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第7話
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結婚発表の後、電話やラインの通知でスマホが使えなくなるほどのお祝いや連絡が届いた。
特に事前に結婚する事は話していたものの相手について全く聞かされていなかった友人知人からは「なんでそんな大事な事教えてくれなかったんだ!」「お前男が好きだったの?」「俺も玉の輿婚したいから相手紹介して!」といった問い合わせが殺到し、返信が追いつかないほどだった。
同じ職場の関係者たちからも同様の質問が大量に浴びせられ、結局何もかもが面倒になって「黙ってろと言われたから」の一言で全て終わらせた。
唯一の救いはマスメディアからの取材攻勢が来なかったことぐらいだ、多分なんらかの根回しがあったんだろう。正直マスメディアの取材まで1人で相手してたら俺がパンクしてしまう。
人の噂も75日などと言う割に俺の結婚話の余波はなかなか鎮火せず多少苦労はしたが、仕事の引き継ぎと引越し準備を終わらせた頃には今年も暮れとなった。
俺はこの年末で仕事を辞め、一旦実家へと戻ることになっていた。
結婚ギリギリまで仕事してたいと言う気持ちはなかったし、退職したら今までの社宅は出て行かざるを得ないのだからいつ辞めても変わりはない。それなら早めに退職して結婚までの期間を親孝行や体のケアに当ててもバチは当たるまい、と言う訳だ。
そして12月下旬、今まで住んでいた社宅を出ていく日。
同じ社宅に住む同期や手の空いているラグビー部の関係者たちが引っ越しを手伝い、俺の退去を見送りに来てくれた。
過酷な練習や試合の日々はきっとこんな風に送ってくれる仲間たちとの出会いのためにあったのかな、なんて臭い事を考えてしまう。
「じゃ、またな」
引越しトラックの助手席からみんなに手を振ると、半泣きの仲間たちに見送られて俺は社会人生活を過ごした街を出て行った。
*****
実家に戻ってからはしばらく穏やかな日々が続いた。
サルドビアという国について勉強したり、地元の友達と遊んだり、親孝行も兼ねて正月仕事を手伝ったり、整骨院でボロボロになった体をじっくりケアしてもらったりとここ最近では一番のんびりとした時間を過ごしていた。
実家に移ってからもアドルフ王子から絵葉書は何度か届き、俺も余った時間を使って対して上手くもない絵を描いて送り返した。
愛とか恋とかそういうものではない、少なくともまだそんなものが芽生えるには俺たちはまだお互いを知らないすぎる。
けれどもこの絵葉書のやり取りを通じて、アドルフという人間が絵の上手な青年であることはよくよく分かった。
俺のために描かれたその絵葉書を安物のハガキケースや額縁に収納すれば、まるで画集のように小さくも美しい一冊となった。
たまに絵葉書の送り先の確認のために絵葉書のを見返すたびに自分の絵の下手くそさに頭を抱えるハメになったのは、まあ、仕方ない事だろう。アドルフ王子に罪はない。
やがて雪が溶けて梅が咲きこぼれ、桜の季節がやって来た。
アドルフ王子との結婚式を3日前に控えたその日、俺はひとりサルドビアへと入る。
「幸也」
玄関まで見送りに来てくれた母がふと俺の名前を読んだ。
「本当に結婚するのね?」
「うん」
母は俺が異世界の王族(それも10歳下の男と!)との結婚に驚きつつも、決してそれを否定はしなかった。
母自身は驚きや困惑だらけだったろうに、それを見せないよう振る舞っていた。
「もしアドルフ王子と結婚して、自分が幸せになれないと思ったら躊躇わずすぐに帰って来なさいね。誰になんと言われてもわたしとお父さんはあなたを守ると決めてるから」
母のその言葉がじんわりと胸に染み込んでくる。
偽りのないまっすぐな黒い瞳が、決して大きくはない母のその決意がどれだけ純粋なものかを教えてくれる。
「わかった」
そう言ってくれるだけで、たぶん俺は幸せ者なんだろう。
「幸也、幸い也しわたしの子。
あなたが幸せだと心から言えるならわたしはどんな選択も肯定するからね」
「うん」
