23 / 201
第二部 - 一章 龍の故郷
一章二節 - 城主の懐刀
しおりを挟む
「与羽と老主人を天駆に逃がすのは、華金から何かしら仕掛けられるのを危惧してだろう?」
与羽たちが部屋をあとにし、広げた資料を片付ける絡柳と乱舞、大斗の三人のみになったところで、大斗が小さくつぶやいた。
「そうだね」
部屋の外に聞こえないように配慮して、乱舞が小声でうなずく。
彼らはしばらく前に南にある敵対的な大国――華金から送り込まれた間者を退けた。その男は彼自身の希望もあって、長期間の尋問の末、今は中州城下町にとどめてある。今でもそれを知る一部の官吏が時折様子を確かめているが、華金に情報を送るなどの怪しい行動は見られない。
敵国はそろそろ暗殺の失敗を察するだろう。そして、中州に対して何らかの行動を起こすかもしれない。そうなった時のために、妹と祖父を華金から遠い北の同盟国に避難させる。これが乱舞と一部の大臣がひそかに話し合って決めた計画だ。
しかし、この話は与羽に絶対知られてはならない。心やさしい彼女は乱舞を案じて、国に残ると言い出してしまう。彼女には純粋に祖父孝行のために同盟国に湯治に行くと信じ込ませる必要がある。
「天駆も完全に安全と言うわけではないが、それぞれの国で想定されうる最悪の展開を比べた場合、天駆の方が平和だろうな」
絡柳もうなずいた。
「お前は中州に残って大丈夫なの?」
大斗はなおも問う。
「大丈夫だよ」
答えた乱舞の調子は軽い。
「確かに大斗や絡柳がいないのは心細いけど、残った官吏たちだって有能だよ。問題なく僕や中州を守ってくれる。むしろ、与羽やじいちゃんに十分な護衛をつけられないことが心苦しい。もし、華金の間者が天駆に向かったり、天駆で何かに巻き込まれたりしたら――」
「こっちは心配するな。俺たちは有能だ。お前が一番よく知っているだろう?」
絡柳が呆れたように片目を閉じ、顎を上げてみせた。
「その通りだよ」と大斗も不敵な笑みを浮かべている。
二人とも若さに見合わないずば抜けて高い能力と、それを証明する官位を持っている。乱舞が親友として頼れる特別な存在だ。彼らを二人とも与羽たちにつけるのだから、何が起こっても無事切り抜けるに違いない。
「そうだね」
乱舞はうなずいた。
「僕の大切な家族を、頼んだよ」
与羽たちが部屋をあとにし、広げた資料を片付ける絡柳と乱舞、大斗の三人のみになったところで、大斗が小さくつぶやいた。
「そうだね」
部屋の外に聞こえないように配慮して、乱舞が小声でうなずく。
彼らはしばらく前に南にある敵対的な大国――華金から送り込まれた間者を退けた。その男は彼自身の希望もあって、長期間の尋問の末、今は中州城下町にとどめてある。今でもそれを知る一部の官吏が時折様子を確かめているが、華金に情報を送るなどの怪しい行動は見られない。
敵国はそろそろ暗殺の失敗を察するだろう。そして、中州に対して何らかの行動を起こすかもしれない。そうなった時のために、妹と祖父を華金から遠い北の同盟国に避難させる。これが乱舞と一部の大臣がひそかに話し合って決めた計画だ。
しかし、この話は与羽に絶対知られてはならない。心やさしい彼女は乱舞を案じて、国に残ると言い出してしまう。彼女には純粋に祖父孝行のために同盟国に湯治に行くと信じ込ませる必要がある。
「天駆も完全に安全と言うわけではないが、それぞれの国で想定されうる最悪の展開を比べた場合、天駆の方が平和だろうな」
絡柳もうなずいた。
「お前は中州に残って大丈夫なの?」
大斗はなおも問う。
「大丈夫だよ」
答えた乱舞の調子は軽い。
「確かに大斗や絡柳がいないのは心細いけど、残った官吏たちだって有能だよ。問題なく僕や中州を守ってくれる。むしろ、与羽やじいちゃんに十分な護衛をつけられないことが心苦しい。もし、華金の間者が天駆に向かったり、天駆で何かに巻き込まれたりしたら――」
「こっちは心配するな。俺たちは有能だ。お前が一番よく知っているだろう?」
絡柳が呆れたように片目を閉じ、顎を上げてみせた。
「その通りだよ」と大斗も不敵な笑みを浮かべている。
二人とも若さに見合わないずば抜けて高い能力と、それを証明する官位を持っている。乱舞が親友として頼れる特別な存在だ。彼らを二人とも与羽たちにつけるのだから、何が起こっても無事切り抜けるに違いない。
「そうだね」
乱舞はうなずいた。
「僕の大切な家族を、頼んだよ」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる