間違って聖剣抜きました。

勝研

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勇者を集めれば良いんじゃない?

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「勇者を探している、知らないか?」

「何を言っているのだ人間よ。この魔王グルリグルーヴ様に勇者の居場所を聞くとは、、こちらが聞きたいわ。唯一この私を倒せる存在が勇者なのだからな。」

巨大な広間、玉座の間には二つの人影があった。

1つは巨大な体をもち、上半身に猿のような体毛を生やした4メートル程もある不死の魔王。

もう1つは、執事風の男。燕尾服を着ていて、眼光が鋭く整っている顔以外には普通の青年、、腰に携帯している古びた剣も入れておこう。

古びた剣をポンポンと叩きながら青年は呟く。

「実は聖剣を間違って抜いてしまって困っているのだ。これがないと魔王に勇者が負け、世界が支配されるらしい。」

「、、それが本当なら今が人類のクライマックスだからな。という事で死ねぇ!!」

ドガバキドゴ。ドスドスドス。

執事風の男が聖剣の鞘で魔王の頭をボコボコに殴る。

「いたぁ!やめてやめて、ストップストップ。」

「お前が襲ってきたのだろう。私は勇者を探しているだけなのに。」

「、、本当なのか?実は油断させて、後ろからズブリとするんだろ。」

「するわけない。話を聞きに来て殺すなど、私はシリアルキラーではないからな。」

「えっと、あなた様は間違って聖剣を手に入れられて困っているんですよね、ならその聖剣を私に預けて頂ければ、勇者にそれを渡しますよ。責任を持って!」

「本当か?!じゃあ任せた。」

ヒョイ、っと手軽に聖剣を魔王に投げる。魔王も簡単に受けとるがー

ズシンーズドン!!

立ち込める土煙。魔王は必死に持ち上げようとするが持ち上がらない。しかも魔王の手は剣の下敷きになり動けない。

「あぁ!!なんだ!超重い!!!動かない。アガガガガガ、超強力な防御結界で体が焼け焦げる!死ぬ!死んでしまう!アガガガ。」

仕方ないと執事風の男は魔王を聖剣から引き離す。ズルズル。

「それはそうだろう、勇者にしか扱えない聖剣だ。滅茶苦茶重いぞ、しかも持つと体がビリビリするのだ。まぁ、肩凝りを治すには便利だが、私は健康体でビリビリするのは少し苦手なのだ。」

「はぁはぁはぁ、、、まぁいい、貴様は聖剣を手放した。それを後悔するがいい!!死ねぇ!!!」

ドガバキドゴ!!

「ちょっ、ストップ、止めて、殴らないで!!」

「だから、なんなのだお前は。急に襲ってきて〈殴るな〉なんて。意味が分からないぞ。」

「ハハハっ、聖剣が力を押し上げているとかじゃなくて、あなた様が強いだけなんですね。なるほど、その、、聖剣、、地下の倉庫へ移動できませんか?ここは王座の間で、、聖剣の結界で、ここが使えなくなっちゃうんですが、、」

「そんな事は知らん。、、そういえば勇者に渡すということだが、動かせないのにどうやって責任を持って渡すのだ?」

「えっ!」

「まさか聖剣を借りパクする気か?お前を信用できなくなってきたぞ。後日、ちゃんと勇者に渡ったか確認しに来ることにする。もし約束を違えたら腹を切ってもらうからな。」

「、、ええっ!あははっヤッパリ、考えてみると勇者の場所が分からないので無理そうでした。すいません。」

「おいおい。ウッカリさんだな、お前は。まぁ私もウッカリ、龍神を倒してしまったときは浅はかな行動を後悔したものだ。何せ、世界の守護獣たるの龍神を殺すと世界がバラバラになるらしいからな。3日3晩看病をしてようやく一命をとりとめた時は胸を撫で下ろしたものだ。」

