指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson5 独占の始まり

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今宵も煌びやかなホストクラブ。

シャンデリアの光がグラスに反射し、フロアは笑い声とシャンパンコールで溢れていた。

今日は何故かいつも以上に忙しい。

No.1、No.2、No.3――上位陣は次々と呼ばれ、席を飛び回っている。

レオさんもVIP席や一般席を行き来していたが、どんなに忙しくても余裕の笑みを崩さない。

その姿に目を奪われて、みのるは思わず胸を押さえる。

(レオさん……昨日のこと、思い出すだけで……ドキドキする。

あんな色気、あんなキス……抱かれたなんて、夢みたいで……いや、ダメだ。遊ばれただけだ。僕なんか、ただの……)

顔が熱くなり、鏡に映る自分の赤面に慌てて俯いた。

「みのるくん?」

「……っ! あ、ごめんね。うんうん、そうだよね~」

客の煙草に火をつけ、笑顔を作る。

「ねぇ、ホストって恋したりするの? 好きな人とか」

「……人間だから、ありますよ。好きになることくらい」

「へぇ~、じゃあ私……みのるくんに恋しちゃうかも」

客は肩に頭を預け、甘えるように寄り添ってくる。

(……僕、タイプじゃない。仕事、仕事……)

「ありがとう……ございます」

引き攣った笑顔を浮かべたそのとき――

「初めまして~! セイヤです!」

威勢よく登場したセイヤがボトルを抱えて現れた。

「よろしくね! なんて呼べばいいかな?」

「ふふ、このワイルド系も悪くないわね……いい男」

「ありがとうございます!」

セイヤはにかっと笑い、堂々とした態度で客を虜にする。

客が「ちょっとお手洗い」と席を立った瞬間、セイヤはみのるに視線を移した。

「……みのる、頑張ってんじゃん。指名も入ってきてるし」

「はい、少しずつですけど……」

「お前の笑顔、癒しなんだよな。子犬みたいで……フワフワサラサラの金髪…やべぇ。俺、ずっと触ってたいわ」

笑顔のまま、髪に指を絡め、頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

「……っ! セイヤさん……からかわないでくださいよ」

みのるは引き気味に苦笑い。

(……この人、笑ってるのに……ちょっと怖い……)

セイヤはさらに距離を詰め、にやりと笑った。

「俺、ほんとに……お前好きになりそうだわ」

フロアに再びコールが響く。VIP席から1番テーブルへの指名――呼ばれたのはレオだった。

振り返ったみのるの視界に、その背中が遠ざかっていく。

――その頃。

バッグヤードにiQOSを取りに出たレオは、リュウと鉢合わせた。

リュウは煙草を持ったまま、やけにニヤついている。

「よぉ、レオ様。今日もモテモテだな」

「……何だよ、その顔」

「見ちゃたんだよ、さっき。子犬、セイヤに頭ナデナデされてたぞ」

「は?」

「いやぁ~距離詰められて、可愛がられて……あれはもう、餌食コースだな」

わざと大げさに言いながら、リュウは煙を吐いて肩をすくめた。

「チッ……くだらねぇ。からかってんだろ。どうせ」

「へぇ、そう割り切れるならいいけどな」

リュウの目は笑っているようで、底の底まで探るように光っている。

レオは余裕の笑みを崩さず歩き出す。

だが胸の奥では、ざらりとした苛立ちが拭えなかった。

(……なんでだ。あの子犬が誰と笑おうが、俺には関係ないはずなのに……)

フロアに戻ると、酒や香水や煙草の香りが一層濃くなっていた。

俺は3番テーブルに呼ばれ、近くのVIPにはリュウ。

4番テーブルには――セイヤと、みのる。

視線をそちらにやると、セイヤがニヤニヤと笑いながら、みのるの髪をずっと撫でていた。

「フワフワの子犬みたいだ!」

客の嬢たちも一緒になって「ほんと可愛い~!」と騒ぎ立てる。

みのるは引きつった笑顔で、抵抗できずにただ相槌を打っていた。

(……は? なんで(セイヤ)あいつ、そんなにニヤニヤしてんだよ。気色悪ぃ……)

グラスを握る手に、無意識に力がこもる。

「レオ? どうしたの、顔引きつってるわよ?」

横にいた常連のキョウコが怪訝そうに覗き込む。

「そんなことないよ~、キョウコちゃん」

俺は即座に笑顔をつくり、彼女の肩に腕を回す。

「俺の視線はいつだってキョウコちゃんに釘付けだから。来週、また会えるよな?」

「もう! 来週はエンジェル入れてあげるんだから!私だけ見てて!」

「ありがと、大好きだよ」

余裕の笑みを浮かべながらも、視線は無意識にセイヤとみのるの席に吸い寄せられていた。

(……くそ、あいつ……何喋ってやがる……)

そんな俺を、リュウが横目で眺めていた。

煙草をくわえ、愉快そうに口角を上げる。

「へぇ……」

まるで俺の仮面が崩れていくのを楽しむかのように。

フロアのざわめきを抜け、みのるが化粧室に向かうのが見えた。

「ごめん、キョウコちゃん。ちょっとだけ抜ける」

「もう! 早すぎるでしょ!」

駄々をこねる声を背に、俺は足を速めた。

――バタン。

化粧室のドアを開けると、鏡の前でリップを塗るみのるの姿。

「ふーっ……なんか疲れた……」

小さく呟いた声が耳に届いた瞬間、俺の中の理性が吹き飛んだ。

「……お前、なにセイヤに触られて喜んでんだよ」

「えっ!? い、いや、セイヤさんが勝手に……」

壁際に追い込み、鏡越しにその瞳を覗き込む。

ドン、と手をついて逃げ道を塞ぐ。

「俺はセイヤが気に入らねぇんだよ。……あいつの前で笑うな。可愛い顔すんな」

距離を詰め、息がかかるほどの近さ。

「レ、レオさん……?」

戸惑う声。

俺はもう誤魔化せず、衝動のままに唇を奪った。軽く、短く――

「……お前は俺のだ」

小さく、噛み殺すように囁き、目を伏せた。

(……クソッ、なに言ってんだ俺。調子狂う……俺、おかしいぞ……)

俺は余裕の笑みを取り戻すと、無理やり背を向けて立ち去った。

鏡の中、赤面し立ち尽くすみのるの姿を残してーー

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