158 / 201
外伝 - 第六章 炎狐と龍姫
六章二節 - 憎しみと恋慕
しおりを挟む
「話し合いで解決できる問題なら、私はそうしたい。だって、私は辰海のこと大好きなのに、別れ別れになるのは……寂しいじゃん」
辰海の体が小さく動いた。与羽の「大好き」と言う単語に心を乱されたのだ。与羽の「好き」は、辰海が与羽に抱いている好意とは違うもの。そうわかっていても、嬉しかった。そして、彼女の友愛が恨めしかった。
「けど、辰海がやっぱり話したくないなら、もう聞かん。二度と」
辰海は古狐で、与羽は中州城で。他人になって生きるのだ。与羽はその覚悟をしてきた。
「僕を脅すの?」
辰海の顔は何かに耐えるように歪んでいた。
「違う。ただ、辰海が話したがらんから……」
「僕が悪いって、そう言いたいわけだ」
冷たい言葉に、与羽は眉尻を下げた。
「辰海、私は聞きたいし、話し合いたいってずっと思っとる」
辰海の手を取ろうとした与羽の手はすぐに払われた。
「辰海。辰海は私のこと嫌いなん?」
「……嫌いだよ」
答える辰海の顔はやはりひどく歪められていて。
「なんで?」
「君は、僕が欲しかったものを全部持ってるから」
龍の印も、父親の愛情も、親しい仲間も、太陽のような笑顔も。
「……そうよな。私、実は知っとる。辰海が自分で自分を苦しめとること。間違っとるって自分でもわかっとるのに、それを受け入れられんこと。本当は卯龍さんにもっと愛されたいこと。あとたぶん、目の色とか龍の名残を受け継げなくて悩んどること。全部アメや太一や卯龍さんから聞いたし、気づいとる」
容姿のことは今まで誰にも言わなかった。それでも、与羽は察していたらしい。
「辰海が苦しむことなんかないよ。辰海は賢いから、間違っとってもいつかは直せると思うし、私は気にしとらん。卯龍さんは心から反省して、辰海をもっともっと大切にしたいって言っとったよ。目の色にしても、私は辰海の目の色大好きよ。見た目なんて関係ない。色なんかなくても、辰海は古狐の跡取りじゃん」
与羽が再び辰海に触れてくる。やさしい声が染み渡る。そうだ。こうやって認めてもらいたかったのだ。ただ、相手が与羽じゃなければ。すべての元凶じゃなければ。
「うるさいな……」
辰海はうなった。
「恵まれた君にはわからない」
「……そうかもしれん。そうかもしれんけど」
「いい加減気づいてよ! 僕は君みたいにできた人間じゃないんだよ!」
与羽がやさしければやさしいほど、辰海はみじめになっていくのだ。
「僕は出来損ないなんだよ!」
今まで心に秘め続けていた言葉が叫びになって飛び出した。与羽が褒めれば褒めるほど、辰海は苦しくなるのだ。これ以上は耐えきれなかった。
「そんなこと――」
「あるでしょ!」
与羽の言葉を辰海は強く否定した。これ以上与羽の言葉を聞いたら、心が壊れてしまいそうだったから。与羽みたいになりたいのに、なれない。その違いを強く感じてしまうから。
「僕は古狐の目の色を継いでない。僕には目の色も、髪の色も、龍鱗の跡も、龍の名残が何もない!」
辰海の容姿は父親とよく似ていると思う。しかし、それだけではだめなのだ。
「古狐が代々継いできた龍の加護を僕が消したんだよ。そんなの、許されるわけない。口にしないだけで、父上も母上も、周りの人もみんなそう思ってる」
「……私はそんなこと全然気にしとらん」
「それは君が龍の名残を濃く残してるからだよ。それこそ、乱舞さん以上に」
与羽のまとう龍の色はとても強い。
「君の色彩が少しでも僕にあれば――。君は紛れもない龍神様の末裔で、父上も母上もみんな僕より君を大切にして、愛してる。君は笑っているだけでいろんな人の中心になれて、みんなが君を助けてくれる」
「それは……。ごめん。でも、私は辰海のこと大切だって思っとる」
「君ひとりと僕の世界全部が釣り合うと思ってるの!?」
怒鳴った。嫉妬に狂ったないものねだり。そうわかっていても、心が痛むのだ。
「……ごめん」
与羽はうつ向いた。
「龍の名残も、友達も、両親の愛情も、全部全部――。僕の大切なものも、僕が欲しかったものも君が全部持ってて、僕には何もない! つらいよ! 寂しいよ! でも、君に――、全部持ってる君に慰められたって、嫌味なだけでまったくうれしくない!!」
「うん……。……ごめん。私はもっと早く気づけたはずなのに……。ごめん……」
与羽にとって、辰海は賢くてまじめでなんでもできる完璧な存在だった。しかし、その裏でずっとずっと苦しんでいたのだ。
「でも今なら――」
「いまさら謝ったって、僕は――!」
与羽の言葉を辰海は怒声で遮った。
涙があふれる。鼻の奥が痛む。怒りと憎しみに、辰海の手が与羽の首に伸びた。
ダンッ! と。辰海は与羽を床に押し付けた。
「たつ……」
与羽は受け身をとれなかったのか、とらなかったのか。かすれた声で自分の首を絞めようとする幼馴染を呼んだ。
「君さえ、いなければ……」
見下ろした与羽の顔に、ぽたぽたと澄んだしずくが落ちるのが見えた。指に力をこめれば、首筋を通して与羽の鼓動を感じる。
「ごめんな」
与羽の両手が辰海に伸びた。白い首を撫で、そっとほほへ。辰海の顔を包み込んだ与羽の手に、涙が伝った。
「私……、もしかしたら、知っとったんかもしれん」
与羽が小さくつぶやいた。その目は後ろめたそうに辰海からそらされている。与羽は、もしかしたら辰海の裏にある苦しみにずっと気づかないふりをしていたのかもしれない。与羽の目や髪と自分の容姿を比べる辰海を。友人と話す与羽の隣で愛想笑いを浮かべる辰海を。卯龍に甘える与羽をうらやましそうに見る辰海を。全部全部、知っていて気づかないふりをしていたのかもしれない。自分の楽しさが優先で、隣にいてくれた辰海と向き合えていなかったのかもしれない。
「私に、辰海を心配する資格なんかないね……」
辰海のほほを撫でる与羽の手に、力はこもっていない。全く抵抗を見せない与羽は、辰海がその気になれば簡単に絞め殺せてしまうだろう。
「与羽……」
しかし、辰海の手にも力がこもっていなかった。いや、力をこめようとはしているのだ。しかし、どれだけ指に力を入れても、与羽の首を締めることはできなかった。ただ、与羽の鼓動を強く感じ取るだけ。
「君が、憎いのに……」
代わりに、辰海は自分の額を与羽の額に押し付けた。強く。強く。頭が痛む。同様の痛みを与羽も感じているだろう。
――君が、憎いのに、好きなんだ。
辰海の体が小さく動いた。与羽の「大好き」と言う単語に心を乱されたのだ。与羽の「好き」は、辰海が与羽に抱いている好意とは違うもの。そうわかっていても、嬉しかった。そして、彼女の友愛が恨めしかった。
「けど、辰海がやっぱり話したくないなら、もう聞かん。二度と」
辰海は古狐で、与羽は中州城で。他人になって生きるのだ。与羽はその覚悟をしてきた。
「僕を脅すの?」
辰海の顔は何かに耐えるように歪んでいた。
「違う。ただ、辰海が話したがらんから……」
「僕が悪いって、そう言いたいわけだ」
冷たい言葉に、与羽は眉尻を下げた。
「辰海、私は聞きたいし、話し合いたいってずっと思っとる」
辰海の手を取ろうとした与羽の手はすぐに払われた。
「辰海。辰海は私のこと嫌いなん?」
「……嫌いだよ」
答える辰海の顔はやはりひどく歪められていて。
「なんで?」
「君は、僕が欲しかったものを全部持ってるから」
龍の印も、父親の愛情も、親しい仲間も、太陽のような笑顔も。
「……そうよな。私、実は知っとる。辰海が自分で自分を苦しめとること。間違っとるって自分でもわかっとるのに、それを受け入れられんこと。本当は卯龍さんにもっと愛されたいこと。あとたぶん、目の色とか龍の名残を受け継げなくて悩んどること。全部アメや太一や卯龍さんから聞いたし、気づいとる」
容姿のことは今まで誰にも言わなかった。それでも、与羽は察していたらしい。
「辰海が苦しむことなんかないよ。辰海は賢いから、間違っとってもいつかは直せると思うし、私は気にしとらん。卯龍さんは心から反省して、辰海をもっともっと大切にしたいって言っとったよ。目の色にしても、私は辰海の目の色大好きよ。見た目なんて関係ない。色なんかなくても、辰海は古狐の跡取りじゃん」
与羽が再び辰海に触れてくる。やさしい声が染み渡る。そうだ。こうやって認めてもらいたかったのだ。ただ、相手が与羽じゃなければ。すべての元凶じゃなければ。
「うるさいな……」
辰海はうなった。
「恵まれた君にはわからない」
