指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson7 脅かす手

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昨日の騒がしさが嘘のように、今夜のクラブは落ち着いた空気に包まれていた。

年齢層高めの客が多く、ゆったりした時間が流れている。

それでもNo.1のレオは次々と指名が入り、余裕の笑みを浮かべながらVIPとテーブルを行き来していた。

ヘルプとしてリツがつき、華麗に場を盛り上げている。

――その頃、控え室。

みのるはスマホを開いていた。

隣には、最近ぱったり指名の減ったセイヤとタク。

「なぁ、昨日なんで先に帰ったんだよ?」

不意にセイヤが距離を詰め、ぐいっと顔を近づけてくる。

(……怖い……)

「え、あ、その……レオさんと、ごはんに……」

つい嘘が口をついて出た。

セイヤの目がギラリと光る。

「ほぉ~?じゃあ今日は俺と行けるよな?」

腕を伸ばし、みのるの肩をがっちり掴もうとする。

「おい」

リュウがひょいと現れた。

「近すぎんだよ。顔怖ぇぞお前。……だから最近、指名が来ねぇんだろ」

「……はぁ?テメェ!」

「まぁ落ち着け熊。子犬怯えてんだろ」

くすくすと笑いながら、みのるへ視線を送る。

「行け。新規客呼んでる」

「リュウさん……ありがとうございます」

「礼なんていらないよ~!熊を野放しにしたら危険だからね」

「???」首を傾げるみのる。

セイヤは真っ赤になって噛みつく。

「おいリュウ!熊ってなんだ!」

「見りゃ分かんだろ」

タクは横で必死に笑いを堪えていた。

さらに、奥のソファに座っていたケンがギロリと睨む。

(クッソガキ……あいつ、まさかレオと……)

嫉妬で拳を握りしめるが、何も言えずに唇を噛んでいた。

――その頃フロアでは。

新規の客としっとり酒を酌み交わすみのるの姿を、レオがチラリと目で追っていた。

隣にまたもセイヤが腰を下ろそうとする。

(……あの熊、また子犬にベタついてんのか)

グラスを持ったままスタッフを呼び寄せ、低い声で指示を出す。

「セイヤとみのるを離せ。……ヘルプもいらない。みのるは一人でやらせろ」

「了解しました!」

ほんのわずか、レオの口角が上がる。

(俺の視界から消すのは勿体ねぇが……熊の檻に入れとくよりマシだな)

控え室に戻る途中ー耳に入ってきたのはセイヤとケンの声。

イライラを隠さない熊の低音が響く。

「……みのる、絶対俺のにしてやる」

「ならやってみろよ」ケンが鼻で笑う。

「好きなんだろ? だったらさっさとものにしちまえ」

「お前……まだレオのこと……」

「うるせぇ」灰皿にタバコを乱暴に押しつける音。

「ガキのくせに可愛い顔しやがって……余計にイラつくんだよ」

その頃みのるは手を洗いに化粧室へ。

すぐに背後から熊が現れた。

「みーのーるっ!」

「あはは……どうしたんですか?」

「今日、俺と焼肉行こうぜ! 高級焼肉! A5ランク食わせてやる!」

ぐいっと顔を近づけられ、みのるは思わず一歩下がる。

「……行きません」

「はぁ!?」

「ご、ごめんなさい!」

青ざめた顔で、みのるはフロアに逃げ帰った。
(……怖い)

スタッフがそっと近寄り、小声で漏らす。

「レオさん、セイヤさん……みのるくんに付きまとってますよね」

「……子犬は俺が管理する」

さらりと言い捨てると、スタッフは目を丸くした。

(……俺、なに言ってんだか)

胸の奥で苦笑しながらも、自然と目はみのるを探している。

フロアですれ違ったリュウがニヤッと笑った。

「やばいな熊。檻に閉じ込めとけよ」

「無駄だ。あいつは檻ぶっ壊す」

「だから俺が……みのるを管理する」

リュウは一瞬きょとんとした後、吹き出した。

「はははっ。君がそこまで言うとはな。やっぱ面白いよ、レオ」

(……管理って、俺、完全に独占してんじゃねぇか)

それでも口元には、余裕の笑みしか浮かべなかった。

閉店後。

控え室で帰る支度をしていたみのるは、背後から声をかけられた。

「……お前、レオとヤッたんか?」

振り返るとケンが睨みつけていた。

みのるは一瞬怯んだが、真剣な顔で言い返す。

「……だったら悪いんですか? ……キスだけならしました」

ケンの表情が固まる。

「……はぁ? キス……?」

「酔ってたんで……それ以上は覚えてません」

「バカか! 遊びに決まってんだろ!」

ケンの声が荒れる。

「どうせ捨てられるんだ! レオは遊び人なんだよ! お前、騙されてんだよ! ……あいつは、遊びでキスなんかしねぇんだ……嘘つくな、ガキ!やめておけ!」

みのるは何も言えず、唇を噛んだ。

「……」

俯いたまま、足早に控え室を出ていった。

姫を送りのあとーバッタリレオと鉢合わせた。

「……みのる?」

涙目に気づき、胸がざわつく。

俺は追いかけた。

追いかける先には――早足で夜道を進むみのる

「……みのる!」

思わず呼び止め、伸ばした手でその腕を掴む。

「……?!」

「息切れしそうだ。お前、足速ぇな」

冗談めかして笑うが、胸はざわついたままだ。

「……大丈夫です。ひとりで帰りますから」

みのるはそっけなく視線を逸らす。

「明日、休みだろ?」

「……」

「シフト見た。俺も休みなんだ」

「……そう、ですか」

「……明日、遊び行こ。俺が連れてく」

口から出た瞬間、自分でも驚いた。

(……は? 俺、何言ってんだ……デート誘った?)

みのるは目を丸くして固まっている。

その様子をごまかすように、俺はふっと笑い、抱き寄せた。

「……ほら、気にするな。もう帰るぞ」

夜風の中、みのるの腕に収めながら、心の奥で呻く。

(……勢いで言った。……けど引けねぇ。明日、子犬は俺の隣にいる)


Lesson 8へ続く
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