大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 17 夏色の笑い声

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玄関のドアが開き、悠哉とハルが両手いっぱいに買い出しの袋を抱えて戻ってきた。

「ただいま~! 野菜も海老やイカもいっぱい買ってきたよ」

「よっしゃ、助かるわ」

キッチンに立ったハルは、手際よく野菜を切り始める。

その横でユウヤが器を用意しながら、ときおりハルの頬にかかった前髪を整えてやる。

そんな二人の様子は、まるで新婚夫婦のようで――見ていた楓は思わず頬を赤らめた。

そこへマコト姉と奏真も戻ってくる。

「お待たせ~! 飲み物しっかり仕入れてきたわよ~♡」

「氷もあるから、冷やすぞ」

奏真がクーラーボックスに瓶ビールを入れ、マコト姉と笑い合う姿は、妙に息が合っていた。

――夕暮れ。

庭にランタンの灯りがともり、いよいよ本番が始まる。

鉄板の前には、兄弟が並んで立った。

「焦がすなよ、兄さん」

「わかっとる。ほら、ひっくり返すで」

悠哉と奏真が肉を焼き、隣ではレンが淡々と野菜を網に並べている。

「はいはーい! まずは飲み物よね!」

マコト姉が声を張り上げ、手にしたジョッキを掲げた。

「じゃあ、全員揃ったし──かんぱーい!」

グラスが次々と重なり、軽快な音が夕暮れの庭に響く。

ビールの泡がきらめき、ハルの手元にはレモンサワー。柑橘の香りに包まれて、思わず頬がゆるむ。

「ぷはぁっ……!」

田中が豪快に飲み干す横で、ハルはちょっと酔いそうな酸っぱさに眉を寄せつつも、楽しげに笑っていた。

グラスが触れ合った瞬間、涼しい別荘の夜に賑やかな声が弾けた。

「やっぱり御影兄弟って破壊力あるわねぇ~! ちょっと、写真写真!」

マコト姉がスマホを構えると、田中も横で腕を組んで頷いた。

「……ほんまやな。俺ら一般人には出せないオーラや」

その横、レンの隣で楓がじっと見惚れている。

レンは苦笑いを浮かべてグラスを置いた。

「……おい、そんなに見るな。調子狂うだろ」

「ご、ごめんなさいっ」楓は顔を赤くしながら慌てて笑う。

「カエデって、いくつ?」

「僕、21です。……でもお酒弱くて」

「なら無理に飲まんでいい。ジュースある



さりげない気遣いに、楓の瞳がさらに輝いた。

その頃、ハルは飛鳥の皿に肉を取り分けていた。

「はい、焼けたよ」

「あ、ありがと……」飛鳥は少しぎこちなく受け取る。

「アスカくんって、大学どこ?」

「鳳凰大学・理工学部」

「すごーい!」ハルが素直に目を輝かせると、飛鳥は眼鏡越しに視線を逸らしながら口を開いた。

「ハルさんは?」

「僕は青蘭美術だよ。……青蘭の姉妹校だから、青蘭より美術はちょっと下なんだけどね」

「いやいや、クリエイティブな分野ってすごいと思いますよ。才能がなきゃ続かないですし。……憧れます。素敵ですよ」

「ありがと。……照れるな」ハルは頬を赤く染めて笑った。

悠哉はその笑顔を横目で見ながら、田中とマコトに相槌を打っていたが、心の中は上の空だった。
(……あかん。やっぱりハルは誰にでも可愛い顔する。俺だけのもんやって、もっと刻み込まなあかん)

一方、奏真はレンの隣でジョッキを傾けていた。

「レンさん、火の扱い慣れてますね」

「モデルは筋肉も資本だからな。アウトドアもトレーニングのうちだ」

そう言いながらも、横で嬉しそうに頷いている楓に、レンは思わず視線を落とす。
(……なんやこいつ。仔犬みたいやのに、妙に目が離せん)

夜風が流れ込むー

テラスのドアが開き、ハルがふらりと立ち上がった。

頬が少し赤く染まって、足取りが覚束ない。

「……水、取ってくるね」

言葉こそ平静だけど、ほんのり酔った声が揺れている。

すぐに椅子を引く音がして、悠哉が立ち上がる。

「ほら、大丈夫か?」

背に手を添え、さりげなく身体を支えながら歩幅を合わせる姿は、自然体の優しさそのものだった。

――その光景を、奏真が黙って見つめていた。

視線に気づいたマコト姉が、グラスを揺らしながら小さく笑う。
(あらあら……目が語ってるわね)

横に座る飛鳥が気まずさを振り払うように、缶を手に奏真の前へ差し出した。

「……ほら、飲めよ」

「……おう」

奏真は受け取り、無理に笑みを作る。

キッチン。

悠哉がペットボトルのキャップを軽くひねり、ハルに差し出す。

「飲め」

「……ありがとう」

冷たい水を一口飲んだハルが、ふっと笑った。酔いで緩んだ笑顔はあまりに無防備で、ユウヤの胸を一瞬で焦がす。

「……可愛い」

言葉と同時に、悠哉は引き寄せて抱きしめた。

その瞬間――廊下から足音。

トイレから戻ってきた楓が、ふたりを見かけて一瞬目を見開く。

頬を赤くして、そっと視線を逸らし、レンの隣に小走りで戻った。

レンは無言のままグラスを傾け、楓の耳の赤さを横目に、口元をわずかに緩めた。



Lesson 18へ続く
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