大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

文字の大きさ
24 / 35

Lesson21 走り出した心と車

しおりを挟む

ーレンの車に乗り込んだ楓は、
慣れない助手席に少し落ち着かない様子だった。

エンジン音と共に走り出す車内、窓の外の景色が流れていく。
ハンドルを握るレンの横顔に、思わず視線を奪われる楓。

楓が、ふいに口を開いた。

「……あの、レンさんって、恋人とか、好きな人……いますか?」

横顔を見たまま、レンは短く答える。

「いないよ」

その一言に、楓の胸が跳ねた。

(……よしっ!)

心の中で小さくガッツポーズ。けど顔は真っ赤で、声も出ない。

「……お前、ほんと、わかりやすいな」

運転席から見下ろすレンの目が、意地悪に細められる。

気まずさを誤魔化すように、楓は話題を変えた。

「れ、レンさんは……なにか飲みますか?」

ちょうど車はドライブスルーに差し掛かる。

「俺? ドリップでいい」

「ぼ、僕は……甘いのが好きです」

その素直な声に、レンの口元が緩む。

「……ガキだな、でも、可愛い」

注文を終え、カップを受け取る。渡す瞬間、指先が触れ合った。

「っ……」

楓は慌てて視線を逸らし、耳まで赤くして下を向く。

レンは喉の奥で笑い、ハンドルを握り直した。

「……お前、マジで仔犬だな」

楓はマキアートを両手で持ち、嬉しそうに小さく笑った。

――

レン「なんか食うか?」

「あ、はい……お腹すいたかも」

「サンドイッチとフレンチトーストが美味い店ある。寄ってくか?」

「ほんとですか? 嬉しいです!」

店内で軽食を並べ、自然に会話が始まる。

楓は上品にサンドイッチを頬張り、丁寧に口元を拭った。

レンは見惚れながら、心の中で呟く。

(……食べ方まで綺麗。タクミとは違う。これは…ずるいわ)

「レンさんと食べるごはんって、最高ですね」

「お前が言うな。……可愛いくせに」

店内では二人の存在感が自然と目を引き、ちらちら視線が集まっていた。

――

夕暮れ。楓のマンション前。

「ありがとうございました」楓は頭を下げた。

レンはふと尋ねる。

「カエデ、一人暮らし?」

「はい。親が早くに亡くなって……高校の時からずっと一人です。でも、もう慣れましたし。頑張ってきたんで」

明るく言うその声に、レンの胸がざわつく。

(……こいつ、なんでそんなに強いんだろ

気づけば、レンは楓の細い体を抱き寄せていた。

「……頑張らなくていい俺がいる」

不意打ちの温もりに、楓の頬が真っ赤に染まる。

「……顔、見れないです」
小さな声で呟いて、レンの胸にぎゅっと顔を埋める。

レンはその頭を撫で、額にそっとキスを落とした。

「……お前、反則だな。ますます手放なくなる

抱きしめられ、額にキスを落とされたまま顔を赤くした楓が、レンの胸に埋もれながら小さな声で言った。

「……あの……また会えますか? ……好きになっても、いいですか?」

その言葉に、レンの視線が一瞬だけ鋭くなり、次の瞬間ふっと口角を上げる。

夜の静けさに、低い声が落ちた。

「……お前な、簡単にそういうこと言うなよ。俺が本気になったらどうすんだ?」

指先で顎を持ち上げ、真っ直ぐに見つめる。

「……好きになるのは勝手だ。ただし――責任、取らせるからな」

カエデの喉が震え、声が出せない。ただ必死にうなずくと、その仕草にレンは堪らずさらに抱き寄せた。

「……ったく、可愛すぎる」

離れ際に視線を逸らしながら、わざと素っ気なく言う。

「ほら、早く行け。」

楓は胸いっぱいの熱を抱えたままマンションに駆け込む。

レンは、シートに身を預けながら天井を見上げ、ひとり低くー

「……俺、完全に、ハマったな」


Lesson 22 へ続く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

君に可愛いがられたい

結衣可
BL
高校2年の生徒会長・椎名遼は、明るく人当たりのよい人気者。 しっかりしてそうで、実は「いじられキャラ」で周りからも愛されている。 そんな彼の前に現れたのは、1年生の新入生・高峰孝一。 無口で大柄、少し怖そうに見えるけれど、本当は誠実で面倒見のいい性格の持ち主。 弟や妹の面倒を見ながら、家計を支えるためにバイトに励む孝一は、困っている遼をさりげなく助ける。 遼は戸惑いつつも、「後輩に甘やかされてる……?」と心が揺れ始める。 気が付くと、孝一に甘やかされていく自分に動揺しつつも、思いは止められなくて・・・。

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。 📌本編モブ視点による、番外エピソード 「君はポラリス ― アンコール!:2年後の二人と俺と」を追加しました。

処理中です...