キスして、触れて、全部スキなこと

氷月

文字の大きさ
1 / 15

【1 】雨粒と心臓の鼓動

しおりを挟む
ピンポーン。

インターホンの音に、ハルは小さく眉をひそめた。
「え、もう来たの?」

時計を見ると、約束より十五分も早い。しかも外は本降りの雨。

玄関を開けると、そこに立っていたのは──びしょ濡れのユウヤだった。
片手にカバン、もう片方はポケットに突っ込んだまま。
傘もささず、髪も服も濡れていて、水滴が玄関にぽたぽたと落ちていく。

「……何してるんですか。傘、持ってこなかったんですか?」
ハルが呆れ気味に問いかけると、ユウヤはふっと笑った。

「雨降る思てなかってん。……ハルんち来るん、焦ってもうてさ」

いつもより低めの声。濡れた前髪が頬に張りついて、どこか儚げに見えた。

「……入ってください。ていうか、早く入ってください」

ハルはユウヤの腕を軽く引っ張り、慌てて中へ招き入れる。
そして走ってバスタオルを取りに行き、戻って差し出した。

「……びしょ濡れじゃないですか」

「忘れたっちゅうか……ハルの顔見たなって、急いでもうて」

ユウヤは肩をすくめながら笑う。前髪から水滴が落ち、白いシャツが肌に貼りついている。

「とりあえず拭いてください。風邪ひきますよ」

「……あかん。手ぇ冷たすぎて動けへん。ハル、拭いたって」

「えっ、ぼくがですか?」

「せや。濡れたままやと部屋ビショビショなるやろ?」

「……もう、自業自得ですよ」

ため息をつきながらも、ハルはタオルでユウヤの髪に手を伸ばした。
近い。距離が……。

髪を拭くだけなのに、すぐ目の前にあるユウヤの横顔が大人びて見えて、心臓が跳ねる。
タオル越しに前髪を撫でた瞬間──ユウヤの手がハルの手をそっととった。

「……ハル、動かんといて」

「え……?」

「前から思てた。……おまえ、可愛すぎるんや」

次の瞬間、ユウヤの唇が触れた。

「……っ」

一瞬の温度。熱くて、くすぐったくて、それでいて柔らかい。
ハルは息を呑んで目を見開く。近すぎる距離に、焦点が合わない。

「……い、今のって……」

「……キスや」

ユウヤはハルの髪の先を指でつまみながら、低く囁いた。
「あかんわ。もう我慢できへんかった」

「……っ、なんで……」

ハルの胸が早鐘のように鳴る。頭は追いつかないのに、体の奥が熱くてふわふわする。

「前から思てたんや。おまえが誰より可愛
くて、会うたび惹かれてまう」

「だ、だめですよ……ぼく、ま、まだ……」

「知ってる。だから今はそれ以上せえへん」

そう言ってユウヤは、そっとハルを抱きしめた。

「でもな、ずっと触れたかった。こうして……おまえのあったかさ、感じたかったんや」

ハルはユウヤの胸の中で動けなかった。
考えたこともないほど近い距離。けれど──嫌じゃなかった。

ユウヤの声、腕のぬくもり、濡れたシャツ越しの体温。

「……ずるいです」小さくつぶやくと、ユウヤがくすりと笑った。

「なあ、ハル」

「……はい」

「次のテスト、ちゃんと頑張ったら──もう一回、キスしたる」

「っ、ば……バカじゃないんですか!」

頬を真っ赤にして、ハルはユウヤの胸を軽く叩く。
外では雨がさらに強くなっていた。

──数日後。

授業が終わり、ハルは帰り支度をして教室を出た。
靴を履き校門へ向かうと、そこに見慣れない長身のイケメンが立っている。

「……えっ? え、えぇ!? なんで……」

まさかのユウヤだった。

私服でも異様にキマっている。
白シャツに黒の細身パンツ、少し乱れた前髪。
女子たちの視線が一斉に集まった。

「ねぇ、誰あの人……!」「めっちゃイケメンじゃない!?」

ハルは立ち止まり、思わず息を呑む。
まさか、本当に来るとは。

ユウヤは涼しげな顔でポケットに片手を入れたまま、ゆっくりと歩いてくる。

「お、ハル。……テスト、頑張ったか?」

「っ……なんで来たんですか……」

「ご褒美、受け取りに来たんやろ?」

ふっと笑うと、女子たちのざわめきが広がった。

「え、名前呼んでる!」「知り合い!?」「いいな……!」

その視線にさらされ、ハルの顔は真っ赤になる。

「……なあ。恥ずかしいなら手ぇ繋がんといたる」

「でも、本音はどうなん?──俺と一緒に帰んの、嫌か?」

答えられずにうつむくハル。
けれど胸の奥は、じんわりと熱くなっていた。

続く♡
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...