指名は君だけー高層の夜に堕ちる

氷月

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Lesson26 甘い抱擁と苦い酒

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カードキーの音と共にドアが開く。

「……ちょっと酔ったかな」

レオが帰ってくると、リビングからぱっと笑顔が飛んできた。

「おかえりー!」

勢いよく飛びついてきたみのるを、そのまま抱きとめる。

小さな体温が胸にすっぽり収まって、自然と腕が強く回った。

「雑炊、美味かったか?何の味にした?」

上着を脱ぎながら、ふっと口角を上げる。

「今日はね、いくら雑炊にしたんだ」

「……そっか。良かったな」

「うん!」

みのるは嬉しそうに頬を染めると、思い出したように口を開く。

「ねぇ、マサキって元ヤンキーみたいだね。可愛い顔してるのに」

レオは苦笑しつつ、心の中で(みのるの方が何倍も可愛いぞ)と呟く。

「だからだろ。ケンやトシにキレたらしい」

「えっ、そうなの?!」

「おかげで、あいつらもう目立たないだろうな」

「そっかぁ……」みのるの瞳がきらきらと輝く。

レオはその無邪気さに喉の奥が熱くなる。

「……ほら、寝るぞ。準備しろ」

わざと低い声で告げると、みのるは素直に「うん」と頷き、次の瞬間――首に両腕を回して、背伸びをしてきた。

唇が重なる。

レオはそのまま引き寄せ、甘く笑う。

「……ったく。お前が可愛すぎて、俺が眠れなくなるだろ」

息を詰めたみのるを見下ろし、耳元で囁く。

「俺の隣は、お前の居場所だ。どこにも行かせない」

みのるは赤い顔でしがみつき、レオの胸に頬を埋めた。

夜は、二人だけの温度に包まれていった。


翌日ー深夜、午前零時半。

ネオンの光が滲む繁華街の裏通り。マサキはポケットに手を突っ込み、振り返った。

「おいリツ。今日は早く終わったし……キャバクラ行くぞ」

「え?今から……ふたりで?」

リツの声が裏返る。

「せや。二人でや。ほら、ついてこい」

マサキは歩幅を緩めず、スタスタと進む。

歩いて十五分ほど。

光り輝くビルの入り口に、金色の看板が眩しく浮かび上がる。

「……賑やかだな… キャバクラって感じだな」

「せや。キャバクラや。入るぞ」

自動ドアを抜けると、香水とアルコールの甘い匂いが混ざった空気が押し寄せる。

照明は落とされ、間接照明が卓上を柔らかく照らし、笑い声とグラスの音が飛び交っていた。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「身分証明書のご提示とサインをお願いします」

提示をし、サインをする。

「二人や」マサキは慣れた調子で答える。

「飲み放題で」

「かしこまりました」

赤いドレスを纏った女の子が元気よく現れる。

「いらっしゃいませ~!はじめまして、ライムです!」

「俺はええから、リツの隣に座ったってや」マサキは軽く手を振る。

「え、俺の隣……?」リツは戸惑って背筋を伸ばす。

ライムが笑いながら腕を絡め、

「可愛い!イケメン!どこのホスト?」

「あ、えっと……」リツは慌ててグラスを手に取る。

その時、マサキの目が奥のフロアで止まった。

笑顔で客と穏やかに会話をしている姿

「なぁ、あの子……」マサキが顎で示すと、ライムが小さく囁く。

「あぁ、サナちゃん?この店のNo.2よ。綺麗な子でしょ」

「……ふーん。呼んでくれるか?」

「ご指名料、高いけど……いいの?」

「俺、稼いでるから心配いらん」余裕を纏った声でマサキが笑う。

「まぁ~、かっこいい」ライムはぱちぱちと目を瞬かせ、ボーイを呼んだ。

やがて姿を現したのは、長い髪を緩く巻き、深い青いドレスの女だった。

「はじめまして、サナです。……ご指名ありがとうございます。新規のお客様からのご指名、嬉しいです」

マサキは片手を上げて軽く挨拶した。

「はじめまして。俺はアオトや。好きなん飲みや」

隣でリツが小さくつぶやく。

(嘘かよ……名前も偽るとか。さすがホスト、染まってんな)

