五百禁軍の姫【中華風異能バトルファンタジー】

白楠 月玻

文字の大きさ
49 / 103
五章 闇夜の蓮と弓使い

五章 [2/15]

しおりを挟む
 しょうがとてとてと寄ってきて、泉蝶せんちょうの枕元に座る。泉蝶の額に小さな手が触れた。じんわりとあたたかい。

「時間かかりそうだから、寝ててもいいよ」

「いえ、それは――」

 子どもの手は柔らかく、心地よい。今すぐにでも目を閉じてしまいそうだったが、泉蝶は仕事中だ。皇子の命令とはいえ、今の横になって休んでいる状態でさえ良心が痛む。寝るなどもってのほかだ。

「泉蝶はマジメ過ぎ!」

 天井を見上げる泉蝶の視界にほほを膨らませた翔の顔が入った。

赤覇せきはは最近見てないからわからないけど、王紀おうきは結構休んでるっぽいよ。気を回復に使ってる。王紀の仙術は自分の強化に向いてるから、自分相手なら回復も得意なんだね。
 飛露とびつゆも時々自己回復してる。でも、あの人もマジメだね。一生懸命なのがわかる。
 王紀や飛露や志閃しせんは、気が見えるからちゃんと自分の限界をわかってる。わかってるから限界ぎりぎりまでがんばっちゃうんだろうけど、ちゃんと限界を超えそうになったら止めて休んで回復させる方法を知ってるんだと思う。でも泉蝶は限界超えてもがんばっちゃうから――」

「……申し訳ありません」

 がんばりすぎるというのは、日ごろから同僚にもよく言われる言葉だ。泉蝶は素直に謝った。

「しかし、今はまだ本当に大丈夫です。ご心配は非常にうれしく、身に余る思いですが……」

「うん。でも、休めるときには休もうよ。今はちゃんと休んで。命令。この先、きっと大変になるから」

「……それは予知ですか」

 翔の自信に満ちたもの言いに、泉蝶はそう尋ねた。

「たぶん……。そんな気がするんだ。志閃と飛露が何かしてる。ここ数日の二人の疲れ方がひどいんだ。特に志閃。でも、聞いても何も教えてくれないし、休んでって言っても休んでくれないし。昨日もそうだし、さっきだって――」

「ちょっとすみません」

 泉蝶は引っかかるものを感じて、皇子の言葉を遮った。その失礼極まりない行動に、近くにいた教育係の老爺が眉をひそめる気配を感じたが、無視する。

「志閃はよく後宮に出入りするのですか?」

「うん。最近は結構頻繁にいるかも。でも、キングン将軍なんだからふつうだよね?」

 後宮に出入りできるのは一般的に女性か、成人前の幼い男子、去勢された宦官のみだ。ただし、帝周辺を守る禁軍の中でも位の高いものや帝の許可を得られたものならば、男性でも入ることができる。
 それでも、飛露や王紀は極力後宮へ立ち入るのは避けているし、女好きの志閃でさえ、必要に迫られた時以外は軽く覗く程度にとどめていたはずだ。

 気にならないと言えば嘘になる。なるが――。

「それでも、志閃がちゃんと必要な仕事をしてくれているのなら、あたしには関係のないことだわ」

 泉蝶は小さく自分にそう言い聞かせた。

「……泉蝶?」

「あ、いえ。なんでもありません。こちらの話で――」

 小首を傾げる翔に、泉蝶は慌てて取り繕った。

「泉蝶も志閃が心配?」

「それは、同僚ですから滞りなく仕事ができる状態かどうか不安にもなりますが……」

「そういう話じゃないけど、……まぁいいや」

 翔は少し拗ねているようだったが、泉蝶にはその理由がわからない。
 何かまずいことを言ってしまっただろうかと、先ほどの自分の言葉を反芻したが、言葉遣いも内容も変なところはなかったはずだ。

「志閃はのんびりしてるようでとってもがんばり屋さんだから、泉蝶も気を使ってあげてね。大事なドーリョーなんでしょ?」

「……承知いたしました」

 志閃はいつも遊んでいるように見えて、与えられた仕事はいつの間にか終わらせているし、実力もある。……らしい。日ごろ、ダメな面しか見せないので、信じがたいが……。
 それでも、にっこり笑う皇子からの命令だ。泉蝶は神妙な顔でうなずいた。

「お願いだよ?」

 小首を傾げてそう釘をさす第八皇子に、泉蝶は「はい」と再度深くうなずく。

「ありがとう。それじゃあ、おしゃべりは終わりだよ。泉蝶はもうちょっとここで休んでね」

「しかし――」

「命令だよ。いいね?」

 そう言って眉根にしわを寄せ、厳しい顔をする翔には、人に命じ慣れた皇族らしさが垣間見えた。

「はい」

 泉蝶はそう答えるしかない。

「ほら、良く休めるように術をかけてあげるから、目を閉じて」

 それにも素直に従う。今も徐々にこちらへ動きつつあるであろう前線に思いをはせながら――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...