そう言ってくれるならきっと俺はどこにだって行けるだろう、帰る場所があるのだから。
「それじゃ、行ってきます」
特に事前に結婚する事は話していたものの相手について全く聞かされていなかった友人知人からは「なんでそんな大事な事教えてくれなかったんだ!」「お前男が好きだったの?」「俺も玉の輿婚したいから相手紹介して!」といった問い合わせが殺到し、返信が追いつかないほどだった。
同じ職場の関係者たちからも同様の質問が大量に浴びせられ、結局何もかもが面倒になって「黙ってろと言われたから」の一言で全て終わらせた。
唯一の救いはマスメディアからの取材攻勢が来なかったことぐらいだ、多分なんらかの根回しがあったんだろう。正直マスメディアの取材まで1人で相手してたら俺がパンクしてしまう。
人の噂も75日などと言う割に俺の結婚話の余波はなかなか鎮火せず多少苦労はしたが、仕事の引き継ぎと引越し準備を終わらせた頃には今年も暮れとなった。
俺はこの年末で仕事を辞め、一旦実家へと戻ることになっていた。
結婚ギリギリまで仕事してたいと言う気持ちはなかったし、退職したら今までの社宅は出て行かざるを得ないのだからいつ辞めても変わりはない。それなら早めに退職して結婚までの期間を親孝行や体のケアに当ててもバチは当たるまい、と言う訳だ。
そして12月下旬、今まで住んでいた社宅を出ていく日。
同じ社宅に住む同期や手の空いているラグビー部の関係者たちが引っ越しを手伝い、俺の退去を見送りに来てくれた。
過酷な練習や試合の日々はきっとこんな風に送ってくれる仲間たちとの出会いのためにあったのかな、なんて臭い事を考えてしまう。
「じゃ、またな」
引越しトラックの助手席からみんなに手を振ると、半泣きの仲間たちに見送られて俺は社会人生活を過ごした街を出て行った。
*****
実家に戻ってからはしばらく穏やかな日々が続いた。
サルドビアという国について勉強したり、地元の友達と遊んだり、親孝行も兼ねて正月仕事を手伝ったり、整骨院でボロボロになった体をじっくりケアしてもらったりとここ最近では一番のんびりとした時間を過ごしていた。
実家に移ってからもアドルフ王子から絵葉書は何度か届き、俺も余った時間を使って対して上手くもない絵を描いて送り返した。
愛とか恋とかそういうものではない、少なくともまだそんなものが芽生えるには俺たちはまだお互いを知らないすぎる。
けれどもこの絵葉書のやり取りを通じて、アドルフという人間が絵の上手な青年であることはよくよく分かった。
俺のために描かれたその絵葉書を安物のハガキケースや額縁に収納すれば、まるで画集のように小さくも美しい一冊となった。
たまに絵葉書の送り先の確認のために絵葉書のを見返すたびに自分の絵の下手くそさに頭を抱えるハメになったのは、まあ、仕方ない事だろう。アドルフ王子に罪はない。
やがて雪が溶けて梅が咲きこぼれ、桜の季節がやって来た。
アドルフ王子との結婚式を3日前に控えたその日、俺はひとりサルドビアへと入る。
「幸也」
玄関まで見送りに来てくれた母がふと俺の名前を読んだ。
「本当に結婚するのね?」
「うん」
母は俺が異世界の王族(それも10歳下の男と!)との結婚に驚きつつも、決してそれを否定はしなかった。
母自身は驚きや困惑だらけだったろうに、それを見せないよう振る舞っていた。
「もしアドルフ王子と結婚して、自分が幸せになれないと思ったら躊躇わずすぐに帰って来なさいね。誰になんと言われてもわたしとお父さんはあなたを守ると決めてるから」
母のその言葉がじんわりと胸に染み込んでくる。
偽りのないまっすぐな黒い瞳が、決して大きくはない母のその決意がどれだけ純粋なものかを教えてくれる。
「わかった」
そう言ってくれるだけで、たぶん俺は幸せ者なんだろう。
「幸也、幸い也しわたしの子。
あなたが幸せだと心から言えるならわたしはどんな選択も肯定するからね」
「うん」
そう言ってくれるならきっと俺はどこにだって行けるだろう、帰る場所があるのだから。
「それじゃ、行ってきます」
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