同性愛が死刑になる国ウガンダ。女子大生と女性議員の「性の多様性」を巡る命のぶつかり合い。

霧人 イスラエル・ハイム

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虹色の十字架 ウガンダのアセクシャル

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⚫︎クロードにアセクシャル(無性愛者)とウガンダの反同性愛法について依頼。

# 虹の国の十字架【改訂版】

## 第一幕:それぞれの正義

-----

**カンパラ、2023年初春・国会議員宿舎**

朝6時。**ナロンゴ議員**(45)がキッチンで朝食を作っている。

「ママ! 今日は何作ってるの?」

7歳の息子**デイビッド**が駆け寄ってくる。

「あなたの大好きなマトケ(バナナの蒸し料理)よ。さあ、手を洗いなさい」

ナロンゴが優しく息子の頭を撫でる。

夫の**サムエル**(48、牧師)が聖書を読みながら現れる。

「今日は大事な日だね」

「ええ…法案の最終討議」

ナロンゴの表情が曇る。

「あなた、迷ってるの?」

「いいえ。子どもたちを守るため。これは必要なことよ」

しかし、その手が微かに震えている。

-----

**同時刻、大学寮**

**エマ**(22、心理学専攻)がベッドで丸まっている。

ルームメイトの**ファティマ**(23)が揺り起こす。

「エマ! また悪夢?」

「…うん」

「同じ夢?」

エマが頷く。

「結婚式の夢。ベールを被せられて…
そして初夜に、知らない男の人が…」

声が震える。

ファティマが背中をさする。

「大丈夫。まだ決まってないじゃない」

「父さんが昨日電話してきた。
『お前も24になる。良い縁談がある』って」

「断ればいいのよ」

「できない…断ったら、私が、その…」

エマが言葉に詰まる。

「レズビアンだと思われる。
今の法案が通ったら…」

ファティマの顔が強張る。

「でも、あなたは誰も愛してないんでしょ?」

「それを誰が信じる?
結婚拒否=同性愛者。そう思われたら終わり」

窓の外、雨が降り始める。

-----

**国会議事堂、準備室**

ナロンゴが化粧直しをしている。

秘書の**グレース**(28)が資料を持って入ってくる。

「議員、今日の演説原稿です」

「ありがとう」

ナロンゴが原稿を読む。手が止まる。

「グレース…これで本当に子どもたちは守られるのかしら」

「議員?」

「私…昨日、古い友人に会ったの。
彼女の息子が、その…同性愛者だと告白して」

グレースが固まる。

「彼女は泣いていた。『息子は優しい子なのに』って。
病院でボランティアして、お年寄りの世話をして…
でも、法律が通ったら…」

「議員、それは個別のケースです。
法案の目的は、子どもたちを守ること。
欧米の団体が学校に入り込んで、子どもたちを勧誘—」

「分かってる! 頭では分かってるの!」

ナロンゴが机を叩く。

深呼吸。

「でも…死刑って、神の御心なのかしら」

沈黙。

グレースが慎重に口を開く。

「レビ記20章13節。
『男が女と寝るように男と寝るなら、
ふたりとも忌むべきことをしたのである。
必ず殺されなければならない』」

「…」

「神の言葉です」

ナロンゴが聖書を手に取る。ページをめくる。

「でも、ローマ人への手紙1章では…
『彼らは神を認めることを良しとしなかった』と。
つまり、これは偶像崇拝の文脈…?」

「議員、神学論争をしている時間は—」

ドアがノックされる。

-----

**国会本会議場**

議場は満席。報道陣が詰めかける。

ナロンゴが演台に立つ。深呼吸。

「議長、そして同僚の皆さん。

私には7歳の息子がいます。

毎朝、彼が『ママ、学校楽しみ!』と言う顔を見ると、
母親として、この子を守らなければと思います」

傍聴席から拍手。

「しかし、今、我が国の子どもたちが脅威に晒されています。

欧米のNGOが学校に入り込み、
幼い子どもたちに『同性愛は正常だ』と教えている。

これは教育ではない。勧誘です。洗脳です!」

拍手が大きくなる。

「世界保健機関は言います。『これは病気ではない』と。
しかし、私たちの文化では、これは道徳の問題です!

私たちアフリカには、私たちの価値観がある!」

歓声が上がる。

しかし、ナロンゴの目が一瞬泳ぐ。

「だからこそ…この法案に…」

彼女が止まる。

傍聴席のざわめき。

「だからこそ…私たちは…」

心の中で友人の涙を思い出す。

*(でも、彼の息子は子どもを襲ったわけじゃない…)*

「私たちは、子どもたちを守るために、この法案を…」

隣の席の**ムセベニ議員**(62、男性)が囁く。

「ナロンゴ、しっかりしろ」

ナロンゴが目を閉じる。息子の顔。友人の涙。聖書の言葉。

「…支持します」

拍手の嵐。

しかし、ナロンゴ自身は、どこか遠くを見つめている。

-----

**同時刻、大学構内**

エマがベンチに座っている。

手には二つの封筒。

一つは父からの手紙。「見合いの日程」

もう一つは、NGOからのパンフレット。「難民申請のガイド」

ファティマが横に座る。

「どうするの?」

「…分からない」

「エマ、あなたはまだ時間がある。
法案が通っても、すぐには—」

「そうじゃないの!」

エマが叫ぶ。通りすがりの学生たちが振り返る。

小声に戻る。

「結婚したら、私は…毎晩、彼に体を許さなきゃいけない。
夫の権利だから。

でも私、誰にも触られたくない。
キスも、ハグも、全部…気持ち悪いの」

「それなら逃げるしか—」

「逃げたら?
家族を捨てることになる。
父も母も、弟たちも。

それに、ケニアに逃げても、向こうでも同じ問題が待ってる。
『なぜ結婚しない?』『おかしい』『怪しい』」

エマの目から涙。

「私、どこにも居場所がないの。

結婚すれば、毎日がレイプ。
断れば、レズビアンだと疑われて殺される。
逃げても、異常者扱い。

私の何が悪いの!?」

ファティマが抱きしめる。

「何も悪くない…」

「じゃあなぜ、私だけこんな目に…」

二人は抱き合ったまま、泣き続ける。

-----

**ナロンゴの自宅、夜**

ナロンゴが息子を寝かしつける。

「ママ、お話して」

「今日は疲れてるの。明日ね」

「やだ! ノアの箱舟がいい!」

ナロンゴが微笑む。

「分かったわ。

むかしむかし、世界が悪い人ばかりになって、
神様はとても悲しみました…」

物語を語りながら、ナロンゴの心は揺れる。

*(神は悪い人を滅ぼした。
でも、同性愛者は…悪い人なの?
あの友人の息子は、お年寄りに優しくしていた。
それも偽善?)*

「ママ? どうしたの?」

「ううん、何でもないわ」

息子が眠る。

ナロンゴがリビングに戻ると、夫がニュースを見ている。

「国際社会がまた批判してるね」

「ええ…国連、EU、アメリカ…」

「彼らは分かってない。我々の苦しみを」

サムエルが聖書を開く。

「ローマ人への手紙1章26-27節。

『そのために、神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました。
すなわち、女は自然の用を不自然なものに代え、
同じように、男も、女の自然な用を捨てて、
男どうしで情欲に燃えました』」

