大人になっても、恋は止まらない。──独占と余裕のあいだで

氷月

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Lesson 28 碧海に溶ける恋人たち

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ホテルの朝のレストラン

ガラス張りの窓からは、真っ青な海と朝日が差し込んでいた。

ハルは白いクロスのテーブルに座り、トロピカルフルーツの盛り合わせを見て嬉しそうに笑う。

「わぁ……すごい、マンゴーにパイナップルに……たくさんのフルーツで沖縄って感じ!」

「子どもみたいやな」悠哉はくすっと笑って、カップのコーヒーを口にする。

「……でも、そんな顔が好きや。ほんま可愛すぎて困る」

「またそうやって……」
ハルは頬を赤らめ、フォークを持ちながら視線をそらす。

ふと、横から悠哉の手が伸びて、パイナップルをフォークで刺し、そのままハルの口元へ。

「……あーん」

「っ……もう、やめてよ。人が見てる」

「ええやん。沖縄旅行特権や。俺の恋人独占してるってアピールや」

ハルは観念したように口を開き、パクッ。

「……甘い」

「せやろ? けど……お前のが一番甘いけどな」

耳元に落ちる低い声に、ハルは思わず顔を覆ってしまう。

食事を終えたふたりは、ホテルのロビーでレンタカーを受け取る。

悠哉がスマートに手続きを済ませ、ハルの腰にさりげなく手を添えながら歩く姿は――やっぱり御曹司の色気満点。

「今日はどこ行きたい?」ハンドルを握りながら悠哉が聞く。

「うーん……首里城とか、美ら海水族館とか、行ってみたいな」

「よっしゃ、全部連れてったる。……ただし、条件ひとつ」

「条件?」

「ずっと手ぇ繋いどけ。俺の隣、離れんな」

ハルは笑って、小さく頷いた。

ふたりは車で美ら海水族館へ向かった。

碧い海と空を横目に、手を繋いだまま歩く。観光客が行き交う中でも、悠哉の掌は絶対に離さない。

巨大な水槽の前に立つと、ハルの青い瞳が輝いた。

「わぁ、見て!ジンベイザメだよ!」

顔を近づけて夢中になるハル。

だが悠哉の視線は――水槽の中ではなく、その横顔に釘付けだった。

柔らかく揺れる髪、無邪気に笑う口元、頬に映る青い光。

「……ほんま、可愛すぎるやろ」

無意識に呟いた声に、ハルが振り返る。

「なに?」

「いや、魚よりお前ばっか見てまうんや。……しゃあないな、俺の恋人やから」

にやけを隠そうともせず見つめてくるその眼差しに、ハルの顔が赤くなる。

「も、もう!ちゃんと見てよ、ジンベイザメ!」

慌てて視線を水槽に戻すハル。だが耳まで真っ赤なのは隠せない。

悠哉は笑いをこらえながら、指先に力を込める。

「はいはい、見るわ。でも――俺にとって一番の宝は、やっぱりお前や」

ハルの胸が一瞬、熱く跳ねた。

水槽の大きな魚たちよりも、自分を幸せそうに見つめてくる悠哉の笑顔が――何よりも眩しかった。

大水槽の前で立ち止まったまま、ハルは子どもみたいに目を輝かせていた。

「悠哉、ほら!あそこ見て!マンタが泳いでる!」

ガラスに手を添え、声を弾ませる姿が可愛すぎて、悠哉は思わず笑みをこぼす。

「お前、ほんま楽しそうやな。……こっちまで幸せになんねん」

「もう、また僕ばっか見てるでしょ」

「当たり前や。俺の恋人やからな」

さらりと甘い言葉を吐き、肩に腕を回す悠哉。周りの観光客がちらっと振り返るけれど、ふたりは気にも留めなかった。

その後、クラゲコーナーでもハルは夢中で写真を撮り続けた。

「悠哉、見て!ふわふわして綺麗!」

「せやな……けど俺は、横で必死に写真撮ってるお前のほうが綺麗や思う」

「っ……」

耳まで真っ赤にしてスマホを下げるハルに、悠哉は勝ち誇ったようにニヤリ。

水族館を出る頃には、ふたりの会話はすっかり甘い空気に包まれていた。

「お昼、なに食べよっか?」

「沖縄来たんやし、やっぱり名物やろ」

悠哉が即答する。

「ソーキそばとか、ゴーヤチャンプルとか……食べたいな」

「ほな、俺がええ店探したる」

そのままレンタカーに乗り込み、海沿いを走る。

窓から吹き込む潮風にハルが目を細めると、悠哉は運転しながらちらりと横顔を見た。

「ソーキそばより……お前の笑顔のほうがご馳走やけどな」

「……悠哉はほんと、ずるい人」

照れ笑いしながらも、繋いだ手は離さなかった。

そしてーソーキそばもゴーヤチャンプルーも食べ終えて、ふたりは車に戻った。

エンジンがかかると、窓の外には鮮やかな海の青が広がり、ゆるやかな南国の風景が流れていく。

「……美味しかったね」ハルがにこっと笑う。

「ソーキそば、好きかも。沖縄って、ほんと海が綺麗だよね。僕、初めて来たから余計に感動してる」

ハンドルを握る悠哉は、ちらりと横顔を見て小さく息を吐く。

「……可愛いな。初めてのもん全部に、素直に喜んで。見てるだけで、胸いっぱいになるわ」

「えっ……」ハルは思わず目を逸らす。

「俺は小学生のとき一度来たことあるけどな。家族旅行みたいなもんや」

「そうだったの?なんか慣れてるから……てっきり、恋人と来たことあるのかと思った」

少し拗ねた声に、悠哉はクッと笑い、赤信号でハンドルから手を放すとハルの手をしっかりと握った。

「アホ。お前以外と旅行なんかする気もせん。俺がここまで連れまわして、甘やかしたんは……ハルだけや」

「……もう。急にそういうこと言うから」
頬が真っ赤になり、窓の外を見ようとするハル。

けれど握られた手は離れず、指先まで熱を伝えてくる。

「なぁ、もっと俺だけ見ろ。魚とか景色もええけど、俺が一番やろ?」

「……っ」

「お前が嬉しそうに笑うん、全部俺だけに見せろ。ハルは、俺のもんやからな」

低く囁く声に、胸がドキリと跳ねる。

息を呑みながらも、ハルは小さく「……うん」と頷いた。

青空の下、車はゆるやかに首里城へ向かう。

やがて城壁が見え始めた頃、悠哉は窓の外を見ながら、繋いだ手を離さないまま微笑む。

「よし、今日は俺が全部案内したる。覚悟しとけよ、ハル」


Lesson28.5続くー
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