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不思議倶楽部_篠原夢見_C2
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歓楽街の裏道人気の無い道を歩く真面目な大学生とそれに支えられながら歩く私。電話boxはまだ見付からないのだろうか、目眩がして段々と意識が朦朧としてきた。
「、、見ちゃん?」
「??」
歩いていると突然男性の通行人に声を掛けられる。声が聞こえ辛かったけど自分の名前が呼ばれたような気がした。
「何だテメェ!」
真面目な大学生の声が昂る。もしかして絡まれたのだろうか?姿を確認しようとすると大学生が私を庇うためか、私の頭を覆う手で全く見えない。
「これは俺の女だ!何か文句あるのかよ!!」
「すいません、知人に似ていたので。失礼しました。」
彼女?私が大学生の?通行人は慌てて何処かに行ってしまった。後ろ姿は公平の友人の〈林武志〉君に似ていた様な気がしたけど気のせいだろう。
「ごめんね夢見ちゃん。変な奴に絡まれちゃったから恋人って事にしないとアイツ諦めそうに無かったからさ。」
「いぇ~。うぅ~。」
頭が痛く、気持ちの悪さを何とか我慢する。
「何、夢見ちゃん疲れちゃった?」
「はぃ~すこし~つかれましたぁ~。」
彼は笑うと良い場所があると言って、建物に入っていく。私もフラフラで彼に支えられているため後を追うしかない。
カチャカチャ。ガチャ
ドアを開けるとかなり広い部屋にベッドがあった。真面目な大学生のはベッドに私を座らせると立ち上がり、シャワーを浴びるか?と聞いてきた。
何故ここでシャワーを浴びないといけないのだろう?変な人だと思いながら私は誘いを断わると、大学生は私の両肩をガッチリとおさえ、押し倒す。
顔と顔が当たる。いきなり何をするのか??!
私は身体をねじって抵抗する。なんなんだ、この人は?!変態だ!腹部や足を蹴るが何故か上手くいかないし、威力も無い気がする。それに男性の力はかなり強く、覆い被さるようにされたら逃げることも出来ない。
大学生は私の胸に下げている卵のアクセサリーを無造作に手に取り匂いを嗅ぐ。
「何だかコレ嗅ぐとさ、気分良くなるねぇ。さっきは気が付かなかったけど。また嗅ぎたくなるし、、もしかしてぇこの中身。」
クンクン嗅ぐ、見た目にも興奮してきてる。卵型のアクセサリーを床に放り投げる、その顔は先程の真面目な雰囲気とは一変して凶悪犯のように歪んでいた。
抱き付かれる事で、この後何をされるのかをハッキリと悟り私は更に激しく抵抗をする。
そして偶然、爪が彼の頬を掠り傷を付ける。
ガリ。
「くっ!、、この!めんどくせぇな!!!」
パン!!パン!
「本当の目的はコレで、どうなるか知ってたんだろうが。土壇場でビビってんじゃねぇよ!クソ女が!!」
頬を叩かれて半分酔いが醒めた私。鼻に当たったのか、鼻から出血する。未成年の学生にお酒を飲ませて性的暴行を行おうとする彼から逃げないとこの後何をされるのか分からない、しかし私の力では男性の力には勝てないのだと冷静になる。
頭をフル回転させる。結局はアレしかない。
大学生は私が大人しくなったことを良いことに息を荒くして、服を乱暴に脱がせつつ勢いに任せて顔を私に近付けてくる。
「私、性病ですよ。」
「へっ。」
「分かってるのは淋病とエイズですけど、それ以外にも血液や唾液で感染するそれよりも危険な難病も患っています。」
大学生は嘘なのかを判断するために私の目を見る。大丈夫、嘘をつくときは本当の事と嘘を混ぜれば相手には分からない。私の病気に性病を付け足すだけで良い。
「私の前の彼は不特定多数の女性と交際していて、そのとき感染しました。病気が分かっても、お金がなくて親にも言えないから放置していたら重症化したんです。」
「、、、。」
「退いてください、薬飲まないと。」
