間違って聖剣抜きました。

勝研

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血統に頼れば良いんじゃない?

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夜。

燕尾服を着て古い剣(聖剣)を持ったラファエルは頭を悩ませていた。魔王の腹心ジェラードは鼻歌交じりに料理を作る。

「困った、どうするか分からない。人類を助けるために勇者を捜さなければならない、だが勇者が見付からないのではお手上げだ。」

「ラファエル様、夕食が出来上がりました。」

暖かいスープと親子丼を簡易テーブルに置く。だがその親子丼には青のソースが掛かっていた。それはジェラード特製の猛毒のソース、僅か1mlでもクジラを死に至らしめる猛毒。だが色などいくらでも誤魔化せる自信がジェラードにはあった。

「おおっ、親子丼か!だが色がおかしい。食用着色料の青1号の様なソースが掛かっているぞ。」

「実は、ハワイアンブルーを掛けてみました。」

「おおっ、かき氷の!私はあれが大好きなのだ!成る程ハワイアンブルーか、そうして見てみると美味しそうなのだ!!」

「さぁ遠慮なさらずにどうぞ。」

「頂こう!」

割り箸を勢い良く割ると、ヨダレを少し垂らして勢い良く親子丼に食らい付く。

ガツガツガツ。食べた!とジェラードの目が光る。だが親子丼を半分平らげてもラファエルに変化は見られない。

「おっ、お味は如何ですか?」

「このハワイアンブルーは甘くないのだな。だが味はなかなかのものだ、お前も食べるか?」

「いえ!!!遠慮します!!」

ジェラードが全力で拒絶し、少し残念そうなラファエルがもう一口食べようとした時、ラファエルが苦しむ。ジェラードは毒が効いたかと、思ったが違うらしい。

「ゴホ、ゴホ。気管に詰まったのだ!」

ジェラードは苛立ちと聞こえない程度の舌打ちをしたが、むせているラファエルが無防備であると気付いたのか、隠し持っていた魔剣断頭オロチを音もなく引き抜く。オロチは首を切る事に特化した魔剣であり、首に当たれば魔王といえども首と体が生き別れる程の威力を持つ。

むせるラファエル、上手く背後に回り込むジェラード。

「ラファエル様、そのままで。今《楽にしてあげます》ので。」

ブン!ガキン!ブシャ!!

「んん、何なのだ?ジェラード?」

後ろを振り返るラファエル。そこから見えたのは頭に折れた刀身が突き刺さって、流血している血まみれのジェラードだった。

カラーン。

体力の限界なのか、彼女が持っていた剣の柄らしきものが地面に落ちる。

「どど、どうしたのだジェラード。」

どくどくどく。

「振り下ろしたら魔剣が折れました、、」

「そうか、、お前の頭は固いのだな。だが自分の頭に魔剣を振り下ろすのは止めておけ、痛いからな。」

「、、はい。」

バタリ。後ろに崩れ落ちたジェラードだった。


早朝。

ジェラードは目を覚ますと頭に包帯が巻かれていた。どうやらラファエルが手当てをしたらしい。

「くっ。余計なことを、、」

何故か、腹立たしくなるジェラート。立ち上がりラファエルの姿を確認する。あちこちに包帯が散らばっている、その真ん中にラファエルがいた。更にイライラするジェラードはそれを振り払うように周りを見渡す、聖剣はラファエルの手元に置いてあった。

恐る恐る近くに寄るジェラード。

「むむっ。そうだ!!親子丼だ!!!」

ガバッ!いきなり飛び起きるラファエルにジェラードの心臓が口からそうなほど驚く。

「なななっ!」

「親が凄ければ子供も凄いのだ!なら、凄い偉人の家系の息子か、何かであれば勇者の可能性が高いのだ!!何故気が付かなかったのか。」

「??」

「由緒正しい国に行くぞ!」



〈スゴイオウコク〉

「ここは昔、大戦乱があったとき大陸統一を果たした、ア・ハーン王様が立てた城。今もその子孫の王がこの国を治めている由緒正しき国だ。」

なまめかしい王さまだったのだな。妙に色っぽい名前なのだ。」

スゴイオオコクのスゴイジョウの前に立つ、ラファエルとジェラード。前には大きな門があり、門番が向かってくる。

「散れ散れ!一般人は立ち入り禁止だ。」

「王様に会わせてくれ。」

「アポイトメントは取っているのか。」

「そんなものは無い。」

「じゃあ駄目だ!」

「いや、駄目かどうかは私が決めるのだ。」

ドゴン!!

