俺、異世界王子と政略結婚します。

あかべこ

文字の大きさ
2 / 10

第2話

しおりを挟む
お見合いパーティが行われたのは10月の終わり、長かった夏がようやく終わって秋が小走りで近寄ってくるような時期のことだった。
レンタルしたブルーブラックのパーティースーツに革のクラッチバック、革靴は数日前に修理から戻って来て綺麗になった黒い革靴を。
バックの中身を確認してから社宅の前に出れば、見覚えのあるブロンズのクラウンが止まった。
「幸也、迎え来たぞ」
「ありがとう」
兄の運転するクラウンの後部座席には父が座っており、父もまた黒いフォーマルスーツを着用している。
「幸也《ゆきなり》、お前少し太った?」
兄からの手厳しい指摘に苦笑いをしながら「引退してからちょっとね」と応じる。
「兄貴こそ体重気をつけてるの?」
「カミさんに日々叱られてるんで大丈夫、食い過ぎると怒られるしな」
つくばにある会場までの2時間弱、久しぶりの家族の下らない話に花を咲かせていれば多少の緊張もほぐれていく。
「そういえばこれって一応お見合いパーティなのに、なんで父さんが?」
「今回のパーティーにはアドルフ王子が居るだろ?」
「うん」
「アドルフ王子は結婚後は日本に住んで両国との折衝役になるからこれを機に顔を覚えてもらおうと思ってな、子や孫の付き添いがてら何人か来るらしいぞ」
このお見合いパーティーはアリシア王女とアドルフ王子の結婚相手を探すものではあるが、政治的な意味合いも大きいのでそう言われれば納得もする。
「ということは、俺がアリシア王女と結婚したら向こうに住むことになるんだ?」
「だな。まあアドルフ王子に見初められた場合は日本に住むことになるけどな」
「エッ?」
俺が一瞬驚いて固まるので、父は「そういや言ってなかったな」と言い出す。
「サルドビア王国は同性婚が認められてるから、お前がアドルフ王子と結婚する可能性は十分あるぞ」
「でも日本では出来なくない?」
「同性婚できる国で日本人と外国人の同性カップルが結婚したら日本側は結婚したと認めてるから、今回も同じように認める形になる」
「なるほど……」
全く考えに無かった可能性を示唆されて思わず頭が痛くなる。
別に同性間の結婚についてはそこまで抵抗感が無い。
俺の憧れていたラグビー選手が同性との結婚を発表した時はまあそういう事もあるよねーという程度でしか無かったが、実際にそういう可能性が自分に降りかかるとなると尻込みする気持ちが湧いてくる。
「でもまあ、18の子が自分より10も上の男は選ばないでしょ……」
「それはアリシア王女も同じだけどな」
父と兄と男3人で久しぶりに家族でくだらない話をしていくと、オレンジ色のロケットが街並みの隙間からひょっこり顔を覗かせて来た。
「もうつくばの中心部まで来たから、あと10分ぐらいで着くぞ」
兄の一言で空気が変わる。
ささっと身だしなみを整え直せば、クラウンはホテルの車止めへと滑り込んでいく。
「じゃ、頑張って年下の嫁さんと玉の輿ゲットしてこいよ」
兄の応援を背に車を降り、父と共に車を降りる。
市内の一等地に立つ大きなホテルのラウンジを抜けて最上階の大広間へ足を踏み入れると、嗅ぎ慣れない香りがふわっと鼻をついた。
「これ、なんの匂いだろ」
「分からん、向こうのものかもな」
父がわからないとなると俺には見当のつけようもない。
大広間の入り口にはいろいろなツノを生やした老若男女がホテル関係者とともに右往左往している。
「あれが異世界の……」
「だな。たぶん王子と王女の関係者だろ」
異世界人に居る人々はパッと見ではヨーロッパ系の白人男女の特徴を兼ね備えているが、その頭には鹿や羊のようなツノが一対ついている。
それが彼らと地球人の大きな違いであり、その違いが魔法という奇跡を生んでいるという。
「幸也、受付こっちだ」
父が受付を済ませると巻き角の若い侍女が、俺の胸元に白い薔薇を一輪胸元に刺し込む。
「此方は王子殿下・王女殿下の結婚相手候補を示す目印となっております、会の終了までお外しにならないようお願い致します」
滑らかな日本語で巻き角の侍女さんがそう伝えてくるが、その口の動きは聞こえてくる日本語と全然違う動きをしている。まるで吹き替えみたいだ。
パーティー会場に足を踏み入れれば、ワルツのような不思議な音楽や未知の料理が並んでいる。

