2 / 2
2
しおりを挟む
駅から車で北西に走ること3時間半、たどり着いたのは川べりにある大きな空き地であった。
「ここは?」
「製鉄所の建設予定地ですね」
大きな川に面した巨大な空き地は現状草ぼうぼうで、丸太小屋がぽつんと立っているのみだ。
多分あの小屋が建設準備室とかなんだろうなと察しながら周囲を見渡す。
「東西に5ミル、川に沿って南北に20ミル、それを対岸にも用意しています」
1ミルが大体1.6キロなので8キロ×32キロで72キロ平方メートル、それを倍にして144キロ平方メートル。川の面積も含めればもっと大きいだろうが―……もう少しデカくてもいいように思う。拡張の余地はあるに越したことはないのだ。
(まあまだこの近辺は空き地だし拡張の余地はあるか)
ここはようやく川湊の整備が始まったばかりで工場のレイアウトもまだ詰めている途中だ。
必要に応じて土地を拡張できるよう進言してもいいんじゃないだろうか……まあ、俺の専門は鋳造だから製鉄所全体のレイアウトにまで口は挟めない気もするが。
「西に行くと鉄鉱石鉱山、北に行くと石炭鉱山、水運と産業用水に出来る川もある。ここは理想的な土地だと思いませんか」
「現代日本ならまあ存在しえない場所ですね」
国産の鉄鉱石も石炭も使い果たした現在の日本ではそんな場所はないが、ここにはあるのだ。
ぶらぶらと散歩をしながら丸太小屋へと向かう。
歩いてみた印象では土壌は水はけのよい石交じりの土地で地盤も悪くなさそうに思える。
道はまだ整備されていないがここに太くまっすぐな道や貨物列車を行きかう未来を想像するとワクワクしてくる。
「こちらが製鉄所準備室です」
扉を開けるとそこはおとぎ話のような空間だった。
丸太小屋にひしめく鳥やウサギや犬の獣人たちが真剣に資料を開き、人間(恐らく俺より先に来た河川交通の専門家だろう)とああでもないこうでもないと議論を戦わせている。
入り口でぼうっと突っ立っていると、ヤギ獣人がひとりの青年を連れて来た。
つやのある銀糸の髪に青い瞳にちょっと八重歯の美青年だ。
「彼が鋳造の統括責任者補佐です」
「つまり俺の部下ですか」
「そうなりますね」
すらりとした身体にぴったりとかぶせられた作業着がこんなに似合わない人もなかなかいないだろう。
身体のラインの柔らかさやどこか丸みのある目鼻立ちは女性的でありながら、肩幅や身長は紛れもなく男性だ。
「お初にお目にかかります、自分はヤマカガシを祖に持つケトリビョルンと申します」
ヤマカガシ……?
その単語で遠い日の記憶が走馬灯のように走り出す。
子どもの頃、山で顔面に大型の蛇が落ちてきた記憶である。
ケトリビョルンと名乗った青年の腰から下にゆっくりと視線を落とすと、そこには足がない。
なめらかな一本足は赤と黒の斑点模様がちりばめられている。
「へっ、蛇……っ?!」
彼が蛇の獣人・ラミアであると理解した瞬間俺の意識が遠のいていった。
「ここは?」
「製鉄所の建設予定地ですね」
大きな川に面した巨大な空き地は現状草ぼうぼうで、丸太小屋がぽつんと立っているのみだ。
多分あの小屋が建設準備室とかなんだろうなと察しながら周囲を見渡す。
「東西に5ミル、川に沿って南北に20ミル、それを対岸にも用意しています」
1ミルが大体1.6キロなので8キロ×32キロで72キロ平方メートル、それを倍にして144キロ平方メートル。川の面積も含めればもっと大きいだろうが―……もう少しデカくてもいいように思う。拡張の余地はあるに越したことはないのだ。
(まあまだこの近辺は空き地だし拡張の余地はあるか)
ここはようやく川湊の整備が始まったばかりで工場のレイアウトもまだ詰めている途中だ。
必要に応じて土地を拡張できるよう進言してもいいんじゃないだろうか……まあ、俺の専門は鋳造だから製鉄所全体のレイアウトにまで口は挟めない気もするが。
「西に行くと鉄鉱石鉱山、北に行くと石炭鉱山、水運と産業用水に出来る川もある。ここは理想的な土地だと思いませんか」
「現代日本ならまあ存在しえない場所ですね」
国産の鉄鉱石も石炭も使い果たした現在の日本ではそんな場所はないが、ここにはあるのだ。
ぶらぶらと散歩をしながら丸太小屋へと向かう。
歩いてみた印象では土壌は水はけのよい石交じりの土地で地盤も悪くなさそうに思える。
道はまだ整備されていないがここに太くまっすぐな道や貨物列車を行きかう未来を想像するとワクワクしてくる。
「こちらが製鉄所準備室です」
扉を開けるとそこはおとぎ話のような空間だった。
丸太小屋にひしめく鳥やウサギや犬の獣人たちが真剣に資料を開き、人間(恐らく俺より先に来た河川交通の専門家だろう)とああでもないこうでもないと議論を戦わせている。
入り口でぼうっと突っ立っていると、ヤギ獣人がひとりの青年を連れて来た。
つやのある銀糸の髪に青い瞳にちょっと八重歯の美青年だ。
「彼が鋳造の統括責任者補佐です」
「つまり俺の部下ですか」
「そうなりますね」
すらりとした身体にぴったりとかぶせられた作業着がこんなに似合わない人もなかなかいないだろう。
身体のラインの柔らかさやどこか丸みのある目鼻立ちは女性的でありながら、肩幅や身長は紛れもなく男性だ。
「お初にお目にかかります、自分はヤマカガシを祖に持つケトリビョルンと申します」
ヤマカガシ……?
その単語で遠い日の記憶が走馬灯のように走り出す。
子どもの頃、山で顔面に大型の蛇が落ちてきた記憶である。
ケトリビョルンと名乗った青年の腰から下にゆっくりと視線を落とすと、そこには足がない。
なめらかな一本足は赤と黒の斑点模様がちりばめられている。
「へっ、蛇……っ?!」
彼が蛇の獣人・ラミアであると理解した瞬間俺の意識が遠のいていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【短編】虐げられる少年は豹変しました 〜魔王の前世が全てを変える〜
mimiaizu
ファンタジー
王立の学園に通うデザトス・レディプスは、大昔に魔王を倒した勇者の子孫にもかかわらず、剣士としての技量も魔力量も平凡で、特出して秀でるものがないというだけで、多数の生徒から苛めのターゲットにされていた。
ある時、サバイバル訓練のため実習授業で盗賊の襲撃にあってしまう。そこでデザトスは苛めグループの悪意によって逃げ遅れて盗賊に捕まってしまう。
この出来事でデザトスの中であらゆる負の感情が広がっていく。湧き上がったどす黒く禍々しい負の感情が、彼自身の心を黒く染め上げて……前世の記憶を呼び起こした。
※全五話
新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~
依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」
森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。
だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が――
「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」
それは、偶然の出会い、のはずだった。
だけど、結ばれていた"運命"。
精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。
他の投稿サイト様でも公開しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる