指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

文字の大きさ
29 / 38

Lesson 23 子犬と王者のクリスマス

しおりを挟む

タクシーが滑るように停まると、目の前にそびえる高級ホテルのエントランスが、金色の光に包まれていた。

巨大なクリスマスツリーに、天井には宝石のように煌めくシャンデリア。

「……すごい……ほんとに、ここ泊まるの?」

みのるは目を丸くし、キラキラと瞳を輝かせた。

レオは片眉を上げ、余裕の笑みを浮かべる。

「当然だろ。俺の子犬専用だからな」

頬を赤くして「子犬専用……」と呟くみのるに、ボーイがドアを開け、二人はロビーへ。

そして最上階のスイートルーム。

「わぁ……! 夜景、全部見える! 東京タワーまで!」

窓際に駆け寄るみのる。小柄な背中が無邪気にはしゃぐ。

その後ろから、レオが静かに抱きしめた。

「……ほんと、可愛いな」

「和希……大好き」

小さな声で囁かれて、レオの胸の奥が温かく満たされていく。

――やがてディナーへ。

煌びやかなホールで供されるフルコース。

緊張で手が震えるみのるの前に、鴨のコンフィが置かれる。

「これ……すっごく美味しい!」
一口食べて、目を輝かせる真白。

レオはグラスを軽く回し、白ワインを口に含む。
グラス越しの灯りが、頬に淡く反射する。
指先の動き一つで、空気が変わる。

(……ほんと、絵になる男だな)

ワインの香りと、料理の湯気。
そのあいだで揺れる距離感が、
少しだけ甘く、危うく見えた。

「和希……飲む姿、かっこよすぎ」

「はは、食べるより見てばっかだな。……俺より料理のほうが美味しいだろ?」

「だって、和希に見惚れちゃう」

照れもなく真っ直ぐに言われて、レオは思わず吹き出した。

「まったく……おまえってやつは。……俺がやべぇよ」

笑みを隠すようにグラスを傾ける。

周囲の客たちがちらちらと視線を送る。

黒のシャツをラフに着こなした長身の彼と、

金髪がキャンドルの灯りに揺れる小柄な恋人。

グラスを交わすたび、視線がふと重なる。

言葉よりも、微笑みのほうが甘く響いた。

部屋に戻ると、そこは別世界だった。

シャンデリアの柔らかな光が広い空間を照らし、窓の外には一面の夜景。

ガラス越しに瞬く光の海は、まるでこの夜を祝福しているみたいだった。

テーブルにはルームサービスのシャンパンとクリスマスケーキ。

ソファに腰を下ろす前に、みのるは真っ直ぐ窓辺へ駆け寄る。

「夜景……綺麗だな」

無意識に口をついた俺の言葉に、みのるが振り返る。

「和希といて、幸せだよ……」

その笑顔があまりに無垢で、胸がぎゅっと締めつけられた。

――ほんと、反則だろ。

俺はそのまま背後から抱きしめ、髪に口づける。

「おまえが隣にいるから、この夜景が輝くんだ。……俺にとっての一番の宝石はおまえだからな」

「……和希……」

赤くなった頬を寄せてくる、その温もりにもう我慢できなかった。

「プレゼント、渡すね」

みのるが差し出した小箱。中には小さなダイヤのピアス。

「似合うと思って……もっと、かっこよくなってほしくて」

「フッ……おまえ、俺のことわかりすぎ」

笑いながらピアスを受け取り、その場でキスを落とす。

「俺からも」

指を絡めて、みのるの左手を取る。

ブランドのリングを取り出し、中指にそっとはめ込んだ。

「中指の指輪には“力”と“守護”の意味がある。……おまえは俺が守る存在だからな」

「……和希……」

涙で潤んだ瞳が揺れる。

その瞬間、俺の心は確信した。

(この笑顔は誰よりも美しい。……絶対、誰にも渡さない)

抱き寄せて唇を重ねる。

最初は軽く、甘く。

けれど目が合って、互いに微笑んだ次の瞬間――もっと欲しくて、深く、深く。

「和希……」

首に腕を絡め、みのるがぐいっと引き寄せてくる。

「可愛い子犬が、こんな小悪魔みたいな顔すんな……」

息が詰まるほどの口づけ。唇を離しても、また求めてしまう。

シーツに沈んだみのるを、上から見下ろした瞬間――息を呑んだ。

伏せられた睫毛の長さ、赤く染まった頬、潤んだ瞳。

夜景よりも、この子のほうが圧倒的に綺麗だった。

「和希……」

俺を呼ぶ声は震えていて、それでも欲しがるように俺のシャツを掴んでくる。

「……俺以外に、こんな顔見せるなよ」

囁いて、顎をすくい上げる。

薄い唇をそっと指で撫でてから、ゆっくり口づけた。

一度離れたとき、みのるが切なげに俺を見上げる。

その顔に理性が吹き飛ぶ。

笑いながら、再び唇を重ねる。

さっきより深く、甘く、貪るように。

「好き…」

「俺も好き。」

俺の首に腕を絡めて、みのるが自分からさらに強く引き寄せてくる。

「……そんなふうに求められたら、止まれねぇだろ」

吐息を交わしながら指を絡め、掌の温もりを確かめ合う。

レオは低い声で耳元に唇を寄せ、囁いた。

「……おまえ、ほんと俺を夢中にさせやがる。

縛りたいくらい、独占したい。

誰にも見せるなよ……俺だけの子犬でいろ」

重なる鼓動が早くなっていく。

互いの呼吸を奪い合うキスは、激しくも優しく、ただ相手を確かめるみたいに深かった。

――夜景なんて、もうどうでもいい。

目の前で必死に俺にしがみつくこの笑顔こそが、世界で一番美しい。

誰にも渡さない。

渡すものか。

俺は、その独占の想いを込めて、さらに深くみのるの唇を奪った。

外ではクリスマスの街がまだ賑わっていたけれど、スイートルームの中は二人だけの世界。

重なる吐息と鼓動の音が夜を満たし――やがて時は、静かに更けていった。

次へ続くー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由

スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。 どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?

【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか
BL
≪登場人物≫ 七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。 佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。 田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。 ≪あらすじ≫ α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。 そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。 運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。 二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...