指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson 9 火花の夜

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控室のソファには、煙草の煙がゆるやかに漂っていた。

ジャージ姿のセイヤが、ケンとトシを両脇に従えて脚を組む。
灰皿に灰を落としながら、薄く笑った。

「しかしよ、レオのやつ、俺から子犬を横取りしたんだぜ?」
「は?それ自分で言う?嫉妬がダダ漏れじゃん」

「安心しろ。レオなんざ飽きっぽい。すぐ捨てられる。……だから今のうちに喰っとけよ」

セイヤは笑いもせず、煙を吐いた。
「……最近、あいつずっとレオと一緒なんだよ」

「だから言ってんだろ。王様気取りのレオ様。気分変わりゃすぐ別の玩具だ」

「はは、ま、時間の問題じゃねぇ?」

その瞬間、控室の扉が静かに開いた。
まるで空気が一変するように、会話が止まる。

最初に入ってきたのはリュウだった。
白シャツに黒のパンツ。飾り気のない服装なのに、歩くだけで場の空気が締まる。
メガネの奥の視線が、鋭くセイヤを捉えた。

「……不快になる話してんじゃねぇよ。声でかすぎて、こっちまで丸聞こえだ」
低い声。氷のような静けさをまとった威圧。

次に現れたのは、浴衣姿のシュウ。
ゆったりした笑みを浮かべ、余裕のある動きで室内に入る。

「おはよう。久しぶりだね、みんな。……熊、そのジャージで姫たちにモテると思ってるの?」

セイヤの目がギロリと動いた。
煙草を灰皿に押しつけ、立ち上がる。

その背後の空気が揺れるように、レオがゆっくりと入ってきた。

黒とグレーの上品なコーデ。無駄のない所作。
その一歩一歩に、ホストの頂点らしい風格が宿っていた。

「……やれやれ。獣臭ぇと思ったらお前か。熊、鏡って知ってるか?」

セイヤが歯を食いしばり、立ち上がる。
二人の視線がぶつかった瞬間、空気が凍りつく。
ケンとトシが息を呑んだ。
控室は火花のような緊張に包まれる。

「おいおい、喧嘩するなら外でやれよ」
シュウが冗談めかして笑うが、その声にも冷たさが滲む。

レオは鼻で笑い、
「安心しろ。殴る価値もねぇ」
とだけ言い残し、扉を押して出ていった。

残されたセイヤの拳が、小さく震えていた。

――その頃、まだ開店前のフロア。

みのるはグラスを磨きながら、同い年くらいのボーイと肩を並べていた。

「みのるくんって人気出るよなぁ。顔がずるいわ」

「そんなことないですよ~。僕なんてまだ新人ですから」

「いやいや、その笑顔は武器だって。俺なんか雑用ばっかでさ」

「僕も同じですよ。グラス割らないように必死です」

ふたりの笑い声が明るく響く。
その光景を、バックヤードの陰からリュウが静かに見つめていた。

(……子犬は今日も愛されキャラだな。熊が荒ぶるのも無理ないね)

微かに笑って、指先でメガネの縁を押し上げる。
だが胸の奥では、別の熱が静かにくすぶっていた。

リュウはグラスを手に取り、フロアへ出た。
その一歩で、夜がゆっくりと動き出した。

控室の空気はまだ張り詰めていた。
ドアが閉まったあとも、レオの香りと、セイヤの吐く煙が混ざり合って漂う。
誰も口を開かない。
ただ時計の針の音だけが、やけに大きく響いていた。

セイヤは唇を噛みしめたまま、拳をほどく。
シュウがその様子を横目で見て、苦笑いを浮かべた。

「……みんな熱いね。いい夜になりそうだ」


Lesson 10へ続く

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