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不思議倶楽部_立花公平_B1
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不思議倶楽部部室前に立っている立花公平は意を決して、部室のドアを開けると中にいる人物にこう言った。
「クリスタル・キャットを探すぞ!」
「ゴメンね公平、今ちょっと手が離せないの。」
目の前の部長の席に座る、可愛い女子生徒はそういって〈都市伝説〉という言葉を数回咀嚼した後、思い出したかのように、レポート用紙に地域の噂話・内容を記入していく。直ぐ隣のソファーに座る美人は更に酷い、立花公平には一切目を向けず英語の参考書に目を通したまま、微動だにせず終始無言だ。
バン!
「おい、夢見!探すぞオイ!不思議な事を調査する部活だろ。」
部長の席に座るのは篠原夢見、キスを交わした相手を石にしてしまう奇病を抱える少女。ソファーに座るのは宮澤遥、人肉を食らう食人鬼でとてつもない身体能力を持っている女性だ。
「えっとね。実は今月の活動報告書が遅れると色々面倒で、明日手伝ってあげるから、また今度ね。」
まるで玩具屋で駄々をこねる子供に向けた母親の言い訳である。
「もういい、もう頼まん!!一人でやってやる!」
と公平は不思議倶楽部から飛び出した。篠原夢見は立花公平が出ていったドアを眺め、後を追おうか追うまいか迷った。このレポートは明日には完成させられる、その後なら手伝うことも出来る。公平は〈今から探し始める〉のだ予想では情報収集から始めるだろう。重要なのは大事な時に一緒に草の根を分けて、苦楽を共に探してあげることだ。
それに今このレポートを完成させないと反省文やら、部の活動内容詐称の事で、一週間は放課後に自由な時間が持てなくなる。別に、絶対に、全く、公平と一緒にいたいわけではないが、それはあんまりだ、楽しくない。と夢見は考えを巡らす。
「夢見、期限があるものは優先させるべきよ。」
と宮澤遥もこの決定に賛成する。『もちろん期限が無いものの方が、より大切な場合も多いけどね』と小声で付け加えた言葉は、夢見に聞こえない。
つまり二人は立花公平を放置したのだった。
***********************
クリスタル・キャット
クリスタル・キャットにお願いすると願いが叶う。
クリスタル・キャットに出会うとお金持ちになる。
クリスタル・キャットは別の世界に連れていってくれる。
クリスタル・キャットはロボットで目からビームを出す。
それがクリスタル・キャットの噂話のまとめである。
だが全てに共通する部分があった。
クリスタル・キャットは子供にしか見えない。
立花公平がその噂話を聞いたのは昼頃、友達の林武志からである。眼鏡を掛けた友人兼悪友、容姿は標準であるが特質すべきなのは何でも商売に結びつけたがる所だった。
「クリスタル・キャットにお願いすると願いが叶うらしいぜ。」
「クリスタル・キャットねぇ、、」
俺はガラス細工で出来た猫の置物を思い浮かべる。 願いが叶うなんて、そんなの5人の美少女から好意を寄せられる位にあり得ないぞ、と思った。だが同時に、人を石にしてしまう奇病や物凄い馬鹿力の女性もこの世界に実在する事を知っている。
だからこそ、割り切れない。
願いが叶うか、、。
それはつまり欲望の源泉である、お金の匂いをかぎ分ける事が出来る猫がいるとか?
それはつまり人の匂いをかぎ分けて、自分と相性の良い人が分かるとか?