「でも…」

ナロンゴが迷いを口にする。

「パウロが語ったのは、神殿娼婦や少年愛のことじゃないかって、
神学者もいるわ」

「ナロンゴ!」

サムエルが険しい顔。

「聖書に『でも』はない。神の言葉は絶対だ」

「…ごめんなさい」

ナロンゴが頭を下げる。

しかし、心の中では疑問が渦巻く。

*(本当に? 本当にこれで良いの?)*

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## 第二幕:亀裂

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**2週間後、国会**

法案が可決された。

賛成387票、反対2票、棄権11票。

ナロンゴは賛成票を投じた。

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**エマの実家、地方都市**

父**オコロ**(56、銀行員)が見合い写真を並べる。

「エマ、この3人から選びなさい」

母**シャロン**(52)が紅茶を運んでくる。

「どの人も良い家柄よ。あなたは幸せになれる」

エマが写真を見る。手が震える。

「お父さん…私、まだ勉強を—」

「結婚してからでも勉強はできる」

「でも—」

「でも、じゃない!」

オコロが声を荒げる。

「お前はもう22だ。これ以上遅れたら、縁談もなくなる。
それに…」

彼が声を潜める。

「新しい法律が通った。
結婚もしない、恋人もいない女は、疑われるんだぞ」

エマの顔が蒼白になる。

「私は…その…誰も好きじゃないだけで…」

「それが危険なんだ!」

シャロンが優しく手を握る。

「エマ、お母さんも最初は怖かったわ。
でも、慣れるものよ。夫婦の営みも」

「営み…?」

エマが吐き気を覚える。

「ええ。最初は痛いし、恥ずかしいけど、
それが妻の務め—」

「やめて!」

エマが立ち上がる。

「私、そんなの…できない!」

「エマ!」

オコロが激怒する。

「お前、まさか…」

「違う! 私は誰も好きじゃないの!
男も女も! ただ、一人でいたいだけ!」

「それがおかしいと言ってるんだ!」

「おかしい…私がおかしい…」

エマが崩れ落ちる。

シャロンが娘を抱きしめる。

「大丈夫…大丈夫よ…」

しかし、その目は恐怖に満ちている。

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**ナロンゴの議員事務所**

ナロンゴが老婦人**ナカト**(78)を迎えている。

「ナカトおばあちゃん、お元気でしたか?」

「ナロンゴちゃん、あなたに会いに来たよ」

二人は旧知の仲。ナロンゴの亡き祖母の親友。

「実は…相談があるんだよ」

「何でしょう?」

ナカトが声を震わせる。

「孫のことなんだ…」

「お孫さん? 確か、看護師になった…」

「そうだよ。マーティン。良い子なんだよ。
患者さんには優しいし、私の薬も毎日確認してくれて…」

ナカトが泣き出す。

「でも…でも…
彼、昨日逮捕されたんだよ」

ナロンゴが息を呑む。

「逮捕…?」

「隣人が通報したんだ。
『男友達と住んでいる。怪しい』って。

警察が家を捜索して…
二人の写真を見つけて…」

「…」

「ナロンゴちゃん。お願い。
マーティンを助けて。

彼は何も悪いことしてないんだよ。
ただ、誰かを愛しただけなんだよ」

ナロンゴの心が引き裂かれる。

「おばあちゃん…私…」

「あなたは優しい子だった。
小さい頃、迷子の犬を助けて、
一晩中看病してたじゃないか」

「…」

「その優しさで、マーティンも助けて」

ナロンゴが目を閉じる。

**フラッシュバック:**

- 幼いナロンゴが傷ついた犬を抱きしめる
- 母が言う:「優しい子ね。神様もきっと喜んでるわ」

目を開ける。

「おばあちゃん…ごめんなさい」

「え?」

「私には…できません」

ナカトの顔が絶望に染まる。

「法律が決まったんです。私も賛成票を投じた。
だから…」

「あなたが…? あなたが賛成を…?」

ナカトが立ち上がる。

「私は間違ってた。
あなたは優しい子じゃない。

政治家になって、心を失った」

「おばあちゃん!」

ナカトが杖をついて出て行く。

ナロンゴは一人残される。

机の上には、息子の写真。

隣には、法案の最終稿。

彼女の手が震える。

-----

**大学、深夜**

エマが図書館で一人、パソコンと向き合う。

画面には、難民申請のフォーム。

しかし、カーソルが動かない。

ファティマが隣に座る。

「まだ迷ってるの?」

「うん…」

「エマ、私の従兄弟がケニアにいる。
彼が手助けしてくれる」

「でも…」

エマが別のウィンドウを開く。

そこには、父からのメール。

*「見合いは来月15日。相手はとても良い人だ。医師で、収入も安定している。お前の将来は安心だ」*

「安心…」

エマが笑う。乾いた笑い。

「私が毎晩怯えながら生きることが、安心?」

「逃げようよ」

「逃げたら、家族はどうなる?

父は『娘がレズビアンだった』と噂される。
職を失うかもしれない。

母は教会に行けなくなる。

弟たちは学校でいじめられる」

エマが頭を抱える。

「私一人の問題じゃない。
家族全員を道連れにする」

「じゃあ、結婚するの?」

「できない…
初夜に、彼が私に触れて、
私の中に入ってきて…」

エマが嘔吐しそうになる。

ファティマがゴミ箱を差し出す。

「毎晩、それが続くのよ。
夫の権利だから。拒否できない。

それは結婚なの?
それは、法律で認められたレイプじゃないの?」

涙が止まらない。

「神様…神様…
なぜ私をこんな風に作ったの…」

-----

**ナロンゴの寝室、同じ夜**

ナロンゴが眠れずにいる。

隣で夫が平和に寝息を立てる。

彼女は聖書を開く。

ローマ人への手紙1章。

「『神は彼らを恥ずべき情欲に引き渡されました』…」

ページをめくる。

同じ章の32節。

「『彼らは、そのようなことを行えば、死罪に当たるという神の定めを知っていながら…』」

ナロンゴが息を呑む。

さらにページをめくる。

ローマ人への手紙2章1節。

**「ですから、すべて他人をさばく人よ、あなたに弁解の余地はありません。あなたは、他人をさばくことによって、自分自身を罪に定めています。さばくあなたが、それと同じことを行っているからです」**

ナロンゴの手が震える。

「これは…どういう…?」

彼女が続きを読む。

「『神のさばきは、そのようなことを行っている人々の上に正しく下る』…
でも、次に…
『そのようなことをしているあなたが、神のさばきを免れるとでも思っているのですか』」

ナロンゴが混乱する。

「パウロは、裁くことを…裁いてる?」

彼女は別の箇所を開く。

マタイの福音書7章。

**「さばいてはいけません。さばかれないためです」**

ナロンゴの目から涙が落ちる。

「私は…何をしたの…」

彼女が胸を押さえる。

「神様…私、間違ったの?
子どもを守るためだった…
でも、マーティンは…おばあちゃんは…」

彼女が枕に顔を埋める。

声を殺して泣く。

夫が目を覚まさないように。

息子に聞かれないように。

世界に知られないように。

**でも、神は知っている。**

-----

**[続く]**

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この改訂版では:

- ナロンゴを多面的に:慈愛深い母、信仰深いクリスチャン、しかし内心で揺れる人間として描写
- 聖書の引用を具体的に、そして解釈の複雑さも提示
- エマの苦境を詳細に:結婚=合法的レイプの恐怖、逃亡=家族への影響、という二重の罠
- アセクシャルへの理解のなさをリアルに描写

第三幕以降も、このトーンで続けましょうか?​​​​​​​​​​​​​​​​


## 第三幕:崩壊する境界線

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**3ヶ月後、刑務所**

**マーティン**(26、看護師)が独房で聖書を読んでいる。

面会室に呼ばれる。

祖母ナカトが待っている。しかし、今回は一人ではない。

ナロンゴ議員も同席している。

マーティンが驚く。

「おばあちゃん…それに、議員…?」

ナカトが孫の手を握る。

「マーティン、ナロンゴちゃんが来てくれたよ」

マーティンがナロンゴを睨む。

「あなたは…賛成票を投じた人だ」

「…ええ」

「なぜここに?」

ナロンゴが下を向く。

「私は…謝りに来ました」

「謝罪?」

マーティンが冷笑する。

「謝罪で、私の人生が戻るんですか?
職も、恋人も、未来も失った。

あなたの一票が、私を殺したんだ」

「分かっています」

ナロンゴの声が震える。

「でも…私には息子がいて…
子どもたちを守らなければと…」

「僕から何を守るんです?」

マーティンが立ち上がる。

「僕は看護師だった!
エイズ患者の世話をした。
マラリアで死にかけた老人を助けた。
子どもにワクチンを打った。

僕が、誰に何をしたんですか!?」

看守が「静かに!」と叫ぶ。

マーティンが座る。涙を拭う。

「僕は…ただ、ジョナサンを愛しただけだ。

彼は教師だった。
放課後、貧しい子どもたちに無料で勉強を教えてた。

二人とも、社会のために生きてた。

でも、それは間違いだったんですか?」

ナロンゴが顔を覆う。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

「議員」

マーティンが冷静な声。

「あなたには息子さんがいる。
その子が大きくなって、もし…
もし、彼が僕と同じだったら?

