壊すほどに、俺はお前に囚われている

柊絵麻

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Lesson8 真逆の温もり

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朝、薄い光がカーテンの隙間から差し込む。

重たい身体を起こすと、テーブルの上に一本の栄養ドリンクが置かれていた。

――タクミ。

無骨なくせに、こういうところだけ妙に優しい。

思わず唇が緩み、小さく呟く。

「……ありがとな」

胸の奥が温かくなるのと同時に、体調が悪いせいか不思議と苦い記憶が蘇ってくる。

俺は、ずっと一人だった。

父は起業家で、いつも海外。

母は外科医で、病院とオペに全てを捧げていた。

冷めきった夫婦の間で、幼い俺は居場所を見失っていた。

俺を育ててくれたのは、両親じゃない。

――メイドのキョウコさんだ。

7歳のときに出会った、まだ二十歳そこそこの女性。

いつも笑顔で、俺にとって母親のような存在だった。

小6の時、学校で喧嘩して相手を泣かせたことがあった。

教師が親を呼ぶと言った瞬間、真っ先に駆けつけてくれたのはキョウコさんだった。


「レン様は強いけど、本当は優しい子なんですよ、私はわかってます。ずっとレン様の味方です」

あのときの言葉が、どれほど救いになったか。

父や母の顔を思い出そうとしても、ぼやけて浮かばない。

モデルの仕事をしたいと告げたとき、親父は真っ向から否定した。

「そんなものは一時の遊びだ」

それ以来、口をきいていない。

母は――

「今日は手術があるの」

その一言だけを残して、家から出ていく背中ばかりを見ていた。

18歳ー大学合格したあの時に
俺は決意した。

「……出るよ、この家を」

荷物をまとめて玄関に立った俺を、キョウコさんが慌てて止める。

『レン様、旦那様や奥様には……』

「知らねえよ。俺は俺で頑張る。こんな冷たくて窮屈な重い家に、もう俺の居場所はない」

泣きそうな顔で立ち尽くす彼女を振り切ったあの日。

あのときの俺は、ただ無我夢中で逃げ出していただけだ。

渋谷の街を歩いていたとき、声をかけられた。

「君すっごい!イケメンだね、モデルとか興味ないかな? 背も高いし何センチ?モデルやってみない?」

それが俺の始まりだった。

容姿に救われた。

顔だけは恵まれていたんだろう。

それだけで、生きてこれた。

――それでも。

大学入学に出会ったユウヤが羨ましかった。

顔もかっこよくて、背も高く頭も良くて、大学でも人気者で。

御曹司なのに、父親とも良好な関係を築いている。

そして今は、ハルっていう恋人までいる。

大切に想い合える存在が、ちゃんと隣にいるんだ。

「……俺は、何をしてんだろ」

ベッドに背中を投げ出し、天井を仰ぐ。

心の奥底から滲むのは、どうしようもない虚しさ。

「ちょっとだけ寂しいな……」



タクミ自宅ー


妹がプリンを2つ持ってきて、にこにこと笑う。

「お兄~!一緒に食べよ」

スプーンを押しつけられて、仕方なく口に運ぶ。

甘ったるい味と一緒に、妹の楽しそうな笑顔が広がった。

「お前、もう高校生なんだから、少しは落ち着けよ、あとそんなにくっつくな!
暑いだろ!」

「やだ。お兄と一緒にいたいんだもん」
ぎゅっ。

肩に寄りかかってくる姿は、昔から変わらない甘えん坊のまま。

母さんがキッチンから

「また甘やかしてる」と笑い、

父さんがソファーに腰掛け、本を読みながら、こちらをチラ見する様子。

日常の、ありふれた温もり。

ふと、昨日のレンを思い出す。

孤独な部屋、散らかった服、熱に浮かされた弱い声。

――体調悪いとき、家族がそばにいたら寂しくはないんだろうな。

あいつには、それがなかった。

胸の奥がじんわりと締めつけられる。
レンの寝顔がふっと浮かび、心の中で小さく呟いた。

「……俺、やっぱりあいつを放っとけねぇよな」


Lesson9続くー♡♡♡

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