そんな微妙な感じかも知れない、、いや待てよ。
《相性の良い人=仲良くなりやすい=友達になりやすい=恋人になりやすい=結婚しやすい=幸せな家庭=ハッピーエンド》
素晴らしい話ではないか!マイ・スイート・ハニーが簡単に見付けることが出来るぅ、俺は興奮して武志の話を聞いていた。
「もっとも、公平の大切なものっていったら夢見ちゃんしかいないか、青い鳥を探したチルチルミチルにはなるなよな。」
公平の机から尻を下ろし付け加える。
「まぁ見付けたら、出来れば現物が欲しいな。出来なければ写真でも良い。知り合いのツテで高値で売れる。報酬は2割で良いだろう。」
2割かよ!うーんこの。という酸っぱい表情の公平を無視して、自分の机に向かい授業の準備をし始める武志。
青い鳥か、、んなことは分かっている。
日常の中の幸福を噛み締める、それは大切だ。だがその日常の中夢を追いかけることも、幸福の一部の筈だと自分に言い聞かせる。
そしてー
不思議倶楽部の部室を飛び出した俺は、誰か後を追ってこないかチラリと後ろを確認する。追ってこない?!いやいや、立ち上がるまでに時間が掛かっているからな、もうちょっと待とう。
ちょっと掛かりすぎだろ、1分以上経ったぞ。公平はソロリソロリと部室に近付き、大きな窓から不思議倶楽部の中を覗く。夢見は机に向かって、何かを書いている。そしてハルカ先輩はー
?!
ハルカ先輩と目が合う、通じた、通じました。これは見過ごせないよな。ハルカ先輩は俺の方に近付いてくる。そしてー
シャッ。
はい、カーテンで遮られました~。『どうしたんですか?』『いえ、視界に入るから邪魔で』『日差しですか?言ってくれれば私が閉めたのに。』『夢見じゃあ閉められないわ、私でないと。ウフフ。』楽しそうな会話が続く。
「夢見みたいな奴に頼ろうとした俺が馬鹿だった。不思議倶楽部の部長が部員だけに調査させるって、どんだけだよ。まさか俺だけに探させて、後で自分の手柄にする気なのか。腹黒過ぎるんだよアイツは。」
こうなったら俺の人徳を持って友達を集めて人海戦術でクリスタル・キャットを探そう!
、、、
、、、いや。
自分の友達にしても、ほとんどは部活を一生懸命やっている。クリスタル・キャットの手伝いを願い出たら、爽やかに、殴られ、蹴られ、唾を吐かれ、『消えろ蛆虫が!』と暖かい声援を送ってくれるだろう。手伝いを申し込むのは悪い、止めておこう。
「仕方がない、一人で探すか。」
武志から色々と情報は貰っているが、もしクリスタル・キャットが生き物じゃなく、幽霊の類いならこれは俺の手に余る。それに俺は妖怪ハンターでもない。クリスタル・キャットは生物であるとの大前提でないと話が進まない。
さて子供にしか見えないのは重要なので記憶しておくとして、大人になると見えなくなる理屈が分からない。、、いや簡単か?
当面の問題だが、どの場所がクリスタル・キャットを発見する確率が高いのかだ。流石にやたらめったら探しても見つからないのは目に見えている。先ずは情報の発信源を特定して、目撃したのか、創作なのかをハッキリさせた方がいい。
《情報の特性は発生し、他の要素を含みながら拡散し、記憶され、消える。また情報はその情報源から、近いものに情報を流す。》これが夢見に教わった、噂の特定方法である。つまり情報の広がり方を多方面から考察すれば良いわけだ。
「携帯の検索はっと、、クリスタル・キャット。」
だが、表示されたのは全く関係ない画像や店の名前。どうやらネット上ではそこまで有名では無いらしい。噂の発生源はネットではなく意外に身近な所から発生したのかも知れない。
近所の情報源足る主婦たちに課題授業と称し、地域の噂話のクリスタル・キャットについて聞いて回った。だがクリスタル・キャットの事は知らないらしい。クリスタル・キャットは学校内でちらほら噂になってきているので、学校の生徒、教師、関係者、それらの家族が情報源かも知れない。