あなたは自分の息子も、死刑にするんですか?」

ナロンゴが硬直する。

想像したくない光景が脳裏をよぎる。

**フラッシュバック:**

- 息子デイビッドが17歳になっている
- 「ママ…話があるんだ」
- 彼の震える声
- 「僕…男の子が好きなんだ」
- そして、警察が家に来る

ナロンゴが叫ぶ。

「やめて! そんなこと…!」

「でも、可能性はある」

マーティンが静かに言う。

「統計では、20人に1人。
あなたの息子が、その1人じゃないと、
誰が保証できます?」

沈黙。

ナカトが口を開く。

「ナロンゴちゃん。
マーティンを助けるために、何かできないの?」

「私は…もう議員として…」

「議員じゃなくていい。人間として」

ナロンゴが顔を上げる。

「私、動いてみます。
でも…約束はできない」

「それでいい」

ナカトが微笑む。

「昔の優しいナロンゴちゃんが、まだいたんだね」

-----

**大学、エマの部屋**

エマがスーツケースに荷物を詰めている。

ファティマが見守る。

「本当に、結婚するの?」

「…うん」

「でも、あなた—」

「逃げられない」

エマが機械的に服を畳む。

「父が昨日言ったの。
『もし見合いを断ったら、警察に相談する』って」

「え!?」

「私を病院に連れて行って、検査させるって。
『異常がないか確認する』って」

ファティマが凍りつく。

「そんな…」

「医師の友人に聞いたら、
『処女検査』をするんだって。

そして、『性的に正常か』テストする。
男性の写真を見せて、反応を測る」

エマの声が震える。

「反応しなかったら、『異常』。
レズビアンだと判定される。

そうしたら…」

言葉が途切れる。

ファティマが抱きしめる。

「逃げようよ。今からでも」

「できない。もう遅い」

エマがスーツケースを閉じる。

「見合いは3日後。
結婚は2週間後。

それまでに逃げたら、家族が逮捕される。
『娘の逃亡を幇助した』って」

「そんな法律ないでしょ!」

「なくても、疑いだけで十分。
この国では、疑われた時点で終わり」

エマが鏡を見る。

そこには、諦めた目をした若い女性。

「私…生きてるって言えるのかな、これから」

-----

**ナロンゴの教会、日曜礼拝**

夫サムエル牧師が説教をしている。

「愛する兄弟姉妹よ。

我々は試練の時代にいます。

世界は我々を『後進的』『野蛮』と呼ぶ。

しかし!」

サムエルが声を張り上げる。

「我々には神の言葉がある!

聖書は明確です。
ソドムとゴモラの滅亡。
レビ記の戒め。
ローマ人への手紙の警告。

神は、この罪を憎まれる!」

会衆から「アーメン!」の声。

ナロンゴが席に座っている。息子を膝に乗せて。

しかし、彼女の心は説教を聞いていない。

**内なる声:**
*「でも、マーティンは誰も傷つけてない」*
*「彼は病人を助けていた」*
*「それでも、罪人?」*

サムエルが続ける。

「しかし、神は憐れみ深い方。

罪人であっても、悔い改めれば赦される。

彼らが同性愛を捨て、
正しい道に戻れば、
神は腕を広げて待っておられる!」

ナロンゴの心が叫ぶ。

*「でも、マーティンは『これが自分だ』と言った」*
*「変えられないものを、どうやって捨てる?」*
*「それは、目の色を変えろと言うようなもの?」*

礼拝が終わる。

信者たちが出口で雑談。

**信者A**(50代女性)「ナロンゴさん、素晴らしい法案でしたね!」

**信者B**(60代男性)「我が国の道徳が守られる!」

ナロンゴが作り笑顔。

「ありがとうございます…」

しかし、その笑顔の裏で、何かが砕けていく。

-----

**バチカン、枢機卿会議**

**カルディナーレ・ベネデット**が報告を受けている。

「ウガンダで、最初の処刑が執行されました」

会議室が凍りつく。

**ドイツ人枢機卿**(55)が憤る。

「我々は何をしていた!?
声明を出すべきだった!」

「我々は声明を出した」

ベネデットが苦々しく言う。

「『命は神聖である。しかし、同性愛行為は罪である』と」

「それは声明じゃない!
両論併記で、結局何も言ってないのと同じだ!」

**アフリカ人枢機卿**(68、ナイジェリア出身)が反論する。

「あなた方ヨーロッパ人は、簡単に言う。
『人権を守れ』と。

しかし、アフリカの教会は戦っているんだ!
イスラムの拡大、世俗化、貧困…

教会が伝統的価値観を捨てたら、
信者が離れていく。

そうしたら、誰がアフリカの魂を救う?」

「魂? 死んだ人に魂もクソもない!」

会議が紛糾する。

ベネデットが頭を抱える。

**フラッシュバック:**

- 若き日のベネデット、神学校で学ぶ
- 教授が言う:「教会の使命は、命を守ることだ」
- ベネデットが誓う:「私は命を守る聖職者になります」

現在に戻る。

*(私は…何を守っている?
教会の威信? 政治的バランス?
それとも…自分の地位?)*

ベネデットが立ち上がる。

「諸君」

全員が注目する。

「私は…教皇聖下に、辞表を提出する」

「何!?」

「私は枢機卿として、失格だ。
命を守れなかった。

政治を優先し、人間を見捨てた」

ベネデットが赤い帽子を脱ぐ。

「若い諸君。私の轍を踏むな。

教会は建物ではない。
教義は紙ではない。

教会は人だ。生きている、血の通った人間だ。

それを忘れた瞬間、
我々は神の敵になる」

会議室が静まり返る。

-----

**エマの見合い当日**

高級レストラン。

エマが堅い表情で座っている。

向かいには**ムバラク医師**(32、外科医)。

ハンサムで、穏やか。誰もが羨む相手。

「エマさん、心理学を専攻されてるんですね」

「…はい」

「素晴らしい。僕の病院でも、心理カウンセラーが必要で—」

「先生」

エマが遮る。

「何でしょう?」

エマが決意を込めて言う。

「私、あなたと結婚できません」

ムバラクが驚く。

父オコロが横から割り込む。

「エマ! 何を言ってるんだ!」

「本当のことです」

エマがムバラクを見つめる。

「先生は良い方だと思います。
でも、私…誰とも結婚したくない」

「それは、僕に何か問題が?」

「いいえ。私の問題です」

エマが深呼吸。

「私、誰も恋愛的に好きになれないんです。
男性も、女性も。

セックスも…したくない。
触られることも、嫌なんです」

レストランの周囲の客が振り返る。

オコロが青ざめる。

「エマ! ここで何を—」

「もう隠せない!」

エマが立ち上がる。

「私はアセクシャルです!
恋愛感情も、性的欲求も、ない!

それが私!
変えられない!」

レストラン中が注目する。

ささやき声。

「あの娘…」
「レズビアンじゃないの?」
「いや、もっとおかしい」
「病気?」
「警察に通報すべきじゃ…」

ムバラクが静かに言う。

「エマさん、座ってください」

「え…?」

「お願いです」

エマが戸惑いながら座る。

ムバラクが穏やかに微笑む。

「僕には、秘密があります」

「秘密…?」

ムバラクが声を潜める。

「僕も、誰も愛せない。
女性を見ても、何も感じない。

医師として診断すれば、僕もアセクシャル。

でも、家族は結婚しろと言う。
社会は子どもを作れと言う。

だから、僕は提案します」

ムバラクがエマの手を取る。

「僕たちは、結婚しましょう。

でも、本当の結婚じゃない。
形だけの結婚。

世間体のため。家族のため。命を守るため。

セックスはしない。約束します。
別々の部屋で寝る。

ただ、友人として、共犯者として、生きる」

エマの目から涙が溢れる。

「そんな…そんなことできるんですか…?」

「できます。やるしかない。

僕たちのような人間が、この国で生き延びるには、
これしか方法がない」

オコロが割り込む。

「先生、それは…」

「お父さん」

ムバラクが真剣な目。

「娘さんを守れるのは、僕だけです。

僕と結婚すれば、娘さんは疑われない。
医師の妻として、社会的地位も得る。

代わりに、僕も疑われない。

Win-Winです」

オコロが混乱する。

しかし、ムバラクの目を見て、何かを悟る。

「…分かりました」

-----

**ナロンゴの議員事務所、深夜**

ナロンゴが一人で書類を読んでいる。

マーティンの裁判記録。

そして、他の逮捕者のリスト。

**112名。**

その多くが、証拠不十分。

隣人の通報だけで逮捕されている。

「怪しい行動」「同性の友人と住んでいる」「結婚していない」

ナロンゴが震える。

ノックの音。

秘書グレースが入ってくる。

「議員、まだ起きてたんですか」

「ええ…グレース、これを見て」

ナロンゴがリストを見せる。

「この中に、本当に『犯罪者』は何人いると思う?」

グレースが目を通す。

「…全員、犯罪者ですよ。法律違反ですから」

「法律? この法律が正しいの?」

「議員!」

グレースが驚く。

「あなた、何を言ってるんですか!
あなた自身が賛成票を—」

「間違えた!」

ナロンゴが叫ぶ。

「私は…間違えたのよ!

