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第二部 - 五章 龍の舞
五章三節 - 龍姫の説得
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「先輩、以前希理さんが言っていた舞の件なんですけど……」
屋敷の宿坊に戻り、舞行や竜月に謝罪と無事を報告したあと、与羽は絡柳にそう切り出した。辰海が神域に呼ばれることになったのも、きっとこの件がきっかけだ。
「私、舞いたいです」
与羽は絡柳の目を見て、はっきりと自分の気持ちを伝えた。
「……それは断ると言ったはずだ」
昨日の今日なので、絡柳の言葉は幾分優しかったが、それでも明確な拒絶がある。
「私が、舞わなくちゃだめです! 天駆の官吏や神官のためじゃなくて、神様のために」
しかし与羽は引き下がらない。あの時の与羽には彼を説得できる理論がなかった。しかし、今はある。
「天駆の神事は権力のためにやっている人が多いんですよね? それって、神様じゃなくて自分たちのために神事をやっているってことだと思うんです。神様は、きっと悲しい……。だから、私だけでも神様のために舞いたいんです」
「……信仰の問題か」
与羽の言葉は理解できるが、信心深くない絡柳には与羽の提案の合理性が見えない。
「結局、お前ひとりの自己満足だろう? それは」
「与羽だけじゃないです。僕も神を想った舞は必要だと思います」
すぐさま辰海も声をあげた。神域で何度も胸を染めた後悔を今晴らす。与羽の理想を形にするのが、辰海の使命だ。
「儀式としてではなく、神のために舞いたいだけですから、正月神事内でなくても、人の目に触れなくてもいいんです。それなら構いませんよね? なんでもない時に神殿を訪れて舞うだけです」
このあたりが、与羽も絡柳も納得できる折衷点だろう。
「それくらいならいいんじゃない? あんまり強情だと今度はお前が神域に呼ばれるかもよ?」
大斗も味方をしてくれた。意地悪く口の端を吊り上げている。
「私、与羽ほど上手に舞えないけど、鈴を鳴らすとかなら手伝えます!」
実砂菜も乗り気だ。
「大斗先輩って、三味線か何か、楽器できましたよね? 舞の伴奏もできますか?」
与羽は大斗に尋ねた。味方がいるのは心強い。
「曲によるけど……。なに? 古狐の笛だけじゃ満足できないの?」
「せっかくなら、みんなでやりたいなって」
「ふぉっふぉっふぉ。与羽らしくなってきたのぅ!」
静かに見守っていた舞行が、愉快そうに声をあげた。
「ぜひ、わしの前でも舞って欲しいものじゃ」
「もちろん! ……先輩、舞わせて頂けませんか?」
与羽は体ごと絡柳に向き直った。彼は短い前髪をイライラとかき乱している。逡巡はさほど長くなかった。
「……わかった」
舞行まで与羽の味方についたのだ。うなずくほかない。
「ただし、舞う場所、舞う状況は確認させてもらう」
「絡柳も伴奏を手伝ってくれるってさ」
大斗は口の端を吊り上げた。
「そ、そう言うつもりで言ったわけじゃないぞ!」
彼の慌てぶりからして、どうやら絡柳に楽器の技術はないようだ。
「先輩は運動神経が良いんですから、太鼓で拍子を取るくらいならすぐにできるようになりますよ」
辰海も絡柳を巻き込む気でいる。
「神殿や祭祀場への交渉や楽器の貸し出しなどは、わたしも協力しましょう」と成り行きを見守っていた空も申し出てくれた。
「最初はぜひとも月主神殿でお願いします」
そう付け足すのも忘れない。
予想以上に楽しい巡業になりそうだ。与羽は天駆に来て初めてかもしれない高揚感に胸を躍らせた。
屋敷の宿坊に戻り、舞行や竜月に謝罪と無事を報告したあと、与羽は絡柳にそう切り出した。辰海が神域に呼ばれることになったのも、きっとこの件がきっかけだ。
「私、舞いたいです」
与羽は絡柳の目を見て、はっきりと自分の気持ちを伝えた。
「……それは断ると言ったはずだ」
昨日の今日なので、絡柳の言葉は幾分優しかったが、それでも明確な拒絶がある。
「私が、舞わなくちゃだめです! 天駆の官吏や神官のためじゃなくて、神様のために」
しかし与羽は引き下がらない。あの時の与羽には彼を説得できる理論がなかった。しかし、今はある。
「天駆の神事は権力のためにやっている人が多いんですよね? それって、神様じゃなくて自分たちのために神事をやっているってことだと思うんです。神様は、きっと悲しい……。だから、私だけでも神様のために舞いたいんです」
「……信仰の問題か」
与羽の言葉は理解できるが、信心深くない絡柳には与羽の提案の合理性が見えない。
「結局、お前ひとりの自己満足だろう? それは」
「与羽だけじゃないです。僕も神を想った舞は必要だと思います」
すぐさま辰海も声をあげた。神域で何度も胸を染めた後悔を今晴らす。与羽の理想を形にするのが、辰海の使命だ。
「儀式としてではなく、神のために舞いたいだけですから、正月神事内でなくても、人の目に触れなくてもいいんです。それなら構いませんよね? なんでもない時に神殿を訪れて舞うだけです」
このあたりが、与羽も絡柳も納得できる折衷点だろう。
「それくらいならいいんじゃない? あんまり強情だと今度はお前が神域に呼ばれるかもよ?」
大斗も味方をしてくれた。意地悪く口の端を吊り上げている。
「私、与羽ほど上手に舞えないけど、鈴を鳴らすとかなら手伝えます!」
実砂菜も乗り気だ。
「大斗先輩って、三味線か何か、楽器できましたよね? 舞の伴奏もできますか?」
与羽は大斗に尋ねた。味方がいるのは心強い。
「曲によるけど……。なに? 古狐の笛だけじゃ満足できないの?」
「せっかくなら、みんなでやりたいなって」
「ふぉっふぉっふぉ。与羽らしくなってきたのぅ!」
静かに見守っていた舞行が、愉快そうに声をあげた。
「ぜひ、わしの前でも舞って欲しいものじゃ」
「もちろん! ……先輩、舞わせて頂けませんか?」
与羽は体ごと絡柳に向き直った。彼は短い前髪をイライラとかき乱している。逡巡はさほど長くなかった。
「……わかった」
舞行まで与羽の味方についたのだ。うなずくほかない。
「ただし、舞う場所、舞う状況は確認させてもらう」
「絡柳も伴奏を手伝ってくれるってさ」
大斗は口の端を吊り上げた。
「そ、そう言うつもりで言ったわけじゃないぞ!」
彼の慌てぶりからして、どうやら絡柳に楽器の技術はないようだ。
「先輩は運動神経が良いんですから、太鼓で拍子を取るくらいならすぐにできるようになりますよ」
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「神殿や祭祀場への交渉や楽器の貸し出しなどは、わたしも協力しましょう」と成り行きを見守っていた空も申し出てくれた。
「最初はぜひとも月主神殿でお願いします」
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