わかんなかった。もしかしたら、桃源軍の誰かが結界を壊して招き入れようとしたのかも」
志閃の言い方は先ほどより若干の誠意が感じられた。
「……いろいろとまずいな」
「俺もそう思うよ」
志閃は困ったよな弱々しい笑みを浮かべている。
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