サナがグラスを受け取り、妖艶に笑う。

「ホストでしょ?二人ともイケメンだもん。私、イケメン好きなの」

マサキは片眉を上げ、軽く挑発するように笑った。

「やっぱりな。ホスト好きそうに見えたわ」

サナは小首を傾げ、艶やかに囁く。

「……元カレもね、ホストなの」

マサキの目がわずかに細まる。

(……話のネタ、きたな)

「へぇ。どんなやつやったん?」

サナは少し照れくさそうに笑みを浮かべ、グラスを揺らした。

「……元カレ?そうね、田舎から出てきた子だったわ。顔が可愛くて、イケメンで、笑顔がすごく素直で……優しくて、嘘がつけない」

思い出すように瞼を伏せる。

マサキが探るように問いかける。

「今付き合ってるやつはおるんか?」

サナは少し迷ってから、ぽつり。

「いるわよ。……ホスト。でも、元カレに似てるから……本当に好きなのか、自分でもわからなくなる」

「どんなとこが似てるんや?」マサキの声は低く静かだ。

サナはグラスを口に運びながら、甘く笑って。

「うーん……顔とか、笑顔とか……体も?」

その瞬間、隣で大人しく飲んでいたリツが「ぶっ」と吹き出した。慌てて口元を押さえる。

「……悪い、思わず」

耳まで赤くなったリツを、サナは楽しげに見つめる。

マサキは内心で毒づく。

(……おい、全部やんけ)

グラスを揺らしながら、サナが意味ありげに笑う。

マサキは静かに問いかけた。

「……元カレとは、体の相性も良かったんか?」

「おい!」(リツは小声で肘で小突く)

サナは唇を艶めかしく歪めて、照れたかのように答える。

「……相性ピッタリ。すごく良かったわよ」

リツの表情が一瞬固まる。頭の中で、思わず、みのるを想像してしまい、グラスを強く握りしめた。

マサキは内心で(……あいつ、男になってたってことか)と想像を巡らせる。

「……じゃあ、今の彼は?」マサキの声は探るように低く落ちる。

「まぁ、悪くはないかな。体も……元カレに似てるから。余韻でまだ幸せでいられるのよ」

サナは艶やかに笑い、吐息を絡める。

マサキはしばらく沈黙し、やがて深く息を吐いた。

「なるほどな……。なら、ちゃんと好きになれよ、サナ。

元カレとそいつは別の人間や。性格も違うんやからな」

サナはグラスを見つめ、ぽつり。

「そうね……忘れたいのにな」

リツは苦く笑いながら、ぽそっと。

「……辛ぇな」

しんとした空気が一瞬だけ卓を包んだ。

店を出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。

煙草に火をつけたマサキの横で、リツが両手を頭の後ろに組んで歩く。

「……たまにキャバクラも悪くねぇな。今度シュウさんに連れてってもらおうかな」

「アホ言え」マサキは煙を吐きながら低く笑う。

「あの女、みのるに未練タラタラやったやないか。…… 一瞬だけカイトに同情したわ」

リツが鼻を鳴らす。

「同情? 俺は無理だな。リュウさん裏切った時点でアウトだろ」

「……忘れてたわ。やっぱカイトも最悪やな」

リツは苦笑しつつ肩をすくめる。

「でも、みのるは別れて正解だったな。あの女、怖ぇし……魔性すぎる」

「せやな」マサキも頷く。

「みのるにはレオさんがお似合いや。……あの人に好かれてんだからな」

「ほんとそれ。みのるって自覚ないんだよな、無意識のイケメン力」

「せやせや。……可愛いからな」

二人は顔を見合わせて笑った。

その頃。

みのるはレオの腕枕にすっぽり収まり、安心しきった寝顔を見せていた。

「……ほんと、俺を沼らせすぎだろ」

みのるの髪を撫でながら、レオは囁き、そっと唇を寄せた。

次へ続くー
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