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第二部 - 一章 龍の故郷
一章四節 - 銀山と銀工町
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与羽たち一行は、順調に馬を進めていた。先頭に大斗、その後ろに舞行を左右に挟む形で、辰海と実砂菜と与羽がおり、後ろに荷馬を引く下級武官が数人と最後尾にそれを仕切る中級武官が一人。女官の竜月は荷馬と与羽の周りを馬で行ったり来たりして、忙しそうだ。この旅の責任者である絡柳はいない。一行を大斗に任せ、与羽たちよりも先に出立したと聞いている。
すぐわきの田んぼでは、稲を刈り終わった金茶の株が、今朝降りた霜でまぶしく輝き、その合間を冷たそうに飛び跳ねながら小鳥がわらをついばんでいた。落ちた米を探しているのだろう。
「ごめんな」
近くを通る馬の気配に一斉に飛び立ったスズメの群れを見て、与羽は小さく謝った。
彼らが進むのは、中州を南北に貫く街道だ。中州と華金の国境を起点に、天駆領主の住む国府「龍頭天駆」まで続いている。
地面はよく踏み固められ、幅も広い。時折、薪や炭、乾燥した保存食や正月用品を運ぶ商人とすれ違った。中州の北部と城下町を行き来する伝令係は、一行に身分を明かした上で、丁寧にあいさつをしていく。予想していたよりもにぎやかな旅路だ。
街道の西には田畑の先に山地が迫り、東には城下町を流れるのと同じ月見川がある。上流に来たため、川幅はやや狭くなっているが、それでも対岸は朝もやにかすむほど遠く、流れの激しさも変わらない。
馬を進めてすでに三日が経とうとしているが、この辺りもまだ中州の地だった。中州城下町は南方にあるので、北の天駆に行くためには、国の大部分を縦断しなくてはならないのだ。
城下町からほとんど出たことのない与羽は、地図でしか知らなかった世界の広さに驚いた。
中州の特産品である銀を掘っている鉱山があるのは、このあたりではなかったか。ふとそんなことを思い出して、与羽は西の山々を見た。街道に近いところには木がなく、一面枯草に覆われていた。肥料や飼料に使う草を育てているのだろう。その先はまばらに木の生えた山地が広がり、最後には雪をかぶり始めた急峻な山脈がそびえる。鉱山らしきものは見えない。
「夏場は鉱山近くの加工場から立ち上る煙がいっぱい見えるけど、今は城下町周辺と変わらない風景だね。みんな収穫や冬越しの準備で忙しいんだ」
与羽と同じく、西の山地を見ながら説明してくれたのは辰海だ。
「冬になると雪で鉱山には入れなくなる。中州で銀を掘るのは、晩春から夏にかけてだけだよ」
「ふ~ん」
答えが聞けたのはありがたかったが、考えを読まれているようであまりいい気はしない。
「ちなみに、向こうに見える大きな山が天駆の龍山ね。龍神信仰の聖地になってる活火山で、あそこのふもとに僕たちが目指してる湯治場もあるんだ」
次に辰海が指さしたのは、山脈の前方。確かに形の整った円錐型の美しい山がある。
「あと、この先には山脈から流れる川があって――」と彼の説明は止まらない。
「もともとは天然の川だったけど、今は人の手で深く掘られて護岸整備もされて、山からの銀を銀工町に輸送する船が行きかってるよ。そこで絡柳先輩とも合流する予定だね」
銀工町は中州北部の大都市だ。以前は銀鉱山で採れた銀を加工する職人が住む町だったが、最近は多様な工芸品とそれを買い付けにくる商人が集まる交易都市になっていた。その人口は勢いよく伸び続け、城下町に並ぶ中州最大の都市として知られている。
「どうせ銀工町で仕事してるんだろう。『中州の北に向かうなら、他の人より早く出て銀工町に寄ろう!』とか考えてそうだ」