城門を破壊するラファエル。唖然とする兵士を置いてラファエルはジェラードをその場に置いてスゴイジョウへ入っていった。



ゴ・ハーン王の朝は早い。

王は語る。

「好きで始めた訳ではないが、今は日課になっている。」そういいながら、食べるのはゴハンだ。名前がゴハンに似ているという事で、一日だけゴハンを食べたのが始まりだと、爽やかな笑顔で語る王。パンを食べないのか?と質問する記者に言う。「今は皆の笑顔を見るためにー」

ぎゅうぅうぅぅ。誰かに顔を横から手で押し潰される王様。

「いだだぁ。何、何なの??」

「長いのだ、ここまで1600文字も使ったのだ。6000文字に収まらないのだ。」

「あだだだぁ!なんだ貴様は?!」

「王、お前は勇者なのか?」

「だから誰だ!衛兵!えぇい誰かここに曲者がおるぞ、外に叩き出せ!!」

「話が進まないのだ、ちょっとこれを持ってみるのだ。」

「えっ、剣?ーアガガガ!」

黒焦げになり倒れる王。

「むむむっ、これは勇者ではないな。外れなのだ、血統にも外れがあるのだな。んん?」

呟くラファエルは兵士たちに囲まれる。指揮をするのは甲冑を身に纏った騎士、兜には鳳凰の羽が左右合わせて4本付けられていて、指揮のみならず自ら前線に立ち戦う戦士のようだ。

「賊が!王に不敬を働いた罪、万死に値する。」

「おおっ、何だが物凄く強そうだ。勇者なのか、そうなのか?」

ワクワク顔で質問するラファエルに騎士は自慢気に語る。

「勇者?ふふん、戦場に出たからには皆勇者よ。だがこの私、バルバス・ブリュークハルトは代々この王国に仕えた名門であり現在は兵士隊長を任される男だ、勇者の中の勇者だと言っておこうか!」

「期待が高まるな!ちょっとこの聖剣を持ってくれ、ほら。」

投げられた放られた聖剣を冷ややかに見つめるブリュークハルト。

ドスンーズドン!

聖剣地面にめり込む。

「ふふふっやはりな、怪しいと思ったのだ。先程王がこの剣に触れるのを見た、この剣は罠だ!!」

「只の聖剣なのだ。」

「嘘をつけ!!」

本来なら遠距離から攻撃する筈が、ブリュークハルトは怒りのあまり、ラファエルに剣を抜いて切りかかる。

ガシィ。カランカラン。

「アタタタァ。頭が破裂する!死んでしまう!」

バキバキ、ブシュシュー。

兜ごと眉間にアイアンクローをぐらい、悶絶するブリュークハルト。あまりの握力に兜がヒッシャゲこめかみ辺りから血が噴き出す。

「手加減は難しいのだ。大丈夫か?」

ドサリ。ラファエルはブリュークハルトから手を離す。片足をついて激痛を何とか堪えるブリュークハルト。

「、、なんとか、、はぁはぁ。」

ラファエルに心配をされ、フリュークハルトは敵ながら見事というしかなかった。

「では聖剣を持ってみるのだ。」

「えっ?!」

沈黙ー


ビリビリビリ!!

