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虹色の十字架 ウガンダのアセクシャル
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⚫︎クロードにアセクシャル(無性愛者)とウガンダの反同性愛法について依頼。
# 虹の国の十字架【改訂版】
## 第一幕:それぞれの正義
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**カンパラ、2023年初春・国会議員宿舎**
朝6時。**ナロンゴ議員**(45)がキッチンで朝食を作っている。
「ママ! 今日は何作ってるの?」
7歳の息子**デイビッド**が駆け寄ってくる。
「あなたの大好きなマトケ(バナナの蒸し料理)よ。さあ、手を洗いなさい」
ナロンゴが優しく息子の頭を撫でる。
夫の**サムエル**(48、牧師)が聖書を読みながら現れる。
「今日は大事な日だね」
「ええ…法案の最終討議」
ナロンゴの表情が曇る。
「あなた、迷ってるの?」
「いいえ。子どもたちを守るため。これは必要なことよ」
しかし、その手が微かに震えている。
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**同時刻、大学寮**
**エマ**(22、心理学専攻)がベッドで丸まっている。
ルームメイトの**ファティマ**(23)が揺り起こす。
「エマ! また悪夢?」
「…うん」
「同じ夢?」
エマが頷く。
「結婚式の夢。ベールを被せられて…
そして初夜に、知らない男の人が…」
声が震える。
ファティマが背中をさする。
「大丈夫。まだ決まってないじゃない」
「父さんが昨日電話してきた。
『お前も24になる。良い縁談がある』って」
「断ればいいのよ」
「できない…断ったら、私が、その…」
エマが言葉に詰まる。
「レズビアンだと思われる。
今の法案が通ったら…」
ファティマの顔が強張る。
「でも、あなたは誰も愛してないんでしょ?」
「それを誰が信じる?
結婚拒否=同性愛者。そう思われたら終わり」
窓の外、雨が降り始める。
-----
**国会議事堂、準備室**
ナロンゴが化粧直しをしている。
秘書の**グレース**(28)が資料を持って入ってくる。
「議員、今日の演説原稿です」
「ありがとう」
ナロンゴが原稿を読む。手が止まる。
「グレース…これで本当に子どもたちは守られるのかしら」
「議員?」
「私…昨日、古い友人に会ったの。
彼女の息子が、その…同性愛者だと告白して」
グレースが固まる。
「彼女は泣いていた。『息子は優しい子なのに』って。
病院でボランティアして、お年寄りの世話をして…
でも、法律が通ったら…」
「議員、それは個別のケースです。
法案の目的は、子どもたちを守ること。
欧米の団体が学校に入り込んで、子どもたちを勧誘—」
「分かってる! 頭では分かってるの!」
ナロンゴが机を叩く。
深呼吸。
「でも…死刑って、神の御心なのかしら」
沈黙。
グレースが慎重に口を開く。
「レビ記20章13節。
『男が女と寝るように男と寝るなら、
ふたりとも忌むべきことをしたのである。
必ず殺されなければならない』」
「…」
「神の言葉です」
ナロンゴが聖書を手に取る。ページをめくる。
「でも、ローマ人への手紙1章では…
『彼らは神を認めることを良しとしなかった』と。
つまり、これは偶像崇拝の文脈…?」
「議員、神学論争をしている時間は—」
ドアがノックされる。
-----
**国会本会議場**
議場は満席。報道陣が詰めかける。
ナロンゴが演台に立つ。深呼吸。
「議長、そして同僚の皆さん。
私には7歳の息子がいます。
毎朝、彼が『ママ、学校楽しみ!』と言う顔を見ると、
母親として、この子を守らなければと思います」
傍聴席から拍手。
「しかし、今、我が国の子どもたちが脅威に晒されています。
欧米のNGOが学校に入り込み、
幼い子どもたちに『同性愛は正常だ』と教えている。
これは教育ではない。勧誘です。洗脳です!」
拍手が大きくなる。
「世界保健機関は言います。『これは病気ではない』と。
しかし、私たちの文化では、これは道徳の問題です!
私たちアフリカには、私たちの価値観がある!」
歓声が上がる。
しかし、ナロンゴの目が一瞬泳ぐ。
「だからこそ…この法案に…」
彼女が止まる。
傍聴席のざわめき。
「だからこそ…私たちは…」
心の中で友人の涙を思い出す。
*(でも、彼の息子は子どもを襲ったわけじゃない…)*
「私たちは、子どもたちを守るために、この法案を…」
隣の席の**ムセベニ議員**(62、男性)が囁く。
「ナロンゴ、しっかりしろ」
ナロンゴが目を閉じる。息子の顔。友人の涙。聖書の言葉。
「…支持します」
拍手の嵐。
しかし、ナロンゴ自身は、どこか遠くを見つめている。
-----
**同時刻、大学構内**
エマがベンチに座っている。
手には二つの封筒。
一つは父からの手紙。「見合いの日程」
もう一つは、NGOからのパンフレット。「難民申請のガイド」
ファティマが横に座る。
「どうするの?」
「…分からない」
「エマ、あなたはまだ時間がある。
法案が通っても、すぐには—」
「そうじゃないの!」
エマが叫ぶ。通りすがりの学生たちが振り返る。
小声に戻る。
「結婚したら、私は…毎晩、彼に体を許さなきゃいけない。
夫の権利だから。
でも私、誰にも触られたくない。
キスも、ハグも、全部…気持ち悪いの」
「それなら逃げるしか—」
「逃げたら?
家族を捨てることになる。
父も母も、弟たちも。
それに、ケニアに逃げても、向こうでも同じ問題が待ってる。
『なぜ結婚しない?』『おかしい』『怪しい』」
エマの目から涙。
「私、どこにも居場所がないの。
結婚すれば、毎日がレイプ。
断れば、レズビアンだと疑われて殺される。
逃げても、異常者扱い。
私の何が悪いの!?」
ファティマが抱きしめる。
「何も悪くない…」
「じゃあなぜ、私だけこんな目に…」
二人は抱き合ったまま、泣き続ける。
-----
**ナロンゴの自宅、夜**
ナロンゴが息子を寝かしつける。
「ママ、お話して」
「今日は疲れてるの。明日ね」
「やだ! ノアの箱舟がいい!」
ナロンゴが微笑む。
「分かったわ。
むかしむかし、世界が悪い人ばかりになって、
神様はとても悲しみました…」
物語を語りながら、ナロンゴの心は揺れる。
*(神は悪い人を滅ぼした。
でも、同性愛者は…悪い人なの?
あの友人の息子は、お年寄りに優しくしていた。
それも偽善?)*
「ママ? どうしたの?」
「ううん、何でもないわ」
息子が眠る。
ナロンゴがリビングに戻ると、夫がニュースを見ている。
「国際社会がまた批判してるね」
「ええ…国連、EU、アメリカ…」
「彼らは分かってない。我々の苦しみを」
サムエルが聖書を開く。
「ローマ人への手紙1章26-27節。
『そのために、神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました。
すなわち、女は自然の用を不自然なものに代え、
同じように、男も、女の自然な用を捨てて、
男どうしで情欲に燃えました』」
「でも…」
ナロンゴが迷いを口にする。
「パウロが語ったのは、神殿娼婦や少年愛のことじゃないかって、
神学者もいるわ」
「ナロンゴ!」
サムエルが険しい顔。
「聖書に『でも』はない。神の言葉は絶対だ」
「…ごめんなさい」
ナロンゴが頭を下げる。
しかし、心の中では疑問が渦巻く。
*(本当に? 本当にこれで良いの?)*
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## 第二幕:亀裂
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**2週間後、国会**
法案が可決された。
賛成387票、反対2票、棄権11票。
ナロンゴは賛成票を投じた。
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**エマの実家、地方都市**
父**オコロ**(56、銀行員)が見合い写真を並べる。
「エマ、この3人から選びなさい」
母**シャロン**(52)が紅茶を運んでくる。
「どの人も良い家柄よ。あなたは幸せになれる」
エマが写真を見る。手が震える。
「お父さん…私、まだ勉強を—」
「結婚してからでも勉強はできる」
「でも—」
「でも、じゃない!」
オコロが声を荒げる。
「お前はもう22だ。これ以上遅れたら、縁談もなくなる。
それに…」
彼が声を潜める。
「新しい法律が通った。
結婚もしない、恋人もいない女は、疑われるんだぞ」
エマの顔が蒼白になる。
「私は…その…誰も好きじゃないだけで…」
「それが危険なんだ!」
シャロンが優しく手を握る。
「エマ、お母さんも最初は怖かったわ。
でも、慣れるものよ。夫婦の営みも」
「営み…?」
エマが吐き気を覚える。
「ええ。最初は痛いし、恥ずかしいけど、
それが妻の務め—」
「やめて!」
エマが立ち上がる。
「私、そんなの…できない!」
「エマ!」
オコロが激怒する。
「お前、まさか…」
「違う! 私は誰も好きじゃないの!
男も女も! ただ、一人でいたいだけ!」
「それがおかしいと言ってるんだ!」
「おかしい…私がおかしい…」
エマが崩れ落ちる。
シャロンが娘を抱きしめる。
「大丈夫…大丈夫よ…」
しかし、その目は恐怖に満ちている。
-----
**ナロンゴの議員事務所**
ナロンゴが老婦人**ナカト**(78)を迎えている。
「ナカトおばあちゃん、お元気でしたか?」
「ナロンゴちゃん、あなたに会いに来たよ」
二人は旧知の仲。ナロンゴの亡き祖母の親友。
「実は…相談があるんだよ」
「何でしょう?」
ナカトが声を震わせる。
「孫のことなんだ…」
「お孫さん? 確か、看護師になった…」
「そうだよ。マーティン。良い子なんだよ。
患者さんには優しいし、私の薬も毎日確認してくれて…」
ナカトが泣き出す。
「でも…でも…
彼、昨日逮捕されたんだよ」
ナロンゴが息を呑む。
「逮捕…?」
「隣人が通報したんだ。
『男友達と住んでいる。怪しい』って。
警察が家を捜索して…
二人の写真を見つけて…」
「…」
「ナロンゴちゃん。お願い。
マーティンを助けて。
彼は何も悪いことしてないんだよ。
ただ、誰かを愛しただけなんだよ」
ナロンゴの心が引き裂かれる。
「おばあちゃん…私…」
「あなたは優しい子だった。
小さい頃、迷子の犬を助けて、
一晩中看病してたじゃないか」
「…」
「その優しさで、マーティンも助けて」
ナロンゴが目を閉じる。
**フラッシュバック:**
- 幼いナロンゴが傷ついた犬を抱きしめる
- 母が言う:「優しい子ね。神様もきっと喜んでるわ」
目を開ける。
「おばあちゃん…ごめんなさい」
「え?」
「私には…できません」
ナカトの顔が絶望に染まる。
「法律が決まったんです。私も賛成票を投じた。
だから…」
「あなたが…? あなたが賛成を…?」
ナカトが立ち上がる。
「私は間違ってた。
あなたは優しい子じゃない。
政治家になって、心を失った」
「おばあちゃん!」
ナカトが杖をついて出て行く。
ナロンゴは一人残される。
机の上には、息子の写真。
隣には、法案の最終稿。
彼女の手が震える。
-----
**大学、深夜**
エマが図書館で一人、パソコンと向き合う。
画面には、難民申請のフォーム。
しかし、カーソルが動かない。
ファティマが隣に座る。
「まだ迷ってるの?」
「うん…」
「エマ、私の従兄弟がケニアにいる。
彼が手助けしてくれる」
「でも…」
エマが別のウィンドウを開く。
そこには、父からのメール。
*「見合いは来月15日。相手はとても良い人だ。医師で、収入も安定している。お前の将来は安心だ」*
「安心…」
エマが笑う。乾いた笑い。
「私が毎晩怯えながら生きることが、安心?」
「逃げようよ」
「逃げたら、家族はどうなる?
父は『娘がレズビアンだった』と噂される。
職を失うかもしれない。
母は教会に行けなくなる。
弟たちは学校でいじめられる」
エマが頭を抱える。
「私一人の問題じゃない。
家族全員を道連れにする」
「じゃあ、結婚するの?」
「できない…
初夜に、彼が私に触れて、
私の中に入ってきて…」
エマが嘔吐しそうになる。
ファティマがゴミ箱を差し出す。
「毎晩、それが続くのよ。
夫の権利だから。拒否できない。
それは結婚なの?
それは、法律で認められたレイプじゃないの?」
涙が止まらない。
「神様…神様…
なぜ私をこんな風に作ったの…」
-----
**ナロンゴの寝室、同じ夜**
ナロンゴが眠れずにいる。
隣で夫が平和に寝息を立てる。
彼女は聖書を開く。
ローマ人への手紙1章。
「『神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました』…」
ページをめくる。
同じ章の32節。
「『彼らは、そのようなことを行えば、死罪に当たるという神の定めを知っていながら…』」
ナロンゴが息を呑む。
さらにページをめくる。
ローマ人への手紙2章1節。
**「ですから、すべて他人をさばく人よ、あなたに弁解の余地はありません。あなたは、他人をさばくことによって、自分自身を罪に定めています。さばくあなたが、それと同じことを行っているからです」**
ナロンゴの手が震える。
「これは…どういう…?」
彼女が続きを読む。
「『神のさばきは、そのようなことを行っている人々の上に正しく下る』…
でも、次に…
『そのようなことをしているあなたが、神のさばきを免れるとでも思っているのですか』」
ナロンゴが混乱する。
「パウロは、裁くことを…裁いてる?」
彼女は別の箇所を開く。
マタイの福音書7章。
**「さばいてはいけません。さばかれないためです」**
ナロンゴの目から涙が落ちる。
「私は…何をしたの…」
彼女が胸を押さえる。
「神様…私、間違ったの?
子どもを守るためだった…
でも、マーティンは…おばあちゃんは…」
彼女が枕に顔を埋める。
声を殺して泣く。
夫が目を覚まさないように。
息子に聞かれないように。
世界に知られないように。
**でも、神は知っている。**
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**[続く]**
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この改訂版では:
- ナロンゴを多面的に:慈愛深い母、信仰深いクリスチャン、しかし内心で揺れる人間として描写
- 聖書の引用を具体的に、そして解釈の複雑さも提示
- エマの苦境を詳細に:結婚=合法的レイプの恐怖、逃亡=家族への影響、という二重の罠
- アセクシャルへの理解のなさをリアルに描写
第三幕以降も、このトーンで続けましょうか?
## 第三幕:崩壊する境界線
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**3ヶ月後、刑務所**
**マーティン**(26、看護師)が独房で聖書を読んでいる。
面会室に呼ばれる。
祖母ナカトが待っている。しかし、今回は一人ではない。
ナロンゴ議員も同席している。
マーティンが驚く。
「おばあちゃん…それに、議員…?」
ナカトが孫の手を握る。
「マーティン、ナロンゴちゃんが来てくれたよ」
マーティンがナロンゴを睨む。
「あなたは…賛成票を投じた人だ」
「…ええ」
「なぜここに?」
ナロンゴが下を向く。
「私は…謝りに来ました」
「謝罪?」
マーティンが冷笑する。
「謝罪で、私の人生が戻るんですか?
職も、恋人も、未来も失った。
あなたの一票が、私を殺したんだ」
「分かっています」
ナロンゴの声が震える。
「でも…私には息子がいて…
子どもたちを守らなければと…」
「僕から何を守るんです?」
マーティンが立ち上がる。
「僕は看護師だった!
エイズ患者の世話をした。
マラリアで死にかけた老人を助けた。
子どもにワクチンを打った。
僕が、誰に何をしたんですか!?」
看守が「静かに!」と叫ぶ。
マーティンが座る。涙を拭う。
「僕は…ただ、ジョナサンを愛しただけだ。
彼は教師だった。
放課後、貧しい子どもたちに無料で勉強を教えてた。
二人とも、社会のために生きてた。
でも、それは間違いだったんですか?」
ナロンゴが顔を覆う。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「議員」
マーティンが冷静な声。
「あなたには息子さんがいる。
その子が大きくなって、もし…
もし、彼が僕と同じだったら?
あなたは自分の息子も、死刑にするんですか?」
ナロンゴが硬直する。
想像したくない光景が脳裏をよぎる。
**フラッシュバック:**
- 息子デイビッドが17歳になっている
- 「ママ…話があるんだ」
- 彼の震える声
- 「僕…男の子が好きなんだ」
- そして、警察が家に来る
ナロンゴが叫ぶ。
「やめて! そんなこと…!」
「でも、可能性はある」
マーティンが静かに言う。
「統計では、20人に1人。
あなたの息子が、その1人じゃないと、
誰が保証できます?」
沈黙。
ナカトが口を開く。
「ナロンゴちゃん。
マーティンを助けるために、何かできないの?」
「私は…もう議員として…」
「議員じゃなくていい。人間として」
ナロンゴが顔を上げる。
「私、動いてみます。
でも…約束はできない」
「それでいい」
ナカトが微笑む。
「昔の優しいナロンゴちゃんが、まだいたんだね」
-----
**大学、エマの部屋**
エマがスーツケースに荷物を詰めている。
ファティマが見守る。
「本当に、結婚するの?」
「…うん」
「でも、あなた—」
「逃げられない」
エマが機械的に服を畳む。
「父が昨日言ったの。
『もし見合いを断ったら、警察に相談する』って」
「え!?」
「私を病院に連れて行って、検査させるって。
『異常がないか確認する』って」
ファティマが凍りつく。
「そんな…」
「医師の友人に聞いたら、
『処女検査』をするんだって。
そして、『性的に正常か』テストする。
男性の写真を見せて、反応を測る」
エマの声が震える。
「反応しなかったら、『異常』。
レズビアンだと判定される。
そうしたら…」
言葉が途切れる。
ファティマが抱きしめる。
「逃げようよ。今からでも」
「できない。もう遅い」
エマがスーツケースを閉じる。
「見合いは3日後。
結婚は2週間後。
それまでに逃げたら、家族が逮捕される。
『娘の逃亡を幇助した』って」
「そんな法律ないでしょ!」
「なくても、疑いだけで十分。
この国では、疑われた時点で終わり」
エマが鏡を見る。
そこには、諦めた目をした若い女性。
「私…生きてるって言えるのかな、これから」
-----
**ナロンゴの教会、日曜礼拝**
夫サムエル牧師が説教をしている。
「愛する兄弟姉妹よ。
我々は試練の時代にいます。
世界は我々を『後進的』『野蛮』と呼ぶ。
しかし!」
サムエルが声を張り上げる。
「我々には神の言葉がある!
聖書は明確です。
ソドムとゴモラの滅亡。
レビ記の戒め。
ローマ人への手紙の警告。
神は、この罪を憎まれる!」
会衆から「アーメン!」の声。
ナロンゴが席に座っている。息子を膝に乗せて。
しかし、彼女の心は説教を聞いていない。
**内なる声:**
*「でも、マーティンは誰も傷つけてない」*
*「彼は病人を助けていた」*
*「それでも、罪人?」*
サムエルが続ける。
「しかし、神は憐れみ深い方。
罪人であっても、悔い改めれば赦される。
彼らが同性愛を捨て、
正しい道に戻れば、
神は腕を広げて待っておられる!」
ナロンゴの心が叫ぶ。
*「でも、マーティンは『これが自分だ』と言った」*
*「変えられないものを、どうやって捨てる?」*
*「それは、目の色を変えろと言うようなもの?」*
礼拝が終わる。
信者たちが出口で雑談。
**信者A**(50代女性)「ナロンゴさん、素晴らしい法案でしたね!」
**信者B**(60代男性)「我が国の道徳が守られる!」
ナロンゴが作り笑顔。
「ありがとうございます…」
しかし、その笑顔の裏で、何かが砕けていく。
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**バチカン、枢機卿会議**
**カルディナーレ・ベネデット**が報告を受けている。
「ウガンダで、最初の処刑が執行されました」
会議室が凍りつく。
**ドイツ人枢機卿**(55)が憤る。
「我々は何をしていた!?
声明を出すべきだった!」
「我々は声明を出した」
ベネデットが苦々しく言う。
「『命は神聖である。しかし、同性愛行為は罪である』と」
「それは声明じゃない!
両論併記で、結局何も言ってないのと同じだ!」
**アフリカ人枢機卿**(68、ナイジェリア出身)が反論する。
「あなた方ヨーロッパ人は、簡単に言う。
『人権を守れ』と。
しかし、アフリカの教会は戦っているんだ!
イスラムの拡大、世俗化、貧困…
教会が伝統的価値観を捨てたら、
信者が離れていく。
そうしたら、誰がアフリカの魂を救う?」
「魂? 死んだ人に魂もクソもない!」
会議が紛糾する。
ベネデットが頭を抱える。
**フラッシュバック:**
- 若き日のベネデット、神学校で学ぶ
- 教授が言う:「教会の使命は、命を守ることだ」
- ベネデットが誓う:「私は命を守る聖職者になります」
現在に戻る。
*(私は…何を守っている?
教会の威信? 政治的バランス?
それとも…自分の地位?)*
ベネデットが立ち上がる。
「諸君」
全員が注目する。
「私は…教皇聖下に、辞表を提出する」
「何!?」
「私は枢機卿として、失格だ。
命を守れなかった。
政治を優先し、人間を見捨てた」
ベネデットが赤い帽子を脱ぐ。
「若い諸君。私の轍を踏むな。
教会は建物ではない。
教義は紙ではない。
教会は人だ。生きている、血の通った人間だ。
それを忘れた瞬間、
我々は神の敵になる」
会議室が静まり返る。
-----
**エマの見合い当日**
高級レストラン。
エマが堅い表情で座っている。
向かいには**ムバラク医師**(32、外科医)。
ハンサムで、穏やか。誰もが羨む相手。
「エマさん、心理学を専攻されてるんですね」
「…はい」
「素晴らしい。僕の病院でも、心理カウンセラーが必要で—」
「先生」
エマが遮る。
「何でしょう?」
エマが決意を込めて言う。
「私、あなたと結婚できません」
ムバラクが驚く。
父オコロが横から割り込む。
「エマ! 何を言ってるんだ!」
「本当のことです」
エマがムバラクを見つめる。
「先生は良い方だと思います。
でも、私…誰とも結婚したくない」
「それは、僕に何か問題が?」
「いいえ。私の問題です」
エマが深呼吸。
「私、誰も恋愛的に好きになれないんです。
男性も、女性も。
セックスも…したくない。
触られることも、嫌なんです」
レストランの周囲の客が振り返る。
オコロが青ざめる。
「エマ! ここで何を—」
「もう隠せない!」
エマが立ち上がる。
「私はアセクシャルです!
恋愛感情も、性的欲求も、ない!
それが私!
変えられない!」
レストラン中が注目する。
ささやき声。
「あの娘…」
「レズビアンじゃないの?」
「いや、もっとおかしい」
「病気?」
「警察に通報すべきじゃ…」
ムバラクが静かに言う。
「エマさん、座ってください」
「え…?」
「お願いです」
エマが戸惑いながら座る。
ムバラクが穏やかに微笑む。
「僕には、秘密があります」
「秘密…?」
ムバラクが声を潜める。
「僕も、誰も愛せない。
女性を見ても、何も感じない。
医師として診断すれば、僕もアセクシャル。
でも、家族は結婚しろと言う。
社会は子どもを作れと言う。
だから、僕は提案します」
ムバラクがエマの手を取る。
「僕たちは、結婚しましょう。
でも、本当の結婚じゃない。
形だけの結婚。
世間体のため。家族のため。命を守るため。
セックスはしない。約束します。
別々の部屋で寝る。
ただ、友人として、共犯者として、生きる」
エマの目から涙が溢れる。
「そんな…そんなことできるんですか…?」
「できます。やるしかない。
僕たちのような人間が、この国で生き延びるには、
これしか方法がない」
オコロが割り込む。
「先生、それは…」
「お父さん」
ムバラクが真剣な目。
「娘さんを守れるのは、僕だけです。
僕と結婚すれば、娘さんは疑われない。
医師の妻として、社会的地位も得る。
代わりに、僕も疑われない。
Win-Winです」
オコロが混乱する。
しかし、ムバラクの目を見て、何かを悟る。
「…分かりました」
-----
**ナロンゴの議員事務所、深夜**
ナロンゴが一人で書類を読んでいる。
マーティンの裁判記録。
そして、他の逮捕者のリスト。
**112名。**
その多くが、証拠不十分。
隣人の通報だけで逮捕されている。
「怪しい行動」「同性の友人と住んでいる」「結婚していない」
ナロンゴが震える。
ノックの音。
秘書グレースが入ってくる。
「議員、まだ起きてたんですか」
「ええ…グレース、これを見て」
ナロンゴがリストを見せる。
「この中に、本当に『犯罪者』は何人いると思う?」
グレースが目を通す。
「…全員、犯罪者ですよ。法律違反ですから」
「法律? この法律が正しいの?」
「議員!」
グレースが驚く。
「あなた、何を言ってるんですか!
あなた自身が賛成票を—」
「間違えた!」
ナロンゴが叫ぶ。
「私は…間違えたのよ!
子どもを守るつもりだった。
でも、実際は…罪のない人を殺している!」
グレースが後ずさる。
「議員…あなた、危険なことを…」
「グレース、あなたには家族は?」
「…弟がいます」
「もし、その弟が逮捕されたら?」
「そんなこと…」
「可能性はゼロじゃない。
独身で、ルームメイトと住んでる。
それだけで疑われる。
今の法律なら」
グレースが固まる。
ナロンゴが立ち上がる。
「私は、この法律を変える」
「無理です! 387票が賛成した。
国民の90%が支持してる!」
「じゃあ、その10%のために戦う」
ナロンゴが決意に満ちた目。
「私一人でも」
-----
**[深夜、ナロンゴの自宅]**
ナロンゴが寝室に戻る。
夫サムエルが起きていた。
「どこに行ってた?」
「事務所よ」
「こんな時間に?」
サムエルが疑いの目。
「ナロンゴ、お前…おかしいぞ、最近」
「おかしい?」
「法案が通って、皆が喜んでる。
教会も、国民も。
なのに、お前だけが暗い顔をしてる」
ナロンゴが黙る。
サムエルが詰め寄る。
「まさか…お前、あいつらに同情してるのか?」
「あいつら?」
「同性愛者だ! 罪人だ!」
「罪人…」
ナロンゴが冷たく笑う。
「あなたは完璧なの? 罪がないの?」
「何!?」
「ローマ人への手紙、ちゃんと読んだ?
2章1節。
『他人を裁く者よ、あなたに弁解の余地はない。
裁くあなたが、同じことをしている』」
「屁理屈だ!」
「屁理屈? これは聖書よ!」
夫婦が睨み合う。
サムエルが低い声で言う。
「ナロンゴ…お前、危険な道に入ってる。
この国で、『彼ら』を擁護することは、
自分も『彼ら』だと言うのと同じだ。
分かってるのか?」
「脅してるの?」
「忠告だ。妻として、母として、
正気に戻れ」
サムエルが寝室を出る。
ナロンゴは一人残される。
窓の外、雨が降り始める。
彼女は息子の部屋を覗く。
デイビッドが平和に眠っている。
*(この子を守るために、法案に賛成した。
でも…この子が大きくなった時、
彼が見る世界は…
本当に安全なの?
それとも、
誰もが誰かを疑い、
誰もが誰かを密告し、
愛が犯罪になる…
そんな地獄?)*
ナロンゴが自分の手を見つめる。
**この手で、何人を殺した?**
雷が鳴る。
-----
## 第四幕:犠牲の羊
**[続く…]**
次の第四幕では、いよいよ処刑シーンと、ナロンゴの決定的な行動、そしてエマの「契約結婚」生活を描きます。続けましょうか?
## 第四幕:犠牲の羊
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**4ヶ月後、国際圧力の高まり**
**国連安全保障理事会、緊急会議**
各国代表が険しい表情。
**米国代表**(58、女性)が発言。
「ウガンダ政府は、国際法を無視し続けています。
我々は経済制裁を—」
**中国代表**(52)が遮る。
「内政干渉だ。
各国には主権がある。
西側は常に『人権』を武器にして、
発展途上国を支配しようとする」
**英国代表**(61)が反論。
「これは主権の問題ではない!
人道危機だ!
すでに5名が処刑され、
200名以上が拘束されている!」
**ロシア代表**(54)が冷笑する。
「あなた方は、シリアで何人殺した?
イラクでは? アフガニスタンでは?
都合の良い時だけ人権を語るな」
議場が紛糾する。
**ケニア代表・カマウ大使**が立ち上がる。
「諸君! 我々は政治ゲームをしている間に、
人が死んでいるんだ!
今日、この瞬間も、
独房で処刑を待つ人々がいる!
その中には、看護師がいる。教師がいる。
誰も傷つけていない、普通の人々だ!」
しかし、各国は自国の利益を優先する。
採決。
制裁決議は、拒否権によって否決。
カマウが頭を抱える。
*(国際社会は、無力だ…)*
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**ウガンダ、ナロンゴの自宅**
朝食のテーブル。
しかし、誰も話さない。
サムエルが新聞を読んでいる。
見出し:「道徳の勝利! 国際社会の干渉を拒否」
息子デイビッドが無邪気に話しかける。
「パパ、今日は日曜学校で何を習うの?」
「ダビデとゴリアテだ」
「それ知ってる! ダビデが石で巨人を倒すんだよね!」
サムエルが微笑む。
「そうだ。小さくても、神が味方なら勝てる」
デイビッドが興奮する。
「すごい! ぼくも強くなりたい!」
「お前は強くなれる。でも、正しい道を歩むことが大事だ」
「正しい道?」
「神の道だ。間違った生き方をする人たちから、離れること」
ナロンゴがフォークを置く。
「サムエル」
「何だ?」
「デイビッドの前で、そういう話は—」
「教育だ。子どもは早くから学ぶべきだ。
何が善で、何が悪か」
ナロンゴが息子を見る。
純粋な目。まだ憎しみを知らない目。
「デイビッド、お母さんに質問していい?」
「うん!」
「もし、あなたのお友達が…
みんなと違っていたら、どうする?」
「違う?」
「そう。例えば…好きなものが違うとか」
デイビッドが考える。
「うーん…でも、友達は友達だよ?
トムはサッカーが好きで、
僕は絵が好きだけど、
それでも友達だもん」
ナロンゴが微笑む。
「そうね。友達は友達」
サムエルが割り込む。
「デイビッド、部屋に戻りなさい。学校の準備を」
「はーい!」
デイビッドが出ていく。
サムエルがナロンゴを睨む。
「何をしている?」
「息子と話しただけよ」
「子どもに変な考えを植え付けるな。
お前、最近本当におかしい」
「おかしいのはあなたよ!」
ナロンゴが立ち上がる。
「7歳の子どもに、憎しみを教えてる!
それが神の教え!?」
「憎しみではない! 真実だ!」
「真実?」
ナロンゴが聖書を掴む。
「じゃあ、これも真実ね。
ヨハネの福音書8章、
姦淫の女の話。
人々が女を石で打ち殺そうとした時、
イエスは何と言った?
『あなたがたのうちで罪のない者が、
最初に石を投げなさい』」
サムエルが黙る。
ナロンゴが続ける。
「そして、誰も石を投げられなかった。
なぜなら、全員が罪人だから。
イエスは女に言った。
『わたしもあなたを罪に定めない。
行きなさい。今からは決して罪を犯してはなりません』」
「それは—」
「待って! まだ終わってない!」
ナロンゴが涙ぐむ。
「イエスは罪を憎んだ。でも、罪人を愛した。
なのに、私たちは何をしてる?
罪人を殺してる!
イエスの教えと、正反対のことを!」
サムエルが立ち上がる。
「お前は混乱している。
牧師に相談した方がいい」
「あなたが牧師でしょ!?」
ナロンゴが夫の胸を叩く。
「あなたが! 私の夫が!
なぜ私の話を聞いてくれないの!?」
サムエルが妻の手を掴む。
「落ち着け」
「落ち着けない!
人が死んでるのよ!
あなたの教会員が、彼らを『悪魔だ』って言ってる!
でも、誰も悪魔じゃない!
みんな、神の子どもじゃないの!?」
サムエルが突き飛ばす。
ナロンゴが床に倒れる。
「ママ!?」
デイビッドが部屋から飛び出してくる。
サムエルが固まる。
「ナロンゴ…すまない、私は…」
ナロンゴが立ち上がる。息子を抱きしめる。
「大丈夫よ、デイビッド。お母さんは大丈夫」
サムエルが手を伸ばす。
「ナロンゴ、私は…」
「触らないで」
ナロンゴが冷たく言う。
「あなたは、もう私の夫じゃない」
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**エマとムバラクの新居**
モダンな3LDKアパート。
二人は別々の部屋で寝ている。
朝、キッチンでエマが朝食を作る。
ムバラクが出勤前に顔を出す。
「おはよう、エマ」
「おはよう…あ、コーヒー淹れるね」
「ありがとう」
二人の関係は、まるでルームメイト。
ムバラクが新聞を読む。
「また逮捕者が増えた。今度は大学教授だって」
「…怖いね」
エマが震える。
ムバラクが優しく言う。
「大丈夫。僕たちは結婚してる。
医師と妻。完璧な表向きだ」
「でも…いつまでこんな嘘を?」
「一生かもね」
ムバラクが苦笑する。
「僕たちには、選択肢がない」
ドアベルが鳴る。
二人が顔を見合わせる。
ムバラクがドアを開ける。
近所の**バシャ夫人**(50代)が立っている。
「ドクター! おめでとうございます!」
「え?」
「ご結婚でしょう? お祝いに来たの!」
バシャ夫人が勝手に入ってくる。
「あら、新婚さんなのに、なんだか冷たい雰囲気ね」
エマが慌てる。
「いえ、その…」
バシャ夫人がエマの手を握る。
「大丈夫よ、最初はみんなそう。
でもすぐに慣れるわ。夫婦生活も」
エマの顔が青ざめる。
「あ、あの…」
「それより! いつ赤ちゃんができるの?
もう夜の努力はしてる?」
ムバラクが割り込む。
「バシャさん、僕たちは医者として忙しくて—」
「だめよ! 若いうちに産まなきゃ!」
バシャ夫人が説教を始める。
「私なんて、結婚して3ヶ月で妊娠したわ。
夫婦の務めをちゃんと果たせば—」
エマが立ち上がる。
「すみません、トイレ!」
エマがトイレに駆け込む。
扉を閉めて、床にしゃがみ込む。
吐き気。震え。過呼吸。
*(夫婦の務め…赤ちゃん…
私、できない…できない…)*
ムバラクがドアをノックする。
「エマ? 大丈夫?」
「だい…じょうぶ…」
「彼女は帰った。出ておいで」
エマがドアを開ける。涙でぐしゃぐしゃの顔。
「ごめん…私…」
「謝らなくていい」
ムバラクが肩を抱く。(性的な意味ではなく、友人として)
「僕たちは、演技を続けるしかない。
辛いけど」
「でも、赤ちゃんは…どうするの?」
ムバラクが考え込む。
「養子を取る?
それか、妊娠したふりをして、
結局『流産した』ことにする?」
「そんな嘘…」
「嘘の人生を生きてるんだ、今更だよ」
ムバラクが自嘲する。
エマが窓を見る。
外は快晴。でも、彼女の心は嵐。
「私たち…いつか壊れちゃうんじゃないかな」
「…多分ね」
二人は無言で立ち尽くす。
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**刑務所、処刑前日**
マーティンが最後の面会。
祖母ナカトと、ナロンゴ議員。
「おばあちゃん…泣かないで」
「泣くなって言う方が無理だよ…」
ナカトの涙が止まらない。
マーティンが笑顔を作る。
「僕ね、後悔してないんだ」
「え…?」
「ジョナサンと過ごした3年間。
あれは、僕の人生で一番幸せな時間だった。
毎朝、彼の笑顔で目が覚めて、
一緒に朝食を作って、
仕事から帰ったら、『おかえり』って言ってくれて…」
マーティンの目が遠くを見る。
「普通の幸せ。それだけが欲しかった。
でも、それは叶わなかった。
この国では、僕たちの愛は犯罪だから」
ナロンゴが口を開く。
「マーティン…私、議会で動いた。
法案の見直しを提案した」
「結果は?」
「…否決された。387対1」
「1?」
「私だけが賛成した。修正案に」
マーティンが驚く。
「議員…あなた…」
「遅すぎた。あなたを救えない。
でも…せめて、次の人たちを」
ナロンゴが泣く。
「ごめんなさい…ごめんなさい…
私が最初から反対していれば…」
「いいんです」
マーティンが優しく言う。
「議員、あなたは変わった。
それだけで十分です。
人は変われる。
それを、あなたが証明した」
マーティンが立ち上がる。
「おばあちゃん、議員。
お願いがあります」
「何?」
「僕の死を、無駄にしないでください。
僕が死んだ後、
僕の話を、世界に伝えてください。
『マーティンという看護師がいた。
彼は患者を助け、老人を世話し、
誰も傷つけなかった。
でも、彼は愛したから殺された』と」
ナカトが泣き崩れる。
「嫌だ…嫌だ…
マーティン、死なないで…」
マーティンが祖母を抱きしめる。
「おばあちゃん、今までありがとう。
おばあちゃんの孫で、幸せだった」
看守が来る。
「時間です」
マーティンが二人から離れる。
最後に、彼は微笑む。
「天国で、ジョナサンに会えるかな」
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**処刑当日、夜明け前**
刑務所の処刑場。
報道陣は立ち入り禁止。
しかし、建物の外には数百人。
**反対派:**
「処刑を止めろ!」
「殺人者!」
**賛成派:**
「神の意志を!」
「罪人に裁きを!」
双方が睨み合う。
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**処刑場内部**
マーティンが連行される。
手錠。足枷。
処刑執行官**オセイ**(40)が待っている。
彼も、この仕事を嫌がっている。しかし、命令は命令。
「マーティン・カトンゴ。
最後の言葉は?」
マーティンが深呼吸。
「私は、神を愛しました。
家族を愛しました。
患者を愛しました。
そして、ジョナサンを愛しました。
それが罪なら…」
マーティンが目を閉じる。
「神よ、私を赦してください。
そして、この国を赦してください。
彼らは、何をしているか分からないのです」
*(イエスの十字架の言葉を引用)*
オセイの手が震える。
*(これは…正しいのか?)*
しかし、彼は引き金を引く。
銃声。
マーティンが倒れる。
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**同時刻、ナロンゴの車内**
ナロンゴが刑務所の外に停めた車の中。
時計を見る。午前6時。
処刑の時間。
銃声が聞こえる。
ナロンゴが叫ぶ。
「いやああああああああ!!!」
ハンドルを叩く。何度も、何度も。
手から血が出る。
「私が…私が殺した…!」
彼女は車内で泣き叫ぶ。
誰にも聞かれないように。
でも、神は聞いている。
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**エマの部屋**
エマがニュースを見ている。
**アナウンサー:**「今朝、死刑が執行されました。
これは我が国の道徳的勝利であり…」
エマがテレビを消す。
ムバラクが隣に座る。
「あれは…僕たちの未来かもしれない」
「え?」
「いつか、僕たちの嘘がバレる。
近所の人が不審に思う。
『赤ちゃんができない』
『夫婦らしくない』
そして、通報される」
エマが震える。
「じゃあ、どうすれば…」
「演技を完璧にする。
それしかない」
ムバラクが立ち上がる。
「今夜、友人を家に招く。
僕たちは、完璧な夫婦を演じる。
手をつないで、笑顔で、
『ラブラブ』を見せる」
「できない…」
「やるんだ。命がかかってる」
エマが顔を覆う。
「これが…人生なの?
これが…生きるってこと?」
ムバラクが答えない。
答えがないから。
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**バチカン、ベネデット枢機卿の部屋**
ベネデットが荷物をまとめている。
辞表は受理された。
若い助祭が涙ぐんで見送る。
「枢機卿様…本当に行かれるのですか」
「ああ」
「どこへ?」
「ウガンダだ」
「え!?」
ベネデットが微笑む。
「贖罪だよ。
私は、この手で救えた命を、見捨てた。
だから今から、残りの人生をかけて、
一人でも多くの命を救う」
「しかし、危険です!」
「危険? 当然だ。
殺されるかもしれない。
でも、それが私の十字架だ」
ベネデットが十字架のネックレスを外す。
「これを、教皇聖下に」
「何と伝えれば?」
「『失敗した羊飼いからの、最後の祈り』と」
ベネデットが部屋を出る。
-----
**ナロンゴの記者会見、3日後**
国会の記者会見室。
報道陣が詰めかける。
ナロンゴが壇上に立つ。
憔悴した顔。
「皆さん、今日は重要な発表があります」
ざわめき。
「私は…反同性愛法に賛成票を投じました。
しかし…」
ナロンゴが深呼吸。
「私は間違っていました」
会場が凍りつく。
「この法律は、正義ではありません。
殺人です。
私たちは、神の名の下に、
無実の人々を殺している」
報道陣が一斉にシャッターを切る。
**記者A:**「議員! それは法律への反逆ですか!?」
「反逆? いいえ。これは良心です」
**記者B:**「あなた自身が同性愛者だから、擁護するのでは?」
ナロンゴが笑う。
「違います。私は異性愛者です。
夫がいて、息子がいる。
でも、それは関係ない。
人間として、母親として、
クリスチャンとして、
私は言います。
この法律は、間違っている!」
会場が騒然とする。
ナロンゴが続ける。
「マーティン・カトンゴさんは、看護師でした。
彼は命を救う仕事をしていた。
でも、私たちは彼を殺した。
なぜ? 彼が愛したから。
それは犯罪ですか?
それは死刑に値しますか?
イエス・キリストは言いました。
『互いに愛し合いなさい』と。
なのに、私たちは愛を罰している!」
会場の半分が拍手、半分が野次。
警備員が近づく。
「議員、退場していただきます—」
「まだです! 最後に!」
ナロンゴが叫ぶ。
「私は、議員を辞職します!
そして、この法律を廃止するために、
命をかけて戦います!
たとえ、私自身が逮捕されても!」
**フラッシュの嵐。**
**見出しが世界を駆け巡る:**
「ウガンダ議員、反同性愛法を糾弾」
「賛成派議員が転向、辞職表明」
-----
**その夜、ナロンゴの自宅**
サムエルが激怒している。
「お前、何をした!?
教会中が大騒ぎだ!
『牧師の妻が背教者だ』って!」
「背教者? 真実を言っただけよ」
「真実? お前は教会を、家族を、
全てを裏切った!」
デイビッドが部屋から出てくる。
「ママ、パパ、なんで喧嘩してるの?」
ナロンゴが息子を抱きしめる。
「大丈夫よ、デイビッド。
お母さんはね、正しいことをしただけ」
「正しいこと?」
「うん。困ってる人を助けるの」
デイビッドが微笑む。
「学校で習った! 『良きサマリア人』だね!」
ナロンゴが驚く。
「そう…そうよ、デイビッド。
お母さんは、サマリア人になりたいの」
サムエルが割り込む。
「デイビッド、部屋に戻れ!」
「やだ! ママと一緒にいる!」
サムエルが息子を掴む。
「言うことを聞け!」
「いたい! パパ、いたい!」
ナロンゴが夫を突き飛ばす。
「息子に手を出すな!」
夫婦が睨み合う。
サムエルが冷たく言う。
「ナロンゴ…お前、この家から出て行け」
「…え?」
「離婚だ。
背教者の妻など、必要ない」
ナロンゴが息子を見る。
デイビッドが泣いている。
「デイビッド…」
「ママ…行かないで…」
ナロンゴの心が引き裂かれる。
しかし、彼女は決めていた。
「デイビッド、お母さんはね、
しばらく離れるけど、
あなたをずっと愛してるからね」
「ママ!!!」
デイビッドが母に抱きつく。
ナロンゴが涙を堪えて、息子を離す。
「いい子にしてるのよ。
お母さん、必ず戻ってくるから」
ナロンゴが荷物をまとめる。
家を出る。
ドアの向こうで、息子の泣き声。
ナロンゴは振り返らない。
振り返ったら、決意が崩れるから。
雨の中、彼女は歩き出す。
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**[幕間]**
**世界の反応:**
- 国連:ナロンゴを「良心の囚人」として表彰検討
- バチカン:沈黙(内部で議論紛糾中)
- イスラム協力機構:「西洋の工作員」と非難
- アフリカ諸国:分裂(一部支持、一部非難)
- 欧米:ヒロイン扱い
- ウガンダ国内:「裏切り者」「恥」
**SNS上:**
#StandWithNarongo
#TraitorNarongo
世界は二つに割れる。
そして、ウガンダ政府は動き出す…
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**[第五幕へ続く]**
次の第五幕では、ナロンゴへの弾圧、エマの偽装生活の崩壊の危機、そして…誰かが死にます。
続けますか?
## 第五幕:砕かれた者の賛歌
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**2週間後、ナロンゴの隠れ家**
ナロンゴは友人の**ナブワンギ元議員**(44)の家に身を寄せている。
ナブワンギは法案に反対した2票のうちの1人。
小さなアパート。壁には人権活動のポスター。
ナロンゴがラップトップで国際メディアとのインタビュー映像を編集している。
ナブワンギが紅茶を運んでくる。
「ナロンゴ、少し休んだら?
もう3日寝てないでしょ」
「休めない…今、世界が注目してる。
この機会を逃したら—」
ドアが激しくノックされる。
二人が顔を見合わせる。
「警察!? もう!?」
ナブワンギが覗き穴を見る。
「違う…ベネデット枢機卿!?」
ドアを開ける。
**ベネデット**(もう枢機卿ではない、普通の司祭服)が立っている。
「ナロンゴ議員…いや、ナロンゴさん」
「あなた…バチカンから?」
「もうバチカンの人間じゃない。
ただの老いぼれ司祭だ」
ベネデットが入室する。
「あなたの記者会見を見た。
勇敢だった。そして、正しかった」
「でも、私は遅すぎた。
マーティンは…」
「彼の死は無駄じゃない」
ベネデットが手を握る。
「あなたが声を上げた。
それが波紋を広げている。
世界中で、人々が目を覚まし始めてる」
ナロンゴが首を振る。
「でも、ここウガンダでは…
私は裏切り者。息子にも会えない」
**フラッシュバック:**
- デイビッドの泣き声
- 「ママ! ママ!」
- サムエルが息子を引き離す
ナロンゴが涙ぐむ。
「私…母親失格です」
「いいや」
ベネデットが強く言う。
「あなたは息子に、最高の教育をした」
「え?」
「本当の勇気を見せた。
権力に立ち向かう姿を。
間違いを認める強さを。
いつか、彼は理解する。
母親が、どれほど偉大だったかを」
ナブワンギが割り込む。
「でも、状況は悪化してる。
政府はナロンゴを『公共秩序紊乱罪』で逮捕すると—」
電話が鳴る。
ナロンゴの携帯。
見知らぬ番号。
「…もしもし?」
**声:**「ナロンゴか。私だ、オセイだ」
「オセイ…処刑執行官の?」
「ああ…聞いてくれ。
私は…マーティンを殺した。
銃を撃った」
ナロンゴが息を呑む。
「でも、あれから眠れない。
毎晩、彼の顔が見える。
最後の言葉が聞こえる。
『彼らは、何をしているか分からないのです』」
オセイの声が震える。
「私は…分かってなかった。
命令だから、仕事だからって。
でも、あれは殺人だった。
私は殺人者だ」
「オセイさん…」
「ナロンゴ、あなたの記者会見を見た。
あなたは正しい。
だから、私も証言する。
処刑の実態を、世界に話す」
「でも、それは—」
「私も死刑になるかもしれない。
でも、それでいい。
マーティンに、少しでも償いたい」
電話が切れる。
ナロンゴが震える手で携帯を置く。
「人は…変われるんだ」
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**エマとムバラクの家、夕食会**
ムバラクの同僚医師夫婦が招待されている。
**カト医師**(38)と妻**ジョイ**(35、看護師)。
テーブルには豪華な料理。
しかし、エマの心は地獄。
ジョイが話しかける。
「エマさん、結婚して半年ね。
そろそろ赤ちゃんの計画は?」
エマが笑顔を作る。(演技)
「ええ…そうですね…」
ムバラクが妻の手を握る。(演技)
「僕たちは、まず二人の時間を大切にしたくて」
カト医師が笑う。
「おやおや、ラブラブだねえ!
でも、あまり遅いと—」
「大丈夫です」
ムバラクが笑顔。
「僕たちの愛は、時間をかけて育てたいんです」
ジョイが羨ましそうに言う。
「素敵ね! 私たちなんて、
結婚したらすぐ『義務』みたいになっちゃって」
カト医師が妻を睨む。
「ジョイ! 客の前で!」
「ごめんなさい」
気まずい空気。
エマが話題を変える。
「あの…ニュースで、ナロンゴ議員の—」
テーブルが静まる。
カト医師が険しい顔。
「あの裏切り者のことか」
「裏切り者…?」
「ああ。国を売った。
同性愛者の味方をして」
ジョイが小声で言う。
「でも…彼女の言うことも、少しは—」
「ジョイ!」
カト医師が妻を遮る。
「あれは病気だ。精神疾患。
治療すべきだが、治らなければ…」
彼が首を切るジェスチャー。
エマの顔が青ざめる。
ムバラクが気づく。
「エマ、大丈夫?」
「あ…ちょっとトイレ」
エマが立ち上がる。
トイレに駆け込む。
鏡の中の自分。
作り笑顔。嘘の人生。
*(私は…病気?
治らないから…殺される?)*
エマが震える。
過呼吸。
ムバラクがノックする。
「エマ? エマ!」
「だ…いじょうぶ…」
「開けて!」
ムバラクが入ってくる。
エマが床に座り込んでいる。
「もう…無理…」
「何が?」
「演技…できない…
毎日、笑顔を作って、
手をつないで、
『ラブラブ』を演じて…
でも、心は死んでる…」
エマが泣き崩れる。
「私、生きてるって言える?
これ、生きてるの?」
ムバラクが抱きしめる。
「ごめん…僕も限界だ」
「え?」
「病院で、同僚が言うんだ。
『ムバラク、お前の妻、冷たいな』って。
『夫婦なのに、触れ合わない』
『子どもができない』
『おかしい』
疑われ始めてる」
エマが震える。
「じゃあ…私たち…」
「そう。時間の問題だ」
二人は無言で抱き合う。
(友情として。生存者同士として)
外では、客が待っている。
完璧な夫婦を演じなければならない。
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**3日後、国会**
政府が緊急声明。
**ムセベニ首相**(62)が演説。
「ナロンゴ元議員の発言は、
国家への反逆である!
彼女は西洋の工作員であり、
我が国の道徳を破壊しようとしている!」
議場から拍手。
「よって、政府は彼女を、
『公共秩序紊乱罪』『扇動罪』で
国際指名手配する!」
報道陣がざわめく。
**記者:**「首相! しかし、彼女は言論の自由を—」
「自由? 自由には責任が伴う!
彼女の発言は、社会を混乱させた!
これは犯罪だ!」
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**同時刻、ナロンゴの隠れ家**
テレビで首相の演説を見ている。
ナブワンギが慌てる。
「指名手配!? すぐに国外へ—」
「いいえ」
ナロンゴが静かに言う。
「逃げない」
「何を言ってるの!?
逃げなきゃ殺される!」
「逃げたら、負けよ。
私が間違ってたことになる」
ベネデットが頷く。
「ガンジーやキング牧師も、逃げなかった」
「でも、彼らは殺された!」
「それでも、彼らの意志は生き続けた」
ナロンゴが立ち上がる。
「私、警察に自首する」
「正気!?」
「正気よ。そして、裁判で戦う。
世界中が見てる法廷で」
ナブワンギが泣き出す。
「あなた…本気で死ぬつもり?」
「死なないわ。神が守ってくださる」
ナロンゴが微笑む。
「それに、私には息子がいる。
彼に見せなきゃ。
母親は、最後まで戦ったって」
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**翌日、警察本部前**
ナロンゴが報道陣を引き連れて出頭。
カメラのフラッシュが炸裂。
警察署長**ワニャマ**(56)が出迎える。
「ナロンゴ元議員、逮捕する」
手錠がかけられる。
記者たちが叫ぶ。
「ナロンゴ! 何か言葉を!」
ナロンゴが振り返る。
「私は、真実を語っただけです!
同性愛者は、犯罪者じゃない!
彼らは、私たちと同じ人間!
神の子ども!
それを忘れた時、
私たちは悪魔になる!」
ナロンゴが連行される。
世界中に映像が流れる。
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**刑務所、独房**
ナロンゴが一人。
壁には、以前の囚人が刻んだ文字。
**「神よ、なぜ私を見捨てたのですか」**
ナロンゴがその下に、爪で刻む。
**「神は見捨てない。私たちが、神を見捨てるだけ」**
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**エマとムバラクの家、深夜**
二人がリビングで向き合っている。
「ムバラク…決めた」
「何を?」
「逃げる。この国から」
ムバラクが目を見開く。
「でも、僕たちは結婚してる。
一緒に逃げるのか?」
「違う。私だけ」
「え…?」
エマが涙ぐむ。
「あなたには、医師としてのキャリアがある。
患者さんがいる。
でも、私は…もう限界」
「エマ…」
「ごめん。私、弱くて。
でも、これ以上演技できない。
壊れちゃう。本当に壊れちゃう」
ムバラクが頷く。
「…分かった」
「え?」
「君は逃げるべきだ。
僕は残る。
そして、できる限り、他の人を助ける」
「でも、あなたも疑われる!
『妻が逃げた』って!」
「大丈夫」
ムバラクが微笑む。
「『妻が病気で、治療のために海外へ』
そう言えばいい」
「そんな嘘…」
「もう慣れたよ、嘘には」
ムバラクが自嘲する。
エマが彼を抱きしめる。(友情として)
「ありがとう…あなたは、私の命の恩人」
「お互いさまだ」
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**1週間後、ケニア国境**
夜。月明かりだけが頼り。
エマが小さなバックパック一つで歩いている。
密入国の手引きをする**ブローカー**(30代男性)と一緒。
「もうすぐだ。国境を越えたら、ケニア側の車が待ってる」
「ありがとうございます…」
突然、ライトが点灯。
「止まれ!」
**国境警備隊**が銃を構える。
エマが凍りつく。
ブローカーが逃げる。
「待て!」
銃声。
ブローカーが倒れる。
エマが悲鳴を上げる。
警備隊長**ルガバ**(45)が近づく。
「お前、何者だ」
「私…私は…」
ルガバがライトを顔に当てる。
「女か。何してる、こんな時間に」
「旅行…です」
「嘘をつくな!」
ルガバが身分証を確認する。
「エマ・ムバラク…医師の妻?
なぜ密入国を?」
エマが震える。
「それは…」
ルガバが気づく。
「まさか…お前、『あれ』か?」
「違います!」
「違わない。結婚してるのに、逃げる。
怪しい」
ルガバが無線を取る。
「本部、こちら国境。
容疑者を確保した」
エマが叫ぶ。
「お願い! 見逃してください!
私、何も悪いことしてない!」
「法律違反だ」
「でも、私…私…!」
エマが膝をつく。
「私、ただ生きたいだけなんです…
普通に、自由に…
お願いします…」
ルガバが迷う。
彼にも、娘がいる。エマと同じくらいの年齢。
*(もし、自分の娘が…)*
しかし、彼は命令に従う。
「すまないが、仕事だ」
エマが連行される。
月が雲に隠れる。
-----
**ナロンゴの裁判、2週間後**
国際的な注目を集める裁判。
傍聴席は満席。報道陣も詰めかける。
**裁判長ムゲニ**(60)が入廷。
検察側が起訴状を読み上げる。
「被告ナロンゴは、公共秩序を乱し、
国家の道徳を貶め、
反逆的言動を繰り返しました」
弁護人(国際人権団体から派遣)が反論。
「言論の自由は、憲法で保障されています!」
「自由には限度がある!」
議論が続く。
ナロンゴが最終陳述を求める。
裁判長が許可。
ナロンゴが立ち上がる。
「裁判長、そして、この法廷にいる全ての方へ。
私は、真実を語ります。
私は、反同性愛法に賛成しました。
子どもを守るため。
社会を守るため。
でも、私は間違っていました」
傍聴席がざわめく。
「マーティン・カトンゴさんに会いました。
彼は看護師でした。
誰よりも、命を大切にする人でした。
でも、私たちは彼を殺しました。
なぜ?
彼が愛したから。
それだけです」
ナロンゴが涙ぐむ。
「私には息子がいます。7歳です。
彼に、何を教えればいいですか?
『愛は犯罪だ』と?
『違う人を憎め』と?
『殺せ』と?
それが、私たちの伝統ですか?
それが、神の教えですか?」
ナロンゴが聖書を掲げる。
「イエスは言いました。
『互いに愛し合いなさい。
それによって、あなたがたが
わたしの弟子であることを、
人々は知るのです』
ヨハネの福音書13章35節」
傍聴席の一部が泣き始める。
「私たちは、愛を殺しました。
その時、私たちは、
キリストの弟子ではなくなった。
悪魔の僕(しもべ)になった」
検察官が立ち上がる。
「異議あり! 被告は法廷を冒涜している!」
「冒涜?」
ナロンゴが検察官を見る。
「冒涜しているのは、私たちです。
神の似姿に造られた人間を、
殺している。
それが、最大の冒涜です」
裁判長が gavel を叩く。
「静粛に!」
しかし、傍聴席は静まらない。
賛成派と反対派が叫び合う。
-----
**同時刻、エマの独房**
エマが壁に頭を打ち付けている。
「死にたい…死にたい…」
看守が止める。
「やめろ!」
「お願い…殺して…
どうせ死刑なら、今すぐ…!」
エマが泣き叫ぶ。
そこへ、面会人。
ムバラク。
「エマ…」
「ムバラク!」
二人が格子越しに手を伸ばす。
「ごめん…ごめん…
あなたまで疑われる…」
「いいんだ。君のせいじゃない」
ムバラクが微笑む。
「エマ、諦めるな。
君の裁判、僕が証言する」
「証言?」
「ああ。君がアセクシャルであること。
医学的に証明する。
それは病気でも、犯罪でもない。
ただの性的指向の一つだと」
「でも、それは…
あなた自身も暴露することに…」
ムバラクが頷く。
「分かってる。でも、いいんだ。
君を救えるなら」
エマが泣き出す。
「なんで…なんでそこまで…」
「だって、僕たちは仲間だろ?」
ムバラクが優しく言う。
「この世界で、孤独だった僕たちは、
出会えた。
それは奇跡だ。
奇跡を、守りたい」
-----
**ナロンゴの判決、1週間後**
法廷は異様な緊張。
裁判長が判決文を読み上げる。
「被告ナロンゴは、
公共秩序紊乱罪、扇動罪において…」
ナロンゴが目を閉じる。
**フラッシュバック:**
- 息子デイビッドの笑顔
- 「ママ、大好き!」
- マーティンの最後の言葉
- 「僕の死を、無駄にしないで」
裁判長が続ける。
「…有罪」
傍聴席が騒然。
「ただし」
裁判長が眼鏡を外す。
「被告の動機は、人道的であった。
また、国際的な注目を鑑み、
刑は…懲役5年、執行猶予2年」
「え…?」
ナロンゴが驚く。
「つまり、刑務所には入らなくていい…?」
弁護人が喜ぶ。
「勝ったんです! 実質無罪!」
しかし、検察側が叫ぶ。
「異議あり! これは軽すぎる!」
裁判長が gavel を叩く。
「判決は下された!
これにて閉廷!」
法廷の外で、支援者たちが歓声。
しかし、反対派も待ち構えている。
「裏切り者!」
「地獄に落ちろ!」
石が投げられる。
警察が ナロンゴを護衛する。
-----
**その夜、ナブワンギの家**
ナロンゴが戻ってくる。
ベネデットとナブワンギが出迎える。
「お帰り、ナロンゴ」
「ただいま…」
ナロンゴが崩れ落ちる。
「勝った…でも、何も変わってない…」
「いいや」
ベネデットが肩を叩く。
「あなたは種を蒔いた。
それは必ず芽吹く」
電話が鳴る。
ナブワンギが取る。
「はい…え? 本当ですか!?」
ナブワンギが振り返る。
「オセイ処刑執行官が、
BBCのインタビューに応じた!
処刑の実態を暴露してる!」
テレビをつける。
オセイが画面に映る。
**オセイ:**「私は、マーティンを殺しました。
でも、彼は犯罪者じゃなかった。
彼は最後に言いました。
『彼らは、何をしているか分からない』と。
その通りです。
私たちは、何をしているか分からなかった。
でも、今は分かります。
私たちは、人を殺していた。
罪のない、普通の人々を」
オセイが泣き出す。
画面が世界中に流れる。
ナロンゴが画面を見つめる。
「ありがとう…オセイさん…」
-----
**翌日、オセイの自宅**
朝。
オセイが家族と朝食。
妻と、二人の子ども。
「パパ、テレビに出てたね!」
娘(9歳)が無邪気に言う。
「ああ…」
妻**ナルゴンド**(38)が心配そう。
「あなた…大丈夫なの?
あんなこと話して…」
「大丈夫だ。これで良かった」
オセイが微笑む。
「俺、今まで間違ってた。
でも、これからは正しく生きる」
ドアが蹴破られる。
武装した男たち。政府の秘密警察。
「オセイ! 貴様、国家反逆だ!」
妻と子どもが悲鳴を上げる。
オセイが立ち上がる。
「家族には手を出すな!」
「黙れ! 来い!」
オセイが連行される。
娘が泣き叫ぶ。
「パパ! パパ!」
オセイが振り返る。
「大丈夫だ! パパは大丈夫だから!」
(しかし、彼は分かっていた。
もう会えないことを)
-----
**3日後、オセイの処刑**
秘密裏に執行される。
報道陣は立ち入り禁止。
処刑場。
オセイが一人。
新しい執行官が銃を構える。
「最後の言葉は?」
オセイが空を見上げる。
「マーティン…
俺、少しは償えたかな…」
銃声。
オセイが倒れる。
-----
**ナロンゴの隠れ家**
ニュースが流れる。
**アナウンサー:**「元処刑執行官オセイが、
反逆罪で処刑されました」
ナロンゴが画面を見つめる。
涙が止まらない。
「オセイさん…」
ベネデットが祈りを捧げる。
「主よ、オセイの魂に安らぎを。
彼は最後に、人間に戻りました」
ナブワンギが怒りに震える。
「ひどい…ひどすぎる!
もう、この国は終わってる!」
ナロンゴが立ち上がる。
「いいえ。終わらせない」
「え?」
「オセイさんの死を、無駄にしない。
マーティンの死も。
私は戦い続ける」
-----
**エマの裁判、2日後**
ムバラクが証人として立つ。
「私は医師として、証言します。
エマは、アセクシャルです。
これは医学的に認められた性的指向の一つ。
恋愛感情や性的欲求を持たない状態。
病気ではありません。
犯罪でもありません。
ただ、彼女はそう生まれただけです」
検察官が詰め寄る。
「では、なぜ彼女は逃げたのですか!?」
「それは…」
ムバラクが深呼吸。
「彼女が、この社会で生きられないからです。
結婚を強制され、
性行為を強制され、
拒否すれば疑われ、
殺される。
それは、拷問です」
法廷がざわめく。
検察官が冷笑する。
「ドクター、あなた自身は?
妻を擁護する理由は?」
「それは…」
ムバラクが覚悟を決める。
「私も、アセクシャルだからです」
法廷が凍りつく。
「私たちは、生き延びるために結婚しました。
形だけの結婚。
社会を欺くために。
でも、それは犯罪ですか?
生きるための嘘が、罪ですか?」
裁判長が驚く。
「ドクター…あなた、今何を…」
「私は、真実を話しています」
ムバラクが法廷を見渡す。
「この中に、何人いますか?