遡り方式でやるか。噂を聞いた人物が誰に噂を聞いたのかを遡っていけば情報源まで辿り着く筈だ。だがこれは一般的には使えない方法で、悪意があって噂を流す人がいた場合、嘘が紛れる場合がある。今回は平気だと思いたい。
武志は隣のクラスの東って男子から聞いたらしいが、、よし。
「ああ、その話かそれは同じ部活の、、ホラそこにいる奴から聞いたんだ。」
「ちょぃーす、なんだお前。クリスタル・キャット?それなら付き合ってる彼女から聞いた。なぁなぁ可愛い女を知ってる?直ぐにヤラせてくれる奴がいいな。でもまぁ、アンタモテなさそうだし、、えっのり子?!ふざけんな、あんな歩く狂気要らんわ!」
「クリスタル・キャット?誰に聞いたっけ?あぁ、美術部の眼鏡掛けた豚に聞いたわ~チョウウケるやつぅ。アイツさ真面目に話すけど、話の内容が顔に伴ってなくてギャップ受けなんだぁ。」
「その話か、それなら美術の松橋先生のから聞いたよ。良い人だよ、嫌がらずに何度も丁寧に教えてくれる。僕はさ、要領が悪いから人の何倍も時間が掛かってしまうんだ、、だから、最後には出来ない奴って後回しにされる、でもさ松橋先生は違う。僕はあの人の様な先生になりたいな。」
そして美術室の準備室前。何故か悪いこともしていないのに緊張して、人文字を飲み込む。俺の教師のイメージ像は勉強を押し付けたり注意する印象が強い、要は苦手なのだ。準備室には明かりが付いているため中にいる可能性が高い。
「すいません、松橋先生はいますか?」
スライド式のドアを開ける。中には三十代後半の縦長の顔を持ったヒョロ長い体の男性がそこにはいた、手足が微妙に長い。
「んん、私だが、、君は誰だね、美術部の入部希望者かい?だとしたら大歓迎だ。」
話すとき、体や手を大きく使って体全体で話す人だな。芝居がかってはいないけど、感情と体が連動しているようだ。手には結婚指輪が嵌まっている、妻帯者だ。
「2年の不思議倶楽部の下っ端部員、立花公平ッス。クリスタル・キャットについて聞きたい事があって。」
不思議倶楽部?松橋先生はその言葉に首を傾げた。無理もないうちの部活はマイナーな部活で同好会でも可笑しくはない。だがクリスタル・キャットについては答えてくれる様だ。
「クリスタル・キャットはうちの息子が見たんだよ。」
なるほど、、息子さんか。意外に早く目的の人物に辿り着いたらしい。
「息子が近所の公園で遊んでいると、何やら空間が歪んでいたらしい〈猫の形〉にね。私は子供の頃に噂話で幸運を運ぶクリスタル・キャットという生き物を聞いたことがあってね。息子にその事を話したんだ、これが記憶に残っていてね。私もつい美術部の生徒に口を滑らせたといったところだよ。」
なるほど、だが先生から聞くに幸運がどうかは創作らしい。つまり恋人を見付ける能力とかも怪しいな、、探すの止めようか。
「息子はいるという、だが妻はいないという。話は平行線だが妻は大人だ。最後には猫などいないと押しきられるだろう。」
親のいう事は絶対だ、大人には常識があり子供の常識は曖昧だ。だが時に子供の方が真理に近い時がある、純粋でそれをそのまま信じる心がある。答えだけがあり理論や法則が後になる、答えだけの答えを持つ存在か、、。
「先生はどう思いますか、クリスタル・キャットはいると思いますか?」
松橋先生は左手を右の肘に、右手で顎髭の剃り残しを弄じりながら考えていたが、五秒程で止め頷いた。握り拳を固める。
「立花くんと言ったね、男は時に自分の常識を遥かに越えた存在を信じたい衝動に駆られるものだ!幸せのためでなく、お金のためでなく、名誉のためでもない!!そう漢の浪漫を!!」
俺の体に可燃物、いやガソリンが流れ込む。そして心臓というエンジンを激しく動かす。〈漢の浪漫〉!!女には理解不能な男の原動力、生きる目的、目には見えない男だけの世界。そうだ、漢なら海賊に憧れ、宇宙に憧れ、不思議な現象に憧れる!
「分かります、息子さんに漢の浪漫を伝えたいのですね。クリスタル・キャットはいる、世界は常識のようなちっぽけな物差しでは計れないと。」
ガシィ!