子どもを守るつもりだった。
でも、実際は…罪のない人を殺している!」

グレースが後ずさる。

「議員…あなた、危険なことを…」

「グレース、あなたには家族は?」

「…弟がいます」

「もし、その弟が逮捕されたら?」

「そんなこと…」

「可能性はゼロじゃない。

独身で、ルームメイトと住んでる。
それだけで疑われる。

今の法律なら」

グレースが固まる。

ナロンゴが立ち上がる。

「私は、この法律を変える」

「無理です! 387票が賛成した。
国民の90%が支持してる!」

「じゃあ、その10%のために戦う」

ナロンゴが決意に満ちた目。

「私一人でも」

-----

**[深夜、ナロンゴの自宅]**

ナロンゴが寝室に戻る。

夫サムエルが起きていた。

「どこに行ってた?」

「事務所よ」

「こんな時間に?」

サムエルが疑いの目。

「ナロンゴ、お前…おかしいぞ、最近」

「おかしい?」

「法案が通って、皆が喜んでる。
教会も、国民も。

なのに、お前だけが暗い顔をしてる」

ナロンゴが黙る。

サムエルが詰め寄る。

「まさか…お前、あいつらに同情してるのか?」

「あいつら?」

「同性愛者だ! 罪人だ!」

「罪人…」

ナロンゴが冷たく笑う。

「あなたは完璧なの? 罪がないの?」

「何!?」

「ローマ人への手紙、ちゃんと読んだ?
2章1節。

『他人を裁く者よ、あなたに弁解の余地はない。
裁くあなたが、同じことをしている』」

「屁理屈だ!」

「屁理屈? これは聖書よ!」

夫婦が睨み合う。

サムエルが低い声で言う。

「ナロンゴ…お前、危険な道に入ってる。

この国で、『彼ら』を擁護することは、
自分も『彼ら』だと言うのと同じだ。

分かってるのか?」

「脅してるの?」

「忠告だ。妻として、母として、
正気に戻れ」

サムエルが寝室を出る。

ナロンゴは一人残される。

窓の外、雨が降り始める。

彼女は息子の部屋を覗く。

デイビッドが平和に眠っている。

*(この子を守るために、法案に賛成した。
でも…この子が大きくなった時、
彼が見る世界は…
本当に安全なの?

それとも、
誰もが誰かを疑い、
誰もが誰かを密告し、
愛が犯罪になる…

そんな地獄?)*

ナロンゴが自分の手を見つめる。

**この手で、何人を殺した?**

雷が鳴る。

-----

## 第四幕:犠牲の羊

**[続く…]**

次の第四幕では、いよいよ処刑シーンと、ナロンゴの決定的な行動、そしてエマの「契約結婚」生活を描きます。続けましょうか?​​​​​​​​​​​​​​​​


## 第四幕:犠牲の羊

-----

**4ヶ月後、国際圧力の高まり**

**国連安全保障理事会、緊急会議**

各国代表が険しい表情。

**米国代表**(58、女性)が発言。

「ウガンダ政府は、国際法を無視し続けています。
我々は経済制裁を—」

**中国代表**(52)が遮る。

「内政干渉だ。
各国には主権がある。

西側は常に『人権』を武器にして、
発展途上国を支配しようとする」

**英国代表**(61)が反論。

「これは主権の問題ではない!
人道危機だ!

すでに5名が処刑され、
200名以上が拘束されている!」

**ロシア代表**(54)が冷笑する。

「あなた方は、シリアで何人殺した?
イラクでは? アフガニスタンでは?

都合の良い時だけ人権を語るな」

議場が紛糾する。

**ケニア代表・カマウ大使**が立ち上がる。

「諸君! 我々は政治ゲームをしている間に、
人が死んでいるんだ!

今日、この瞬間も、
独房で処刑を待つ人々がいる!

その中には、看護師がいる。教師がいる。
誰も傷つけていない、普通の人々だ!」

しかし、各国は自国の利益を優先する。

採決。

制裁決議は、拒否権によって否決。

カマウが頭を抱える。

*(国際社会は、無力だ…)*

-----

**ウガンダ、ナロンゴの自宅**

朝食のテーブル。

しかし、誰も話さない。

サムエルが新聞を読んでいる。

見出し:「道徳の勝利! 国際社会の干渉を拒否」

息子デイビッドが無邪気に話しかける。

「パパ、今日は日曜学校で何を習うの?」

「ダビデとゴリアテだ」

「それ知ってる! ダビデが石で巨人を倒すんだよね!」

サムエルが微笑む。

「そうだ。小さくても、神が味方なら勝てる」

デイビッドが興奮する。

「すごい! ぼくも強くなりたい!」

「お前は強くなれる。でも、正しい道を歩むことが大事だ」

「正しい道?」

「神の道だ。間違った生き方をする人たちから、離れること」

ナロンゴがフォークを置く。

「サムエル」

「何だ?」

「デイビッドの前で、そういう話は—」

「教育だ。子どもは早くから学ぶべきだ。
何が善で、何が悪か」

ナロンゴが息子を見る。

純粋な目。まだ憎しみを知らない目。

「デイビッド、お母さんに質問していい?」

「うん!」

「もし、あなたのお友達が…
みんなと違っていたら、どうする?」

「違う?」

「そう。例えば…好きなものが違うとか」

デイビッドが考える。

「うーん…でも、友達は友達だよ?
トムはサッカーが好きで、
僕は絵が好きだけど、
それでも友達だもん」

ナロンゴが微笑む。

「そうね。友達は友達」

サムエルが割り込む。

「デイビッド、部屋に戻りなさい。学校の準備を」

「はーい!」

デイビッドが出ていく。

サムエルがナロンゴを睨む。

「何をしている?」

「息子と話しただけよ」

「子どもに変な考えを植え付けるな。
お前、最近本当におかしい」

「おかしいのはあなたよ!」

ナロンゴが立ち上がる。

「7歳の子どもに、憎しみを教えてる!
それが神の教え!?」

「憎しみではない! 真実だ!」

「真実?」

ナロンゴが聖書を掴む。

「じゃあ、これも真実ね。

ヨハネの福音書8章、
姦淫の女の話。

人々が女を石で打ち殺そうとした時、
イエスは何と言った?

『あなたがたのうちで罪のない者が、
最初に石を投げなさい』」

サムエルが黙る。

ナロンゴが続ける。

「そして、誰も石を投げられなかった。
なぜなら、全員が罪人だから。

イエスは女に言った。
『わたしもあなたを罪に定めない。
行きなさい。今からは決して罪を犯してはなりません』」

「それは—」

「待って! まだ終わってない!」

ナロンゴが涙ぐむ。

「イエスは罪を憎んだ。でも、罪人を愛した。

なのに、私たちは何をしてる?
罪人を殺してる!

イエスの教えと、正反対のことを!」

サムエルが立ち上がる。

「お前は混乱している。
牧師に相談した方がいい」

「あなたが牧師でしょ!?」

ナロンゴが夫の胸を叩く。

「あなたが! 私の夫が!
なぜ私の話を聞いてくれないの!?」

サムエルが妻の手を掴む。

「落ち着け」

「落ち着けない!
人が死んでるのよ!
あなたの教会員が、彼らを『悪魔だ』って言ってる!