私は動きが止まった大学生の手を離れて、鞄から念のために持ってきた〈風邪薬〉二錠を取り出すと大学生が薬に詳しくないようにと祈りながら、ミネラルウォーターでそれを流し込む。
「嘘だと思うのなら、のり子に聞いてください。彼女なら知っているはずですよ。」
連絡が取れる筈がない。のり子も同じ様な目に合っている可能性もあるし、この時間帯はのり子は間違いなく寝ている、やり取りをするのにも時間が掛かるだろう。私が欲しいのは〈間〉だ、勢いを殺すための、冷静になるための。
大学生もお酒を飲んでいる為か話を信じたようだ。俯いて頭を掻き苛立ち始める。
「、、ふざけんなよ、畜生!いくら掛かってると思ってんだよ!!手にお前の鼻血ついてるし。エイズとかよりも酷い病気ってなんだよ、人に接触感染するもんじゃねぇだろうな。【汚ぇ!】」
〈汚ぇ!〉
、、え、、。キナタイ、、。
大学生は全身を洗うためか、私の血の付いた手を大量のティッシュで拭うと、ガラス張りの洗面所に直行して私に触れた手や腕を念入りに石鹸で洗い始める。
「マジで感染したらどうすんだよ、オメー。マジ最悪、体に菌とか入ったら責任とれよ。大体他人に迷惑掛かるから、お前みたいな奴は外とか出るんじゃねぇよ!!」
彼は走ってきて、苛立ちと共に拭いたタオルを私に投げつける。
ガサゴソ。
呆然とするしかない私。私のハンドバッグから財布を取り出すと紙幣を抜き取る。私はその行為を理解できずに見つめる。
「足りねぇ、オメー全然金もってねぇのかよ、ホテル代すらねぇし。あー苛つくわ。ん。」
床に落ちている卵型のアクセサリーを持ち上げ匂いを嗅ぐ。
「たいした金にはならないだろうけど、これも没収だ。感謝しろよ、お前みたいなバイ菌が俺みたいな男とここに来れることなんて一生に━━なんだぁ??。」
始めに異変に気が付いたのは彼だ。私の血液が触れた手から顔まで蕁麻疹が現れて動揺し始めた。
「あぁぁ、、なんだ!何だ!これ!!お前の病気か?!感染したのかぁ?!!手が痛ぇ!てぇぇぇ。」
腕を押さえながら、転げ回る大学生。
とても普通とは思えない、助けないと!
私は頭を切り替えて彼を助けに近寄ろうとする。
「触るんじゃねぇ!この病気持ちが!!」
バシィ!
〈ビョウキモチ〉ガ!
立ち尽くす。
病気持ち、、そうだ、、私は人が死んでしまう〈病気持ち〉なんだ。
家族との団欒。意地悪な公平・優しいパパさん・強くて素敵なママさん。
今まで立花家の人達があまりにも優しくて、普通で、温かくて忘れていた、、私は、、*殺しの☆を持つ〈病気持ち〉なんだ。何でこんな事を、簡単で分かりやすい記憶に蓋をしていたんだ。
━━━苦しい。
私は手足の自由が利かなくなり、、俯せに倒れる。
「あぁぁ!!誰かぁ、だれか助けてぇ!!」
全身が蕁麻疹が出来てブツブツだらけの大学生は叫びながらラブホテルの部屋から逃げて行った。
私は倒れたまま、手足すら動かせずに頸だけで周りを見渡す。
床には卵型のアクセサリーが転がっていた。彼の突然の蕁麻疹、私の〈病〉に似た症状がいきなり発現した理由。
【肌身離さず持っていると願いが叶う】
【もしかりにこの粉が体に変化をもたらす物質で鼻腔から体内に侵入した場合どんな影響を体にもたらすのか━】
思い込みで体を変化させるアクセサリー。
「この、、アクセサリーの所為なの、、?」
大学生は何度もこのアクセサリーの匂いを嗅いでいた。私も風邪気味で効果が薄かったとはいえ。身に付けていた。そして、頭の片隅にあった病気を思いだし、同じ様な症状が発症した。
、、だとして、この状況。変えられる手段は?
思い込みが重要なら、〈病気〉何て無いと思い込めば、、。
、、無理。
だって、どうやったって〈病気持ち〉というイメージが頭から離れず、グルグルと考えてしまう。私の中でこのイメージは絶対で無くせるものではないのだ。
「、、す、、けて、、こう、、へい、、。」
小さい頃、、公平は私を守ってくれたんだ。
バタ、バタン。
足音が聞こえる。
「夢見ぃ!!」
公平の声が聞こえる。
ドタドタ、バタバタ!
コウヘイがマモッテクレル、、。
『、、あぁ、武志!いた、サンキュー!大学生が上から慌てて出てきたから部屋が分かっただけだ、鍵も開いていた。バカいえ誰が〈夢見〉の心配なんかするか、俺は大学生がボコボコにされるのを見ていられないからだなぁ、、。オイ笑うな、切るな!ったく。』
気が付くとそこはベンチだった。公平が私の顔を覗く。
「う、、へい、、。」
「何があったんだよ。ラブホテルの床で寝るなんて。」
「、、。」
時間が経過したからなのか先程よりは体調は良い。でもまだ体が治ったとはいえず上手く歩けそうにない。
「兎に角、酒飲んでいるみたいだから警察や病院は行けないし、酔いが醒めるまでは家には帰れないぞ、、。」
ハァハァ。
苦しい呼吸がしづらい、、でも、、公平には言わない。心配を掛けたくない。それに元々は私が合コンに行ったからだ。気付かれない様に経緯を話す。
「私の付けていた卵形のアクセサリー、、あれは多分〈考えていること〉を現実だと体に錯覚させる事が出来るんだと思う。、、さっき逃げて行った大学生は、、、私が病気だって言ったから。それが影響して全身に蕁麻疹が、、でたんだと思う。」
「、、卵形のアクセサリー?、、あったっけ?」
公平は本当に分かっていなさそうだ。どうでもいいと、私の目の前に後ろ向きに屈んだ。私をオンブする気のようだ。
私は戸惑う。
「公平、、止めた方がいいよ。私、、【汚い】から。」
驚いた表情で私を見る公平。
「汚い?お前が?」
「だって、さっきの大学生が、、」
「ブッ!あっはははっ!なんだよそりゃ。腹痛ぇ。」
公平は右手を突き出す。グッドサインを作り自分に向けた。
「夢見、俺に比べればお前はまだまだヒヨッ子だ!この前俺はハルカ先輩にブッ飛ばされた時、三週間マトモに風呂に入らなかったからな!今だって泥だらけで汗臭い俺とお前とじゃ汚さの度合いが違うぜ、がははっ、まいったかよ夢見!」
公平は背中をまた見せる。
「つまり拒否するってことは、〈綺麗な夢見〉は〈汚い背中の俺〉に背負われたくないということになるな。どうすんだ、乗らないと純真無垢な俺のガラスのハートが傷付くからな。しかもこの体勢かなり腰に負担掛かるんですけど!乗って乗ってよ、マジで俺が泣けてくるから!!」
「公平、、。」
私は公平の背中に乗る、湿ってる。まだそこまで暑くない季節、ここまで汗をかくことは殆んどない〈あちこち走り回る〉事をすれば別だけど。
真っ暗な道、隣の駅まで歩くという公平。
車のライトと所々にある街灯の明かりが夜道を照らす幻想的な世界。
公平の歩調に合わせて私の体が上下する。
「病気の事言ったのか?」
「、、ちょこっとだけ、、でも駄目だね、、普通こんなこと言ったら、嫌われちゃうし気を使われちゃう。」
暫しの沈黙、主要道路を走る車のライトが私達を照らす。
「、、知って離れるなら、そいつには夢見個人よりも病気に関心が有るんだろ。ムカつくだろうけど、人それぞれの価値観ってやつだ。」
「ははっ、、そうだね。」
悔しい、でもそれが現実なんだ。私は額を公平の背中に付ける、こうすれば絶対に誰にも今だけは泣いてるって分からないから。
「、、俺は。」
「?」
「夢見の病気なんて、今まで忘れてたけどな。」
笑い飛ばしたような公平の言葉。
「、、夢見、お前は、、お前だろ。病気は只の一部であって、病気そのものがお前じゃない。俺にとって夢見が夢見である部分は、、すごく大きいぞ。」
震える体、時々落ちる水滴、よく分からない感情。全部公平の背中がそれ受け止めてくれた。ただそれだけだ。
それだけでいつの間にか〈体の変調〉は治まっていた。
何故、この時間となりの駅に公平が偶然いたのか、ホテル内に侵入できたのか、、それは聞く必要もない事だ。重要な事、それは公平が私を助けたという結果だけ。
まだ半分も残っている帰り道、公平の体力の限界まで体が治ったことを言わなかった私。もう少しオンブをしてもらいたかったのか、今日の仕返しの為だったのか、それは私にも分からなかった。
*
裏通り痛さで走り回る大学生。
「助けてぇー、、??」
時々ある街灯とまばらな帰宅者。何故か大学生は人気の無い路地にどんどん進み、同時に徐々に走りが遅くなり・歩き・止まる。
何故止まったか、大学生は分からなかった。
ただ足が動かない〈金縛り〉に合ったように。
額には脂汗、〈生物の本能が告げている〉動けば殺される、と。
「ココなら防犯カメラも無いし丁度良いわね。」
真後ろから女の声がする、綺麗な透明な声だった。
「別に貴方をどうこうするつもりはない、【今】はね。これが気になって付いてきただけなの。」
大学生のポケットに綺麗な女の手が差し込まれる。そこから取り出したのは携帯電話と卵形のアクセサリーだ。女の位置は大学生に密着しているのか目の端でも捉えられず耳元で囁きが聞こえる。
「夢見の携帯電話は返して貰うわね。後貴方の携帯は、、。」
メキャ!メキメキ。
まるで紙を握り潰したように真横に持ち上げられた携帯電話が粉砕される。携帯電話の強度は分からない、だが一般人が簡単に握り潰せるものなのか?恐怖で呼吸が荒くなる。
「貴方には二つの罪がある。一つは夢見を傷付けた事。そしてもう一つは貴方のような下衆が生きて呼吸をしてるという事。」
大学生の〈股間〉に手が添えられる。
「もし次に〈このような事があれば殺す〉、、と言っても、貴方馬鹿そうだしこんなことを言っても忘れるでしょうから!」
グシャリ!