二人は熱く握手をする。そこには馬鹿が二人いた。
翌日の土曜日珍しく、俺は夢見より早く起きて学校へ登校。別に昨日夢見の俺への態度が酷くてイライラしているのではない。俺がクリスタル・キャットの情報を手に入れたと知ったら、多分夢見はクリスタル・キャットを一緒に探し、手柄を独り占めするに決まっている。〈昨日俺が探した苦労〉も知らずにのうのうと遊んでいた奴に手柄などやれない。
それにクリスタル・キャットは我々〈漢浪漫同盟〉のものなのだ。夢見に余計な横槍を入れられたくない。
休み時間に必死に謝ってきたが無駄なことだ。俺の心は固い。
そして午後俺は松橋先生の車に乗せられて、住宅街に来ていた。土曜は授業が半日しか無いので午後は丸々クリスタル・キャット捜索に没頭出来る。
ビビビ。
携帯に着信。送り主は夢見だった。
「何ぃ!晩御飯に好物の唐揚げを作るだと!餌で買収する気か?!汚い奴め。完全に俺の情報を狙っているな、、」
俺は少し迷う、好きな唐揚げかぁ。駄目だイカン!松橋先生の子供はどうなる?クリスタル・キャットは捕まえられず、証拠はなくなり、常識を徹底的に叩き込まれ、いつか常識大魔王となる、、常識だけが全てじゃない!涙と鼻水を飲み夢見に返信する。
〈フフフ唐揚げだと、奴は四天王の中でも最弱。良い気になるなよ。〉っと。
そんな事をしているうちに松橋先生の車が先生の自宅に到着、そして目撃者の幸太郎くんが家から出てきた。幸太郎くんは母親似なのか丸顔の少年で幼稚園に通っている五歳、背は大体1メートル程だろう。
「クリスタル・キャットの話を聞かせてくれないか?」
幸太郎は首を横に振り、彼の言葉でないものを口に出す。
「そんなの、いない。」
どうやら母親は彼の洗脳に成功したらしい。だが彼の話を聞かないと本当なのか、嘘なのかも分からない。ここは俺の巧みな交渉術の出番だな。俺はいつも制服に忍ばせてある手品グッズを漁る。
「クリスタル・キャットはいるよ。何故ならお兄さんは魔法使いだから、色々知っているし、色々出来るんだ。見てて。」
うううっ。鼻を押さえ痛そうに踞る俺。幸太郎は俺の方を不思議そうに見る、よし!鼻にパーティー用の鼻を取り付ける。
「、、は、、鼻が、、」
「??」
「外人になっちゃった、WOW!」
「、、、ツマンナイ。」
凍り付く周囲、あぁ良いだろう。これは戦いだ!男の名誉を賭けた男の戦いだ、笑わせてやる、笑わせてやるぞ!!
と思った時だった。
「幸太郎、嘘はいけない。幸太郎が見たことが本当なら、それは言うべきだ。お母さんが言ったからじゃない、自分が見たことを言うんだ。感じたことを言うんだ。」
先生、父親しているな、、と感心していると幸太郎は下を向いて黙る、そして話始める。
「いるよ、公園で見たんだ。グニャクニャして透明で猫みたいな形だった。時々いるんだ公園に、、。」
重要な部分もあったが先生から聞いた話とほとんどの変わらない内容だった。重要なのは歪んで見えること。
完全に透明の生物は存在しない。皮膚などはともかく、血液が邪魔をするからだ。血液は酸素や栄養を運ぶ重要なもので、人間の血液が赤いのは血中に含まれる呼吸色素のヘモグロビンが赤いかららしい。呼吸色素は他にも昆虫の一部が持つヘモシアニンやヘモバナジン等色々種類がある。
まさか、透明の血液を持った生物が存在するのか?いや内蔵まで透明にするような生体色素の脱色技術はいまだに開発されていない。いやそれよりも重要な事がある。
空間が歪んでいるということだ。ならー
日が登る土曜の午後、クリスタル・キャットの捜索は始まったばかりだった。
「クリスタル・キャットを探すぞ!」
「ゴメンね公平、今ちょっと手が離せないの。」
目の前の部長の席に座る、可愛い女子生徒はそういって〈都市伝説〉という言葉を数回咀嚼した後、思い出したかのように、レポート用紙に地域の噂話・内容を記入していく。直ぐ隣のソファーに座る美人は更に酷い、立花公平には一切目を向けず英語の参考書に目を通したまま、微動だにせず終始無言だ。
バン!