でも、誰も悪魔じゃない!
みんな、神の子どもじゃないの!?」

サムエルが突き飛ばす。

ナロンゴが床に倒れる。

「ママ!?」

デイビッドが部屋から飛び出してくる。

サムエルが固まる。

「ナロンゴ…すまない、私は…」

ナロンゴが立ち上がる。息子を抱きしめる。

「大丈夫よ、デイビッド。お母さんは大丈夫」

サムエルが手を伸ばす。

「ナロンゴ、私は…」

「触らないで」

ナロンゴが冷たく言う。

「あなたは、もう私の夫じゃない」

-----

**エマとムバラクの新居**

モダンな3LDKアパート。

二人は別々の部屋で寝ている。

朝、キッチンでエマが朝食を作る。

ムバラクが出勤前に顔を出す。

「おはよう、エマ」

「おはよう…あ、コーヒー淹れるね」

「ありがとう」

二人の関係は、まるでルームメイト。

ムバラクが新聞を読む。

「また逮捕者が増えた。今度は大学教授だって」

「…怖いね」

エマが震える。

ムバラクが優しく言う。

「大丈夫。僕たちは結婚してる。
医師と妻。完璧な表向きだ」

「でも…いつまでこんな嘘を?」

「一生かもね」

ムバラクが苦笑する。

「僕たちには、選択肢がない」

ドアベルが鳴る。

二人が顔を見合わせる。

ムバラクがドアを開ける。

近所の**バシャ夫人**(50代)が立っている。

「ドクター! おめでとうございます!」

「え?」

「ご結婚でしょう? お祝いに来たの!」

バシャ夫人が勝手に入ってくる。

「あら、新婚さんなのに、なんだか冷たい雰囲気ね」

エマが慌てる。

「いえ、その…」

バシャ夫人がエマの手を握る。

「大丈夫よ、最初はみんなそう。
でもすぐに慣れるわ。夫婦生活も」

エマの顔が青ざめる。

「あ、あの…」

「それより! いつ赤ちゃんができるの?
もう夜の努力はしてる?」

ムバラクが割り込む。

「バシャさん、僕たちは医者として忙しくて—」

「だめよ! 若いうちに産まなきゃ!」

バシャ夫人が説教を始める。

「私なんて、結婚して3ヶ月で妊娠したわ。
夫婦の務めをちゃんと果たせば—」

エマが立ち上がる。

「すみません、トイレ!」

エマがトイレに駆け込む。

扉を閉めて、床にしゃがみ込む。

吐き気。震え。過呼吸。

*(夫婦の務め…赤ちゃん…
私、できない…できない…)*

ムバラクがドアをノックする。

「エマ? 大丈夫?」

「だい…じょうぶ…」

「彼女は帰った。出ておいで」

エマがドアを開ける。涙でぐしゃぐしゃの顔。

「ごめん…私…」

「謝らなくていい」

ムバラクが肩を抱く。(性的な意味ではなく、友人として)

「僕たちは、演技を続けるしかない。
辛いけど」

「でも、赤ちゃんは…どうするの?」

ムバラクが考え込む。

「養子を取る?
それか、妊娠したふりをして、
結局『流産した』ことにする?」

「そんな嘘…」

「嘘の人生を生きてるんだ、今更だよ」

ムバラクが自嘲する。

エマが窓を見る。

外は快晴。でも、彼女の心は嵐。

「私たち…いつか壊れちゃうんじゃないかな」

「…多分ね」

二人は無言で立ち尽くす。

-----

**刑務所、処刑前日**

マーティンが最後の面会。

祖母ナカトと、ナロンゴ議員。

「おばあちゃん…泣かないで」

「泣くなって言う方が無理だよ…」

ナカトの涙が止まらない。

マーティンが笑顔を作る。

「僕ね、後悔してないんだ」

「え…?」

「ジョナサンと過ごした3年間。
あれは、僕の人生で一番幸せな時間だった。

毎朝、彼の笑顔で目が覚めて、
一緒に朝食を作って、
仕事から帰ったら、『おかえり』って言ってくれて…」

マーティンの目が遠くを見る。

「普通の幸せ。それだけが欲しかった。

でも、それは叶わなかった。

この国では、僕たちの愛は犯罪だから」

ナロンゴが口を開く。

「マーティン…私、議会で動いた。
法案の見直しを提案した」

「結果は?」

「…否決された。387対1」

「1?」

「私だけが賛成した。修正案に」

マーティンが驚く。

「議員…あなた…」

「遅すぎた。あなたを救えない。
でも…せめて、次の人たちを」

ナロンゴが泣く。

「ごめんなさい…ごめんなさい…
私が最初から反対していれば…」

「いいんです」

マーティンが優しく言う。

「議員、あなたは変わった。
それだけで十分です。

人は変われる。
それを、あなたが証明した」

マーティンが立ち上がる。

「おばあちゃん、議員。
お願いがあります」

「何?」

「僕の死を、無駄にしないでください。

僕が死んだ後、
僕の話を、世界に伝えてください。

『マーティンという看護師がいた。
彼は患者を助け、老人を世話し、
誰も傷つけなかった。

でも、彼は愛したから殺された』と」

ナカトが泣き崩れる。

「嫌だ…嫌だ…
マーティン、死なないで…」

マーティンが祖母を抱きしめる。

「おばあちゃん、今までありがとう。
おばあちゃんの孫で、幸せだった」

看守が来る。

「時間です」

マーティンが二人から離れる。

最後に、彼は微笑む。

「天国で、ジョナサンに会えるかな」

-----

**処刑当日、夜明け前**

刑務所の処刑場。

報道陣は立ち入り禁止。
しかし、建物の外には数百人。

**反対派:**
「処刑を止めろ!」
「殺人者!」

**賛成派:**
「神の意志を!」
「罪人に裁きを!」

双方が睨み合う。

-----

**処刑場内部**

マーティンが連行される。

手錠。足枷。

処刑執行官**オセイ**(40)が待っている。

彼も、この仕事を嫌がっている。しかし、命令は命令。

「マーティン・カトンゴ。
最後の言葉は?」

マーティンが深呼吸。

「私は、神を愛しました。
家族を愛しました。
患者を愛しました。

そして、ジョナサンを愛しました。

それが罪なら…」

マーティンが目を閉じる。

「神よ、私を赦してください。

そして、この国を赦してください。

彼らは、何をしているか分からないのです」

*(イエスの十字架の言葉を引用)*

オセイの手が震える。

*(これは…正しいのか?)*

しかし、彼は引き金を引く。

銃声。

マーティンが倒れる。

-----

**同時刻、ナロンゴの車内**

ナロンゴが刑務所の外に停めた車の中。

時計を見る。午前6時。

処刑の時間。

銃声が聞こえる。

ナロンゴが叫ぶ。

「いやああああああああ!!!」

ハンドルを叩く。何度も、何度も。

手から血が出る。

「私が…私が殺した…!」

彼女は車内で泣き叫ぶ。

誰にも聞かれないように。

でも、神は聞いている。

-----

**エマの部屋**

エマがニュースを見ている。

**アナウンサー:**「今朝、死刑が執行されました。
これは我が国の道徳的勝利であり…」

エマがテレビを消す。

ムバラクが隣に座る。

「あれは…僕たちの未来かもしれない」

「え?」

「いつか、僕たちの嘘がバレる。
近所の人が不審に思う。
『赤ちゃんができない』
『夫婦らしくない』

そして、通報される」

エマが震える。

「じゃあ、どうすれば…」

「演技を完璧にする。
それしかない」

ムバラクが立ち上がる。

「今夜、友人を家に招く。
僕たちは、完璧な夫婦を演じる。

手をつないで、笑顔で、
『ラブラブ』を見せる」

「できない…」

「やるんだ。命がかかってる」

エマが顔を覆う。

「これが…人生なの?
これが…生きるってこと?」

ムバラクが答えない。

答えがないから。

-----

**バチカン、ベネデット枢機卿の部屋**

ベネデットが荷物をまとめている。

辞表は受理された。

若い助祭が涙ぐんで見送る。

「枢機卿様…本当に行かれるのですか」

「ああ」

「どこへ?」

「ウガンダだ」

「え!?」

ベネデットが微笑む。

「贖罪だよ。

私は、この手で救えた命を、見捨てた。

だから今から、残りの人生をかけて、
一人でも多くの命を救う」

「しかし、危険です!」

「危険? 当然だ。
殺されるかもしれない。

でも、それが私の十字架だ」

ベネデットが十字架のネックレスを外す。

「これを、教皇聖下に」

「何と伝えれば?」

「『失敗した羊飼いからの、最後の祈り』と」

ベネデットが部屋を出る。

-----

**ナロンゴの記者会見、3日後**

国会の記者会見室。

報道陣が詰めかける。

ナロンゴが壇上に立つ。

憔悴した顔。

「皆さん、今日は重要な発表があります」

ざわめき。

「私は…反同性愛法に賛成票を投じました。

しかし…」

ナロンゴが深呼吸。

「私は間違っていました」

会場が凍りつく。

「この法律は、正義ではありません。
殺人です。

私たちは、神の名の下に、
無実の人々を殺している」

報道陣が一斉にシャッターを切る。

**記者A:**「議員! それは法律への反逆ですか!?」

「反逆? いいえ。これは良心です」

**記者B:**「あなた自身が同性愛者だから、擁護するのでは?」

ナロンゴが笑う。

「違います。私は異性愛者です。
夫がいて、息子がいる。

でも、それは関係ない。

人間として、母親として、
クリスチャンとして、

私は言います。

この法律は、間違っている!」

会場が騒然とする。

ナロンゴが続ける。

「マーティン・カトンゴさんは、看護師でした。
彼は命を救う仕事をしていた。

でも、私たちは彼を殺した。

なぜ? 彼が愛したから。

それは犯罪ですか?
それは死刑に値しますか?