「、、はははっ、面白い冗談ですね。世界最強の守護獣ですよ。」

「いやいや今では呼ぶと、向こうからやってくるぞ。犬コロみたいで可愛いのだ、人化することも出来るそうだが、私は元のままがいい。あのヒンヤリとしたスベスベの肌で寝るのが心地良いのだ。」

「、、勇者さんに聖剣を渡す、手助けをしますよ。ちょっと待っててください!すぐ戻ります。」

「ああ。」

魔王はその場から逃げるように立ち去った。

「ジェラード!ジェラードはいるか!!」

「はっここに。如何なされましたか?」

現れたのは禍々しい鎧につつまれた女騎士である。

「大変な事が起こった、いきなり大魔王が現れたのだ。」

「??勇者ではなく?」

「勇者などという小物ではない。災厄に近いものだ、昔文献で見たことがある。とんでもない人間がいて、封印したと。」

「はぁ??」

「とにかくだ、事態は緊急をようする。お前はその男に付き従い、殺せる方法・封印方法を探れ。あと奴は聖剣を所持している、機会があれば処分するか誰にも見つからない場所に投棄するのだ。最悪なのは勇者に聖剣が渡り、その男が勇者の仲間になることだからな。」

「事態が飲み込めませんが、対象と行動を共にし、妨害・暗殺すれば宜しいのですね。分かりました。」

「うむ。最重要案件として、予算は特別会計を充てる、任務の遂行を期待するぞ。我が腹心ジェラードよ。」

「はっ。」


魔王の腹心ジェラードは凄腕の魔法戦士であった。魔術ではなく魔法を使えるという一点だけでも凄いのだが、それに止まらずその剣さばきは魔王軍随一であった。

種族はデイモンロードというデビルの上位種で、数は少ないが優れた戦闘能力を持っている。姿は人間に近く、皮膚が少し青白い所と頭の角が特徴的だった。
 
彼女は魔法〈姿変え〉を使い人間に変装。服も使用人に見えるようにメイド服を着用した。



「使用人ジェラードと申します。」

「うむ、私はラファエルだ。よろしく頼む。」

魔王城前、二人は挨拶を交わす。

「さてこれからどうすれば良いのか、勇者を探そうにも手懸かりもないのではな。」

「そうですね、、」

「そうだ。勇者を探すのではなく、勇者を集めれば良いのだ、何故こんな簡単なことに気が付かなかったのか。ウムウム。」

「どういうことですか?」

「大きな町に行こう!」



巨大都市デカイタウン。

〈第一回勇者コンテスト〉

「さぁ、始まりました、勇者コンテスト。何とこのコンテストは真の勇者を決めるためにラファエルさんが出資して急遽開催された大会でもあります。その他ラファエルが審査員も兼ねておりますので皆様宜しくお願いします。」

司会者にマイクを向けられるラファエルは腕を組む。

「さぁ真の勇者、出てこいや!」

「有難うございます。今回、このコンテストの優勝者には10億ピコと副賞で聖剣が授与されます。さぁ500人もの参加者の中、栄光ある真の勇者にいったい誰になるのか、目が離せません。」

〈第一の試練:心〉

「勇者にはやはりそれに見合う心が必要です。出場者には、真の勇者になったらどのようなことをしたいのかを話していただきます。では一番の方からー」

「第一の勇者、ラウリーです。私が真の勇者になったら、まずはこの地方を活性化させ経済的に魔王軍と戦い。経済的に支配しようと思います。その為に10億ピコ元に商売を初めー」