何かが握り潰される、多分それは━━━
あまりの激痛に泡を吐いて気絶する大学生。救急車がやって来る時には、彼の近くにはもう誰もいなかった。
*
日曜日。
深夜に帰宅した私と公平は当然の如く、物凄い剣幕のママさんに怒られた。
ううっ、もうしませ~ん。〈泣き〉
何だかんだで、朝にはママさんの機嫌も治り。ポストには私の携帯が投函されていた、〈カラオケボックス〉にいた誰かが届けてくれたかもしれない。
午後のり子が謝罪を兼ねて、立花家にやって来た。
合コンにやって来たK大学生の人達は実は三流大学生で、店ぐるみで女性に強いお酒を飲ませて、無理矢理暴行する、、とにかく最低な人達だったということを教えてくれた。
皆は合コンの時、それぞれ一人の大学生と一緒に店を出た。のり子はすぐ大学生が〈大事な用事がある〉と別れたらしいが、他の友達は裏のホテルに向かっていると知り、引き返す。
「いんこーじょーれいってヤツよ!そういうことをするには恋愛関係じゃないといけないわけ。出会ってすぐよあり得ないでしょ。」
「淫行条例、、そうだね。」
確か18歳未満の男女と性行為を禁止する法律だ。
そこからがのり子の武勇伝の始まりだった。
まだ意識がしっかりしていた友達から連絡をもらい、ラブホテルに突撃。友達に襲い掛かろうとする男にのり子の空手パンチや空手キックが炸裂する。次々に仲間を助けて人数を増やすのり子達、最終的な交渉がなされ、落とし所は警察に言われたくなければ〈口止め料〉を払って今後関わらないという条件を相手に飲ませたらしい。
結局私は見付けられず朝まで探ていたところ、今朝携帯で連絡が入り無事を確認できたとのこと。
「ほんとごめん!いやー、何かイケメン多かったし性格も悪くないかな?と思っちゃって。後お金の件だけど━━━」
遥先輩から連絡が来る。内容は〈また夢見とキスしたいわ〉の言葉と、遥先輩の色っぽいキスショット写真、、本当に何がしたいのか分からない。死んでしまうと何度も言っているのに、苦笑するしかない私。
「私は今回思ったのよ。男は顔じゃない!学歴でもない!!そう誠実さよ。私のために必死に働きお金を稼ぐ夫、もちろん家事・育児もしっかりやってもらうわ。毎月のプレゼントと毎年の海外旅行は欠かせないわね。あっ、エステよエステ!何か肌に良いらしいじゃない!!毎週行ってみたいわ。妻が綺麗になるのよ、喜んで協力してくるはずよ。あーいいわぁ。あとねー」
誠実さというよりは経済力の方が必要な男性の条件を聞きながら、私は今回合コンに行ったことで得た唯一の成果を見る。
庭で草むしりをする公平。かなり疲れているようだ、しかし鬼の形相のママさんの監視は厳しく休憩を許さない。
後でジュースとケーキを持って行ってあげよう。
頑張ってと心で声援を送り、私はのり子の〈未来の夫〉話に同意するのだった。
***********************
レポート
【夢見る卵】
持ち歩いていると考える事を実現させることが出来る卵形のアクセサリー。白い部分は南米に存在する麻薬成分が含まれる動物・植物・鉱物を混合したもので、昔はシャーマンなどが部族内で儀式用に使用したもの。強力な催眠効果があり、自己暗示や他人に暗示をかける際効果を発揮する。吸引しすぎるとアレルギーの誘発、倦怠感やからだの不調、最悪の場合死に至る事もある。
願いを叶える効果については不明であり。現在このアクセサリーが実在するかを含め、確認中である。
筆者:超常現象研究家_立花公平
「、、見ちゃん?」
「??」
歩いていると突然男性の通行人に声を掛けられる。声が聞こえ辛かったけど自分の名前が呼ばれたような気がした。
「何だテメェ!」