イエス・キリストは言いました。
『互いに愛し合いなさい』と。

なのに、私たちは愛を罰している!」

会場の半分が拍手、半分が野次。

警備員が近づく。

「議員、退場していただきます—」

「まだです! 最後に!」

ナロンゴが叫ぶ。

「私は、議員を辞職します!

そして、この法律を廃止するために、
命をかけて戦います!

たとえ、私自身が逮捕されても!」

**フラッシュの嵐。**

**見出しが世界を駆け巡る:**
「ウガンダ議員、反同性愛法を糾弾」
「賛成派議員が転向、辞職表明」

-----

**その夜、ナロンゴの自宅**

サムエルが激怒している。

「お前、何をした!?
教会中が大騒ぎだ!
『牧師の妻が背教者だ』って!」

「背教者? 真実を言っただけよ」

「真実? お前は教会を、家族を、
全てを裏切った!」

デイビッドが部屋から出てくる。

「ママ、パパ、なんで喧嘩してるの?」

ナロンゴが息子を抱きしめる。

「大丈夫よ、デイビッド。
お母さんはね、正しいことをしただけ」

「正しいこと?」

「うん。困ってる人を助けるの」

デイビッドが微笑む。

「学校で習った! 『良きサマリア人』だね!」

ナロンゴが驚く。

「そう…そうよ、デイビッド。
お母さんは、サマリア人になりたいの」

サムエルが割り込む。

「デイビッド、部屋に戻れ!」

「やだ! ママと一緒にいる!」

サムエルが息子を掴む。

「言うことを聞け!」

「いたい! パパ、いたい!」

ナロンゴが夫を突き飛ばす。

「息子に手を出すな!」

夫婦が睨み合う。

サムエルが冷たく言う。

「ナロンゴ…お前、この家から出て行け」

「…え?」

「離婚だ。
背教者の妻など、必要ない」

ナロンゴが息子を見る。

デイビッドが泣いている。

「デイビッド…」

「ママ…行かないで…」

ナロンゴの心が引き裂かれる。

しかし、彼女は決めていた。

「デイビッド、お母さんはね、
しばらく離れるけど、
あなたをずっと愛してるからね」

「ママ!!!」

デイビッドが母に抱きつく。

ナロンゴが涙を堪えて、息子を離す。

「いい子にしてるのよ。
お母さん、必ず戻ってくるから」

ナロンゴが荷物をまとめる。

家を出る。

ドアの向こうで、息子の泣き声。

ナロンゴは振り返らない。

振り返ったら、決意が崩れるから。

雨の中、彼女は歩き出す。

-----

**[幕間]**

**世界の反応:**

- 国連:ナロンゴを「良心の囚人」として表彰検討
- バチカン:沈黙(内部で議論紛糾中)
- イスラム協力機構:「西洋の工作員」と非難
- アフリカ諸国:分裂(一部支持、一部非難)
- 欧米:ヒロイン扱い
- ウガンダ国内:「裏切り者」「恥」

**SNS上:**
#StandWithNarongo
#TraitorNarongo

世界は二つに割れる。

そして、ウガンダ政府は動き出す…

-----

**[第五幕へ続く]**

次の第五幕では、ナロンゴへの弾圧、エマの偽装生活の崩壊の危機、そして…誰かが死にます。

続けますか?​​​​​​​​​​​​​​​​

## 第五幕:砕かれた者の賛歌

-----

**2週間後、ナロンゴの隠れ家**

ナロンゴは友人の**ナブワンギ元議員**(44)の家に身を寄せている。

ナブワンギは法案に反対した2票のうちの1人。

小さなアパート。壁には人権活動のポスター。

ナロンゴがラップトップで国際メディアとのインタビュー映像を編集している。

ナブワンギが紅茶を運んでくる。

「ナロンゴ、少し休んだら?
もう3日寝てないでしょ」

「休めない…今、世界が注目してる。
この機会を逃したら—」

ドアが激しくノックされる。

二人が顔を見合わせる。

「警察!? もう!?」

ナブワンギが覗き穴を見る。

「違う…ベネデット枢機卿!?」

ドアを開ける。

**ベネデット**(もう枢機卿ではない、普通の司祭服)が立っている。

「ナロンゴ議員…いや、ナロンゴさん」

「あなた…バチカンから?」

「もうバチカンの人間じゃない。
ただの老いぼれ司祭だ」

ベネデットが入室する。

「あなたの記者会見を見た。
勇敢だった。そして、正しかった」

「でも、私は遅すぎた。
マーティンは…」

「彼の死は無駄じゃない」

ベネデットが手を握る。

「あなたが声を上げた。
それが波紋を広げている。

世界中で、人々が目を覚まし始めてる」

ナロンゴが首を振る。

「でも、ここウガンダでは…
私は裏切り者。息子にも会えない」

**フラッシュバック:**

- デイビッドの泣き声
- 「ママ! ママ!」
- サムエルが息子を引き離す

ナロンゴが涙ぐむ。

「私…母親失格です」

「いいや」

ベネデットが強く言う。

「あなたは息子に、最高の教育をした」

「え?」

「本当の勇気を見せた。
権力に立ち向かう姿を。
間違いを認める強さを。

いつか、彼は理解する。
母親が、どれほど偉大だったかを」

ナブワンギが割り込む。

「でも、状況は悪化してる。
政府はナロンゴを『公共秩序紊乱罪』で逮捕すると—」

電話が鳴る。

ナロンゴの携帯。

見知らぬ番号。

「…もしもし?」

**声:**「ナロンゴか。私だ、オセイだ」

「オセイ…処刑執行官の?」

「ああ…聞いてくれ。
私は…マーティンを殺した。
銃を撃った」

ナロンゴが息を呑む。

「でも、あれから眠れない。
毎晩、彼の顔が見える。
最後の言葉が聞こえる。

『彼らは、何をしているか分からないのです』」

オセイの声が震える。

「私は…分かってなかった。
命令だから、仕事だからって。

でも、あれは殺人だった。
私は殺人者だ」

「オセイさん…」

「ナロンゴ、あなたの記者会見を見た。
あなたは正しい。

だから、私も証言する。
処刑の実態を、世界に話す」

「でも、それは—」

「私も死刑になるかもしれない。
でも、それでいい。

マーティンに、少しでも償いたい」

電話が切れる。

ナロンゴが震える手で携帯を置く。

「人は…変われるんだ」

-----

**エマとムバラクの家、夕食会**

ムバラクの同僚医師夫婦が招待されている。

**カト医師**(38)と妻**ジョイ**(35、看護師)。

テーブルには豪華な料理。

しかし、エマの心は地獄。

ジョイが話しかける。

「エマさん、結婚して半年ね。
そろそろ赤ちゃんの計画は?」

エマが笑顔を作る。(演技)

「ええ…そうですね…」

ムバラクが妻の手を握る。(演技)