(結婚出来るかはわからないけど、ちょっとワクワクするな)

知らないものへのワクワクする気持ちが、お見合いの緊張を吹き飛ばしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれた料理人の話

ミミナガ
BL
 神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。  魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。  そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。

一日の隣人恋愛~たかが四日間、気がつけば婚約してるし、公認されてる~

荷居人(にいと)
BL
「やっぱり・・・椎名!やっと見つけた!」 「え?え?」 ってか俺、椎名って名前じゃねぇし! 中学3年受験を控える年になり、始業式を終え、帰宅してすぐ出掛けたコンビニで出会った、高そうなスーツを着て、無駄にキラキラ輝いた王子のような男と目が合い、コンビニの似合わない人っているんだなと初めて思った瞬間に手を握られ顔を近づけられる。 同じ男でも、こうも無駄に美形だと嫌悪感ひとつ湧かない。女ならばコロッとこいつに惚れてしまうことだろう。 なんて冷静ぶってはいるが、俺は男でありながら美形男性に弱い。最初こそ自分もこうなりたいと憧れだったが、ついつい流行に乗ろうと雑誌を見て行く内に憧れからただの面食いになり、女の美人よりも男の美人に悶えられるほどに弱くなった。 なぜこうなったのかは自分でもわからない。 目の前のキラキラと俺を見つめる美形はモデルとして見たことはないが、今まで見てきた雑誌の中のアイドルやモデルたちよりも断然上も上の超美形。 混乱して口が思うように動かずしゃべれない。頭は冷静なのにこんな美形に話しかけられれば緊張するに決まっている。 例え人違いだとしても。 「男に生まれているとは思わなかった。名前は?」 「い、一ノ瀬」 「名字じゃない、名前を聞いているんだよ」 「うっ姫星」 イケメンボイスとも言える声で言われ、あまり好きではない女のような名前を隠さずにはいられない。せめて顔を離してくれればまだ冷静になれるのに。 「僕は横臥騎士、会えて嬉しいよ。今回は名前だけ知れたら十分だ。きあら、次こそはキミを幸せにするよ」 「はい・・・おうが、ないと様」 「フルネーム?様もいらない。騎士と呼んで」 「騎士・・・?」 「そう、いいこだ。じゃあ、明日からよろしくね」 そう言って去る美形は去り際までかっこいい姿に見惚れて見えなくなってから気づいた。美形男のおかしな発言。それと明日?? まさかこれが俺の前世による必然的出会いで、翌日から生活に多大な変化をもたらすとは誰が思っただろう。 執着系ストーカーでありながら完璧すぎる男と平凡を歩んできた面食い(男限定)故、美形であればあるほど引くぐらいに弱い平凡男の物語。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

え?俺って思ってたよりも愛されてた感じ?

パワフル6世
BL
「え?俺って思ってたより愛されてた感じ?」 「そうだねぇ。ちょっと逃げるのが遅かったね、ひなちゃん。」 カワイイ系隠れヤンデレ攻め(遥斗)VS平凡な俺(雛汰)の放課後攻防戦 初めてお話書きます。拙いですが、ご容赦ください。愛はたっぷり込めました! その後のお話もあるので良ければ

処理中です...