本当の自分を隠して生きている人が。
誰も愛せない人。
同性を愛する人。
性別に違和感を持つ人。
私たちは、ここにいます。
あなたの隣に。
あなたの職場に。
あなたの家族に。
見えないだけです」
傍聴席が静まり返る。
そして、一人の男性が立ち上がる。
「私も…そうです」
次に、女性が立つ。
「私も」
次々と、人々が立ち上がる。
「私も」
「私も」
法廷が騒然となる。
裁判長が gavel を叩く。
「静粛に! 静粛に!」
しかし、止まらない。
人々は立ち続ける。
沈黙の抵抗。
-----
**その夜、ムバラクの逮捕**
ムバラクが病院から帰宅途中。
秘密警察が待ち構えている。
「ムバラク医師、逮捕する」
ムバラクは抵抗しない。
「分かりました」
——-
AIの制限で尻切れトンボになりました。
未完のAI小説でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご感想やコメント、「ここがおかしいぞ」などいただけますと幸いです。
*「自分で書いて完成させろよ」
と言う話かもしれませんが、筆力に力不足を感じています。
# 虹の国の十字架【改訂版】
## 第一幕:それぞれの正義
-----
**カンパラ、2023年初春・国会議員宿舎**
朝6時。**ナロンゴ議員**(45)がキッチンで朝食を作っている。
「ママ! 今日は何作ってるの?」
7歳の息子**デイビッド**が駆け寄ってくる。
「あなたの大好きなマトケ(バナナの蒸し料理)よ。さあ、手を洗いなさい」
ナロンゴが優しく息子の頭を撫でる。
夫の**サムエル**(48、牧師)が聖書を読みながら現れる。
「今日は大事な日だね」
「ええ…法案の最終討議」
ナロンゴの表情が曇る。
「あなた、迷ってるの?」
「いいえ。子どもたちを守るため。これは必要なことよ」
しかし、その手が微かに震えている。
-----
**同時刻、大学寮**
**エマ**(22、心理学専攻)がベッドで丸まっている。
ルームメイトの**ファティマ**(23)が揺り起こす。
「エマ! また悪夢?」
「…うん」
「同じ夢?」
エマが頷く。
「結婚式の夢。ベールを被せられて…
そして初夜に、知らない男の人が…」
声が震える。
ファティマが背中をさする。
「大丈夫。まだ決まってないじゃない」
「父さんが昨日電話してきた。
『お前も24になる。良い縁談がある』って」
「断ればいいのよ」
「できない…断ったら、私が、その…」
エマが言葉に詰まる。
「レズビアンだと思われる。
今の法案が通ったら…」
ファティマの顔が強張る。
「でも、あなたは誰も愛してないんでしょ?」
「それを誰が信じる?
結婚拒否=同性愛者。そう思われたら終わり」
窓の外、雨が降り始める。
-----
**国会議事堂、準備室**
ナロンゴが化粧直しをしている。
秘書の**グレース**(28)が資料を持って入ってくる。
「議員、今日の演説原稿です」
「ありがとう」
ナロンゴが原稿を読む。手が止まる。
「グレース…これで本当に子どもたちは守られるのかしら」
「議員?」
「私…昨日、古い友人に会ったの。
彼女の息子が、その…同性愛者だと告白して」
グレースが固まる。
「彼女は泣いていた。『息子は優しい子なのに』って。
病院でボランティアして、お年寄りの世話をして…
でも、法律が通ったら…」
「議員、それは個別のケースです。
法案の目的は、子どもたちを守ること。
欧米の団体が学校に入り込んで、子どもたちを勧誘—」
「分かってる! 頭では分かってるの!」
ナロンゴが机を叩く。
深呼吸。
「でも…死刑って、神の御心なのかしら」
沈黙。
グレースが慎重に口を開く。
「レビ記20章13節。
『男が女と寝るように男と寝るなら、
ふたりとも忌むべきことをしたのである。
必ず殺されなければならない』」
「…」
「神の言葉です」
ナロンゴが聖書を手に取る。ページをめくる。
「でも、ローマ人への手紙1章では…
『彼らは神を認めることを良しとしなかった』と。
つまり、これは偶像崇拝の文脈…?」
「議員、神学論争をしている時間は—」
ドアがノックされる。
-----
**国会本会議場**
議場は満席。報道陣が詰めかける。
ナロンゴが演台に立つ。深呼吸。
「議長、そして同僚の皆さん。
私には7歳の息子がいます。
毎朝、彼が『ママ、学校楽しみ!』と言う顔を見ると、
母親として、この子を守らなければと思います」
傍聴席から拍手。
「しかし、今、我が国の子どもたちが脅威に晒されています。
欧米のNGOが学校に入り込み、
幼い子どもたちに『同性愛は正常だ』と教えている。
これは教育ではない。勧誘です。洗脳です!」
拍手が大きくなる。
「世界保健機関は言います。『これは病気ではない』と。
しかし、私たちの文化では、これは道徳の問題です!
私たちアフリカには、私たちの価値観がある!」
歓声が上がる。
しかし、ナロンゴの目が一瞬泳ぐ。
「だからこそ…この法案に…」
彼女が止まる。
傍聴席のざわめき。
「だからこそ…私たちは…」
心の中で友人の涙を思い出す。
*(でも、彼の息子は子どもを襲ったわけじゃない…)*
「私たちは、子どもたちを守るために、この法案を…」
隣の席の**ムセベニ議員**(62、男性)が囁く。
「ナロンゴ、しっかりしろ」
ナロンゴが目を閉じる。息子の顔。友人の涙。聖書の言葉。
「…支持します」
拍手の嵐。
しかし、ナロンゴ自身は、どこか遠くを見つめている。
-----
**同時刻、大学構内**
エマがベンチに座っている。
手には二つの封筒。
一つは父からの手紙。「見合いの日程」
もう一つは、NGOからのパンフレット。「難民申請のガイド」
ファティマが横に座る。
「どうするの?」
「…分からない」
「エマ、あなたはまだ時間がある。
法案が通っても、すぐには—」
「そうじゃないの!」
エマが叫ぶ。通りすがりの学生たちが振り返る。
小声に戻る。
「結婚したら、私は…毎晩、彼に体を許さなきゃいけない。
夫の権利だから。
でも私、誰にも触られたくない。
キスも、ハグも、全部…気持ち悪いの」
「それなら逃げるしか—」
「逃げたら?
家族を捨てることになる。
父も母も、弟たちも。
それに、ケニアに逃げても、向こうでも同じ問題が待ってる。
『なぜ結婚しない?』『おかしい』『怪しい』」
エマの目から涙。
「私、どこにも居場所がないの。
結婚すれば、毎日がレイプ。
断れば、レズビアンだと疑われて殺される。
逃げても、異常者扱い。
私の何が悪いの!?」
ファティマが抱きしめる。
「何も悪くない…」
「じゃあなぜ、私だけこんな目に…」
二人は抱き合ったまま、泣き続ける。
-----
**ナロンゴの自宅、夜**
ナロンゴが息子を寝かしつける。
「ママ、お話して」
「今日は疲れてるの。明日ね」
「やだ! ノアの箱舟がいい!」
ナロンゴが微笑む。
「分かったわ。
むかしむかし、世界が悪い人ばかりになって、
神様はとても悲しみました…」
物語を語りながら、ナロンゴの心は揺れる。
*(神は悪い人を滅ぼした。
でも、同性愛者は…悪い人なの?
あの友人の息子は、お年寄りに優しくしていた。
それも偽善?)*
「ママ? どうしたの?」
「ううん、何でもないわ」
息子が眠る。
ナロンゴがリビングに戻ると、夫がニュースを見ている。
「国際社会がまた批判してるね」
「ええ…国連、EU、アメリカ…」
「彼らは分かってない。我々の苦しみを」
サムエルが聖書を開く。
「ローマ人への手紙1章26-27節。
『そのために、神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました。
すなわち、女は自然の用を不自然なものに代え、
同じように、男も、女の自然な用を捨てて、
男どうしで情欲に燃えました』」
「でも…」
ナロンゴが迷いを口にする。
「パウロが語ったのは、神殿娼婦や少年愛のことじゃないかって、
神学者もいるわ」
「ナロンゴ!」
サムエルが険しい顔。
「聖書に『でも』はない。神の言葉は絶対だ」
「…ごめんなさい」
ナロンゴが頭を下げる。
しかし、心の中では疑問が渦巻く。
*(本当に? 本当にこれで良いの?)*
-----
## 第二幕:亀裂
-----
**2週間後、国会**
法案が可決された。
賛成387票、反対2票、棄権11票。
ナロンゴは賛成票を投じた。
-----
**エマの実家、地方都市**
父**オコロ**(56、銀行員)が見合い写真を並べる。
「エマ、この3人から選びなさい」
母**シャロン**(52)が紅茶を運んでくる。
「どの人も良い家柄よ。あなたは幸せになれる」
エマが写真を見る。手が震える。
「お父さん…私、まだ勉強を—」
「結婚してからでも勉強はできる」
「でも—」
「でも、じゃない!」
オコロが声を荒げる。
「お前はもう22だ。これ以上遅れたら、縁談もなくなる。
それに…」
彼が声を潜める。
「新しい法律が通った。
結婚もしない、恋人もいない女は、疑われるんだぞ」
エマの顔が蒼白になる。
「私は…その…誰も好きじゃないだけで…」
「それが危険なんだ!」
シャロンが優しく手を握る。
「エマ、お母さんも最初は怖かったわ。
でも、慣れるものよ。夫婦の営みも」
「営み…?」
エマが吐き気を覚える。
「ええ。最初は痛いし、恥ずかしいけど、
それが妻の務め—」
「やめて!」
エマが立ち上がる。
「私、そんなの…できない!」
「エマ!」
オコロが激怒する。
「お前、まさか…」
「違う! 私は誰も好きじゃないの!
男も女も! ただ、一人でいたいだけ!」
「それがおかしいと言ってるんだ!」
「おかしい…私がおかしい…」
エマが崩れ落ちる。
シャロンが娘を抱きしめる。
「大丈夫…大丈夫よ…」
しかし、その目は恐怖に満ちている。
-----
**ナロンゴの議員事務所**
ナロンゴが老婦人**ナカト**(78)を迎えている。
「ナカトおばあちゃん、お元気でしたか?」
「ナロンゴちゃん、あなたに会いに来たよ」
二人は旧知の仲。ナロンゴの亡き祖母の親友。
「実は…相談があるんだよ」
「何でしょう?」
ナカトが声を震わせる。
「孫のことなんだ…」
「お孫さん? 確か、看護師になった…」
「そうだよ。マーティン。良い子なんだよ。
患者さんには優しいし、私の薬も毎日確認してくれて…」
ナカトが泣き出す。
「でも…でも…
彼、昨日逮捕されたんだよ」
ナロンゴが息を呑む。
「逮捕…?」
「隣人が通報したんだ。
『男友達と住んでいる。怪しい』って。
警察が家を捜索して…
二人の写真を見つけて…」
「…」
「ナロンゴちゃん。お願い。
マーティンを助けて。
彼は何も悪いことしてないんだよ。
ただ、誰かを愛しただけなんだよ」
ナロンゴの心が引き裂かれる。
「おばあちゃん…私…」
「あなたは優しい子だった。
小さい頃、迷子の犬を助けて、
一晩中看病してたじゃないか」
「…」
「その優しさで、マーティンも助けて」
ナロンゴが目を閉じる。
**フラッシュバック:**
- 幼いナロンゴが傷ついた犬を抱きしめる
- 母が言う:「優しい子ね。神様もきっと喜んでるわ」
目を開ける。
「おばあちゃん…ごめんなさい」
「え?」
「私には…できません」
ナカトの顔が絶望に染まる。
「法律が決まったんです。私も賛成票を投じた。
だから…」
「あなたが…? あなたが賛成を…?」
ナカトが立ち上がる。
「私は間違ってた。
あなたは優しい子じゃない。
政治家になって、心を失った」
「おばあちゃん!」
ナカトが杖をついて出て行く。
ナロンゴは一人残される。
机の上には、息子の写真。
隣には、法案の最終稿。
彼女の手が震える。
-----
**大学、深夜**
エマが図書館で一人、パソコンと向き合う。
画面には、難民申請のフォーム。
しかし、カーソルが動かない。
ファティマが隣に座る。
「まだ迷ってるの?」
「うん…」
「エマ、私の従兄弟がケニアにいる。
彼が手助けしてくれる」
「でも…」
エマが別のウィンドウを開く。
そこには、父からのメール。
*「見合いは来月15日。相手はとても良い人だ。医師で、収入も安定している。お前の将来は安心だ」*
「安心…」
エマが笑う。乾いた笑い。
「私が毎晩怯えながら生きることが、安心?」
「逃げようよ」
「逃げたら、家族はどうなる?
父は『娘がレズビアンだった』と噂される。
職を失うかもしれない。
母は教会に行けなくなる。
弟たちは学校でいじめられる」
エマが頭を抱える。
「私一人の問題じゃない。
家族全員を道連れにする」
「じゃあ、結婚するの?」
「できない…
初夜に、彼が私に触れて、
私の中に入ってきて…」
エマが嘔吐しそうになる。
ファティマがゴミ箱を差し出す。
「毎晩、それが続くのよ。
夫の権利だから。拒否できない。
それは結婚なの?
それは、法律で認められたレイプじゃないの?」
涙が止まらない。
「神様…神様…
なぜ私をこんな風に作ったの…」
-----
**ナロンゴの寝室、同じ夜**
ナロンゴが眠れずにいる。
隣で夫が平和に寝息を立てる。
彼女は聖書を開く。
ローマ人への手紙1章。
「『神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました』…」
ページをめくる。
同じ章の32節。
「『彼らは、そのようなことを行えば、死罪に当たるという神の定めを知っていながら…』」
ナロンゴが息を呑む。
さらにページをめくる。
ローマ人への手紙2章1節。
**「ですから、すべて他人をさばく人よ、あなたに弁解の余地はありません。あなたは、他人をさばくことによって、自分自身を罪に定めています。さばくあなたが、それと同じことを行っているからです」**
ナロンゴの手が震える。
「これは…どういう…?」
彼女が続きを読む。
「『神のさばきは、そのようなことを行っている人々の上に正しく下る』…
でも、次に…
『そのようなことをしているあなたが、神のさばきを免れるとでも思っているのですか』」
ナロンゴが混乱する。
「パウロは、裁くことを…裁いてる?」
彼女は別の箇所を開く。
マタイの福音書7章。
**「さばいてはいけません。さばかれないためです」**
ナロンゴの目から涙が落ちる。
「私は…何をしたの…」
彼女が胸を押さえる。
「神様…私、間違ったの?
子どもを守るためだった…
でも、マーティンは…おばあちゃんは…」
彼女が枕に顔を埋める。
声を殺して泣く。
夫が目を覚まさないように。
息子に聞かれないように。
世界に知られないように。
**でも、神は知っている。**
-----
**[続く]**
-----
この改訂版では:
- ナロンゴを多面的に:慈愛深い母、信仰深いクリスチャン、しかし内心で揺れる人間として描写
- 聖書の引用を具体的に、そして解釈の複雑さも提示
- エマの苦境を詳細に:結婚=合法的レイプの恐怖、逃亡=家族への影響、という二重の罠
- アセクシャルへの理解のなさをリアルに描写
第三幕以降も、このトーンで続けましょうか?
## 第三幕:崩壊する境界線
-----
**3ヶ月後、刑務所**
**マーティン**(26、看護師)が独房で聖書を読んでいる。
面会室に呼ばれる。
祖母ナカトが待っている。しかし、今回は一人ではない。
ナロンゴ議員も同席している。
マーティンが驚く。
「おばあちゃん…それに、議員…?」
ナカトが孫の手を握る。
「マーティン、ナロンゴちゃんが来てくれたよ」
マーティンがナロンゴを睨む。
「あなたは…賛成票を投じた人だ」
「…ええ」
「なぜここに?」
ナロンゴが下を向く。
「私は…謝りに来ました」
「謝罪?」
マーティンが冷笑する。
「謝罪で、私の人生が戻るんですか?
職も、恋人も、未来も失った。
あなたの一票が、私を殺したんだ」
「分かっています」
ナロンゴの声が震える。
「でも…私には息子がいて…
子どもたちを守らなければと…」
「僕から何を守るんです?」
マーティンが立ち上がる。
「僕は看護師だった!
エイズ患者の世話をした。
マラリアで死にかけた老人を助けた。
子どもにワクチンを打った。
僕が、誰に何をしたんですか!?」
看守が「静かに!」と叫ぶ。
マーティンが座る。涙を拭う。
「僕は…ただ、ジョナサンを愛しただけだ。
彼は教師だった。
放課後、貧しい子どもたちに無料で勉強を教えてた。
二人とも、社会のために生きてた。
でも、それは間違いだったんですか?」
ナロンゴが顔を覆う。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「議員」
マーティンが冷静な声。
「あなたには息子さんがいる。
その子が大きくなって、もし…
もし、彼が僕と同じだったら?