「僕たちは、まず二人の時間を大切にしたくて」

カト医師が笑う。

「おやおや、ラブラブだねえ!
でも、あまり遅いと—」

「大丈夫です」

ムバラクが笑顔。

「僕たちの愛は、時間をかけて育てたいんです」

ジョイが羨ましそうに言う。

「素敵ね! 私たちなんて、
結婚したらすぐ『義務』みたいになっちゃって」

カト医師が妻を睨む。

「ジョイ! 客の前で!」

「ごめんなさい」

気まずい空気。

エマが話題を変える。

「あの…ニュースで、ナロンゴ議員の—」

テーブルが静まる。

カト医師が険しい顔。

「あの裏切り者のことか」

「裏切り者…?」

「ああ。国を売った。
同性愛者の味方をして」

ジョイが小声で言う。

「でも…彼女の言うことも、少しは—」

「ジョイ!」

カト医師が妻を遮る。

「あれは病気だ。精神疾患。
治療すべきだが、治らなければ…」

彼が首を切るジェスチャー。

エマの顔が青ざめる。

ムバラクが気づく。

「エマ、大丈夫?」

「あ…ちょっとトイレ」

エマが立ち上がる。

トイレに駆け込む。

鏡の中の自分。

作り笑顔。嘘の人生。

*(私は…病気?
治らないから…殺される?)*

エマが震える。

過呼吸。

ムバラクがノックする。

「エマ? エマ!」

「だ…いじょうぶ…」

「開けて!」

ムバラクが入ってくる。

エマが床に座り込んでいる。

「もう…無理…」

「何が?」

「演技…できない…
毎日、笑顔を作って、
手をつないで、
『ラブラブ』を演じて…

でも、心は死んでる…」

エマが泣き崩れる。

「私、生きてるって言える?
これ、生きてるの?」

ムバラクが抱きしめる。

「ごめん…僕も限界だ」

「え?」

「病院で、同僚が言うんだ。
『ムバラク、お前の妻、冷たいな』って。

『夫婦なのに、触れ合わない』
『子どもができない』
『おかしい』

疑われ始めてる」

エマが震える。

「じゃあ…私たち…」

「そう。時間の問題だ」

二人は無言で抱き合う。

(友情として。生存者同士として)

外では、客が待っている。

完璧な夫婦を演じなければならない。

-----

**3日後、国会**

政府が緊急声明。

**ムセベニ首相**(62)が演説。

「ナロンゴ元議員の発言は、
国家への反逆である!

彼女は西洋の工作員であり、
我が国の道徳を破壊しようとしている!」

議場から拍手。

「よって、政府は彼女を、
『公共秩序紊乱罪』『扇動罪』で
国際指名手配する!」

報道陣がざわめく。

**記者:**「首相! しかし、彼女は言論の自由を—」

「自由? 自由には責任が伴う!
彼女の発言は、社会を混乱させた!

これは犯罪だ!」

-----

**同時刻、ナロンゴの隠れ家**

テレビで首相の演説を見ている。

ナブワンギが慌てる。

「指名手配!? すぐに国外へ—」

「いいえ」

ナロンゴが静かに言う。

「逃げない」

「何を言ってるの!?
逃げなきゃ殺される!」

「逃げたら、負けよ。
私が間違ってたことになる」

ベネデットが頷く。

「ガンジーやキング牧師も、逃げなかった」

「でも、彼らは殺された!」

「それでも、彼らの意志は生き続けた」

ナロンゴが立ち上がる。

「私、警察に自首する」

「正気!?」

「正気よ。そして、裁判で戦う。
世界中が見てる法廷で」

ナブワンギが泣き出す。

「あなた…本気で死ぬつもり?」

「死なないわ。神が守ってくださる」

ナロンゴが微笑む。

「それに、私には息子がいる。
彼に見せなきゃ。

母親は、最後まで戦ったって」

-----

**翌日、警察本部前**

ナロンゴが報道陣を引き連れて出頭。

カメラのフラッシュが炸裂。

警察署長**ワニャマ**(56)が出迎える。

「ナロンゴ元議員、逮捕する」

手錠がかけられる。

記者たちが叫ぶ。

「ナロンゴ! 何か言葉を!」

ナロンゴが振り返る。

「私は、真実を語っただけです!

同性愛者は、犯罪者じゃない!
彼らは、私たちと同じ人間!

神の子ども!

それを忘れた時、
私たちは悪魔になる!」

ナロンゴが連行される。

世界中に映像が流れる。

-----

**刑務所、独房**

ナロンゴが一人。

壁には、以前の囚人が刻んだ文字。

**「神よ、なぜ私を見捨てたのですか」**

ナロンゴがその下に、爪で刻む。

**「神は見捨てない。私たちが、神を見捨てるだけ」**

-----

**エマとムバラクの家、深夜**

二人がリビングで向き合っている。

「ムバラク…決めた」

「何を?」

「逃げる。この国から」

ムバラクが目を見開く。

「でも、僕たちは結婚してる。
一緒に逃げるのか?」

「違う。私だけ」

「え…?」

エマが涙ぐむ。

「あなたには、医師としてのキャリアがある。
患者さんがいる。

でも、私は…もう限界」

「エマ…」

「ごめん。私、弱くて。
でも、これ以上演技できない。

壊れちゃう。本当に壊れちゃう」

ムバラクが頷く。

「…分かった」

「え?」

「君は逃げるべきだ。
僕は残る。

そして、できる限り、他の人を助ける」

「でも、あなたも疑われる!
『妻が逃げた』って!」

「大丈夫」

ムバラクが微笑む。

「『妻が病気で、治療のために海外へ』
そう言えばいい」

「そんな嘘…」

「もう慣れたよ、嘘には」

ムバラクが自嘲する。

エマが彼を抱きしめる。(友情として)

「ありがとう…あなたは、私の命の恩人」

「お互いさまだ」

-----

**1週間後、ケニア国境**

夜。月明かりだけが頼り。

エマが小さなバックパック一つで歩いている。

密入国の手引きをする**ブローカー**(30代男性)と一緒。

「もうすぐだ。国境を越えたら、ケニア側の車が待ってる」

「ありがとうございます…」

突然、ライトが点灯。

「止まれ!」

**国境警備隊**が銃を構える。

エマが凍りつく。

ブローカーが逃げる。

「待て!」

銃声。

ブローカーが倒れる。

エマが悲鳴を上げる。

警備隊長**ルガバ**(45)が近づく。

「お前、何者だ」

「私…私は…」

ルガバがライトを顔に当てる。

「女か。何してる、こんな時間に」

「旅行…です」

「嘘をつくな!」

ルガバが身分証を確認する。

「エマ・ムバラク…医師の妻?
なぜ密入国を?」

エマが震える。

「それは…」

ルガバが気づく。

「まさか…お前、『あれ』か?」

「違います!」

「違わない。結婚してるのに、逃げる。
怪しい」

ルガバが無線を取る。

「本部、こちら国境。
容疑者を確保した」

エマが叫ぶ。

「お願い! 見逃してください!
私、何も悪いことしてない!」

「法律違反だ」

「でも、私…私…!」

エマが膝をつく。

「私、ただ生きたいだけなんです…
普通に、自由に…

お願いします…」

ルガバが迷う。

彼にも、娘がいる。エマと同じくらいの年齢。

*(もし、自分の娘が…)*

しかし、彼は命令に従う。

「すまないが、仕事だ」

エマが連行される。

月が雲に隠れる。

-----

**ナロンゴの裁判、2週間後**

国際的な注目を集める裁判。

傍聴席は満席。報道陣も詰めかける。

**裁判長ムゲニ**(60)が入廷。

検察側が起訴状を読み上げる。

「被告ナロンゴは、公共秩序を乱し、
国家の道徳を貶め、
反逆的言動を繰り返しました」

弁護人(国際人権団体から派遣)が反論。

「言論の自由は、憲法で保障されています!」

「自由には限度がある!」

議論が続く。

ナロンゴが最終陳述を求める。

裁判長が許可。

ナロンゴが立ち上がる。

「裁判長、そして、この法廷にいる全ての方へ。

私は、真実を語ります。

私は、反同性愛法に賛成しました。
子どもを守るため。
社会を守るため。

でも、私は間違っていました」

傍聴席がざわめく。

「マーティン・カトンゴさんに会いました。
彼は看護師でした。
誰よりも、命を大切にする人でした。

でも、私たちは彼を殺しました。

なぜ?

彼が愛したから。

それだけです」

ナロンゴが涙ぐむ。

「私には息子がいます。7歳です。

彼に、何を教えればいいですか?

『愛は犯罪だ』と?
『違う人を憎め』と?
『殺せ』と?