「アバババ!」

黒焦げになるブリュークハルト。王国歴代最強と歌われた兵士隊長がまるで《相手にもならない》光景を目の当たりにして兵士達は戦慄し恐怖する。逆らえば命など、簡単に刈り取られる存在でしかないとその場にいた誰もが思った。



いつの間にか全員が武器を投げ捨て横一列に並ぶ、さながら軍隊の教官と訓練生であった。王の取材に来た撮影班はこんな光景をも遠くから録画水晶で映像を記録する。

「不甲斐ない。、、オイ、お前は勇者か?」

「わっ、私がでありますか!ち、違います!」

「私はこの聖剣を操れる勇者を探しているのだ。これを勇者に渡さないと人類が魔王に支配されるのだ。なので《多少の犠牲》には目を瞑らなければならないと思うのだが、、どう思う?」

いきなり話し掛けられ戸惑う50人ほどの兵士達、ラファエルの視線の先は一番左側にいる兵士に注がれた。

「そ、、うですね。」

「じゃあ、ちょっとこれを持ってみるのだ。兵士は皆、勇者候補だと先程聞いたのだ。」

「お願いします、、私には幼い子供が、、」

「ちょっと持つだけなのだ、ほら。」

「アビビビ!」

ドサリ。

隣の兵士はまさかと直感する。

「やはり駄目なのだ、次はお前なのだ。」

予想通り聖剣の柄を向けられる。

「わ、、私には結婚の約束をした彼女が、、」

「それがなんなのだ?只、聖剣を握るだけだぞ。違っても少しビリビリするだけなのだ。」

煙を立てて白目を向く隣の兵士を見ると、とてもそうは見えない。ーが断れば確実に死ぬ。なら少しでも生還できるこちらに賭けるしかなかった。

「アバババ!」

ドサッ。

「お馴染みの『アバババ』はもういいのだ。よし次は隣のお前、持つのだ。」

「故郷には、年老いた母が、、」

「だからさっきから何なのだ?身内話に興味は無いのだ。それともこの国では聖剣を持つ前に一言いうのが慣例なのか?早くするのだ、ほら。」

「アギャ!」

ドサリ。

「むむむっ、だがまだいっぱい候補はいるのだ。次。」

ううっ、兵士達は気が付いた。これは勇者の選別なのではない、そう《公開処刑》だと。

「アギギャ!」

ドサッ。

「ウェヴァ!」

ドサドサ。

涙ぐむもの、神を呪うもの、歯を悔いしばるもの、そして仲間を思うものもいた。だがこの男の前では全てが等しく同じであった。

無慈悲に繰り返される行為。皆が震え、自分の番が来ないことを祈る。だが確実に順番はやって来るのだ。

撮影班はこの地獄の様な光景をドキドキしながらカメラを向け続ける。

「アウン☆」

ドサ。

「グガァアア!」

ドサリ。

「アバババ!」

ドサッ。

が!

ドン。

床を両手で叩く兵士は叫ぶ。

「、、私は悔しい!あぁ私は勇者ではないのだから、私にはこの聖剣を握る資格など有りはしない!!私に勇者の素質があれば!!!とても残念だ!!」

床に四つん這いになる兵士が現れる。残りの全員はその手が合ったか、と感心する。資格が無いんだと、大声で叫べば流石のこの男も〈勇者候補〉として認めないだろうと。

「、、うむ。」

ポン。

そんな兵士の肩を叩くラファエル。兵士は涙ながらにラファエルを見返す、二人は通じあった

キラキラキラー

「自分を卑下してはいけないのだ。ものは試しなのだ、ちょっと触ってみろ。」

ー気がしただけで、その発言は死神の宣告であった。

**********************

『緊急密着!国王を襲撃した男』
ー狂気の男ラファエルを追え!ー

【いつもそれを相手に突き付ける?】

勇気を出し我々は彼の持つ、モザイク処理された〈高圧電流が流れる拷問器具〉を指していった。

「うむ、やはり勇者かどうかはこれを使わなければ分からないからな、、」

彼はそう言って拷問器具を嬉しそうに眺める。

【勇者なら電流が流れない?】

「そうなのだ。だって勇者なのだぞ?」

不思議そうに我々を見返す彼の瞳は純粋だ。しかし、それは演技なのだろう。《彼が拷問器具のスイッチを押すのだ》つまり彼のご機嫌次第。いや彼の場合、全員失格なのだろう。何故ならこれが彼の使命なのだから。

【兵士全員に試せて(感電させて)満足ですか?】

「当たり前なのだ。もっと沢山の人に試さなければならないのだ。」

犯行予告ともとれる発言。もはや彼には良心すら無いのだろう、我々は恐怖に震えた。

【次のターゲットはやはり王子ですか?】

「おおっ、そうなのだ。やはり由緒正しい血統、コレが一番相応しいのだ。」

【高貴な血統であるほど相応しい?】

「当たり前なのだ。」

彼は血統に対するコンプレックスがあるのだろう。もしかしたら生まれは奴隷もしくはそれ以下だったのかも知れない。

彼の後を追い続ける我々。そして王子の部屋に突撃したのだった。

**********************

ドゴン!

「なっ、なんだ!誰か、誰かいないのか!!くそ!!この私ウ・ハーンと知っての狼藉か?!」

「おおっ、勇者っぽいぞ。やはり勇者は女性層を取り込むため若くカッコいい、眉目秀麗なナイスガイの方が良いに決まっているのだ。」

ラファエルはそういうと聖剣を王子に向ける。王子は先程《壁を破壊した》男の言葉を無視出来ない。

「さぁ、持ってみるのだ。」

王子が聖剣を握ろうとしたその時。

「待ちなされ!!王子。」

「むむむっ。」

「お主は魔術師マーリーン。来てくれたか!」

髭を蓄えた大柄の老人が現れる。その白一色の全身から溢れだす力強いオーラは強者特有のものだ。

「その聖剣触れてはなりませぬぞ。それは勇者以外触れられぬ、最強の聖剣。今まで歴史上誰一人として鞘から引き抜いたものはおろか、持ち運べたものすらおりませぬ。」

「おおっ、なるほど、、??」

「おいマーリーン、あの男それを持ち歩いているが、、」

「、、、あれ?」

今頃おかしいと気が付いたマーリーン。

「おおっ、魔術師風の老人も良い味だしている。もしかすると《こっち》が当たりかもしれないのだ。さぁさぁさぁ。」

「ぬぬぬっ、こうなればー
あらゆるものを消滅させ 赤く輝く星々の力
我が命を持って顕現を許可し かの敵を
滅したまえ 残るは虚無と知り尚行使する
我に全ての罪を償うと共に 大いなる力を
与えたまえー

【アルティメットフレア!】」

ゴシュウウウ!

マーリーンの魔力全てと寿命を捧げ顕現させた、万物全てを焼き尽くす青色の玉はラファエルに向かって飛んでいく。当たれば魔王と言えども只ではすまない圧倒的な火力を内に秘めた、その玉の速度は常人には捕らえることすら出来ないがー

パン!

あっさりとラファエルに片手で握り潰される。

「えっ?」

「シャボン玉といい、この手の色の付いたものは握り潰したくなるのが人間の本能なのだ。」

ずいずいとラファエルがマーリーンに近寄る。マーリーンは戦慄する程の圧倒的な実力差、これは実力が有れば有るだけ感じられた。マーリーンの前には山、太陽、いやそれを遥かに凌ぐガーネット・スターに見えた。

「、、握るのだ。」

「、、はい。アバババ!」

ドサリ!

「まっ、マーリーン!!!」

黒焦げになり倒れたマーリーンを抱き抱える王子。

「なんで、、こんなことが、、こいつは魔王、、いや大魔王とでもいうのか、、」

「王子、、わ、、私の最後の力を、、せめて、これで聖剣の防御結界を、、うはぁつ。」

「マーリーン!」

同時に王子の体に白いオーラに包まれる。それを確認する王子。

ゴゴゴゴ。

「マーリーン、お前の最後の力確かに受け取った!」

「これが覚醒イベントというやつなのか?凄い感じになって、いけそうなのだ。王子、後は確認の為にちょっと握るだけなのだ!!来るのだ。」

「この程度の試練など!!」

ガシッ!

スッ。

白いオーラが消える。聖剣が魔術を無効化したのだ。

「アババババ!」



カーカーカー。

スゴイジョウには夕暮れが似合うのだった。


**********************

今回の人類連合被害額。

スゴイジョウ正門修理代。
175,000,000ピコ

スゴイジョウ修理代・調度品損失額
605,300,850ピコ

治療費(77人火傷、内PTSD45人。魔術師マーリーン重体、後日回復。)
6,670,000ピコ
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