「おい、夢見!探すぞオイ!不思議な事を調査する部活だろ。」
部長の席に座るのは篠原夢見、キスを交わした相手を石にしてしまう奇病を抱える少女。ソファーに座るのは宮澤遥、人肉を食らう食人鬼でとてつもない身体能力を持っている女性だ。
「えっとね。実は今月の活動報告書が遅れると色々面倒で、明日手伝ってあげるから、また今度ね。」
まるで玩具屋で駄々をこねる子供に向けた母親の言い訳である。
「もういい、もう頼まん!!一人でやってやる!」
と公平は不思議倶楽部から飛び出した。篠原夢見は立花公平が出ていったドアを眺め、後を追おうか追うまいか迷った。このレポートは明日には完成させられる、その後なら手伝うことも出来る。公平は〈今から探し始める〉のだ予想では情報収集から始めるだろう。重要なのは大事な時に一緒に草の根を分けて、苦楽を共に探してあげることだ。
それに今このレポートを完成させないと反省文やら、部の活動内容詐称の事で、一週間は放課後に自由な時間が持てなくなる。別に、絶対に、全く、公平と一緒にいたいわけではないが、それはあんまりだ、楽しくない。と夢見は考えを巡らす。
「夢見、期限があるものは優先させるべきよ。」
と宮澤遥もこの決定に賛成する。『もちろん期限が無いものの方が、より大切な場合も多いけどね』と小声で付け加えた言葉は、夢見に聞こえない。
つまり二人は立花公平を放置したのだった。
***********************
クリスタル・キャット
クリスタル・キャットにお願いすると願いが叶う。
クリスタル・キャットに出会うとお金持ちになる。
クリスタル・キャットは別の世界に連れていってくれる。
クリスタル・キャットはロボットで目からビームを出す。
それがクリスタル・キャットの噂話のまとめである。
だが全てに共通する部分があった。
クリスタル・キャットは子供にしか見えない。
立花公平がその噂話を聞いたのは昼頃、友達の林武志からである。眼鏡を掛けた友人兼悪友、容姿は標準であるが特質すべきなのは何でも商売に結びつけたがる所だった。
「クリスタル・キャットにお願いすると願いが叶うらしいぜ。」
「クリスタル・キャットねぇ、、」
俺はガラス細工で出来た猫の置物を思い浮かべる。 願いが叶うなんて、そんなの5人の美少女から好意を寄せられる位にあり得ないぞ、と思った。だが同時に、人を石にしてしまう奇病や物凄い馬鹿力の女性もこの世界に実在する事を知っている。
だからこそ、割り切れない。
願いが叶うか、、。
それはつまり欲望の源泉である、お金の匂いをかぎ分ける事が出来る猫がいるとか?
それはつまり人の匂いをかぎ分けて、自分と相性の良い人が分かるとか?