それが、私たちの伝統ですか?
それが、神の教えですか?」

ナロンゴが聖書を掲げる。

「イエスは言いました。

『互いに愛し合いなさい。
それによって、あなたがたが
わたしの弟子であることを、
人々は知るのです』

ヨハネの福音書13章35節」

傍聴席の一部が泣き始める。

「私たちは、愛を殺しました。

その時、私たちは、
キリストの弟子ではなくなった。

悪魔の僕(しもべ)になった」

検察官が立ち上がる。

「異議あり! 被告は法廷を冒涜している!」

「冒涜?」

ナロンゴが検察官を見る。

「冒涜しているのは、私たちです。

神の似姿に造られた人間を、
殺している。

それが、最大の冒涜です」

裁判長が gavel を叩く。

「静粛に!」

しかし、傍聴席は静まらない。

賛成派と反対派が叫び合う。

-----

**同時刻、エマの独房**

エマが壁に頭を打ち付けている。

「死にたい…死にたい…」

看守が止める。

「やめろ!」

「お願い…殺して…
どうせ死刑なら、今すぐ…!」

エマが泣き叫ぶ。

そこへ、面会人。

ムバラク。

「エマ…」

「ムバラク!」

二人が格子越しに手を伸ばす。

「ごめん…ごめん…
あなたまで疑われる…」

「いいんだ。君のせいじゃない」

ムバラクが微笑む。

「エマ、諦めるな。
君の裁判、僕が証言する」

「証言?」

「ああ。君がアセクシャルであること。
医学的に証明する。

それは病気でも、犯罪でもない。
ただの性的指向の一つだと」

「でも、それは…
あなた自身も暴露することに…」

ムバラクが頷く。

「分かってる。でも、いいんだ。

君を救えるなら」

エマが泣き出す。

「なんで…なんでそこまで…」

「だって、僕たちは仲間だろ?」

ムバラクが優しく言う。

「この世界で、孤独だった僕たちは、
出会えた。

それは奇跡だ。

奇跡を、守りたい」

-----

**ナロンゴの判決、1週間後**

法廷は異様な緊張。

裁判長が判決文を読み上げる。

「被告ナロンゴは、
公共秩序紊乱罪、扇動罪において…」

ナロンゴが目を閉じる。

**フラッシュバック:**

- 息子デイビッドの笑顔
- 「ママ、大好き!」
- マーティンの最後の言葉
- 「僕の死を、無駄にしないで」

裁判長が続ける。

「…有罪」

傍聴席が騒然。

「ただし」

裁判長が眼鏡を外す。

「被告の動機は、人道的であった。
また、国際的な注目を鑑み、
刑は…懲役5年、執行猶予2年」

「え…?」

ナロンゴが驚く。

「つまり、刑務所には入らなくていい…?」

弁護人が喜ぶ。

「勝ったんです! 実質無罪!」

しかし、検察側が叫ぶ。

「異議あり! これは軽すぎる!」

裁判長が gavel を叩く。

「判決は下された!
これにて閉廷!」

法廷の外で、支援者たちが歓声。

しかし、反対派も待ち構えている。

「裏切り者!」
「地獄に落ちろ!」

石が投げられる。

警察が ナロンゴを護衛する。

-----

**その夜、ナブワンギの家**

ナロンゴが戻ってくる。

ベネデットとナブワンギが出迎える。

「お帰り、ナロンゴ」

「ただいま…」

ナロンゴが崩れ落ちる。

「勝った…でも、何も変わってない…」

「いいや」

ベネデットが肩を叩く。

「あなたは種を蒔いた。
それは必ず芽吹く」

電話が鳴る。

ナブワンギが取る。

「はい…え? 本当ですか!?」

ナブワンギが振り返る。

「オセイ処刑執行官が、
BBCのインタビューに応じた!

処刑の実態を暴露してる!」

テレビをつける。

オセイが画面に映る。

**オセイ:**「私は、マーティンを殺しました。
でも、彼は犯罪者じゃなかった。

彼は最後に言いました。
『彼らは、何をしているか分からない』と。

その通りです。

私たちは、何をしているか分からなかった。

でも、今は分かります。

私たちは、人を殺していた。
罪のない、普通の人々を」

オセイが泣き出す。

画面が世界中に流れる。

ナロンゴが画面を見つめる。

「ありがとう…オセイさん…」

-----

**翌日、オセイの自宅**

朝。

オセイが家族と朝食。

妻と、二人の子ども。

「パパ、テレビに出てたね!」

娘(9歳)が無邪気に言う。

「ああ…」

妻**ナルゴンド**(38)が心配そう。

「あなた…大丈夫なの?
あんなこと話して…」

「大丈夫だ。これで良かった」

オセイが微笑む。

「俺、今まで間違ってた。
でも、これからは正しく生きる」

ドアが蹴破られる。

武装した男たち。政府の秘密警察。

「オセイ! 貴様、国家反逆だ!」

妻と子どもが悲鳴を上げる。

オセイが立ち上がる。

「家族には手を出すな!」

「黙れ! 来い!」

オセイが連行される。

娘が泣き叫ぶ。

「パパ! パパ!」

オセイが振り返る。

「大丈夫だ! パパは大丈夫だから!」

(しかし、彼は分かっていた。
もう会えないことを)

-----

**3日後、オセイの処刑**

秘密裏に執行される。

報道陣は立ち入り禁止。

処刑場。

オセイが一人。

新しい執行官が銃を構える。

「最後の言葉は?」

オセイが空を見上げる。

「マーティン…
俺、少しは償えたかな…」

銃声。

オセイが倒れる。

-----

**ナロンゴの隠れ家**

ニュースが流れる。

**アナウンサー:**「元処刑執行官オセイが、
反逆罪で処刑されました」

ナロンゴが画面を見つめる。

涙が止まらない。

「オセイさん…」

ベネデットが祈りを捧げる。

「主よ、オセイの魂に安らぎを。
彼は最後に、人間に戻りました」

ナブワンギが怒りに震える。

「ひどい…ひどすぎる!
もう、この国は終わってる!」

ナロンゴが立ち上がる。

「いいえ。終わらせない」

「え?」

「オセイさんの死を、無駄にしない。
マーティンの死も。

私は戦い続ける」

-----

**エマの裁判、2日後**

ムバラクが証人として立つ。

「私は医師として、証言します。

エマは、アセクシャルです。

これは医学的に認められた性的指向の一つ。
恋愛感情や性的欲求を持たない状態。

病気ではありません。
犯罪でもありません。

ただ、彼女はそう生まれただけです」

検察官が詰め寄る。

「では、なぜ彼女は逃げたのですか!?」

「それは…」

ムバラクが深呼吸。

「彼女が、この社会で生きられないからです。

結婚を強制され、
性行為を強制され、
拒否すれば疑われ、
殺される。

それは、拷問です」

法廷がざわめく。

検察官が冷笑する。

「ドクター、あなた自身は?
妻を擁護する理由は?」

「それは…」

ムバラクが覚悟を決める。

「私も、アセクシャルだからです」

法廷が凍りつく。

「私たちは、生き延びるために結婚しました。
形だけの結婚。

社会を欺くために。

でも、それは犯罪ですか?

生きるための嘘が、罪ですか?」

裁判長が驚く。

「ドクター…あなた、今何を…」

「私は、真実を話しています」

ムバラクが法廷を見渡す。

「この中に、何人いますか?

本当の自分を隠して生きている人が。

誰も愛せない人。
同性を愛する人。
性別に違和感を持つ人。

私たちは、ここにいます。

あなたの隣に。
あなたの職場に。
あなたの家族に。

見えないだけです」

傍聴席が静まり返る。

そして、一人の男性が立ち上がる。

「私も…そうです」

次に、女性が立つ。

「私も」

次々と、人々が立ち上がる。

「私も」
「私も」

法廷が騒然となる。

裁判長が gavel を叩く。

「静粛に! 静粛に!」

しかし、止まらない。

人々は立ち続ける。

沈黙の抵抗。

-----

**その夜、ムバラクの逮捕**

ムバラクが病院から帰宅途中。

秘密警察が待ち構えている。

「ムバラク医師、逮捕する」

ムバラクは抵抗しない。

「分かりました」​​​​​​​​​​​​​​​​

——-

AIの制限で尻切れトンボになりました。
未完のAI小説でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご感想やコメント、「ここがおかしいぞ」などいただけますと幸いです。

*「自分で書いて完成させろよ」
と言う話かもしれませんが、筆力に力不足を感じています。
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