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Lesson 23 子犬と王者のクリスマス
しおりを挟むタクシーが滑るように停まると、目の前にそびえる高級ホテルのエントランスが、金色の光に包まれていた。
巨大なクリスマスツリーに、天井には宝石のように煌めくシャンデリア。
「……すごい……ほんとに、ここ泊まるの?」
みのるは目を丸くし、キラキラと瞳を輝かせた。
レオは片眉を上げ、余裕の笑みを浮かべる。
「当然だろ。俺の子犬専用だからな」
頬を赤くして「子犬専用……」と呟くみのるに、ボーイがドアを開け、二人はロビーへ。
そして最上階のスイートルーム。
「わぁ……! 夜景、全部見える! 東京タワーまで!」
窓際に駆け寄るみのる。小柄な背中が無邪気にはしゃぐ。
その後ろから、レオが静かに抱きしめた。
「……ほんと、可愛いな」
「和希……大好き」
小さな声で囁かれて、レオの胸の奥が温かく満たされていく。
――やがてディナーへ。
煌びやかなホールで供されるフルコース。
緊張で手が震えるみのるの前に、鴨のコンフィが置かれる。
「これ……すっごく美味しい!」
一口食べて、目を輝かせる真白。
レオはグラスを軽く回し、白ワインを口に含む。
グラス越しの灯りが、頬に淡く反射する。
指先の動き一つで、空気が変わる。
(……ほんと、絵になる男だな)
ワインの香りと、料理の湯気。
そのあいだで揺れる距離感が、
少しだけ甘く、危うく見えた。
「和希……飲む姿、かっこよすぎ」
「はは、食べるより見てばっかだな。……俺より料理のほうが美味しいだろ?」
「だって、和希に見惚れちゃう」
照れもなく真っ直ぐに言われて、レオは思わず吹き出した。
「まったく……おまえってやつは。……俺がやべぇよ」
笑みを隠すようにグラスを傾ける。
周囲の客たちがちらちらと視線を送る。
黒のシャツをラフに着こなした長身の彼と、
金髪がキャンドルの灯りに揺れる小柄な恋人。
グラスを交わすたび、視線がふと重なる。
言葉よりも、微笑みのほうが甘く響いた。
部屋に戻ると、そこは別世界だった。
シャンデリアの柔らかな光が広い空間を照らし、窓の外には一面の夜景。
ガラス越しに瞬く光の海は、まるでこの夜を祝福しているみたいだった。
テーブルにはルームサービスのシャンパンとクリスマスケーキ。
ソファに腰を下ろす前に、みのるは真っ直ぐ窓辺へ駆け寄る。
「夜景……綺麗だな」
無意識に口をついた俺の言葉に、みのるが振り返る。
「和希といて、幸せだよ……」
その笑顔があまりに無垢で、胸がぎゅっと締めつけられた。
――ほんと、反則だろ。
俺はそのまま背後から抱きしめ、髪に口づける。
「おまえが隣にいるから、この夜景が輝くんだ。……俺にとっての一番の宝石はおまえだからな」
「……和希……」
赤くなった頬を寄せてくる、その温もりにもう我慢できなかった。
「プレゼント、渡すね」
みのるが差し出した小箱。中には小さなダイヤのピアス。
「似合うと思って……もっと、かっこよくなってほしくて」
「フッ……おまえ、俺のことわかりすぎ」
笑いながらピアスを受け取り、その場でキスを落とす。
「俺からも」
指を絡めて、みのるの左手を取る。
ブランドのリングを取り出し、中指にそっとはめ込んだ。
「中指の指輪には“力”と“守護”の意味がある。……おまえは俺が守る存在だからな」
「……和希……」
涙で潤んだ瞳が揺れる。
その瞬間、俺の心は確信した。
(この笑顔は誰よりも美しい。……絶対、誰にも渡さない)
抱き寄せて唇を重ねる。
最初は軽く、甘く。
けれど目が合って、互いに微笑んだ次の瞬間――もっと欲しくて、深く、深く。
「和希……」
首に腕を絡め、みのるがぐいっと引き寄せてくる。
「可愛い子犬が、こんな小悪魔みたいな顔すんな……」
息が詰まるほどの口づけ。唇を離しても、また求めてしまう。
シーツに沈んだみのるを、上から見下ろした瞬間――息を呑んだ。
伏せられた睫毛の長さ、赤く染まった頬、潤んだ瞳。
夜景よりも、この子のほうが圧倒的に綺麗だった。
「和希……」
俺を呼ぶ声は震えていて、それでも欲しがるように俺のシャツを掴んでくる。
「……俺以外に、こんな顔見せるなよ」
囁いて、顎をすくい上げる。
薄い唇をそっと指で撫でてから、ゆっくり口づけた。
一度離れたとき、みのるが切なげに俺を見上げる。
その顔に理性が吹き飛ぶ。
笑いながら、再び唇を重ねる。
さっきより深く、甘く、貪るように。
「好き…」
「俺も好き。」
俺の首に腕を絡めて、みのるが自分からさらに強く引き寄せてくる。
「……そんなふうに求められたら、止まれねぇだろ」
吐息を交わしながら指を絡め、掌の温もりを確かめ合う。
レオは低い声で耳元に唇を寄せ、囁いた。
「……おまえ、ほんと俺を夢中にさせやがる。
縛りたいくらい、独占したい。
誰にも見せるなよ……俺だけの子犬でいろ」
重なる鼓動が早くなっていく。
互いの呼吸を奪い合うキスは、激しくも優しく、ただ相手を確かめるみたいに深かった。
――夜景なんて、もうどうでもいい。
目の前で必死に俺にしがみつくこの笑顔こそが、世界で一番美しい。
誰にも渡さない。
渡すものか。
俺は、その独占の想いを込めて、さらに深くみのるの唇を奪った。
外ではクリスマスの街がまだ賑わっていたけれど、スイートルームの中は二人だけの世界。
重なる吐息と鼓動の音が夜を満たし――やがて時は、静かに更けていった。
次へ続くー
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