指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson 9.5 独占の夜

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閉店間際ー

みのるは、姫客をエントランスまで送り届け、笑顔で手を振るみのる。その瞬間――姫にぐいっと抱きつかれ、頬にキスが落とされる。

「っ……!ありがとうございます。気をつけて帰ってくださいね」

必死に笑顔を保ちつつ見送ったあと、化粧室へ駆け込んだ。

鏡の前で首元を押さえる。

「……うぅ。香水がすごい……。首までベタベタ、口紅ついてる~酔った気がする……」

背後から低い声が響いた。

「――みーのる」

「……っ!レオさん?」

振り返るより早く、腕をつかまれる。

「お前、なにそんなに触らせてんだよ。隙だらけなんだよ」

距離を詰めると、みのるの背は鏡に押し当てられる。

「だ、だって……しつこかったから。でも逃げましたよ!」

「……俺が見てねぇところで、可愛い顔するな」

「え……?」

レオの瞳に射抜かれた瞬間、胸が大きく鳴る。

「お前は俺のなんだよ。……覚えとけ」

腕を強く引かれ、そのままタクシーに押し込まれる。

「えっ、え? 怒ってるんですか?」

「――あぁ、怒ってる」

短く言い捨てた声が、妙に甘く響いた。

控え室には、それぞれが帰る支度をしている。

「……なぁ、みのるは?」
セイヤが苛立った声で問う。

「さぁな。とっくに帰ったんじゃね?」
ケンが肩をすくめて答える。

そのすぐ後ろから、シュウが軽く笑った。
「帰ったよ。――王子様と一緒に、な」

セイヤの表情が一瞬で変わった。
「はぁ!? もう!?」

控えめな笑い声が聞こえた。
リュウがタバコに火をつけ、煙を細く吐き出しながら言う。

「レオ様と仲良く帰ったぜ。あの顔、幸せそのものだったな」

セイヤのこめかみがぴくりと動く。
「くっ……あの野郎……!」

リュウはニヤリと笑って、灰を落とした。

「熊は檻の中が一番似合う。外に出るとすぐ暴れるからな」

「ははは、言うねぇ。……リュウ、俺ら飲んで帰ろっか。熊の顔見てたら酒が恋しくなった」

「いいね。焼酎かワインか、どっちにする?」

「……マジでむかつく」

セイヤは拳を握りしめたまま、唇を噛んだ。

その横を、リュウとシュウが笑いながら通り過ぎる。

「お疲れ、熊。機嫌直せよ?」

「優しくされると余計ムカつくんだよ……!」

ドアが閉まる。
残ったのは、セイヤの荒い息と、灰皿に落ちる火の音だけだった。

鏡の中の自分を睨みながら、
セイヤは小さく呟いた。
「……いつか、奪い返してやる」

その言葉を煙が飲み込み、

夜の熱だけが控え室に残ったー



マンションの玄関をくぐった瞬間、レオは無言でみのるの腕を掴み、まっすぐ洗面所へと引きずっていった。

「れ、レオさん……?な、なに……?」

返事を待たずに、レオは低い怒り声で吐き捨てた。

「――脱げ」

「えっ!?な、なんで……」

抵抗する暇もなく、上着を掴まれて脱がされる。

下着姿になったみのるの頬は一瞬で真っ赤に染まった。

「ちょ、ちょっと……っ、恥ずかしいですよ!」

レオは額に手を当て、深く吐息をついた。

「……やっぱりな。香水の匂い、きつすぎんだよ」

低く笑い、みのるの首筋に鼻を寄せる。

「なんで客にあんな触らせてんだよ。……隙、見せすぎだ」

みのるは視線を逸らして、小さな声で答える。

「……し、仕事だから……仕方ないじゃないですか……」

その言葉に、レオの目が鋭く光る。

「ふざけんな。お前は俺のなんだよ。他のやつに触らせんな」

ぐっと壁際に押し込むようにして、唇を重ねた。

ひとつ、ふたつ――軽く触れるだけのはずだった。

けれど、可愛すぎる反応に自制心が崩れていく。

「……ん……!」

みのるが小さく声を漏らすたび、レオの心臓はさらに熱を帯びる。

(ダメだ……止まんねぇ……)

三度目のキスは、もう深みに沈むような長さだった。

舌を絡めるたび、みのるの肩が震え、背中に回された指先が必死に縋りつく。

「……はぁ、ダメ」

レオは荒い息を吐きながら、そのままみのるの手を引く。

「シャワー浴びろ。……俺も一緒に」

シャワーの音が勢いよく響き、熱気が一気に満ちる。

濡れた前髪を掻き上げながら、レオは再びみのるを引き寄せる。

「お前、ほんとに……俺を狂わせるなよ」

水滴が頬を伝う。

そのままシャワーの中で、ふたりは互いに溺れていった。

溺れた後、二人はベッドに倒れ込んだ。

乱れた呼吸の中で、みのるはあっという間に瞼を閉じ、レオの胸に顔を埋めて寝息を立て始める。

「……はやっ」

思わず苦笑が漏れる。

右腕で子犬みたいに丸まるみのるを抱き寄せ、左腕を額に当てた。

熱がまだ残る自分の呼吸に、胸の鼓動が落ち着かない。

(……可愛すぎんだろ。俺、ほんとどうしたんだよ)

仮面を被り続けた男の横顔に、わずかな迷いと脆さが滲む。

夜景の明かりが窓から差し込み、その影が揺らめく中――

レオは、もう笑みだけでは誤魔化せなくなっている自分を痛感していた。

Lesson10へ続く
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