「……そうかもしれん。そうかもしれんけど」
「いい加減気づいてよ! 僕は君みたいにできた人間じゃないんだよ!」
与羽がやさしければやさしいほど、辰海はみじめになっていくのだ。
「僕は出来損ないなんだよ!」
今まで心に秘め続けていた言葉が叫びになって飛び出した。与羽が褒めれば褒めるほど、辰海は苦しくなるのだ。これ以上は耐えきれなかった。
「そんなこと――」
「あるでしょ!」
与羽の言葉を辰海は強く否定した。これ以上与羽の言葉を聞いたら、心が壊れてしまいそうだったから。与羽みたいになりたいのに、なれない。その違いを強く感じてしまうから。
「僕は古狐の目の色を継いでない。僕には目の色も、髪の色も、龍鱗の跡も、龍の名残が何もない!」
辰海の容姿は父親とよく似ていると思う。しかし、それだけではだめなのだ。
「古狐が代々継いできた龍の加護を僕が消したんだよ。そんなの、許されるわけない。口にしないだけで、父上も母上も、周りの人もみんなそう思ってる」
「……私はそんなこと全然気にしとらん」
「それは君が龍の名残を濃く残してるからだよ。それこそ、乱舞さん以上に」
与羽のまとう龍の色はとても強い。
「君の色彩が少しでも僕にあれば――。君は紛れもない龍神様の末裔で、父上も母上もみんな僕より君を大切にして、愛してる。君は笑っているだけでいろんな人の中心になれて、みんなが君を助けてくれる」
「それは……。ごめん。でも、私は辰海のこと大切だって思っとる」
「君ひとりと僕の世界全部が釣り合うと思ってるの!?」
怒鳴った。嫉妬に狂ったないものねだり。そうわかっていても、心が痛むのだ。
「……ごめん」
与羽はうつ向いた。
「龍の名残も、友達も、両親の愛情も、全部全部――。僕の大切なものも、僕が欲しかったものも君が全部持ってて、僕には何もない! つらいよ! 寂しいよ! でも、君に――、全部持ってる君に慰められたって、嫌味なだけでまったくうれしくない!!」
「うん……。……ごめん。私はもっと早く気づけたはずなのに……。ごめん……」
与羽にとって、辰海は賢くてまじめでなんでもできる完璧な存在だった。しかし、その裏でずっとずっと苦しんでいたのだ。
「でも今なら――」
「いまさら謝ったって、僕は――!」
与羽の言葉を辰海は怒声で遮った。
涙があふれる。鼻の奥が痛む。怒りと憎しみに、辰海の手が与羽の首に伸びた。
ダンッ! と。辰海は与羽を床に押し付けた。
「たつ……」
与羽は受け身をとれなかったのか、とらなかったのか。かすれた声で自分の首を絞めようとする幼馴染を呼んだ。
「君さえ、いなければ……」
見下ろした与羽の顔に、ぽたぽたと澄んだしずくが落ちるのが見えた。指に力をこめれば、首筋を通して与羽の鼓動を感じる。
「ごめんな」
与羽の両手が辰海に伸びた。白い首を撫で、そっとほほへ。辰海の顔を包み込んだ与羽の手に、涙が伝った。
「私……、もしかしたら、知っとったんかもしれん」
与羽が小さくつぶやいた。その目は後ろめたそうに辰海からそらされている。与羽は、もしかしたら辰海の裏にある苦しみにずっと気づかないふりをしていたのかもしれない。与羽の目や髪と自分の容姿を比べる辰海を。友人と話す与羽の隣で愛想笑いを浮かべる辰海を。卯龍に甘える与羽をうらやましそうに見る辰海を。全部全部、知っていて気づかないふりをしていたのかもしれない。自分の楽しさが優先で、隣にいてくれた辰海と向き合えていなかったのかもしれない。
「私に、辰海を心配する資格なんかないね……」
辰海のほほを撫でる与羽の手に、力はこもっていない。全く抵抗を見せない与羽は、辰海がその気になれば簡単に絞め殺せてしまうだろう。
「与羽……」
しかし、辰海の手にも力がこもっていなかった。いや、力をこめようとはしているのだ。しかし、どれだけ指に力を入れても、与羽の首を締めることはできなかった。ただ、与羽の鼓動を強く感じ取るだけ。
「君が、憎いのに……」
代わりに、辰海は自分の額を与羽の額に押し付けた。強く。強く。頭が痛む。同様の痛みを与羽も感じているだろう。
――君が、憎いのに、好きなんだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる