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第1話
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ラグビー場に広がる晩冬の青空に試合終了のサイレンが響いた時、俺の永い永い青春は終わりを告げた。
そうして終わった青春は今もまだ俺の胸の隅っこに燻っている。
(疲れた……)
8月の午後6時過ぎ。精神的にひどく消耗しきった気持ちでタイムカードを切って、まだ蒸し暑い夕暮れの道を歩いて最寄駅に向かう道すがらにスマホを確認する。
30分ほど前に父親からの不在着信があったことに気づき、折り返しの電話を掛けてみると『もしもし?』と疲れ気味の父の声がした。
「お疲れ様、俺だけど」
『幸也か。ちょっと聞きたいことがあったんだ』
「聞きたいことって何?」
『お前、結婚する気は無いか?』
「結婚……まあ、興味はあるけど……」
これまでラグビー馬鹿と言っても過言では無いような人生を過ごしてきて、恋愛や結婚はどうにも後回しの人生を過ごしてきた。
そうしてラグビーを終えてからはまた違う人生を模索しているところで、その中には勿論結婚というものもあった。
『結婚したいと思う相手は?』
「いないよ、するとしたらこれから探す」
『なら良かった。お前、サルドビア王国の王族とお見合いしてみないか?』
父親の口から出てきたのは、10年ほど前に日本のとある研究施設と繋がってしまった異世界の王国だった。
「サッ……?!待って、王族と?どういう事?」
『サルドビアと日本はこの度、正式な外交・貿易関係を樹立することになった。それに伴ってサルドビア王家でまだ未婚の子供がいるから、その子を日本側の関係者と結婚させてみないかと提案があった』
「日本側の関係者って……そうか、父さんいま首相補佐官か」
俺の父親は現役の与党所属政治家で、現首相の腹心として首相を支える立場にある。
俺は政治にとんと興味がないので親の仕事の事はよく知らないが、流石に父親が今首相を支える立場にあることくらいは把握してる。
『本当は皇族との結婚が筋なんだろうが、今の皇室に未婚の男女はいない。それで政府関係者の親族で30歳以下の独身者に声をかけてくれと言われてな』
「それで俺に?」『そういう事だな』
俺はちょうど28歳、世代的にはギリだが候補は1人でも増やしたいという思惑でもあるのだろう。
それに父親の誘いそのものは決して悪い気はしない。
どうせ暇なのだ。やるだけやってみても良いんじゃないか?
「分かった。お見合い、俺も参加してみるよ」
『細かい事は決まり次第伝えるから気長に待っててくれるか?』
「うん」
異世界の王族のお姫様とのお見合いなんて人生でそうそう経験できるものではないし、失敗してもそれはそれでまた良い経験になるだろう。
そんな気楽な気持ちで了解したことが俺の人生を大きく変えることを、まだこの時は知らなかった。
****
1ヶ月ほどしてから、父親からお見合いの詳細をまとめたメールが来た。
お見合いと言っても結婚相手候補者を集めてパーティをし、お茶を飲みつつ話をしてお互いに良さそうだと思えた相手と結婚することになるらしい。
場所は出入り口のあるつくば市内にあるホテルの披露宴会場で、立食パーティー形式でゆるくお話をしながら交流して婚約者を決めるという。
ただ、問題がひとつ。
「……相手、18歳かあ」
今回の結婚相手候補になるのは第五王子のアドルフ様と4番王女のアリシア様、共に18歳の双子だ。10歳も上の俺なんかでは明らかに釣り合いが取れない。
(まあ相手候補もたくさんいるし、賑やかしだと思えば良いか)
問題はむしろパーティに着て行く服装だ。
相手は王族だからいつもの仕事用スーツではなくパーティー用の正装を用意しておくように、と父親からの注意書きもついてる。
(それ用のスーツは流石に持ってないから、買う……いや、レンタルで良いか?買うと高いだろうし……)
そんなことを明らかに考えながら了解の返信を出していた。
そうして終わった青春は今もまだ俺の胸の隅っこに燻っている。
(疲れた……)
8月の午後6時過ぎ。精神的にひどく消耗しきった気持ちでタイムカードを切って、まだ蒸し暑い夕暮れの道を歩いて最寄駅に向かう道すがらにスマホを確認する。
30分ほど前に父親からの不在着信があったことに気づき、折り返しの電話を掛けてみると『もしもし?』と疲れ気味の父の声がした。
「お疲れ様、俺だけど」
『幸也か。ちょっと聞きたいことがあったんだ』
「聞きたいことって何?」
『お前、結婚する気は無いか?』
「結婚……まあ、興味はあるけど……」
これまでラグビー馬鹿と言っても過言では無いような人生を過ごしてきて、恋愛や結婚はどうにも後回しの人生を過ごしてきた。
そうしてラグビーを終えてからはまた違う人生を模索しているところで、その中には勿論結婚というものもあった。
『結婚したいと思う相手は?』
「いないよ、するとしたらこれから探す」
『なら良かった。お前、サルドビア王国の王族とお見合いしてみないか?』
父親の口から出てきたのは、10年ほど前に日本のとある研究施設と繋がってしまった異世界の王国だった。
「サッ……?!待って、王族と?どういう事?」
『サルドビアと日本はこの度、正式な外交・貿易関係を樹立することになった。それに伴ってサルドビア王家でまだ未婚の子供がいるから、その子を日本側の関係者と結婚させてみないかと提案があった』
「日本側の関係者って……そうか、父さんいま首相補佐官か」
俺の父親は現役の与党所属政治家で、現首相の腹心として首相を支える立場にある。
俺は政治にとんと興味がないので親の仕事の事はよく知らないが、流石に父親が今首相を支える立場にあることくらいは把握してる。
『本当は皇族との結婚が筋なんだろうが、今の皇室に未婚の男女はいない。それで政府関係者の親族で30歳以下の独身者に声をかけてくれと言われてな』
「それで俺に?」『そういう事だな』
俺はちょうど28歳、世代的にはギリだが候補は1人でも増やしたいという思惑でもあるのだろう。
それに父親の誘いそのものは決して悪い気はしない。
どうせ暇なのだ。やるだけやってみても良いんじゃないか?
「分かった。お見合い、俺も参加してみるよ」
『細かい事は決まり次第伝えるから気長に待っててくれるか?』
「うん」
異世界の王族のお姫様とのお見合いなんて人生でそうそう経験できるものではないし、失敗してもそれはそれでまた良い経験になるだろう。
そんな気楽な気持ちで了解したことが俺の人生を大きく変えることを、まだこの時は知らなかった。
****
1ヶ月ほどしてから、父親からお見合いの詳細をまとめたメールが来た。
お見合いと言っても結婚相手候補者を集めてパーティをし、お茶を飲みつつ話をしてお互いに良さそうだと思えた相手と結婚することになるらしい。
場所は出入り口のあるつくば市内にあるホテルの披露宴会場で、立食パーティー形式でゆるくお話をしながら交流して婚約者を決めるという。
ただ、問題がひとつ。
「……相手、18歳かあ」
今回の結婚相手候補になるのは第五王子のアドルフ様と4番王女のアリシア様、共に18歳の双子だ。10歳も上の俺なんかでは明らかに釣り合いが取れない。
(まあ相手候補もたくさんいるし、賑やかしだと思えば良いか)
問題はむしろパーティに着て行く服装だ。
相手は王族だからいつもの仕事用スーツではなくパーティー用の正装を用意しておくように、と父親からの注意書きもついてる。
(それ用のスーツは流石に持ってないから、買う……いや、レンタルで良いか?買うと高いだろうし……)
そんなことを明らかに考えながら了解の返信を出していた。
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