そんな微妙な感じかも知れない、、いや待てよ。
《相性の良い人=仲良くなりやすい=友達になりやすい=恋人になりやすい=結婚しやすい=幸せな家庭=ハッピーエンド》
素晴らしい話ではないか!マイ・スイート・ハニーが簡単に見付けることが出来るぅ、俺は興奮して武志の話を聞いていた。
「もっとも、公平の大切なものっていったら夢見ちゃんしかいないか、青い鳥を探したチルチルミチルにはなるなよな。」
公平の机から尻を下ろし付け加える。
「まぁ見付けたら、出来れば現物が欲しいな。出来なければ写真でも良い。知り合いのツテで高値で売れる。報酬は2割で良いだろう。」
2割かよ!うーんこの。という酸っぱい表情の公平を無視して、自分の机に向かい授業の準備をし始める武志。
青い鳥か、、んなことは分かっている。
日常の中の幸福を噛み締める、それは大切だ。だがその日常の中夢を追いかけることも、幸福の一部の筈だと自分に言い聞かせる。
そしてー
不思議倶楽部の部室を飛び出した俺は、誰か後を追ってこないかチラリと後ろを確認する。追ってこない?!いやいや、立ち上がるまでに時間が掛かっているからな、もうちょっと待とう。
ちょっと掛かりすぎだろ、1分以上経ったぞ。公平はソロリソロリと部室に近付き、大きな窓から不思議倶楽部の中を覗く。夢見は机に向かって、何かを書いている。そしてハルカ先輩はー
?!
ハルカ先輩と目が合う、通じた、通じました。これは見過ごせないよな。ハルカ先輩は俺の方に近付いてくる。そしてー
シャッ。
はい、カーテンで遮られました~。『どうしたんですか?』『いえ、視界に入るから邪魔で』『日差しですか?言ってくれれば私が閉めたのに。』『夢見じゃあ閉められないわ、私でないと。ウフフ。』楽しそうな会話が続く。
「夢見みたいな奴に頼ろうとした俺が馬鹿だった。不思議倶楽部の部長が部員だけに調査させるって、どんだけだよ。まさか俺だけに探させて、後で自分の手柄にする気なのか。腹黒過ぎるんだよアイツは。」
こうなったら俺の人徳を持って友達を集めて人海戦術でクリスタル・キャットを探そう!
、、、
、、、いや。
自分の友達にしても、ほとんどは部活を一生懸命やっている。クリスタル・キャットの手伝いを願い出たら、爽やかに、殴られ、蹴られ、唾を吐かれ、『消えろ蛆虫が!』と暖かい声援を送ってくれるだろう。手伝いを申し込むのは悪い、止めておこう。
「仕方がない、一人で探すか。」
武志から色々と情報は貰っているが、もしクリスタル・キャットが生き物じゃなく、幽霊の類いならこれは俺の手に余る。それに俺は妖怪ハンターでもない。クリスタル・キャットは生物であるとの大前提でないと話が進まない。
さて子供にしか見えないのは重要なので記憶しておくとして、大人になると見えなくなる理屈が分からない。、、いや簡単か?
当面の問題だが、どの場所がクリスタル・キャットを発見する確率が高いのかだ。流石にやたらめったら探しても見つからないのは目に見えている。先ずは情報の発信源を特定して、目撃したのか、創作なのかをハッキリさせた方がいい。
《情報の特性は発生し、他の要素を含みながら拡散し、記憶され、消える。また情報はその情報源から、近いものに情報を流す。》これが夢見に教わった、噂の特定方法である。つまり情報の広がり方を多方面から考察すれば良いわけだ。
「携帯の検索はっと、、クリスタル・キャット。」
だが、表示されたのは全く関係ない画像や店の名前。どうやらネット上ではそこまで有名では無いらしい。噂の発生源はネットではなく意外に身近な所から発生したのかも知れない。
近所の情報源足る主婦たちに課題授業と称し、地域の噂話のクリスタル・キャットについて聞いて回った。だがクリスタル・キャットの事は知らないらしい。クリスタル・キャットは学校内でちらほら噂になってきているので、学校の生徒、教師、関係者、それらの家族が情報源かも知れない。