十分後。

「そこで私の開発した商品をで魔王軍と戦い
勝利するのです。」

拳を握り締めて熱弁を奮うラウリー、ラファエルは欠伸を噛み殺してイライラして呟く。


「長いな、失格だ。」

「おっと!一番のラウリー選手失格!いったい何故でしょうか?ラファエルさん。」

「長い、尺が足りない、参加者が500人いるのだ。一人一分でも長い、八時間もこんな無駄話を聞いている暇はないのだ。一人2秒で頼むのだ。」

「おっと!ここで大幅なタイム制限だ。しかし二秒では何も伝わらないのでは?!」

「真の勇者なら可能なのだ。」

「なるほど、、では二番から順にどうぞ!」

「魔王・殺す!」

「俺は強い!」

「天才!」

「筋肉!!」

「金くれ!!!」

===========7~495番========

「神の右手」

「ガルバ!」

「闇の調べ」

「成せばなる。」

「世界を救う!」

500人目の話、いや一言が終わる。何だか良くわからなかったが、司会者はマイクをラファエルに向ける。

「えー如何でしたか?何番が優勝候補だと思われますか?」

「、、むむむっ。もうちょっと真面目に話すのだ勇者達!!これでは意味が分からないのだ。」

「いや、、2秒ですからね、2秒。流石に難しいのでは?」

「全く40分も時間を無駄にしたのだ。さっさと次に行くのだ。」

〈第二の試練:技〉

「勇者は誰にも負けない、生き抜き勝利する技術がある。つまり、この場にいる勇者達を倒し残ったものが真の勇者ということですね、ラファエルさん。」

「そうだ。死ねば終わりだが、生き残れば次がある。真の勇者は全身をなます切りにされても復活するゴキブリ並の生命力があるのだ。が、今回そこまではいわない、だから勇者同士で戦って残った奴が真の勇者なのだ。」

「何故これを初めの試練に持ってこなかったのか不思議ですが、、」

「何を言っているのだ?一番大事なのが〈心〉だからだ。二番は〈技〉で三番は〈体〉だ、そんな事もわからないのか。」

「おっと先程私にはラファエルさんが時間を理由に、一番大事な〈心〉を蔑ろにした気がしたが、開催者であるラファエルさんは自分の決断に自信満々だ。」

「うむ。始めるのだ。」

「さぁ、事前のルール説明によりますと、持ち込む武器は自由・魔術も使用可能。そしてこの区切られた会場内で全員が入り乱れて戦い合い、制限時間内迄に立っていた者が通過者になります。まさしくルール無用のデスゲームです。」

ピピー!ピッ!

「おっと何だ何だ、役人が乱入してきた。許可が降りなかった様です、これは痛い。流石に町中で皆が殺し会うのは無理なようです、武器は回収、魔術も使用禁止になります。」

「うむ、仕方がない。お上に従うのだ。」

「後、殴り合いも許可が降りないようだ。」

「うむ、ならば仕方がないのだ。次に行くのだ。」

「おっと、またしても大事な何かが取り残された。本当に大丈夫なのか。真の勇者は見付かるのでしょうか!?」

〈第三の試練:体〉

「真の勇者なら扱えるモノがある。それは聖剣である、つまり聖剣を扱えた者が真の勇者であると。」

「まさしく、勇者は生まれながらにして勇者足る資質を持っているのだ。剣を自由自在に操れとは言わないのだ、抜ければ良いのだ、これなら簡単だ。」

ラファエルは空高くジャンプして、皆が唖然とする中、腰の聖剣を鞘から引き抜く。煌めく刀身は黄金に輝き万物を寄せ付けない神話をそれだけで表現する。

「おっと、ラファエルさん聖剣を抜いた。そして地面に刺したぁ~。何が何だか分からない、聖剣は真の勇者にしか抜けない筈なのに、聖剣を引き抜くラファエルさんは一体何者なのか?!」

そんな実況は無視してラファエルは実況席に戻ってくる。

「えー、ラファエルさんは先程、聖剣を鞘から引き抜きましたよね。あれは?真の勇者にしか抜けないはずでは?」

「単純に鞘からは無理矢理引き抜いたのだ。だが、地面に刺さった程度ならちょっと持ち上げるだけだから簡単なのだ。」

「おっと。これはチャンスです。さぁ何人の勇者が聖剣を地面から引き抜けるのか、勇者2番の方からどうぞ。」

「おう!」

グルグルと腕を回し、準備運動を終えた勇者2番が聖剣に触れる。

バチバチ!