大斗はツンと顎を上げて、右の方を指さした。遠くに町が見える。町の家々から出る煙で霞んでいるが、あれが銀工町か。城下町はほとんどの家屋が黒い瓦屋根で統一されているが、瓦が見えれば、板葺き、藁ぶきの屋根も見えるし、建物の高さもまちまちだ。
「絡柳は銀工町と縁があるんじゃったか」と舞行が問えば、
「そうです。水月絡柳大臣は何年か銀工町で仕事をされていました」と辰海が丁寧に答えた。
すぐわきの田んぼでは、稲を刈り終わった金茶の株が、今朝降りた霜でまぶしく輝き、その合間を冷たそうに飛び跳ねながら小鳥がわらをついばんでいた。落ちた米を探しているのだろう。
「ごめんな」
近くを通る馬の気配に一斉に飛び立ったスズメの群れを見て、与羽は小さく謝った。
彼らが進むのは、中州を南北に貫く街道だ。中州と華金の国境を起点に、天駆領主の住む国府「龍頭天駆」まで続いている。
地面はよく踏み固められ、幅も広い。時折、薪や炭、乾燥した保存食や正月用品を運ぶ商人とすれ違った。中州の北部と城下町を行き来する伝令係は、一行に身分を明かした上で、丁寧にあいさつをしていく。予想していたよりもにぎやかな旅路だ。
街道の西には田畑の先に山地が迫り、東には城下町を流れるのと同じ月見川がある。上流に来たため、川幅はやや狭くなっているが、それでも対岸は朝もやにかすむほど遠く、流れの激しさも変わらない。
馬を進めてすでに三日が経とうとしているが、この辺りもまだ中州の地だった。中州城下町は南方にあるので、北の天駆に行くためには、国の大部分を縦断しなくてはならないのだ。
城下町からほとんど出たことのない与羽は、地図でしか知らなかった世界の広さに驚いた。
中州の特産品である銀を掘っている鉱山があるのは、このあたりではなかったか。ふとそんなことを思い出して、与羽は西の山々を見た。街道に近いところには木がなく、一面枯草に覆われていた。肥料や飼料に使う草を育てているのだろう。その先はまばらに木の生えた山地が広がり、最後には雪をかぶり始めた急峻な山脈がそびえる。鉱山らしきものは見えない。
「夏場は鉱山近くの加工場から立ち上る煙がいっぱい見えるけど、今は城下町周辺と変わらない風景だね。みんな収穫や冬越しの準備で忙しいんだ」
与羽と同じく、西の山地を見ながら説明してくれたのは辰海だ。
「冬になると雪で鉱山には入れなくなる。中州で銀を掘るのは、晩春から夏にかけてだけだよ」
「ふ~ん」
答えが聞けたのはありがたかったが、考えを読まれているようであまりいい気はしない。
「ちなみに、向こうに見える大きな山が天駆の龍山ね。龍神信仰の聖地になってる活火山で、あそこのふもとに僕たちが目指してる湯治場もあるんだ」
次に辰海が指さしたのは、山脈の前方。確かに形の整った円錐型の美しい山がある。
「あと、この先には山脈から流れる川があって――」と彼の説明は止まらない。
「もともとは天然の川だったけど、今は人の手で深く掘られて護岸整備もされて、山からの銀を銀工町に輸送する船が行きかってるよ。そこで絡柳先輩とも合流する予定だね」
銀工町は中州北部の大都市だ。以前は銀鉱山で採れた銀を加工する職人が住む町だったが、最近は多様な工芸品とそれを買い付けにくる商人が集まる交易都市になっていた。その人口は勢いよく伸び続け、城下町に並ぶ中州最大の都市として知られている。
「どうせ銀工町で仕事してるんだろう。『中州の北に向かうなら、他の人より早く出て銀工町に寄ろう!』とか考えてそうだ」
大斗はツンと顎を上げて、右の方を指さした。遠くに町が見える。町の家々から出る煙で霞んでいるが、あれが銀工町か。城下町はほとんどの家屋が黒い瓦屋根で統一されているが、瓦が見えれば、板葺き、藁ぶきの屋根も見えるし、建物の高さもまちまちだ。
「絡柳は銀工町と縁があるんじゃったか」と舞行が問えば、
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