指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson 4 堕ちる夜

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水曜日。店は定休日。 


「やっと一人の時間だな」

そう呟きながら、久しぶりに街へ出た。

ショーウィンドウに並ぶ秋服を眺め、気に入ったジャケットとニットを手に取る。

(黒に白。シンプルでいい)

俺は派手な装飾じゃなく、上質な布とシルエットで勝負するタイプだ。

鏡越しに目が合う。

――やっぱり、俺はどこにいても“イケメン”だと囁かれてしまう。

背の高さも、スタイルも、今さらどうこう思わない。けど時々、街で視線を浴びると苦笑いしたくなる。

ひとりでブランドショップを巡りながら、贅沢に時間を潰す。

(夜は久しぶりに飲みに行くか……リュウでも誘って)

スマホを取り出し、連絡先を開く。

その時――。

通りの向こうに、見覚えのあるシルエットが見えた。

黒縁メガネをかけた高身長の男。

リュウ。

声をかけようと足を進めかけた瞬間、隣に寄り添う小柄な男に気付く。

腕を組み、笑いながら歩く二人。

(……カイトか。やっぱそうだな)

同じ系列のホストだ。噂には聞いていたが、仲良さげな様子に納得する。

「なるほどな」

苦笑して、歩みを反対側に向ける。

(そういや昨日……子犬の顔が妙に頭に残ってるんだよな)

気付けばLINEを打っていた。

――お前、寿司好きか? 奢るから飲み行こうぜ。

すぐに既読がつき、間髪入れず返信。

『はい、好きです! 行きます!』

「……マジか」

スマホをポケットに仕舞いながら、思わず口元が緩む。

(……素直すぎんだよ。可愛いな)

銀座・高級鮨屋

カウンターだけの静かな店。木目が美しく磨かれた一枚板、白木の柔らかな光。

暖簾をくぐると、すぐに大将の声が響く。

「いらっしゃい、レオ。今日は珍しいな……お、可愛い子を連れてきたか。いつもならリュウと来るのに」

「はは、あいつはデートだよ」

肩をすくめながら笑い、みのるに目をやる。

みのるは緊張したようにおしぼりを手に取り、ちょこんと両手で拭いている。

(……おいおい、その仕草まで可愛いとか反則だろ)

「何食べたい? 遠慮すんなよ」

「えっ、あ、じゃあ……」

視線を泳がせるみのる。

大将が助け船を出す。

「今日のおすすめなら、カマトロと、フカヒレの握りだな。どうする?」

「嫌いなものあるか?」

「……しめ鯖はちょっと苦手で……」

「クスクス……お子ちゃまか。あ、ほんとにお子ちゃまだったな」

思わず笑い、みのるが頬を赤らめる。

「大将、じゃあオススメで適当に頼む」

「はいよ」

やがて運ばれてきた握り。

カマトロは脂が透けるほど艶やかで、舌の上で溶ける。

フカヒレはぷるんとした食感に旨みが詰まっていた。

「いただきます……!」

みのるは恐る恐る口に運び、次の瞬間、ぱぁっと顔を輝かせた。

「……美味しいです! すごい……!」

「だろ?」

「好きなもんも注文しな」

その無邪気な笑顔に、胸が一瞬詰まる。

(……ほんと素直だよな。だから余計、惹かれんのかもしれねぇ)

俺は静かに徳利を傾け、日本酒を口に含む。

落ち着いた香りが広がる。

隣では子犬が、きらきらした瞳で次の寿司を待っている。

(……遊びのはずなのに。何でこんな気分になるんだろうな、俺)

 

会計を済ませ、外へ出る。

「ご馳走様でした。本当に美味しかったです!」

満面の笑みで頭を下げるみのるに、俺は思わず手を伸ばし、くしゃっと髪を撫でた。

(また連れて来たくなるわ。)

まだ時計は二十時半。

タクシーを拾い、ドアを開けながら問いかける。

「なぁ、どうする? もう帰るか? それとも……まだ飲めるか?」

「……あ、飲めます!」

「なら、俺ん家来い」

「えっ!? い、いいんですか!? え!!?」

狼狽える子犬にニヤリと笑い、背中を押してタクシーに乗り込む。

街灯に照らされた頬が赤くて、やけに可愛かった。

到着したのは、白いタワーマンション。

「すっご……タワーだ……」

みのるは目を丸くして、落ち着かない様子でキョロキョロしている。

エレベーターで最上階へ。

部屋に入れば、白を基調とした上質な内装。

一面の窓の向こうに、宝石のような夜景が広がっていた。

「……すごい……」

子犬は窓辺に立ち尽くし、瞳をキラキラさせている。

「あぁ、この景色を見るために俺はNo.1になったんだ」

頭をくしゃっと撫でると、みのるは真っ赤になって俯いた。

グラスにウイスキーを注ぐ。

「お前は?なに飲む?」

「え、あ、じゃあ……カクテルでお願いします」

「了解、美味いやつ作るよ」

乾杯を交わす。

「美味しいです。」

「だろ。」

他愛もない会話ー

みのるは少し酔いが回って、声がほんのり甘くなる。

「レオさんって……今日タバコ吸わないんですか?」

「お前が吸わないから、吸わないだけだ」

「……っ……ありがとうございます」

言葉が途切れ、視線が絡む。

沈黙の中で、距離が自然と縮まる。

ソファで肩が触れ合う距離。

俺は軽く唇を寄せた。キス

「なぁ、お前……なんでここに来たと思う? 俺にこうされるの、分かってたろ?」

「……嫌じゃなかったから…」

その一言に、胸が跳ねた。

「お前さ……可愛すぎ」

もう一度。二度。三度目は深く重ねる。

(……止まんねぇ。やば……)

子犬の腕が俺の背中に回る。

その瞬間、頭が真っ白になるほど愛おしくなり、強く抱きしめた。

「はぁ……」

「……お前、俺をどうする気だよ」

耳元に囁きながら、首筋にキスを落とす。

ソファに押し倒し、綺麗な指先で頬や鎖骨をなぞっていく

触れるたびに震える身体に、ますます可愛さが募り――

結局、俺はそのまま最後まで抱いてしまった。

夜明け前ー

時計の音がカチ、カチと響く。

腕枕の中で、すやすや眠るみのる。

「……子犬を抱いてしまったな」

天井を見上げながら、苦笑する。

(やば……めちゃくちゃよかった……でも、これで終わりだ。俺は一度きりの男なんだ)

そう言い聞かせても、胸がざわつく。

無意識に髪を撫で、額に口づけそうになり――慌ててため息を吐いた。

(……可愛い。……終わりにするつもりなのに、また抱きたくなるかも…)

(俺どうしようかな……)

夜景の光がカーテンの隙間から差し込み、眠る横顔を照らしていた。


Lesson 5へ続く
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