指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson 15 笑みの奥の牙

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いつもより早い出勤だった。

「今日、ミーティングだってさ」

リュウからのLINEが正午に届いていた。

その時、俺の腕枕でスヤスヤと眠るみのるを見ていた。

小さな寝息。安心しきった寝顔。

(……今日、俺が守るからな)

胸の奥でそっと誓う。

――開店一時間前。

ホールには、レギュラープレイヤー・バイト計33名、ボーイ2名、が揃い、異様な熱気が漂っていた。

「なぁ、一昨年、作戦失敗だろ。トシお前のせいだ」

セイヤが舌打ち混じりに言う。

「はぁ? 俺のせいにすんなや」トシが肩をいからせる。

「おやおや、また和服ですかシュウ様。粋ですねぇ」

わざとらしく絡むトシに、シュウは涼しい顔で返す。

「お前と違って似合うんでな」

「おいリュウ! 俺の客、横取りしたろ?」 ケンが睨みつける。

「してねぇよ。選ぶのは姫だろうが」
リュウが鼻で笑う。

「子犬を奪いやがって……」セイヤがぼそりと吐く。

「またかよ。お前、いちいちストーカーか?」

レオが片眉を上げて冷ややかに笑う。

「チッ……頭くるわ。外で煙草でも吸ってくる」

セイヤが椅子を蹴って立ち上がる。

みのるはレオの隣で小さく肩をすくめる。

他のホストたちは気まずそうに目を逸らし、誰も止めようとはしなかった。

――その時。

店の入り口に、赤い髪の吊り目、猫のような鋭い瞳をしたイケメンが立っていた。

ヤンキーのような空気を纏ったその男は、無言でホールを見渡している。

セイヤが目を光らせて、にやにやと近づく。

「おやぁ? 新人くんかな? 可愛いじゃん。どこのホスト?」

「……てめぇ、馴れ馴れしく話しかけんなや。」

鋭い声。

「てめぇ、キメェんだよ!」

「……はぁ? なんだと!」セイヤの顔色が変わる。

その瞬間、後ろから朗らかな声が響いた。

「こらこら、マサキ。口が悪いのは相変わらずだな。喧嘩はよくない」

「……オーナー?!」

セイヤの額に冷や汗が浮く。

オーナーはにこやかに笑いながら言った。

「紹介しよう。この子はマサキ。Queenクイーンから当分の間だけヘルプに来てもらう。

No.4の実力者だ。……期待していいぞ」

その笑顔の奥に、誰も逆らえない圧力が潜んでいた。

場の空気が一気に張りつめる。

オーナーがホールを見渡し、柔らかな笑みを浮かべたまま言葉を落とす。

「セイヤ。お前は今日で終わりだ。他店舗へ移動しろ」

「……は?」

セイヤが目を剥く。だがオーナーの笑顔は一切崩れない。

「わたしはね、空気を乱されたくないだよ。今回の件… …わかるな?」

場が一瞬、静まり返った。


次の瞬間、クスクスと笑い声があちこちから漏れる。

「ほらな」「やっぱりな」――誰も正面切っては言わないが、内心の本音が隠しきれない。

セイヤは奥歯を噛みしめたまま、黙って俯いた。

「さて……」

オーナーは軽やかに手を打った。

「代わりに来てもらったのが、彼だ」

赤い髪の青年が一歩前へ出る。

吊り目の鋭い視線が、場の空気を射抜く。

「他店舗、Queenから来ました。マサキです。二十三歳――よろしゅうな」

言葉は関西弁。その響きが少しだけ場を和ませる。

セイヤが舌打ちする横で、マサキがふっと微笑んだ。

その笑顔は、さっきまでの鋭さを消し去るほど可愛らしく、思わず周囲がざわめく。

「……!」

みのるに向けてにっこりと笑みを向けた瞬間、彼の頬は赤く染まった。

(あかん……)

大人の余裕を崩さないはずのシュウの視線が、その笑みに吸い寄せられて離れなかった。

開店準備でざわつくバックヤード。

ケンが苛立ち混じりに吐き捨てる。

「ったく、あの子犬……客に媚び売ってNo.1のレオに守られて、調子乗ってんじゃねぇの?」

トシがニヤニヤと相槌を打つ。

「そうそう。見た目だけで人気出るとか楽なもんだなぁ、可愛いからって俺らがどんだけ苦労してるか……」

その横で、マサキは缶コーヒーを片手に壁にもたれていた。

知らんぷりしながら聞き流しているように見える。
(へぇ……あいつ、No.1の彼氏か)

低く呟き、ちらりとレオとみのるを視線で追う。

「なるほどな。……めっちゃイケメンやん」

トカゲが面白がって声を潜める。

「マサキさん、あの子犬な、ただ可愛いが取り柄。オーナーに気に入られてスカウトされたからって調子こいてます。おもろいでしょ?」

だがマサキはニヤっとだけ笑い何も言わず、無言でその場を離れた。

「……は?は?!シカトかよ?!」

トシが顔をしかめる。

しばらくして、みのるがフロアに来るとマサキがふと声をかけた。

「みのる、やな。……大丈夫やで」

「えっ……?」

意味深な言葉に、みのるはきょとんと目を瞬かせる。

マサキはそれ以上言わず、口の端だけを上げて立ち去った。

(……何だろ。今の。味方……なのか?)

みのるの胸に小さな不安と温もりが同時に残る。

その様子を遠くから見ていたレオの眉がわずかに動いた。

「……ちっ」

嫉妬を隠すように背を向け、その場を離れていった

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