指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson 14 水槽の向こうで、君が笑った

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朝の光がカーテンの隙間から差し込む。

隣にいる子犬のような青年は、小さな寝息を立てていた。

――なんで、こんなに愛しいんだ。

遊びだと、自分に言い聞かせてきたのに。

気づけば俺が堕ちていた。もう、離したくない。誰にも渡したくない。

その瞬間、みのるがゆっくりと目を開ける。

まだ眠たげな瞳のまま、微笑んで。

「……おはようございます」

その声に胸がきゅっと締めつけられる。可愛すぎる。

思わず抱き寄せ、髪に唇を落とす。

「なぁ、今日……仕事行きたくないだろ?」

「……はい」

小さくうなずく姿がまた、胸を打つ。

「もうオーナーに連絡してある。俺とお前、今日は休みだ」

「え……ほんとに?」

驚いたみのるの顔が、ぱっと緩む。安堵の色に染まって。

「軽く食べたら出かけよう。――ほら、ごはん作るから手伝え」

額に軽くキスを落とすと、みのるは耳まで赤くしてうなずいた。

キッチンに並んで立つ。

こんな時間が永遠に続けばいいのにと、ふと思う。

「冷蔵庫から牛乳、取ってくれ」

「……和希さん、牛乳買うんですね?」

「お前が好きそうだったからな」

些細なやり取りすら甘い。

テーブルに並んだのは、香ばしいフレンチトーストに、色鮮やかなサラダ、目玉焼き、ベーコン、温かなコンソメスープ。

「……すごい」

みのるの瞳がキラキラと輝く。まるで子どものように。

「ほら、ハチミツもあるぞ」

「……和希さんって、僕のこと読めるんですか?」

「甘いの好きだって言ってただろ」

「言いましたっけ……?」

「はいはい、食え」

「いただきます!」

ひと口頬張った瞬間、みのるの顔が花のように綻ぶ。

「美味しい……!幸せすぎます!」

「大袈裟だな」

くすくすと笑う声さえ、愛しくて仕方なかった。

車が走り出すと、助手席のみのるは子どものように窓の外を眺めていた。

その横顔が楽しそうで、思わず目を細める。

「やっぱ気分転換はいいよな」

「うん!」

笑顔で返してくる声が弾んでいる。

「それと……二人きりのときは敬語禁止な」

「えっ?」

大きな目がぱちぱちと瞬きする。

「わかったか?」

「……は、はい、じゃなくて……うん」

「よし」

にやりと笑うと、みのるは少し照れて頬を赤く染めた。

水族館に到着すると、みのるは目を輝かせて走り出す。

「わぁ!魚がいっぱい!」

「落ち着け、子供か」

口では呆れながらも、その無邪気さに胸が温かくなる。

「見て!あれ鯵?」

「いや、鰯じゃね?」

「……美味しそう」

「……おい」

思わず吹き出す。笑う俺を見て、みのるも恥ずかしそうに笑った。

人の少ない平日だからこそ、二人で並んで歩く姿はやけに目立つ。

鏡に映るガラス越しの俺たちに、通りすがりの女子が振り返って囁く。

――イケメン同士じゃん。やば……。

そんな声を聞いても、みのるは気づかず夢中で水槽を指差していた。

「わぁ!ウミガメ!可愛い!ねぇ見て!」

「はいはい」

肩をすくめつつ、髪に手を伸ばして直してやる。

「クラゲもいるよ!ね、あっちも!」

「はいはい、元気だな」

「ね!あの蟹すごい大きい!……食べれるの?」

「食べたら絶対不味いな」

「だよね~」

屈託のない笑顔に、胸の奥がじんわり熱くなる。

気づけば、額に唇を落としていた。

「なっ、なに!?いきなり……!」

真っ赤になって抗議する声も、また愛おしい。

「お前が可愛すぎるから、仕方ない」

笑みを隠しもせず、その手を引いた。

「……さぁ、行くぞ。まだ回るだろ?」

「……うん」

少し拗ねたように頬を染めたまま、それでも隣に並ぶ姿。

まるで、この場所全てが二人のためにあるかのように、

幸せが胸いっぱいに満ちていた。

クラゲの水槽の前。

青白い光がゆらめき、無数のクラゲがふわふわと漂っている。

その幻想的な景色に、みのるは夢中になって見入っていた。

「……クラゲって、何考えてるのかな?」

「考えてない。脳がないから、ただ浮かんでるだけだ」

「えっ、そうなの?」

みのるは丸い目をさらに大きくして、クラゲを見つめる。

光に照らされた横顔があまりに綺麗で、俺は思わず腕を伸ばした。

そっと引き寄せれば、驚いたみのるの瞳がこちらを映す。

見つめ合う距離。

吐息が触れ合うほど近くで、唇を重ねた。

「……和希……」

「俺、今日……我慢できないかも」

低い声で囁くと、みのるは一瞬戸惑い、そして小さく頷いた。

「……泊まる?」

「……う、うん」

頬を赤く染めながら、はっきりと返してくる。

「嫌なら、しないけど?」

「嫌じゃないよ」

その必死さが可愛くて、思わず笑みがこぼれた。

手を繋いだまま早足で歩き出す俺に、みのるが慌ててついてくる。

振り返って、額に軽くキスを落とせば――

「……っ!」

みのるはさらに赤くなり、俺の腕に両手でぎゅっと絡みついてきた。

その仕草に胸が熱くなる。

水族館の青い光の下、仮面も虚勢もいらない。

――今日も君を、たくさん愛した。

嘘のない気持ちで、ただひたすらに溺れる夜へ。

「……覚悟しとけよ、子犬」

意地悪く囁き、可愛い獲物を腕に抱き寄せた。

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