真面目な大学生の声が昂る。もしかして絡まれたのだろうか?姿を確認しようとすると大学生が私を庇うためか、私の頭を覆う手で全く見えない。
「これは俺の女だ!何か文句あるのかよ!!」
「すいません、知人に似ていたので。失礼しました。」
彼女?私が大学生の?通行人は慌てて何処かに行ってしまった。後ろ姿は公平の友人の〈林武志〉君に似ていた様な気がしたけど気のせいだろう。
「ごめんね夢見ちゃん。変な奴に絡まれちゃったから恋人って事にしないとアイツ諦めそうに無かったからさ。」
「いぇ~。うぅ~。」
頭が痛く、気持ちの悪さを何とか我慢する。
「何、夢見ちゃん疲れちゃった?」
「はぃ~すこし~つかれましたぁ~。」
彼は笑うと良い場所があると言って、建物に入っていく。私もフラフラで彼に支えられているため後を追うしかない。
カチャカチャ。ガチャ
ドアを開けるとかなり広い部屋にベッドがあった。真面目な大学生のはベッドに私を座らせると立ち上がり、シャワーを浴びるか?と聞いてきた。
何故ここでシャワーを浴びないといけないのだろう?変な人だと思いながら私は誘いを断わると、大学生は私の両肩をガッチリとおさえ、押し倒す。
顔と顔が当たる。いきなり何をするのか??!
私は身体をねじって抵抗する。なんなんだ、この人は?!変態だ!腹部や足を蹴るが何故か上手くいかないし、威力も無い気がする。それに男性の力はかなり強く、覆い被さるようにされたら逃げることも出来ない。
大学生は私の胸に下げている卵のアクセサリーを無造作に手に取り匂いを嗅ぐ。
「何だかコレ嗅ぐとさ、気分良くなるねぇ。さっきは気が付かなかったけど。また嗅ぎたくなるし、、もしかしてぇこの中身。」
クンクン嗅ぐ、見た目にも興奮してきてる。卵型のアクセサリーを床に放り投げる、その顔は先程の真面目な雰囲気とは一変して凶悪犯のように歪んでいた。
抱き付かれる事で、この後何をされるのかをハッキリと悟り私は更に激しく抵抗をする。
そして偶然、爪が彼の頬を掠り傷を付ける。
ガリ。
「くっ!、、この!めんどくせぇな!!!」
パン!!パン!
「本当の目的はコレで、どうなるか知ってたんだろうが。土壇場でビビってんじゃねぇよ!クソ女が!!」
頬を叩かれて半分酔いが醒めた私。鼻に当たったのか、鼻から出血する。未成年の学生にお酒を飲ませて性的暴行を行おうとする彼から逃げないとこの後何をされるのか分からない、しかし私の力では男性の力には勝てないのだと冷静になる。
頭をフル回転させる。結局はアレしかない。
大学生は私が大人しくなったことを良いことに息を荒くして、服を乱暴に脱がせつつ勢いに任せて顔を私に近付けてくる。
「私、性病ですよ。」
「へっ。」
「分かってるのは淋病とエイズですけど、それ以外にも血液や唾液で感染するそれよりも危険な難病も患っています。」
大学生は嘘なのかを判断するために私の目を見る。大丈夫、嘘をつくときは本当の事と嘘を混ぜれば相手には分からない。私の病気に性病を付け足すだけで良い。
「私の前の彼は不特定多数の女性と交際していて、そのとき感染しました。病気が分かっても、お金がなくて親にも言えないから放置していたら重症化したんです。」
「、、、。」
「退いてください、薬飲まないと。」
私は動きが止まった大学生の手を離れて、鞄から念のために持ってきた〈風邪薬〉二錠を取り出すと大学生が薬に詳しくないようにと祈りながら、ミネラルウォーターでそれを流し込む。
「嘘だと思うのなら、のり子に聞いてください。彼女なら知っているはずですよ。」