遡り方式でやるか。噂を聞いた人物が誰に噂を聞いたのかを遡っていけば情報源まで辿り着く筈だ。だがこれは一般的には使えない方法で、悪意があって噂を流す人がいた場合、嘘が紛れる場合がある。今回は平気だと思いたい。
武志は隣のクラスの東って男子から聞いたらしいが、、よし。
「ああ、その話かそれは同じ部活の、、ホラそこにいる奴から聞いたんだ。」
「ちょぃーす、なんだお前。クリスタル・キャット?それなら付き合ってる彼女から聞いた。なぁなぁ可愛い女を知ってる?直ぐにヤラせてくれる奴がいいな。でもまぁ、アンタモテなさそうだし、、えっのり子?!ふざけんな、あんな歩く狂気要らんわ!」
「クリスタル・キャット?誰に聞いたっけ?あぁ、美術部の眼鏡掛けた豚に聞いたわ~チョウウケるやつぅ。アイツさ真面目に話すけど、話の内容が顔に伴ってなくてギャップ受けなんだぁ。」
「その話か、それなら美術の松橋先生のから聞いたよ。良い人だよ、嫌がらずに何度も丁寧に教えてくれる。僕はさ、要領が悪いから人の何倍も時間が掛かってしまうんだ、、だから、最後には出来ない奴って後回しにされる、でもさ松橋先生は違う。僕はあの人の様な先生になりたいな。」
そして美術室の準備室前。何故か悪いこともしていないのに緊張して、人文字を飲み込む。俺の教師のイメージ像は勉強を押し付けたり注意する印象が強い、要は苦手なのだ。準備室には明かりが付いているため中にいる可能性が高い。
「すいません、松橋先生はいますか?」
スライド式のドアを開ける。中には三十代後半の縦長の顔を持ったヒョロ長い体の男性がそこにはいた、手足が微妙に長い。
「んん、私だが、、君は誰だね、美術部の入部希望者かい?だとしたら大歓迎だ。」
話すとき、体や手を大きく使って体全体で話す人だな。芝居がかってはいないけど、感情と体が連動しているようだ。手には結婚指輪が嵌まっている、妻帯者だ。
「2年の不思議倶楽部の下っ端部員、立花公平ッス。クリスタル・キャットについて聞きたい事があって。」
不思議倶楽部?松橋先生はその言葉に首を傾げた。無理もないうちの部活はマイナーな部活で同好会でも可笑しくはない。だがクリスタル・キャットについては答えてくれる様だ。
「クリスタル・キャットはうちの息子が見たんだよ。」
なるほど、、息子さんか。意外に早く目的の人物に辿り着いたらしい。
「息子が近所の公園で遊んでいると、何やら空間が歪んでいたらしい〈猫の形〉にね。私は子供の頃に噂話で幸運を運ぶクリスタル・キャットという生き物を聞いたことがあってね。息子にその事を話したんだ、これが記憶に残っていてね。私もつい美術部の生徒に口を滑らせたといったところだよ。」
なるほど、だが先生から聞くに幸運がどうかは創作らしい。つまり恋人を見付ける能力とかも怪しいな、、探すの止めようか。
「息子はいるという、だが妻はいないという。話は平行線だが妻は大人だ。最後には猫などいないと押しきられるだろう。」
親のいう事は絶対だ、大人には常識があり子供の常識は曖昧だ。だが時に子供の方が真理に近い時がある、純粋でそれをそのまま信じる心がある。答えだけがあり理論や法則が後になる、答えだけの答えを持つ存在か、、。
「先生はどう思いますか、クリスタル・キャットはいると思いますか?」
松橋先生は左手を右の肘に、右手で顎髭の剃り残しを弄じりながら考えていたが、五秒程で止め頷いた。握り拳を固める。
「立花くんと言ったね、男は時に自分の常識を遥かに越えた存在を信じたい衝動に駆られるものだ!幸せのためでなく、お金のためでなく、名誉のためでもない!!そう漢の浪漫を!!」
俺の体に可燃物、いやガソリンが流れ込む。そして心臓というエンジンを激しく動かす。〈漢の浪漫〉!!女には理解不能な男の原動力、生きる目的、目には見えない男だけの世界。そうだ、漢なら海賊に憧れ、宇宙に憧れ、不思議な現象に憧れる!
「分かります、息子さんに漢の浪漫を伝えたいのですね。クリスタル・キャットはいる、世界は常識のようなちっぽけな物差しでは計れないと。」
ガシィ!