あなたは自分の息子も、死刑にするんですか?」
ナロンゴが硬直する。
想像したくない光景が脳裏をよぎる。
**フラッシュバック:**
- 息子デイビッドが17歳になっている
- 「ママ…話があるんだ」
- 彼の震える声
- 「僕…男の子が好きなんだ」
- そして、警察が家に来る
ナロンゴが叫ぶ。
「やめて! そんなこと…!」
「でも、可能性はある」
マーティンが静かに言う。
「統計では、20人に1人。
あなたの息子が、その1人じゃないと、
誰が保証できます?」
沈黙。
ナカトが口を開く。
「ナロンゴちゃん。
マーティンを助けるために、何かできないの?」
「私は…もう議員として…」
「議員じゃなくていい。人間として」
ナロンゴが顔を上げる。
「私、動いてみます。
でも…約束はできない」
「それでいい」
ナカトが微笑む。
「昔の優しいナロンゴちゃんが、まだいたんだね」
-----
**大学、エマの部屋**
エマがスーツケースに荷物を詰めている。
ファティマが見守る。
「本当に、結婚するの?」
「…うん」
「でも、あなた—」
「逃げられない」
エマが機械的に服を畳む。
「父が昨日言ったの。
『もし見合いを断ったら、警察に相談する』って」
「え!?」
「私を病院に連れて行って、検査させるって。
『異常がないか確認する』って」
ファティマが凍りつく。
「そんな…」
「医師の友人に聞いたら、
『処女検査』をするんだって。
そして、『性的に正常か』テストする。
男性の写真を見せて、反応を測る」
エマの声が震える。
「反応しなかったら、『異常』。
レズビアンだと判定される。
そうしたら…」
言葉が途切れる。
ファティマが抱きしめる。
「逃げようよ。今からでも」
「できない。もう遅い」
エマがスーツケースを閉じる。
「見合いは3日後。
結婚は2週間後。
それまでに逃げたら、家族が逮捕される。
『娘の逃亡を幇助した』って」
「そんな法律ないでしょ!」
「なくても、疑いだけで十分。
この国では、疑われた時点で終わり」
エマが鏡を見る。
そこには、諦めた目をした若い女性。
「私…生きてるって言えるのかな、これから」
-----
**ナロンゴの教会、日曜礼拝**
夫サムエル牧師が説教をしている。
「愛する兄弟姉妹よ。
我々は試練の時代にいます。
世界は我々を『後進的』『野蛮』と呼ぶ。
しかし!」
サムエルが声を張り上げる。
「我々には神の言葉がある!
聖書は明確です。
ソドムとゴモラの滅亡。
レビ記の戒め。
ローマ人への手紙の警告。
神は、この罪を憎まれる!」
会衆から「アーメン!」の声。
ナロンゴが席に座っている。息子を膝に乗せて。
しかし、彼女の心は説教を聞いていない。
**内なる声:**
*「でも、マーティンは誰も傷つけてない」*
*「彼は病人を助けていた」*
*「それでも、罪人?」*
サムエルが続ける。
「しかし、神は憐れみ深い方。
罪人であっても、悔い改めれば赦される。
彼らが同性愛を捨て、
正しい道に戻れば、
神は腕を広げて待っておられる!」
ナロンゴの心が叫ぶ。
*「でも、マーティンは『これが自分だ』と言った」*
*「変えられないものを、どうやって捨てる?」*
*「それは、目の色を変えろと言うようなもの?」*
礼拝が終わる。
信者たちが出口で雑談。
**信者A**(50代女性)「ナロンゴさん、素晴らしい法案でしたね!」
**信者B**(60代男性)「我が国の道徳が守られる!」
ナロンゴが作り笑顔。
「ありがとうございます…」
しかし、その笑顔の裏で、何かが砕けていく。
-----
**バチカン、枢機卿会議**
**カルディナーレ・ベネデット**が報告を受けている。
「ウガンダで、最初の処刑が執行されました」
会議室が凍りつく。
**ドイツ人枢機卿**(55)が憤る。
「我々は何をしていた!?
声明を出すべきだった!」
「我々は声明を出した」
ベネデットが苦々しく言う。
「『命は神聖である。しかし、同性愛行為は罪である』と」
「それは声明じゃない!
両論併記で、結局何も言ってないのと同じだ!」
**アフリカ人枢機卿**(68、ナイジェリア出身)が反論する。
「あなた方ヨーロッパ人は、簡単に言う。
『人権を守れ』と。
しかし、アフリカの教会は戦っているんだ!
イスラムの拡大、世俗化、貧困…
教会が伝統的価値観を捨てたら、
信者が離れていく。
そうしたら、誰がアフリカの魂を救う?」
「魂? 死んだ人に魂もクソもない!」
会議が紛糾する。
ベネデットが頭を抱える。
**フラッシュバック:**
- 若き日のベネデット、神学校で学ぶ
- 教授が言う:「教会の使命は、命を守ることだ」
- ベネデットが誓う:「私は命を守る聖職者になります」
現在に戻る。
*(私は…何を守っている?
教会の威信? 政治的バランス?
それとも…自分の地位?)*
ベネデットが立ち上がる。
「諸君」
全員が注目する。
「私は…教皇聖下に、辞表を提出する」
「何!?」
「私は枢機卿として、失格だ。
命を守れなかった。
政治を優先し、人間を見捨てた」
ベネデットが赤い帽子を脱ぐ。
「若い諸君。私の轍を踏むな。
教会は建物ではない。
教義は紙ではない。
教会は人だ。生きている、血の通った人間だ。
それを忘れた瞬間、
我々は神の敵になる」
会議室が静まり返る。
-----
**エマの見合い当日**
高級レストラン。
エマが堅い表情で座っている。
向かいには**ムバラク医師**(32、外科医)。
ハンサムで、穏やか。誰もが羨む相手。
「エマさん、心理学を専攻されてるんですね」
「…はい」
「素晴らしい。僕の病院でも、心理カウンセラーが必要で—」
「先生」
エマが遮る。
「何でしょう?」
エマが決意を込めて言う。
「私、あなたと結婚できません」
ムバラクが驚く。
父オコロが横から割り込む。
「エマ! 何を言ってるんだ!」
「本当のことです」
エマがムバラクを見つめる。
「先生は良い方だと思います。
でも、私…誰とも結婚したくない」
「それは、僕に何か問題が?」
「いいえ。私の問題です」
エマが深呼吸。
「私、誰も恋愛的に好きになれないんです。
男性も、女性も。
セックスも…したくない。
触られることも、嫌なんです」
レストランの周囲の客が振り返る。
オコロが青ざめる。
「エマ! ここで何を—」
「もう隠せない!」
エマが立ち上がる。
「私はアセクシャルです!
恋愛感情も、性的欲求も、ない!
それが私!
変えられない!」
レストラン中が注目する。
ささやき声。
「あの娘…」
「レズビアンじゃないの?」
「いや、もっとおかしい」
「病気?」
「警察に通報すべきじゃ…」
ムバラクが静かに言う。
「エマさん、座ってください」
「え…?」
「お願いです」
エマが戸惑いながら座る。
ムバラクが穏やかに微笑む。
「僕には、秘密があります」
「秘密…?」
ムバラクが声を潜める。
「僕も、誰も愛せない。
女性を見ても、何も感じない。
医師として診断すれば、僕もアセクシャル。
でも、家族は結婚しろと言う。
社会は子どもを作れと言う。
だから、僕は提案します」
ムバラクがエマの手を取る。
「僕たちは、結婚しましょう。
でも、本当の結婚じゃない。
形だけの結婚。
世間体のため。家族のため。命を守るため。
セックスはしない。約束します。
別々の部屋で寝る。
ただ、友人として、共犯者として、生きる」
エマの目から涙が溢れる。
「そんな…そんなことできるんですか…?」
「できます。やるしかない。
僕たちのような人間が、この国で生き延びるには、
これしか方法がない」
オコロが割り込む。
「先生、それは…」
「お父さん」
ムバラクが真剣な目。
「娘さんを守れるのは、僕だけです。
僕と結婚すれば、娘さんは疑われない。
医師の妻として、社会的地位も得る。
代わりに、僕も疑われない。
Win-Winです」
オコロが混乱する。
しかし、ムバラクの目を見て、何かを悟る。
「…分かりました」
-----
**ナロンゴの議員事務所、深夜**
ナロンゴが一人で書類を読んでいる。
マーティンの裁判記録。
そして、他の逮捕者のリスト。
**112名。**
その多くが、証拠不十分。
隣人の通報だけで逮捕されている。
「怪しい行動」「同性の友人と住んでいる」「結婚していない」
ナロンゴが震える。
ノックの音。
秘書グレースが入ってくる。
「議員、まだ起きてたんですか」
「ええ…グレース、これを見て」
ナロンゴがリストを見せる。
「この中に、本当に『犯罪者』は何人いると思う?」
グレースが目を通す。
「…全員、犯罪者ですよ。法律違反ですから」
「法律? この法律が正しいの?」
「議員!」
グレースが驚く。
「あなた、何を言ってるんですか!
あなた自身が賛成票を—」
「間違えた!」
ナロンゴが叫ぶ。
「私は…間違えたのよ!
子どもを守るつもりだった。
でも、実際は…罪のない人を殺している!」
グレースが後ずさる。
「議員…あなた、危険なことを…」
「グレース、あなたには家族は?」
「…弟がいます」
「もし、その弟が逮捕されたら?」
「そんなこと…」
「可能性はゼロじゃない。
独身で、ルームメイトと住んでる。
それだけで疑われる。
今の法律なら」
グレースが固まる。
ナロンゴが立ち上がる。
「私は、この法律を変える」
「無理です! 387票が賛成した。
国民の90%が支持してる!」
「じゃあ、その10%のために戦う」
ナロンゴが決意に満ちた目。
「私一人でも」
-----
**[深夜、ナロンゴの自宅]**
ナロンゴが寝室に戻る。
夫サムエルが起きていた。
「どこに行ってた?」
「事務所よ」
「こんな時間に?」
サムエルが疑いの目。
「ナロンゴ、お前…おかしいぞ、最近」
「おかしい?」
「法案が通って、皆が喜んでる。
教会も、国民も。
なのに、お前だけが暗い顔をしてる」
ナロンゴが黙る。
サムエルが詰め寄る。
「まさか…お前、あいつらに同情してるのか?」
「あいつら?」
「同性愛者だ! 罪人だ!」
「罪人…」
ナロンゴが冷たく笑う。
「あなたは完璧なの? 罪がないの?」
「何!?」
「ローマ人への手紙、ちゃんと読んだ?
2章1節。
『他人を裁く者よ、あなたに弁解の余地はない。
裁くあなたが、同じことをしている』」
「屁理屈だ!」
「屁理屈? これは聖書よ!」
夫婦が睨み合う。
サムエルが低い声で言う。
「ナロンゴ…お前、危険な道に入ってる。
この国で、『彼ら』を擁護することは、
自分も『彼ら』だと言うのと同じだ。
分かってるのか?」
「脅してるの?」
「忠告だ。妻として、母として、
正気に戻れ」
サムエルが寝室を出る。
ナロンゴは一人残される。
窓の外、雨が降り始める。
彼女は息子の部屋を覗く。
デイビッドが平和に眠っている。
*(この子を守るために、法案に賛成した。
でも…この子が大きくなった時、
彼が見る世界は…
本当に安全なの?
それとも、
誰もが誰かを疑い、
誰もが誰かを密告し、
愛が犯罪になる…
そんな地獄?)*
ナロンゴが自分の手を見つめる。
**この手で、何人を殺した?**
雷が鳴る。
-----
## 第四幕:犠牲の羊
**[続く…]**
次の第四幕では、いよいよ処刑シーンと、ナロンゴの決定的な行動、そしてエマの「契約結婚」生活を描きます。続けましょうか?
## 第四幕:犠牲の羊
-----
**4ヶ月後、国際圧力の高まり**
**国連安全保障理事会、緊急会議**
各国代表が険しい表情。
**米国代表**(58、女性)が発言。
「ウガンダ政府は、国際法を無視し続けています。
我々は経済制裁を—」
**中国代表**(52)が遮る。
「内政干渉だ。
各国には主権がある。
西側は常に『人権』を武器にして、
発展途上国を支配しようとする」
**英国代表**(61)が反論。
「これは主権の問題ではない!
人道危機だ!
すでに5名が処刑され、
200名以上が拘束されている!」
**ロシア代表**(54)が冷笑する。
「あなた方は、シリアで何人殺した?
イラクでは? アフガニスタンでは?
都合の良い時だけ人権を語るな」
議場が紛糾する。
**ケニア代表・カマウ大使**が立ち上がる。
「諸君! 我々は政治ゲームをしている間に、
人が死んでいるんだ!
今日、この瞬間も、
独房で処刑を待つ人々がいる!
その中には、看護師がいる。教師がいる。
誰も傷つけていない、普通の人々だ!」
しかし、各国は自国の利益を優先する。
採決。
制裁決議は、拒否権によって否決。
カマウが頭を抱える。
*(国際社会は、無力だ…)*
-----
**ウガンダ、ナロンゴの自宅**
朝食のテーブル。
しかし、誰も話さない。
サムエルが新聞を読んでいる。
見出し:「道徳の勝利! 国際社会の干渉を拒否」
息子デイビッドが無邪気に話しかける。
「パパ、今日は日曜学校で何を習うの?」
「ダビデとゴリアテだ」
「それ知ってる! ダビデが石で巨人を倒すんだよね!」
サムエルが微笑む。
「そうだ。小さくても、神が味方なら勝てる」
デイビッドが興奮する。
「すごい! ぼくも強くなりたい!」
「お前は強くなれる。でも、正しい道を歩むことが大事だ」
「正しい道?」
「神の道だ。間違った生き方をする人たちから、離れること」
ナロンゴがフォークを置く。
「サムエル」
「何だ?」
「デイビッドの前で、そういう話は—」
「教育だ。子どもは早くから学ぶべきだ。
何が善で、何が悪か」
ナロンゴが息子を見る。
純粋な目。まだ憎しみを知らない目。
「デイビッド、お母さんに質問していい?」
「うん!」
「もし、あなたのお友達が…
みんなと違っていたら、どうする?」
「違う?」
「そう。例えば…好きなものが違うとか」
デイビッドが考える。
「うーん…でも、友達は友達だよ?
トムはサッカーが好きで、
僕は絵が好きだけど、
それでも友達だもん」
ナロンゴが微笑む。
「そうね。友達は友達」
サムエルが割り込む。
「デイビッド、部屋に戻りなさい。学校の準備を」
「はーい!」
デイビッドが出ていく。
サムエルがナロンゴを睨む。
「何をしている?」
「息子と話しただけよ」
「子どもに変な考えを植え付けるな。
お前、最近本当におかしい」
「おかしいのはあなたよ!」
ナロンゴが立ち上がる。
「7歳の子どもに、憎しみを教えてる!
それが神の教え!?」
「憎しみではない! 真実だ!」
「真実?」
ナロンゴが聖書を掴む。
「じゃあ、これも真実ね。
ヨハネの福音書8章、
姦淫の女の話。
人々が女を石で打ち殺そうとした時、
イエスは何と言った?
『あなたがたのうちで罪のない者が、
最初に石を投げなさい』」
サムエルが黙る。
ナロンゴが続ける。
「そして、誰も石を投げられなかった。
なぜなら、全員が罪人だから。
イエスは女に言った。
『わたしもあなたを罪に定めない。
行きなさい。今からは決して罪を犯してはなりません』」
「それは—」
「待って! まだ終わってない!」
ナロンゴが涙ぐむ。
「イエスは罪を憎んだ。でも、罪人を愛した。
なのに、私たちは何をしてる?
罪人を殺してる!
イエスの教えと、正反対のことを!」
サムエルが立ち上がる。
「お前は混乱している。
牧師に相談した方がいい」
「あなたが牧師でしょ!?」
ナロンゴが夫の胸を叩く。
「あなたが! 私の夫が!
なぜ私の話を聞いてくれないの!?」
サムエルが妻の手を掴む。
「落ち着け」
「落ち着けない!
人が死んでるのよ!
あなたの教会員が、彼らを『悪魔だ』って言ってる!
でも、誰も悪魔じゃない!
