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Lesson 6 戻れない夜
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閉店間際ー
喧騒がひと段落したフロアを抜けてバックヤードに向かう途中、
控室から笑い声が漏れてきた。
タクのだみ声と、セイヤの軽い調子。
「お前、みのるにやたら近いな。……好きなのか?」
「ちげぇよ。ただ可愛いから触りたくなるんだよ」
「からかうのやめとけって」
「からかってねぇ!俺は真剣だ」
――その後、下品な冗談交じりに「飯でも誘って抱いちまえよ」なんて会話が続く。
(……くだらない… ガキかよ)
リュウがドアにもたれながら聞いていて、うんざりしたように目を細めていた。
やがて無言で煙草を口にくわえ、すれ違いざまに俺へと囁く。
「……聞いたか?セイヤが子犬を餌食にしようとしてたぜ。今夜、飯に誘って抱くってよ」
「はぁ?あのバカ、何考えてんだ」
苛立ちが胸に広がり、舌打ちがこぼれる。
リュウは肩をすくめて、皮肉な笑みを浮かべる。
「いちいちトシやタクの前で宣言してた。派手にマウント取りたいんだろ。……でも安心しろよ。熊に食われる前に、お前がさらったからな」
「……俺が、さらった?」
「そうだろ?ヒーロー気取りは似合わねぇけどな」
クスクスと笑う声に、余計に火照る胸を落ち着けられない。
――フロアに戻ると、さっきまで客に囲まれていたみのるが片付けをしていた。
「……おい、みのる。片付けいい。行くぞ」
「え?でも、まだ……」
「No.1と一緒なら必要なし」
きょとんとする瞳に、勝手に心臓が跳ねた。
「送る。……ほら、行くぞ」
タクシーを捕まえて、みのるを乗せる。
横顔を見るだけで、無性に可愛いと思ってしまう。
背後ではリュウの皮肉まじりの笑い声が響いた。
「お前が連れ出すなら安心だな。子犬、熊の餌食にならずに済んだ……」
セイヤは血相を変えて控室から飛び出してきた。
「みのるー!?どこいった!」
リツは飄々と肩をすくめて返す。
「さぁな~」
リュウは煙をくゆらせながら、にやり。
「……帰ったよ。レオ様と一緒にな」
そのまま笑いながら立ち去る背中が、頼もしくもあり、どこかムカついた。
(……クソ。俺、なんでこんなにイライラしてんだ)
タクシーの窓に映る夜景よりも、隣に座る子犬の横顔のほうが眩しくて仕方ない。
長いまつ毛、少し酔って赤い頬、緊張で固まった肩。
(……可愛いな。ほんと、さらってきて正解だわ。
熊の餌食になるぐらいなら、俺が食ったほうがマシだろ。
いや、もう俺が先に抱いたんだ。セイヤが知ったら、どんな顔するんだろな……あいつ、気色悪いからな)
思わず口元が緩む。
「……あの、どこ向かってるんですか?」
「ん?俺ん家」
「えっ……そ、そんな……」
頬が一気に赤くなり、目を泳がせる。
レオは笑って肩に腕を回し、わざと囁く。
「嫌か?」
「……あ、嫌じゃないです」
心臓の鼓動が伝わってきそうで、こっちまで可笑しくなる。
「ほら、熊から助けてやったんだから、感謝しろよ」
「く、熊……?」
「お前、気づいてねぇのか? あの図体で距離詰めてくる熊男に」
「えっ……セイヤさんのことですか!?」
「ご名答」
ニヤッと笑うと、みのるはさらに真っ赤になって俯いた。
ちょうどタクシーが停まる。
「着いた。軽く飲もうぜ」
「……軽く、ですよ?」
「おぅ。軽く、な」
(……で済むかどうか、俺にも分かんねぇけどな)
マンション到着ー
部屋に帰ると、夜景がきらめく大きな窓の前に腰を下ろした。
レオはウイスキーをグラスに注ぎ、隣の子犬には特製サワーを差し出す。
「はい、お前はこっち」
「わぁ……!レモンにミント、それに柚子まで? オシャレすぎる……!」
「だろ? 味見してみろ」
一口飲んだみのるは、ぱぁっと笑顔になった。
「……美味しいです!」
その素直な声に、思わず口元が緩む。
「レオさんって……フルーツ食べるんですか?」
「意外か? アサイーボウルとか好きだぞ。酒飲む仕事だから、ある程度は気をつけてる。夜中のラーメンは行かねぇな」
「へぇ……だからお肌、綺麗なんですね」
「ははっ、お前観察力あるな」
(……ほんと素直。マジで可愛いわ)
「ジムとか……行ってるんですか?」
「ん? このマンション内にあるから週3くらいだな」
「やっぱり……だから、身体も……」
言葉を途中で飲み込み、赤くなるみのる。
「おいおい、何想像してんだよ」
茶化すように笑い、肩を軽く叩く。
――その時、みのるが小さな声で言った。
「……今日、泊まってもいいですか?」
「……は?」思わず聞き返す。
恥ずかしそうに俯きながら、もう一度。
「……泊まりたいです」
「……泊まるって、どういう意味か分かってんのか?」
「え、ど、どういうこと……?」
レオはゆっくり顎を持ち上げ、唇を重ねた。
「……こういうことだよ」
「んっ……」
短いキスのつもりだった。
だが離れる前に、みのるが真っ赤な顔で囁いた。
「……嫌じゃないです。」
胸の奥で何かがはじける。
耳元で低く囁いた。
「お前さ……どんだけ俺に遊ばれたいわけ?」
首筋に唇を這わせ、軽く噛み、深く、深く、キスを重ねていく。
「……レオさん……」
細い腕が俺の首に回る。
その温もりに堪えきれなくなり、シャツのボタンを外した。
「……可愛すぎるんだよ……」
息が荒くなり、互いの鼓動が重なる。
どれほど時間が経ったのか分からない。
ただ、気づけば完全に溺れていた。
――夜更け。
腕枕で眠るみのるの髪を、そっと撫でる。
あまりに無防備で、あまりに愛しい。
(……可愛すぎて、俺がおかしくなりそうだ。
今日で終わりにするつもりだった。遊びは一度きり――それが俺のルール。
……なのに、なんだよこれ。相性良すぎだろ……)
ため息を落としながらも、隣の寝顔から目を離せなかった。
Lesson 7へ続く
喧騒がひと段落したフロアを抜けてバックヤードに向かう途中、
控室から笑い声が漏れてきた。
タクのだみ声と、セイヤの軽い調子。
「お前、みのるにやたら近いな。……好きなのか?」
「ちげぇよ。ただ可愛いから触りたくなるんだよ」
「からかうのやめとけって」
「からかってねぇ!俺は真剣だ」
――その後、下品な冗談交じりに「飯でも誘って抱いちまえよ」なんて会話が続く。
(……くだらない… ガキかよ)
リュウがドアにもたれながら聞いていて、うんざりしたように目を細めていた。
やがて無言で煙草を口にくわえ、すれ違いざまに俺へと囁く。
「……聞いたか?セイヤが子犬を餌食にしようとしてたぜ。今夜、飯に誘って抱くってよ」
「はぁ?あのバカ、何考えてんだ」
苛立ちが胸に広がり、舌打ちがこぼれる。
リュウは肩をすくめて、皮肉な笑みを浮かべる。
「いちいちトシやタクの前で宣言してた。派手にマウント取りたいんだろ。……でも安心しろよ。熊に食われる前に、お前がさらったからな」
「……俺が、さらった?」
「そうだろ?ヒーロー気取りは似合わねぇけどな」
クスクスと笑う声に、余計に火照る胸を落ち着けられない。
――フロアに戻ると、さっきまで客に囲まれていたみのるが片付けをしていた。
「……おい、みのる。片付けいい。行くぞ」
「え?でも、まだ……」
「No.1と一緒なら必要なし」
きょとんとする瞳に、勝手に心臓が跳ねた。
「送る。……ほら、行くぞ」
タクシーを捕まえて、みのるを乗せる。
横顔を見るだけで、無性に可愛いと思ってしまう。
背後ではリュウの皮肉まじりの笑い声が響いた。
「お前が連れ出すなら安心だな。子犬、熊の餌食にならずに済んだ……」
セイヤは血相を変えて控室から飛び出してきた。
「みのるー!?どこいった!」
リツは飄々と肩をすくめて返す。
「さぁな~」
リュウは煙をくゆらせながら、にやり。
「……帰ったよ。レオ様と一緒にな」
そのまま笑いながら立ち去る背中が、頼もしくもあり、どこかムカついた。
(……クソ。俺、なんでこんなにイライラしてんだ)
タクシーの窓に映る夜景よりも、隣に座る子犬の横顔のほうが眩しくて仕方ない。
長いまつ毛、少し酔って赤い頬、緊張で固まった肩。
(……可愛いな。ほんと、さらってきて正解だわ。
熊の餌食になるぐらいなら、俺が食ったほうがマシだろ。
いや、もう俺が先に抱いたんだ。セイヤが知ったら、どんな顔するんだろな……あいつ、気色悪いからな)
思わず口元が緩む。
「……あの、どこ向かってるんですか?」
「ん?俺ん家」
「えっ……そ、そんな……」
頬が一気に赤くなり、目を泳がせる。
レオは笑って肩に腕を回し、わざと囁く。
「嫌か?」
「……あ、嫌じゃないです」
心臓の鼓動が伝わってきそうで、こっちまで可笑しくなる。
「ほら、熊から助けてやったんだから、感謝しろよ」
「く、熊……?」
「お前、気づいてねぇのか? あの図体で距離詰めてくる熊男に」
「えっ……セイヤさんのことですか!?」
「ご名答」
ニヤッと笑うと、みのるはさらに真っ赤になって俯いた。
ちょうどタクシーが停まる。
「着いた。軽く飲もうぜ」
「……軽く、ですよ?」
「おぅ。軽く、な」
(……で済むかどうか、俺にも分かんねぇけどな)
マンション到着ー
部屋に帰ると、夜景がきらめく大きな窓の前に腰を下ろした。
レオはウイスキーをグラスに注ぎ、隣の子犬には特製サワーを差し出す。
「はい、お前はこっち」
「わぁ……!レモンにミント、それに柚子まで? オシャレすぎる……!」
「だろ? 味見してみろ」
一口飲んだみのるは、ぱぁっと笑顔になった。
「……美味しいです!」
その素直な声に、思わず口元が緩む。
「レオさんって……フルーツ食べるんですか?」
「意外か? アサイーボウルとか好きだぞ。酒飲む仕事だから、ある程度は気をつけてる。夜中のラーメンは行かねぇな」
「へぇ……だからお肌、綺麗なんですね」
「ははっ、お前観察力あるな」
(……ほんと素直。マジで可愛いわ)
「ジムとか……行ってるんですか?」
「ん? このマンション内にあるから週3くらいだな」
「やっぱり……だから、身体も……」
言葉を途中で飲み込み、赤くなるみのる。
「おいおい、何想像してんだよ」
茶化すように笑い、肩を軽く叩く。
――その時、みのるが小さな声で言った。
「……今日、泊まってもいいですか?」
「……は?」思わず聞き返す。
恥ずかしそうに俯きながら、もう一度。
「……泊まりたいです」
「……泊まるって、どういう意味か分かってんのか?」
「え、ど、どういうこと……?」
レオはゆっくり顎を持ち上げ、唇を重ねた。
「……こういうことだよ」
「んっ……」
短いキスのつもりだった。
だが離れる前に、みのるが真っ赤な顔で囁いた。
「……嫌じゃないです。」
胸の奥で何かがはじける。
耳元で低く囁いた。
「お前さ……どんだけ俺に遊ばれたいわけ?」
首筋に唇を這わせ、軽く噛み、深く、深く、キスを重ねていく。
「……レオさん……」
細い腕が俺の首に回る。
その温もりに堪えきれなくなり、シャツのボタンを外した。
「……可愛すぎるんだよ……」
息が荒くなり、互いの鼓動が重なる。
どれほど時間が経ったのか分からない。
ただ、気づけば完全に溺れていた。
――夜更け。
腕枕で眠るみのるの髪を、そっと撫でる。
あまりに無防備で、あまりに愛しい。
(……可愛すぎて、俺がおかしくなりそうだ。
今日で終わりにするつもりだった。遊びは一度きり――それが俺のルール。
……なのに、なんだよこれ。相性良すぎだろ……)
ため息を落としながらも、隣の寝顔から目を離せなかった。
Lesson 7へ続く
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