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五章 闇夜の蓮と弓使い
五章 [8/15]
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「待ちなさい」
泉蝶は離れようとした志閃の腕を持ち前の腕力でつかむと、空いた手を彼の額に当てた。熱い。
「熱があるんじゃないの?」
「そう?」
志閃はきょとんとして見せたが、その目はあまり焦点が定まっていない。
「あなた、何をしているの?」
「え? サボってただけだけど……?」
志閃はとぼけているが、泉蝶だってさすがにそこまで鈍感ではない。ここまで術師である彼の調子が悪そうなのだ。
「何か大きな術を使ったの?」
それくらいの察しはつく。
「ん~……」
図星なのだろう。志閃は困ったように声を漏らしながら目線をさまよわせた。
「正直に答えなさい!」
「せいか~い」
志閃はあえておどけた雰囲気で言ったが、それが成功しているようには見えなかった。
「何をやったの?」
普段ならばうまく志閃にごまかされ、言いくるめられる素直な泉蝶でも、そう言及できる隙がある。
「知りたい?」
「とっとと答えなさい!」
それでも煙に巻こうとしているらしい志閃を厳しく叱り飛ばす泉蝶。志閃は浅くため息をついて観念した。
「王宮から流れ出る気の監視……かな。絶対いるはずなんだよね。密告者が。それを突き止めたい」
「王宮って広いわよ。まさかそれを全部?」
「一応、索冥軍のだけって飛露と約束したけど、見えると気になっちゃうよね」
回りくどい言い方で、志閃は肯定した。
「いやー、さすがに目が回るわ。集中しすぎたら、自分がいる場所さえわかんなくなっちゃうしー。ここどこだっけ? 後宮ってことはわかるんだけどー」
とぼけているようだが、本気で言っているらしい。
「……少し、休みなさい」
「え~、でも泉蝶ちゃんさっき仕事もどれって」
「うるさいわよ!」
覇気のない声で揚げ足を取ってくる志閃に泉蝶は怒鳴った。
「泉蝶ちゃんはいつも元気ねー」
そう笑みを浮かべて、再び横になる志閃。その額には玉のような汗が浮かんでいる。
「ねぇ、泉蝶ちゃん。ちょっとだけでいいから、手ぇ握っててくれね? 泉蝶ちゃんの気は安定してるから、近くにいてくれたら安心する」
いやよ。普段ならそう突っぱねているが、志閃の目は真剣で、どこか縋り付くような、不安そうな感情が見えた。
「仕方ないわね」
とげのある口調で言って、泉蝶は志閃の左手をとった。ひどく汗ばみ、熱を帯びたそれを両手で包み込む。
「ありがとね、泉蝶ちゃん」
志閃はそれに力なくほほえんで、目を閉じた。
「これで自分の居場所を見失わなくて済む……」
そんなつぶやきが漏れた。
「ちゃんと休みなさい」
「体は休んでるからだいじょぶ」
「せめて、もっときれいな場所で――」
志閃が今横たわっているのは、庭園。ようするに土の上だ。幸い地面はよく乾いているが、それでも汚れてしまう。
「じゃあ、泉蝶ちゃん俺の部屋に来てくれる?」
「絶対に嫌よ!」
「ふふっ、泉蝶ちゃんは本当にいっつも元気ね」
――安心する。
そんな言葉を淡く笑みを浮かべた口元に乗せて、志閃は再び気とともに意識をあたりに飛ばした。
泉蝶のどっしりと安定した金属性の気が楔となって自分の戻るべき場所を指し示す。
そのおかげで志閃は今まで以上に自由に気を飛ばすことができた。今までは精神力だけでねじ伏せてきた、自分があたりの気に飲まれてしまいそうになる恐怖を感じなくて済むからだ。
泉蝶は気を感じることも扱うこともできないが、気が弱いわけではない。彼女が長年続けてきた自己鍛錬の賜物なのだろう。むしろ志閃の率いる仙術部隊の術師と比べても上位に食い込みそうな気の量と安定性を持っている。