みんな、神の子どもじゃないの!?」
サムエルが突き飛ばす。
ナロンゴが床に倒れる。
「ママ!?」
デイビッドが部屋から飛び出してくる。
サムエルが固まる。
「ナロンゴ…すまない、私は…」
ナロンゴが立ち上がる。息子を抱きしめる。
「大丈夫よ、デイビッド。お母さんは大丈夫」
サムエルが手を伸ばす。
「ナロンゴ、私は…」
「触らないで」
ナロンゴが冷たく言う。
「あなたは、もう私の夫じゃない」
-----
**エマとムバラクの新居**
モダンな3LDKアパート。
二人は別々の部屋で寝ている。
朝、キッチンでエマが朝食を作る。
ムバラクが出勤前に顔を出す。
「おはよう、エマ」
「おはよう…あ、コーヒー淹れるね」
「ありがとう」
二人の関係は、まるでルームメイト。
ムバラクが新聞を読む。
「また逮捕者が増えた。今度は大学教授だって」
「…怖いね」
エマが震える。
ムバラクが優しく言う。
「大丈夫。僕たちは結婚してる。
医師と妻。完璧な表向きだ」
「でも…いつまでこんな嘘を?」
「一生かもね」
ムバラクが苦笑する。
「僕たちには、選択肢がない」
ドアベルが鳴る。
二人が顔を見合わせる。
ムバラクがドアを開ける。
近所の**バシャ夫人**(50代)が立っている。
「ドクター! おめでとうございます!」
「え?」
「ご結婚でしょう? お祝いに来たの!」
バシャ夫人が勝手に入ってくる。
「あら、新婚さんなのに、なんだか冷たい雰囲気ね」
エマが慌てる。
「いえ、その…」
バシャ夫人がエマの手を握る。
「大丈夫よ、最初はみんなそう。
でもすぐに慣れるわ。夫婦生活も」
エマの顔が青ざめる。
「あ、あの…」
「それより! いつ赤ちゃんができるの?
もう夜の努力はしてる?」
ムバラクが割り込む。
「バシャさん、僕たちは医者として忙しくて—」
「だめよ! 若いうちに産まなきゃ!」
バシャ夫人が説教を始める。
「私なんて、結婚して3ヶ月で妊娠したわ。
夫婦の務めをちゃんと果たせば—」
エマが立ち上がる。
「すみません、トイレ!」
エマがトイレに駆け込む。
扉を閉めて、床にしゃがみ込む。
吐き気。震え。過呼吸。
*(夫婦の務め…赤ちゃん…
私、できない…できない…)*
ムバラクがドアをノックする。
「エマ? 大丈夫?」
「だい…じょうぶ…」
「彼女は帰った。出ておいで」
エマがドアを開ける。涙でぐしゃぐしゃの顔。
「ごめん…私…」
「謝らなくていい」
ムバラクが肩を抱く。(性的な意味ではなく、友人として)
「僕たちは、演技を続けるしかない。
辛いけど」
「でも、赤ちゃんは…どうするの?」
ムバラクが考え込む。
「養子を取る?
それか、妊娠したふりをして、
結局『流産した』ことにする?」
「そんな嘘…」
「嘘の人生を生きてるんだ、今更だよ」
ムバラクが自嘲する。
エマが窓を見る。
外は快晴。でも、彼女の心は嵐。
「私たち…いつか壊れちゃうんじゃないかな」
「…多分ね」
二人は無言で立ち尽くす。
-----
**刑務所、処刑前日**
マーティンが最後の面会。
祖母ナカトと、ナロンゴ議員。
「おばあちゃん…泣かないで」
「泣くなって言う方が無理だよ…」
ナカトの涙が止まらない。
マーティンが笑顔を作る。
「僕ね、後悔してないんだ」
「え…?」
「ジョナサンと過ごした3年間。
あれは、僕の人生で一番幸せな時間だった。
毎朝、彼の笑顔で目が覚めて、
一緒に朝食を作って、
仕事から帰ったら、『おかえり』って言ってくれて…」
マーティンの目が遠くを見る。
「普通の幸せ。それだけが欲しかった。
でも、それは叶わなかった。
この国では、僕たちの愛は犯罪だから」
ナロンゴが口を開く。
「マーティン…私、議会で動いた。
法案の見直しを提案した」
「結果は?」
「…否決された。387対1」
「1?」
「私だけが賛成した。修正案に」
マーティンが驚く。
「議員…あなた…」
「遅すぎた。あなたを救えない。
でも…せめて、次の人たちを」
ナロンゴが泣く。
「ごめんなさい…ごめんなさい…
私が最初から反対していれば…」
「いいんです」
マーティンが優しく言う。
「議員、あなたは変わった。
それだけで十分です。
人は変われる。
それを、あなたが証明した」
マーティンが立ち上がる。
「おばあちゃん、議員。
お願いがあります」
「何?」
「僕の死を、無駄にしないでください。
僕が死んだ後、
僕の話を、世界に伝えてください。
『マーティンという看護師がいた。
彼は患者を助け、老人を世話し、
誰も傷つけなかった。
でも、彼は愛したから殺された』と」
ナカトが泣き崩れる。
「嫌だ…嫌だ…
マーティン、死なないで…」
マーティンが祖母を抱きしめる。
「おばあちゃん、今までありがとう。
おばあちゃんの孫で、幸せだった」
看守が来る。
「時間です」
マーティンが二人から離れる。
最後に、彼は微笑む。
「天国で、ジョナサンに会えるかな」
-----
**処刑当日、夜明け前**
刑務所の処刑場。
報道陣は立ち入り禁止。
しかし、建物の外には数百人。
**反対派:**
「処刑を止めろ!」
「殺人者!」
**賛成派:**
「神の意志を!」
「罪人に裁きを!」
双方が睨み合う。
-----
**処刑場内部**
マーティンが連行される。
手錠。足枷。
処刑執行官**オセイ**(40)が待っている。
彼も、この仕事を嫌がっている。しかし、命令は命令。
「マーティン・カトンゴ。
最後の言葉は?」
マーティンが深呼吸。
「私は、神を愛しました。
家族を愛しました。
患者を愛しました。
そして、ジョナサンを愛しました。
それが罪なら…」
マーティンが目を閉じる。
「神よ、私を赦してください。
そして、この国を赦してください。
彼らは、何をしているか分からないのです」
*(イエスの十字架の言葉を引用)*
オセイの手が震える。
*(これは…正しいのか?)*
しかし、彼は引き金を引く。
銃声。
マーティンが倒れる。
-----
**同時刻、ナロンゴの車内**
ナロンゴが刑務所の外に停めた車の中。
時計を見る。午前6時。
処刑の時間。
銃声が聞こえる。
ナロンゴが叫ぶ。
「いやああああああああ!!!」
ハンドルを叩く。何度も、何度も。
手から血が出る。
「私が…私が殺した…!」
彼女は車内で泣き叫ぶ。
誰にも聞かれないように。
でも、神は聞いている。
-----
**エマの部屋**
エマがニュースを見ている。
**アナウンサー:**「今朝、死刑が執行されました。
これは我が国の道徳的勝利であり…」
エマがテレビを消す。
ムバラクが隣に座る。
「あれは…僕たちの未来かもしれない」
「え?」
「いつか、僕たちの嘘がバレる。
近所の人が不審に思う。
『赤ちゃんができない』
『夫婦らしくない』
そして、通報される」
エマが震える。
「じゃあ、どうすれば…」
「演技を完璧にする。
それしかない」
ムバラクが立ち上がる。
「今夜、友人を家に招く。
僕たちは、完璧な夫婦を演じる。
手をつないで、笑顔で、
『ラブラブ』を見せる」
「できない…」
「やるんだ。命がかかってる」
エマが顔を覆う。
「これが…人生なの?
これが…生きるってこと?」
ムバラクが答えない。
答えがないから。
-----
**バチカン、ベネデット枢機卿の部屋**
ベネデットが荷物をまとめている。
辞表は受理された。
若い助祭が涙ぐんで見送る。
「枢機卿様…本当に行かれるのですか」
「ああ」
「どこへ?」
「ウガンダだ」
「え!?」
ベネデットが微笑む。
「贖罪だよ。
私は、この手で救えた命を、見捨てた。
だから今から、残りの人生をかけて、
一人でも多くの命を救う」
「しかし、危険です!」
「危険? 当然だ。
殺されるかもしれない。
でも、それが私の十字架だ」
ベネデットが十字架のネックレスを外す。
「これを、教皇聖下に」
「何と伝えれば?」
「『失敗した羊飼いからの、最後の祈り』と」
ベネデットが部屋を出る。
-----
**ナロンゴの記者会見、3日後**
国会の記者会見室。
報道陣が詰めかける。
ナロンゴが壇上に立つ。
憔悴した顔。
「皆さん、今日は重要な発表があります」
ざわめき。
「私は…反同性愛法に賛成票を投じました。
しかし…」
ナロンゴが深呼吸。
「私は間違っていました」
会場が凍りつく。
「この法律は、正義ではありません。
殺人です。
私たちは、神の名の下に、
無実の人々を殺している」
報道陣が一斉にシャッターを切る。
**記者A:**「議員! それは法律への反逆ですか!?」
「反逆? いいえ。これは良心です」
**記者B:**「あなた自身が同性愛者だから、擁護するのでは?」
ナロンゴが笑う。
「違います。私は異性愛者です。
夫がいて、息子がいる。
でも、それは関係ない。
人間として、母親として、
クリスチャンとして、
私は言います。
この法律は、間違っている!」
会場が騒然とする。
ナロンゴが続ける。
「マーティン・カトンゴさんは、看護師でした。
彼は命を救う仕事をしていた。
でも、私たちは彼を殺した。
なぜ? 彼が愛したから。
それは犯罪ですか?
それは死刑に値しますか?
イエス・キリストは言いました。
『互いに愛し合いなさい』と。
なのに、私たちは愛を罰している!」
会場の半分が拍手、半分が野次。
警備員が近づく。
「議員、退場していただきます—」
「まだです! 最後に!」
ナロンゴが叫ぶ。
「私は、議員を辞職します!
そして、この法律を廃止するために、
命をかけて戦います!
たとえ、私自身が逮捕されても!」
**フラッシュの嵐。**
**見出しが世界を駆け巡る:**
「ウガンダ議員、反同性愛法を糾弾」
「賛成派議員が転向、辞職表明」
-----
**その夜、ナロンゴの自宅**
サムエルが激怒している。
「お前、何をした!?
教会中が大騒ぎだ!
『牧師の妻が背教者だ』って!」
「背教者? 真実を言っただけよ」
「真実? お前は教会を、家族を、
全てを裏切った!」
デイビッドが部屋から出てくる。
「ママ、パパ、なんで喧嘩してるの?」
ナロンゴが息子を抱きしめる。
「大丈夫よ、デイビッド。
お母さんはね、正しいことをしただけ」
「正しいこと?」
「うん。困ってる人を助けるの」
デイビッドが微笑む。
「学校で習った! 『良きサマリア人』だね!」
ナロンゴが驚く。
「そう…そうよ、デイビッド。
お母さんは、サマリア人になりたいの」
サムエルが割り込む。
「デイビッド、部屋に戻れ!」
「やだ! ママと一緒にいる!」
サムエルが息子を掴む。
「言うことを聞け!」
「いたい! パパ、いたい!」
ナロンゴが夫を突き飛ばす。
「息子に手を出すな!」
夫婦が睨み合う。
サムエルが冷たく言う。
「ナロンゴ…お前、この家から出て行け」
「…え?」
「離婚だ。
背教者の妻など、必要ない」
ナロンゴが息子を見る。
デイビッドが泣いている。
「デイビッド…」
「ママ…行かないで…」
ナロンゴの心が引き裂かれる。
しかし、彼女は決めていた。
「デイビッド、お母さんはね、
しばらく離れるけど、
あなたをずっと愛してるからね」
「ママ!!!」
デイビッドが母に抱きつく。
ナロンゴが涙を堪えて、息子を離す。
「いい子にしてるのよ。
お母さん、必ず戻ってくるから」
ナロンゴが荷物をまとめる。
家を出る。
ドアの向こうで、息子の泣き声。
ナロンゴは振り返らない。
振り返ったら、決意が崩れるから。
雨の中、彼女は歩き出す。
-----
**[幕間]**
**世界の反応:**
- 国連:ナロンゴを「良心の囚人」として表彰検討
- バチカン:沈黙(内部で議論紛糾中)
- イスラム協力機構:「西洋の工作員」と非難
- アフリカ諸国:分裂(一部支持、一部非難)
- 欧米:ヒロイン扱い
- ウガンダ国内:「裏切り者」「恥」
**SNS上:**
#StandWithNarongo
#TraitorNarongo
世界は二つに割れる。
そして、ウガンダ政府は動き出す…
-----
**[第五幕へ続く]**
次の第五幕では、ナロンゴへの弾圧、エマの偽装生活の崩壊の危機、そして…誰かが死にます。
続けますか?
## 第五幕:砕かれた者の賛歌
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**2週間後、ナロンゴの隠れ家**
ナロンゴは友人の**ナブワンギ元議員**(44)の家に身を寄せている。
ナブワンギは法案に反対した2票のうちの1人。
小さなアパート。壁には人権活動のポスター。
ナロンゴがラップトップで国際メディアとのインタビュー映像を編集している。
ナブワンギが紅茶を運んでくる。
「ナロンゴ、少し休んだら?
もう3日寝てないでしょ」
「休めない…今、世界が注目してる。
この機会を逃したら—」
ドアが激しくノックされる。
二人が顔を見合わせる。
「警察!? もう!?」
ナブワンギが覗き穴を見る。
「違う…ベネデット枢機卿!?」
ドアを開ける。
**ベネデット**(もう枢機卿ではない、普通の司祭服)が立っている。
「ナロンゴ議員…いや、ナロンゴさん」
「あなた…バチカンから?」
「もうバチカンの人間じゃない。
ただの老いぼれ司祭だ」
ベネデットが入室する。
「あなたの記者会見を見た。
勇敢だった。そして、正しかった」
「でも、私は遅すぎた。
マーティンは…」
「彼の死は無駄じゃない」
ベネデットが手を握る。
「あなたが声を上げた。
それが波紋を広げている。
世界中で、人々が目を覚まし始めてる」
ナロンゴが首を振る。
「でも、ここウガンダでは…
私は裏切り者。息子にも会えない」
**フラッシュバック:**
- デイビッドの泣き声
- 「ママ! ママ!」
- サムエルが息子を引き離す
ナロンゴが涙ぐむ。
「私…母親失格です」
「いいや」
ベネデットが強く言う。
「あなたは息子に、最高の教育をした」
「え?」
「本当の勇気を見せた。
権力に立ち向かう姿を。
間違いを認める強さを。
いつか、彼は理解する。
母親が、どれほど偉大だったかを」
ナブワンギが割り込む。
「でも、状況は悪化してる。
政府はナロンゴを『公共秩序紊乱罪』で逮捕すると—」
電話が鳴る。
ナロンゴの携帯。
見知らぬ番号。
「…もしもし?」
**声:**「ナロンゴか。私だ、オセイだ」
「オセイ…処刑執行官の?」
「ああ…聞いてくれ。
私は…マーティンを殺した。
銃を撃った」
ナロンゴが息を呑む。
「でも、あれから眠れない。
毎晩、彼の顔が見える。
最後の言葉が聞こえる。
『彼らは、何をしているか分からないのです』」
オセイの声が震える。
「私は…分かってなかった。
命令だから、仕事だからって。
でも、あれは殺人だった。
私は殺人者だ」
「オセイさん…」
「ナロンゴ、あなたの記者会見を見た。
あなたは正しい。
だから、私も証言する。
処刑の実態を、世界に話す」
「でも、それは—」
「私も死刑になるかもしれない。
でも、それでいい。
マーティンに、少しでも償いたい」
電話が切れる。
ナロンゴが震える手で携帯を置く。
「人は…変われるんだ」
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**エマとムバラクの家、夕食会**
ムバラクの同僚医師夫婦が招待されている。
**カト医師**(38)と妻**ジョイ**(35、看護師)。
テーブルには豪華な料理。
しかし、エマの心は地獄。
ジョイが話しかける。
「エマさん、結婚して半年ね。
そろそろ赤ちゃんの計画は?」
エマが笑顔を作る。(演技)
「ええ…そうですね…」
ムバラクが妻の手を握る。(演技)
「僕たちは、まず二人の時間を大切にしたくて」
カト医師が笑う。
「おやおや、ラブラブだねえ!