連絡が取れる筈がない。のり子も同じ様な目に合っている可能性もあるし、この時間帯はのり子は間違いなく寝ている、やり取りをするのにも時間が掛かるだろう。私が欲しいのは〈間〉だ、勢いを殺すための、冷静になるための。
大学生もお酒を飲んでいる為か話を信じたようだ。俯いて頭を掻き苛立ち始める。
「、、ふざけんなよ、畜生!いくら掛かってると思ってんだよ!!手にお前の鼻血ついてるし。エイズとかよりも酷い病気ってなんだよ、人に接触感染するもんじゃねぇだろうな。【汚ぇ!】」
〈汚ぇ!〉
、、え、、。キナタイ、、。
大学生は全身を洗うためか、私の血の付いた手を大量のティッシュで拭うと、ガラス張りの洗面所に直行して私に触れた手や腕を念入りに石鹸で洗い始める。
「マジで感染したらどうすんだよ、オメー。マジ最悪、体に菌とか入ったら責任とれよ。大体他人に迷惑掛かるから、お前みたいな奴は外とか出るんじゃねぇよ!!」
彼は走ってきて、苛立ちと共に拭いたタオルを私に投げつける。
ガサゴソ。
呆然とするしかない私。私のハンドバッグから財布を取り出すと紙幣を抜き取る。私はその行為を理解できずに見つめる。
「足りねぇ、オメー全然金もってねぇのかよ、ホテル代すらねぇし。あー苛つくわ。ん。」
床に落ちている卵型のアクセサリーを持ち上げ匂いを嗅ぐ。
「たいした金にはならないだろうけど、これも没収だ。感謝しろよ、お前みたいなバイ菌が俺みたいな男とここに来れることなんて一生に━━なんだぁ??。」
始めに異変に気が付いたのは彼だ。私の血液が触れた手から顔まで蕁麻疹が現れて動揺し始めた。
「あぁぁ、、なんだ!何だ!これ!!お前の病気か?!感染したのかぁ?!!手が痛ぇ!てぇぇぇ。」
腕を押さえながら、転げ回る大学生。
とても普通とは思えない、助けないと!
私は頭を切り替えて彼を助けに近寄ろうとする。
「触るんじゃねぇ!この病気持ちが!!」
バシィ!
〈ビョウキモチ〉ガ!
立ち尽くす。
病気持ち、、そうだ、、私は人が死んでしまう〈病気持ち〉なんだ。
家族との団欒。意地悪な公平・優しいパパさん・強くて素敵なママさん。
今まで立花家の人達があまりにも優しくて、普通で、温かくて忘れていた、、私は、、*殺しの☆を持つ〈病気持ち〉なんだ。何でこんな事を、簡単で分かりやすい記憶に蓋をしていたんだ。
━━━苦しい。
私は手足の自由が利かなくなり、、俯せに倒れる。
「あぁぁ!!誰かぁ、だれか助けてぇ!!」
全身が蕁麻疹が出来てブツブツだらけの大学生は叫びながらラブホテルの部屋から逃げて行った。
私は倒れたまま、手足すら動かせずに頸だけで周りを見渡す。
床には卵型のアクセサリーが転がっていた。彼の突然の蕁麻疹、私の〈病〉に似た症状がいきなり発現した理由。
【肌身離さず持っていると願いが叶う】
【もしかりにこの粉が体に変化をもたらす物質で鼻腔から体内に侵入した場合どんな影響を体にもたらすのか━】
思い込みで体を変化させるアクセサリー。
「この、、アクセサリーの所為なの、、?」
大学生は何度もこのアクセサリーの匂いを嗅いでいた。私も風邪気味で効果が薄かったとはいえ。身に付けていた。そして、頭の片隅にあった病気を思いだし、同じ様な症状が発症した。
、、だとして、この状況。変えられる手段は?
思い込みが重要なら、〈病気〉何て無いと思い込めば、、。
、、無理。
だって、どうやったって〈病気持ち〉というイメージが頭から離れず、グルグルと考えてしまう。私の中でこのイメージは絶対で無くせるものではないのだ。
「、、す、、けて、、こう、、へい、、。」
小さい頃、、公平は私を守ってくれたんだ。
バタ、バタン。
足音が聞こえる。
「夢見ぃ!!」
公平の声が聞こえる。
ドタドタ、バタバタ!
コウヘイがマモッテクレル、、。
『、、あぁ、武志!いた、サンキュー!大学生が上から慌てて出てきたから部屋が分かっただけだ、鍵も開いていた。バカいえ誰が〈夢見〉の心配なんかするか、俺は大学生がボコボコにされるのを見ていられないからだなぁ、、。オイ笑うな、切るな!ったく。』
気が付くとそこはベンチだった。公平が私の顔を覗く。
「う、、へい、、。」
「何があったんだよ。ラブホテルの床で寝るなんて。」
「、、。」
時間が経過したからなのか先程よりは体調は良い。でもまだ体が治ったとはいえず上手く歩けそうにない。
「兎に角、酒飲んでいるみたいだから警察や病院は行けないし、酔いが醒めるまでは家には帰れないぞ、、。」
ハァハァ。
苦しい呼吸がしづらい、、でも、、公平には言わない。心配を掛けたくない。それに元々は私が合コンに行ったからだ。気付かれない様に経緯を話す。
「私の付けていた卵形のアクセサリー、、あれは多分〈考えていること〉を現実だと体に錯覚させる事が出来るんだと思う。、、さっき逃げて行った大学生は、、、私が病気だって言ったから。それが影響して全身に蕁麻疹が、、でたんだと思う。」
「、、卵形のアクセサリー?、、あったっけ?」
公平は本当に分かっていなさそうだ。どうでもいいと、私の目の前に後ろ向きに屈んだ。私をオンブする気のようだ。
私は戸惑う。
「公平、、止めた方がいいよ。私、、【汚い】から。」
驚いた表情で私を見る公平。
「汚い?お前が?」
「だって、さっきの大学生が、、」
「ブッ!あっはははっ!なんだよそりゃ。腹痛ぇ。」
公平は右手を突き出す。グッドサインを作り自分に向けた。
「夢見、俺に比べればお前はまだまだヒヨッ子だ!この前俺はハルカ先輩にブッ飛ばされた時、三週間マトモに風呂に入らなかったからな!今だって泥だらけで汗臭い俺とお前とじゃ汚さの度合いが違うぜ、がははっ、まいったかよ夢見!」
公平は背中をまた見せる。
「つまり拒否するってことは、〈綺麗な夢見〉は〈汚い背中の俺〉に背負われたくないということになるな。どうすんだ、乗らないと純真無垢な俺のガラスのハートが傷付くからな。しかもこの体勢かなり腰に負担掛かるんですけど!乗って乗ってよ、マジで俺が泣けてくるから!!」
「公平、、。」
私は公平の背中に乗る、湿ってる。まだそこまで暑くない季節、ここまで汗をかくことは殆んどない〈あちこち走り回る〉事をすれば別だけど。
真っ暗な道、隣の駅まで歩くという公平。
車のライトと所々にある街灯の明かりが夜道を照らす幻想的な世界。
公平の歩調に合わせて私の体が上下する。
「病気の事言ったのか?」
「、、ちょこっとだけ、、でも駄目だね、、普通こんなこと言ったら、嫌われちゃうし気を使われちゃう。」
暫しの沈黙、主要道路を走る車のライトが私達を照らす。
「、、知って離れるなら、そいつには夢見個人よりも病気に関心が有るんだろ。ムカつくだろうけど、人それぞれの価値観ってやつだ。」
「ははっ、、そうだね。」
悔しい、でもそれが現実なんだ。私は額を公平の背中に付ける、こうすれば絶対に誰にも今だけは泣いてるって分からないから。
「、、俺は。」
「?」
「夢見の病気なんて、今まで忘れてたけどな。」
笑い飛ばしたような公平の言葉。
「、、夢見、お前は、、お前だろ。病気は只の一部であって、病気そのものがお前じゃない。俺にとって夢見が夢見である部分は、、すごく大きいぞ。」
震える体、時々落ちる水滴、よく分からない感情。全部公平の背中がそれ受け止めてくれた。ただそれだけだ。
それだけでいつの間にか〈体の変調〉は治まっていた。
何故、この時間となりの駅に公平が偶然いたのか、ホテル内に侵入できたのか、、それは聞く必要もない事だ。重要な事、それは公平が私を助けたという結果だけ。
まだ半分も残っている帰り道、公平の体力の限界まで体が治ったことを言わなかった私。もう少しオンブをしてもらいたかったのか、今日の仕返しの為だったのか、それは私にも分からなかった。
*
裏通り痛さで走り回る大学生。
「助けてぇー、、??」
時々ある街灯とまばらな帰宅者。何故か大学生は人気の無い路地にどんどん進み、同時に徐々に走りが遅くなり・歩き・止まる。
何故止まったか、大学生は分からなかった。
ただ足が動かない〈金縛り〉に合ったように。
額には脂汗、〈生物の本能が告げている〉動けば殺される、と。
「ココなら防犯カメラも無いし丁度良いわね。」
真後ろから女の声がする、綺麗な透明な声だった。
「別に貴方をどうこうするつもりはない、【今】はね。これが気になって付いてきただけなの。」
大学生のポケットに綺麗な女の手が差し込まれる。そこから取り出したのは携帯電話と卵形のアクセサリーだ。女の位置は大学生に密着しているのか目の端でも捉えられず耳元で囁きが聞こえる。
「夢見の携帯電話は返して貰うわね。後貴方の携帯は、、。」
メキャ!メキメキ。
まるで紙を握り潰したように真横に持ち上げられた携帯電話が粉砕される。携帯電話の強度は分からない、だが一般人が簡単に握り潰せるものなのか?恐怖で呼吸が荒くなる。
「貴方には二つの罪がある。一つは夢見を傷付けた事。そしてもう一つは貴方のような下衆が生きて呼吸をしてるという事。」
大学生の〈股間〉に手が添えられる。
「もし次に〈このような事があれば殺す〉、、と言っても、貴方馬鹿そうだしこんなことを言っても忘れるでしょうから!」
グシャリ!