そんな彼女はこの術を使う上で最高の碇となる。
泉蝶は離れようとした志閃の腕を持ち前の腕力でつかむと、空いた手を彼の額に当てた。熱い。
「熱があるんじゃないの?」
「そう?」
志閃はきょとんとして見せたが、その目はあまり焦点が定まっていない。
「あなた、何をしているの?」
「え? サボってただけだけど……?」
志閃はとぼけているが、泉蝶だってさすがにそこまで鈍感ではない。ここまで術師である彼の調子が悪そうなのだ。
「何か大きな術を使ったの?」
それくらいの察しはつく。
「ん~……」
図星なのだろう。志閃は困ったように声を漏らしながら目線をさまよわせた。
「正直に答えなさい!」
「せいか~い」
志閃はあえておどけた雰囲気で言ったが、それが成功しているようには見えなかった。
「何をやったの?」
普段ならばうまく志閃にごまかされ、言いくるめられる素直な泉蝶でも、そう言及できる隙がある。
「知りたい?」
「とっとと答えなさい!」
それでも煙に巻こうとしているらしい志閃を厳しく叱り飛ばす泉蝶。志閃は浅くため息をついて観念した。
「王宮から流れ出る気の監視……かな。絶対いるはずなんだよね。密告者が。それを突き止めたい」
「王宮って広いわよ。まさかそれを全部?」
「一応、索冥軍のだけって飛露と約束したけど、見えると気になっちゃうよね」
回りくどい言い方で、志閃は肯定した。
「いやー、さすがに目が回るわ。集中しすぎたら、自分がいる場所さえわかんなくなっちゃうしー。ここどこだっけ? 後宮ってことはわかるんだけどー」
とぼけているようだが、本気で言っているらしい。
「……少し、休みなさい」
「え~、でも泉蝶ちゃんさっき仕事もどれって」
「うるさいわよ!」
覇気のない声で揚げ足を取ってくる志閃に泉蝶は怒鳴った。
「泉蝶ちゃんはいつも元気ねー」
そう笑みを浮かべて、再び横になる志閃。その額には玉のような汗が浮かんでいる。
「ねぇ、泉蝶ちゃん。ちょっとだけでいいから、手ぇ握っててくれね? 泉蝶ちゃんの気は安定してるから、近くにいてくれたら安心する」
いやよ。普段ならそう突っぱねているが、志閃の目は真剣で、どこか縋り付くような、不安そうな感情が見えた。
「仕方ないわね」
とげのある口調で言って、泉蝶は志閃の左手をとった。ひどく汗ばみ、熱を帯びたそれを両手で包み込む。
「ありがとね、泉蝶ちゃん」
志閃はそれに力なくほほえんで、目を閉じた。
「これで自分の居場所を見失わなくて済む……」
そんなつぶやきが漏れた。
「ちゃんと休みなさい」
「体は休んでるからだいじょぶ」
「せめて、もっときれいな場所で――」
志閃が今横たわっているのは、庭園。ようするに土の上だ。幸い地面はよく乾いているが、それでも汚れてしまう。
「じゃあ、泉蝶ちゃん俺の部屋に来てくれる?」
「絶対に嫌よ!」
「ふふっ、泉蝶ちゃんは本当にいっつも元気ね」
――安心する。
そんな言葉を淡く笑みを浮かべた口元に乗せて、志閃は再び気とともに意識をあたりに飛ばした。
泉蝶のどっしりと安定した金属性の気が楔となって自分の戻るべき場所を指し示す。
そのおかげで志閃は今まで以上に自由に気を飛ばすことができた。今までは精神力だけでねじ伏せてきた、自分があたりの気に飲まれてしまいそうになる恐怖を感じなくて済むからだ。
泉蝶は気を感じることも扱うこともできないが、気が弱いわけではない。彼女が長年続けてきた自己鍛錬の賜物なのだろう。むしろ志閃の率いる仙術部隊の術師と比べても上位に食い込みそうな気の量と安定性を持っている。
そんな彼女はこの術を使う上で最高の碇となる。
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