でも、あまり遅いと—」
「大丈夫です」
ムバラクが笑顔。
「僕たちの愛は、時間をかけて育てたいんです」
ジョイが羨ましそうに言う。
「素敵ね! 私たちなんて、
結婚したらすぐ『義務』みたいになっちゃって」
カト医師が妻を睨む。
「ジョイ! 客の前で!」
「ごめんなさい」
気まずい空気。
エマが話題を変える。
「あの…ニュースで、ナロンゴ議員の—」
テーブルが静まる。
カト医師が険しい顔。
「あの裏切り者のことか」
「裏切り者…?」
「ああ。国を売った。
同性愛者の味方をして」
ジョイが小声で言う。
「でも…彼女の言うことも、少しは—」
「ジョイ!」
カト医師が妻を遮る。
「あれは病気だ。精神疾患。
治療すべきだが、治らなければ…」
彼が首を切るジェスチャー。
エマの顔が青ざめる。
ムバラクが気づく。
「エマ、大丈夫?」
「あ…ちょっとトイレ」
エマが立ち上がる。
トイレに駆け込む。
鏡の中の自分。
作り笑顔。嘘の人生。
*(私は…病気?
治らないから…殺される?)*
エマが震える。
過呼吸。
ムバラクがノックする。
「エマ? エマ!」
「だ…いじょうぶ…」
「開けて!」
ムバラクが入ってくる。
エマが床に座り込んでいる。
「もう…無理…」
「何が?」
「演技…できない…
毎日、笑顔を作って、
手をつないで、
『ラブラブ』を演じて…
でも、心は死んでる…」
エマが泣き崩れる。
「私、生きてるって言える?
これ、生きてるの?」
ムバラクが抱きしめる。
「ごめん…僕も限界だ」
「え?」
「病院で、同僚が言うんだ。
『ムバラク、お前の妻、冷たいな』って。
『夫婦なのに、触れ合わない』
『子どもができない』
『おかしい』
疑われ始めてる」
エマが震える。
「じゃあ…私たち…」
「そう。時間の問題だ」
二人は無言で抱き合う。
(友情として。生存者同士として)
外では、客が待っている。
完璧な夫婦を演じなければならない。
-----
**3日後、国会**
政府が緊急声明。
**ムセベニ首相**(62)が演説。
「ナロンゴ元議員の発言は、
国家への反逆である!
彼女は西洋の工作員であり、
我が国の道徳を破壊しようとしている!」
議場から拍手。
「よって、政府は彼女を、
『公共秩序紊乱罪』『扇動罪』で
国際指名手配する!」
報道陣がざわめく。
**記者:**「首相! しかし、彼女は言論の自由を—」
「自由? 自由には責任が伴う!
彼女の発言は、社会を混乱させた!
これは犯罪だ!」
-----
**同時刻、ナロンゴの隠れ家**
テレビで首相の演説を見ている。
ナブワンギが慌てる。
「指名手配!? すぐに国外へ—」
「いいえ」
ナロンゴが静かに言う。
「逃げない」
「何を言ってるの!?
逃げなきゃ殺される!」
「逃げたら、負けよ。
私が間違ってたことになる」
ベネデットが頷く。
「ガンジーやキング牧師も、逃げなかった」
「でも、彼らは殺された!」
「それでも、彼らの意志は生き続けた」
ナロンゴが立ち上がる。
「私、警察に自首する」
「正気!?」
「正気よ。そして、裁判で戦う。
世界中が見てる法廷で」
ナブワンギが泣き出す。
「あなた…本気で死ぬつもり?」
「死なないわ。神が守ってくださる」
ナロンゴが微笑む。
「それに、私には息子がいる。
彼に見せなきゃ。
母親は、最後まで戦ったって」
-----
**翌日、警察本部前**
ナロンゴが報道陣を引き連れて出頭。
カメラのフラッシュが炸裂。
警察署長**ワニャマ**(56)が出迎える。
「ナロンゴ元議員、逮捕する」
手錠がかけられる。
記者たちが叫ぶ。
「ナロンゴ! 何か言葉を!」
ナロンゴが振り返る。
「私は、真実を語っただけです!
同性愛者は、犯罪者じゃない!
彼らは、私たちと同じ人間!
神の子ども!
それを忘れた時、
私たちは悪魔になる!」
ナロンゴが連行される。
世界中に映像が流れる。
-----
**刑務所、独房**
ナロンゴが一人。
壁には、以前の囚人が刻んだ文字。
**「神よ、なぜ私を見捨てたのですか」**
ナロンゴがその下に、爪で刻む。
**「神は見捨てない。私たちが、神を見捨てるだけ」**
-----
**エマとムバラクの家、深夜**
二人がリビングで向き合っている。
「ムバラク…決めた」
「何を?」
「逃げる。この国から」
ムバラクが目を見開く。
「でも、僕たちは結婚してる。
一緒に逃げるのか?」
「違う。私だけ」
「え…?」
エマが涙ぐむ。
「あなたには、医師としてのキャリアがある。
患者さんがいる。
でも、私は…もう限界」
「エマ…」
「ごめん。私、弱くて。
でも、これ以上演技できない。
壊れちゃう。本当に壊れちゃう」
ムバラクが頷く。
「…分かった」
「え?」
「君は逃げるべきだ。
僕は残る。
そして、できる限り、他の人を助ける」
「でも、あなたも疑われる!
『妻が逃げた』って!」
「大丈夫」
ムバラクが微笑む。
「『妻が病気で、治療のために海外へ』
そう言えばいい」
「そんな嘘…」
「もう慣れたよ、嘘には」
ムバラクが自嘲する。
エマが彼を抱きしめる。(友情として)
「ありがとう…あなたは、私の命の恩人」
「お互いさまだ」
-----
**1週間後、ケニア国境**
夜。月明かりだけが頼り。
エマが小さなバックパック一つで歩いている。
密入国の手引きをする**ブローカー**(30代男性)と一緒。
「もうすぐだ。国境を越えたら、ケニア側の車が待ってる」
「ありがとうございます…」
突然、ライトが点灯。
「止まれ!」
**国境警備隊**が銃を構える。
エマが凍りつく。
ブローカーが逃げる。
「待て!」
銃声。
ブローカーが倒れる。
エマが悲鳴を上げる。
警備隊長**ルガバ**(45)が近づく。
「お前、何者だ」
「私…私は…」
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ルガバが身分証を確認する。
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エマが震える。
「それは…」
ルガバが気づく。
「まさか…お前、『あれ』か?」
「違います!」
「違わない。結婚してるのに、逃げる。
怪しい」
ルガバが無線を取る。
「本部、こちら国境。
容疑者を確保した」
エマが叫ぶ。
「お願い! 見逃してください!
私、何も悪いことしてない!」
「法律違反だ」
「でも、私…私…!」
エマが膝をつく。
「私、ただ生きたいだけなんです…
普通に、自由に…
お願いします…」
ルガバが迷う。
彼にも、娘がいる。エマと同じくらいの年齢。
*(もし、自分の娘が…)*
しかし、彼は命令に従う。
「すまないが、仕事だ」
エマが連行される。
月が雲に隠れる。
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**ナロンゴの裁判、2週間後**
国際的な注目を集める裁判。
傍聴席は満席。報道陣も詰めかける。
**裁判長ムゲニ**(60)が入廷。
検察側が起訴状を読み上げる。
「被告ナロンゴは、公共秩序を乱し、
国家の道徳を貶め、
反逆的言動を繰り返しました」
弁護人(国際人権団体から派遣)が反論。
「言論の自由は、憲法で保障されています!」
「自由には限度がある!」
議論が続く。
ナロンゴが最終陳述を求める。
裁判長が許可。
ナロンゴが立ち上がる。
「裁判長、そして、この法廷にいる全ての方へ。
私は、真実を語ります。
私は、反同性愛法に賛成しました。
子どもを守るため。
社会を守るため。
でも、私は間違っていました」
傍聴席がざわめく。
「マーティン・カトンゴさんに会いました。
彼は看護師でした。
誰よりも、命を大切にする人でした。
でも、私たちは彼を殺しました。
なぜ?
彼が愛したから。
それだけです」
ナロンゴが涙ぐむ。
「私には息子がいます。7歳です。
彼に、何を教えればいいですか?
『愛は犯罪だ』と?
『違う人を憎め』と?
『殺せ』と?
それが、私たちの伝統ですか?
それが、神の教えですか?」
ナロンゴが聖書を掲げる。
「イエスは言いました。
『互いに愛し合いなさい。
それによって、あなたがたが
わたしの弟子であることを、
人々は知るのです』
ヨハネの福音書13章35節」
傍聴席の一部が泣き始める。
「私たちは、愛を殺しました。
その時、私たちは、
キリストの弟子ではなくなった。
悪魔の僕(しもべ)になった」
検察官が立ち上がる。
「異議あり! 被告は法廷を冒涜している!」
「冒涜?」
ナロンゴが検察官を見る。
「冒涜しているのは、私たちです。
神の似姿に造られた人間を、
殺している。
それが、最大の冒涜です」
裁判長が gavel を叩く。
「静粛に!」
しかし、傍聴席は静まらない。
賛成派と反対派が叫び合う。
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**同時刻、エマの独房**
エマが壁に頭を打ち付けている。
「死にたい…死にたい…」
看守が止める。
「やめろ!」
「お願い…殺して…
どうせ死刑なら、今すぐ…!」
エマが泣き叫ぶ。
そこへ、面会人。
ムバラク。
「エマ…」
「ムバラク!」
二人が格子越しに手を伸ばす。
「ごめん…ごめん…
あなたまで疑われる…」
「いいんだ。君のせいじゃない」
ムバラクが微笑む。
「エマ、諦めるな。
君の裁判、僕が証言する」
「証言?」
「ああ。君がアセクシャルであること。
医学的に証明する。
それは病気でも、犯罪でもない。
ただの性的指向の一つだと」
「でも、それは…
あなた自身も暴露することに…」
ムバラクが頷く。
「分かってる。でも、いいんだ。
君を救えるなら」
エマが泣き出す。
「なんで…なんでそこまで…」
「だって、僕たちは仲間だろ?」
ムバラクが優しく言う。
「この世界で、孤独だった僕たちは、
出会えた。
それは奇跡だ。
奇跡を、守りたい」
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**ナロンゴの判決、1週間後**
法廷は異様な緊張。
裁判長が判決文を読み上げる。
「被告ナロンゴは、
公共秩序紊乱罪、扇動罪において…」
ナロンゴが目を閉じる。
**フラッシュバック:**
- 息子デイビッドの笑顔
- 「ママ、大好き!」
- マーティンの最後の言葉
- 「僕の死を、無駄にしないで」
裁判長が続ける。
「…有罪」
傍聴席が騒然。
「ただし」
裁判長が眼鏡を外す。
「被告の動機は、人道的であった。
また、国際的な注目を鑑み、
刑は…懲役5年、執行猶予2年」
「え…?」
ナロンゴが驚く。
「つまり、刑務所には入らなくていい…?」
弁護人が喜ぶ。
「勝ったんです! 実質無罪!」
しかし、検察側が叫ぶ。
「異議あり! これは軽すぎる!」
裁判長が gavel を叩く。
「判決は下された!
これにて閉廷!」
法廷の外で、支援者たちが歓声。
しかし、反対派も待ち構えている。
「裏切り者!」
「地獄に落ちろ!」
石が投げられる。
警察が ナロンゴを護衛する。
-----
**その夜、ナブワンギの家**
ナロンゴが戻ってくる。
ベネデットとナブワンギが出迎える。
「お帰り、ナロンゴ」
「ただいま…」
ナロンゴが崩れ落ちる。
「勝った…でも、何も変わってない…」
「いいや」
ベネデットが肩を叩く。
「あなたは種を蒔いた。
それは必ず芽吹く」
電話が鳴る。
ナブワンギが取る。
「はい…え? 本当ですか!?」
ナブワンギが振り返る。
「オセイ処刑執行官が、
BBCのインタビューに応じた!
処刑の実態を暴露してる!」
テレビをつける。
オセイが画面に映る。
**オセイ:**「私は、マーティンを殺しました。
でも、彼は犯罪者じゃなかった。
彼は最後に言いました。
『彼らは、何をしているか分からない』と。
その通りです。
私たちは、何をしているか分からなかった。
でも、今は分かります。
私たちは、人を殺していた。
罪のない、普通の人々を」
オセイが泣き出す。
画面が世界中に流れる。
ナロンゴが画面を見つめる。
「ありがとう…オセイさん…」
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**翌日、オセイの自宅**
朝。
オセイが家族と朝食。
妻と、二人の子ども。
「パパ、テレビに出てたね!」
娘(9歳)が無邪気に言う。
「ああ…」
妻**ナルゴンド**(38)が心配そう。
「あなた…大丈夫なの?
あんなこと話して…」
「大丈夫だ。これで良かった」
オセイが微笑む。
「俺、今まで間違ってた。
でも、これからは正しく生きる」
ドアが蹴破られる。
武装した男たち。政府の秘密警察。
「オセイ! 貴様、国家反逆だ!」
妻と子どもが悲鳴を上げる。
オセイが立ち上がる。
「家族には手を出すな!」
「黙れ! 来い!」
オセイが連行される。
娘が泣き叫ぶ。
「パパ! パパ!」
オセイが振り返る。
「大丈夫だ! パパは大丈夫だから!」
(しかし、彼は分かっていた。
もう会えないことを)
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**3日後、オセイの処刑**
秘密裏に執行される。
報道陣は立ち入り禁止。
処刑場。
オセイが一人。
新しい執行官が銃を構える。
「最後の言葉は?」
オセイが空を見上げる。
「マーティン…
俺、少しは償えたかな…」
銃声。
オセイが倒れる。
-----
**ナロンゴの隠れ家**
ニュースが流れる。
**アナウンサー:**「元処刑執行官オセイが、
反逆罪で処刑されました」
ナロンゴが画面を見つめる。
涙が止まらない。
「オセイさん…」
ベネデットが祈りを捧げる。
「主よ、オセイの魂に安らぎを。
彼は最後に、人間に戻りました」
ナブワンギが怒りに震える。
「ひどい…ひどすぎる!
もう、この国は終わってる!」
ナロンゴが立ち上がる。
「いいえ。終わらせない」
「え?」
「オセイさんの死を、無駄にしない。
マーティンの死も。
私は戦い続ける」
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**エマの裁判、2日後**
ムバラクが証人として立つ。
「私は医師として、証言します。
エマは、アセクシャルです。
これは医学的に認められた性的指向の一つ。
恋愛感情や性的欲求を持たない状態。
病気ではありません。
犯罪でもありません。
ただ、彼女はそう生まれただけです」
検察官が詰め寄る。
「では、なぜ彼女は逃げたのですか!?」
「それは…」
ムバラクが深呼吸。
「彼女が、この社会で生きられないからです。
結婚を強制され、
性行為を強制され、
拒否すれば疑われ、
殺される。
それは、拷問です」
法廷がざわめく。
検察官が冷笑する。
「ドクター、あなた自身は?
妻を擁護する理由は?」
「それは…」
ムバラクが覚悟を決める。
「私も、アセクシャルだからです」
法廷が凍りつく。
「私たちは、生き延びるために結婚しました。
形だけの結婚。
社会を欺くために。
でも、それは犯罪ですか?
生きるための嘘が、罪ですか?」
裁判長が驚く。
「ドクター…あなた、今何を…」
「私は、真実を話しています」
ムバラクが法廷を見渡す。
「この中に、何人いますか?
本当の自分を隠して生きている人が。
誰も愛せない人。
同性を愛する人。
性別に違和感を持つ人。
私たちは、ここにいます。
あなたの隣に。
あなたの職場に。
あなたの家族に。
見えないだけです」
傍聴席が静まり返る。
そして、一人の男性が立ち上がる。
「私も…そうです」
次に、女性が立つ。
「私も」
次々と、人々が立ち上がる。
「私も」
「私も」
法廷が騒然となる。
裁判長が gavel を叩く。
「静粛に! 静粛に!」
しかし、止まらない。
人々は立ち続ける。
沈黙の抵抗。
-----
**その夜、ムバラクの逮捕**
ムバラクが病院から帰宅途中。
秘密警察が待ち構えている。
「ムバラク医師、逮捕する」
ムバラクは抵抗しない。
「分かりました」
——-
AIの制限で尻切れトンボになりました。
未完のAI小説でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご感想やコメント、「ここがおかしいぞ」などいただけますと幸いです。
*「自分で書いて完成させろよ」
と言う話かもしれませんが、筆力に力不足を感じています。
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