二人は熱く握手をする。そこには馬鹿が二人いた。
翌日の土曜日珍しく、俺は夢見より早く起きて学校へ登校。別に昨日夢見の俺への態度が酷くてイライラしているのではない。俺がクリスタル・キャットの情報を手に入れたと知ったら、多分夢見はクリスタル・キャットを一緒に探し、手柄を独り占めするに決まっている。〈昨日俺が探した苦労〉も知らずにのうのうと遊んでいた奴に手柄などやれない。
それにクリスタル・キャットは我々〈漢浪漫同盟〉のものなのだ。夢見に余計な横槍を入れられたくない。
休み時間に必死に謝ってきたが無駄なことだ。俺の心は固い。
そして午後俺は松橋先生の車に乗せられて、住宅街に来ていた。土曜は授業が半日しか無いので午後は丸々クリスタル・キャット捜索に没頭出来る。
ビビビ。
携帯に着信。送り主は夢見だった。
「何ぃ!晩御飯に好物の唐揚げを作るだと!餌で買収する気か?!汚い奴め。完全に俺の情報を狙っているな、、」
俺は少し迷う、好きな唐揚げかぁ。駄目だイカン!松橋先生の子供はどうなる?クリスタル・キャットは捕まえられず、証拠はなくなり、常識を徹底的に叩き込まれ、いつか常識大魔王となる、、常識だけが全てじゃない!涙と鼻水を飲み夢見に返信する。
〈フフフ唐揚げだと、奴は四天王の中でも最弱。良い気になるなよ。〉っと。
そんな事をしているうちに松橋先生の車が先生の自宅に到着、そして目撃者の幸太郎くんが家から出てきた。幸太郎くんは母親似なのか丸顔の少年で幼稚園に通っている五歳、背は大体1メートル程だろう。
「クリスタル・キャットの話を聞かせてくれないか?」
幸太郎は首を横に振り、彼の言葉でないものを口に出す。
「そんなの、いない。」
どうやら母親は彼の洗脳に成功したらしい。だが彼の話を聞かないと本当なのか、嘘なのかも分からない。ここは俺の巧みな交渉術の出番だな。俺はいつも制服に忍ばせてある手品グッズを漁る。
「クリスタル・キャットはいるよ。何故ならお兄さんは魔法使いだから、色々知っているし、色々出来るんだ。見てて。」
うううっ。鼻を押さえ痛そうに踞る俺。幸太郎は俺の方を不思議そうに見る、よし!鼻にパーティー用の鼻を取り付ける。
「、、は、、鼻が、、」
「??」
「外人になっちゃった、WOW!」
「、、、ツマンナイ。」
凍り付く周囲、あぁ良いだろう。これは戦いだ!男の名誉を賭けた男の戦いだ、笑わせてやる、笑わせてやるぞ!!
と思った時だった。
「幸太郎、嘘はいけない。幸太郎が見たことが本当なら、それは言うべきだ。お母さんが言ったからじゃない、自分が見たことを言うんだ。感じたことを言うんだ。」
先生、父親しているな、、と感心していると幸太郎は下を向いて黙る、そして話始める。
「いるよ、公園で見たんだ。グニャクニャして透明で猫みたいな形だった。時々いるんだ公園に、、。」
重要な部分もあったが先生から聞いた話とほとんどの変わらない内容だった。重要なのは歪んで見えること。
完全に透明の生物は存在しない。皮膚などはともかく、血液が邪魔をするからだ。血液は酸素や栄養を運ぶ重要なもので、人間の血液が赤いのは血中に含まれる呼吸色素のヘモグロビンが赤いかららしい。呼吸色素は他にも昆虫の一部が持つヘモシアニンやヘモバナジン等色々種類がある。
まさか、透明の血液を持った生物が存在するのか?いや内蔵まで透明にするような生体色素の脱色技術はいまだに開発されていない。いやそれよりも重要な事がある。
空間が歪んでいるということだ。ならー
日が登る土曜の午後、クリスタル・キャットの捜索は始まったばかりだった。
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
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