「アガガ!」

聖剣に触れた瞬間に黒焦げになり倒れる勇者2番。控えていた係員が確認に向かう。

「おっと、どうした勇者2番。、、駄目です、息は有るようですが、どうやら真の勇者でないと強力な電流が流れるようだ。リタイア、リタイアです。」

「うむ、結構ビリビリするので気を付けるのだ。」

「なるほど、かなりビリッと来るようだ。勇者の方々は少し覚悟した方が良いかもしれません。では次の勇者3番どうぞ!」

「うりゃ!アガガ!」

「勇者4番どうぞ!」

「だしゃ、、アババ!」

「勇者5番どうぞ!」

「ンンン!アガガ!」

=========6~250番全員リタイア======

「さぁ、いよいよ後半戦だ。もう救護班も手馴れたもので直ぐにバケツリレー方式に黒焦げの勇者を病院に搬送できる用意は出来ている。もはや、聖剣は勇者を病院に送る装置になっているがー」

後半からは少し参加勇者の格好が変わりはじめる。ゴム手袋の様なものを手にしている。

「おっと、あるまじき行為、聖剣に対する背徳行為だ。強力な電流を体に通さない装備が出回っている。なんとこれは試練になるのか?!良いんですかラファエルさん。」

「うむ、この際面倒なので、これで良いのだ。序でに初めに抜いた勇者が真の勇者でいい。眠たいからな。」

「おっと、ラファエルさん。飽きたのか、早く勇者に聖剣を渡したいのか〈心技体〉全てを蔑ろにする発言が飛び出した!」

バチバチ。

「駄目だ~引き抜けない。これは挑戦時間が長くなっただけで、内容に変化は無い。えー参加者によりますと、とても重くて持ち上がらないそうです。なんということだ~。」

「むむむっ。」

そんな中、一人の浮浪者ぽい中年勇者が聖剣ではなく、聖剣の周りの地面をツルハシで堀り始める。

「おっと、まさかまさか!これはいいのか?聖剣を引き抜かずに周りを削り聖剣を取り出す作戦だ。まさにコロンブスの卵だ。」

ズドン、カラン。

聖剣が音を立てて転がる、そして寝転がり聖剣をゴム手袋の手で持った。顔を横にして見ると確かに聖剣を抜いた様にも見える。

「おっと、これは~。大丈夫なのか?」

「おおっ!なるほど、よし!《あの勇者》以外にはいなさそうなので、これでいい。あれが真の勇者だ!!」

「終了!予想外の展開でしたが真の勇者は359番目の勇者ナナシさんです!拍手拍手!!!」

静まり返る会場で拍手をするものはいなかった。

「えー気を取り直して。さぁ、真の勇者さん。では一言お願いします。」

「おう、じつはなぁ、俺は賞金が欲しかっただけで聖剣は要らねえ。聖剣は返す、こんな剣重くて使えねぇ、ゴミだからな。」

ふゅううううぅぅ。

会場に木枯らしが吹いたのだった。



今回の魔王軍支出。

会場代
10,000,000ピコ

広告費
1,500,000ピコ

賞金
1000,000,000ピコ

参加者治療費(257人火傷。)
3,400,000ピコ


nextー血統に頼れば良いじゃいない?
next2ー一般人を強くすれば良いんじゃない?
next3ー1から作れば良いんじゃない?
next4ーハーレム作れば良いんじゃない?
next5ー聖剣、誰にでも使えれば良いんじゃない?
next6ー魔王を倒せば良いんじゃない?

お楽しみに☆

この作品は2018年8月4日よりカクヨムで公開していましたが、場所をまとめるため移動。








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