何かが握り潰される、多分それは━━━
あまりの激痛に泡を吐いて気絶する大学生。救急車がやって来る時には、彼の近くにはもう誰もいなかった。
*
日曜日。
深夜に帰宅した私と公平は当然の如く、物凄い剣幕のママさんに怒られた。
ううっ、もうしませ~ん。〈泣き〉
何だかんだで、朝にはママさんの機嫌も治り。ポストには私の携帯が投函されていた、〈カラオケボックス〉にいた誰かが届けてくれたかもしれない。
午後のり子が謝罪を兼ねて、立花家にやって来た。
合コンにやって来たK大学生の人達は実は三流大学生で、店ぐるみで女性に強いお酒を飲ませて、無理矢理暴行する、、とにかく最低な人達だったということを教えてくれた。
皆は合コンの時、それぞれ一人の大学生と一緒に店を出た。のり子はすぐ大学生が〈大事な用事がある〉と別れたらしいが、他の友達は裏のホテルに向かっていると知り、引き返す。
「いんこーじょーれいってヤツよ!そういうことをするには恋愛関係じゃないといけないわけ。出会ってすぐよあり得ないでしょ。」
「淫行条例、、そうだね。」
確か18歳未満の男女と性行為を禁止する法律だ。
そこからがのり子の武勇伝の始まりだった。
まだ意識がしっかりしていた友達から連絡をもらい、ラブホテルに突撃。友達に襲い掛かろうとする男にのり子の空手パンチや空手キックが炸裂する。次々に仲間を助けて人数を増やすのり子達、最終的な交渉がなされ、落とし所は警察に言われたくなければ〈口止め料〉を払って今後関わらないという条件を相手に飲ませたらしい。
結局私は見付けられず朝まで探ていたところ、今朝携帯で連絡が入り無事を確認できたとのこと。
「ほんとごめん!いやー、何かイケメン多かったし性格も悪くないかな?と思っちゃって。後お金の件だけど━━━」
遥先輩から連絡が来る。内容は〈また夢見とキスしたいわ〉の言葉と、遥先輩の色っぽいキスショット写真、、本当に何がしたいのか分からない。死んでしまうと何度も言っているのに、苦笑するしかない私。
「私は今回思ったのよ。男は顔じゃない!学歴でもない!!そう誠実さよ。私のために必死に働きお金を稼ぐ夫、もちろん家事・育児もしっかりやってもらうわ。毎月のプレゼントと毎年の海外旅行は欠かせないわね。あっ、エステよエステ!何か肌に良いらしいじゃない!!毎週行ってみたいわ。妻が綺麗になるのよ、喜んで協力してくるはずよ。あーいいわぁ。あとねー」
誠実さというよりは経済力の方が必要な男性の条件を聞きながら、私は今回合コンに行ったことで得た唯一の成果を見る。
庭で草むしりをする公平。かなり疲れているようだ、しかし鬼の形相のママさんの監視は厳しく休憩を許さない。
後でジュースとケーキを持って行ってあげよう。
頑張ってと心で声援を送り、私はのり子の〈未来の夫〉話に同意するのだった。
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レポート
【夢見る卵】
持ち歩いていると考える事を実現させることが出来る卵形のアクセサリー。白い部分は南米に存在する麻薬成分が含まれる動物・植物・鉱物を混合したもので、昔はシャーマンなどが部族内で儀式用に使用したもの。強力な催眠効果があり、自己暗示や他人に暗示をかける際効果を発揮する。吸引しすぎるとアレルギーの誘発、倦怠感やからだの不調、最悪の場合死に至る事もある。
願いを叶える効果については不明であり。現在このアクセサリーが実在するかを含め、確認中である。
筆者:超常現象研究家_立花公平
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