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後編
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その日から、都築による新しいCASが始まった。
都築の作るCASは、絶対王政ではあったが、無駄な暴力はしなかった。
俺や蒼井が逃げられないことには変わりなかったが、それでも殺されかけたり、精神を擦り減らさせられることがない分、マシだ。
蒼井は家に帰ることは許されなかったが、夜は冷暖房のある仮眠室のベッドで休むことができるようになった。
鎖がついた足枷で足首とベッドの足をつなげられて、夜逃げなどはできないようになっている。
しかし、血まみれで拘束され1畳の倉庫に転がされることを考えれば、だいぶマシだった。
一方、俺が最初にやったことと言えば、蒼井の替えの眼鏡を買いに行ったことだ。
捕虜だった蒼井はさておき、現CASメンバーの中では一番最初に都築側に寝返った俺は、団長から都築への引き継ぎ役を任されていた。
「連絡は基本このチャットアプリでやってるから……招待するからスマホ出せ」
「持ってません」
「スマホくらい持ってんだろ、中学生だか高校生だか知らねえけど」
「保護者が買ってくれないから。……僕から水無瀬さんに言いますから、連絡は水無瀬さんがしてください」
厳しい家なのだろうか。
あるいは、貧しい家なのかもしれない。
それに気になる。
かしこまっていたとしても、両親を「保護者」なんて呼ぶだろうか。
いくら大人びているとはいえ、まだ子どもだ。
俺は無性に、あの子供の育った環境を知りたくなった。
どう成長すれば、あんな大それた大義を抱くようになるのか、聞きたいができそうもない。
きっと何か、複雑な家庭事情でもあるのだろう
社会に不満なく生きているのであれば、あんなに革命に心血を注ぐ理由はない。
都築はCASが新しくなったことを誇示するために、大きなテロ事件の計画を俺たちに話し始めた。
日本で幅を利かせる大きな宗教団体S。
数多の政治家との汚い関係が明らかになっている団体だ。
宗教団体SはΩ差別的な教えを掲げていた。
そんな宗教団体Sが、Ω保護委員会に多額の賄賂を贈り、宗教活動を黙認させるように癒着しているとの噂があるのだ。
蒼井は深刻そうな顔で都築の話に補足する。
「癒着の噂は、俺も以前から耳にしている。Ωから団体Sに対する裁判もいくつかあったが、勝訴になった例は一度もない」
都築の話はこうだった。
来月、この宗教団体とΩ保護団体の表向きの会合がある。
それは、世間の注目を引きつけ、賄賂の現金受け取りを隠すためではないかと。
「んな大金だったら、現金輸送じゃなくて振り込みなんじゃないのか?」
「振り込みは足がつきます。……ここ数ヶ月、団体の口座から用途不明の金がちょっとずつ引き出されているとのタレコミが、週刊誌に載っていました」
会合までにまとまった金を作り、キャッシュで渡す手筈でしょう、と都築は言った。
「……驚いたな。先月の週刊誌の小さなコラム欄だろう、それ。よく調べてるな」
「攻め時は、いつだって血眼で探しています。……僕がこのタイミングで、組織に入ったのはこの計画には人数がいるからです」
一人でできるなら一人でやっていた、とでも言わんばかりの都築の態度に、俺はこいつの覚悟を改めて感じ、そして戦慄した。
「情報は確かでも、内情はあくまで推定でしかない。確かな内情を掴むべきだ。」
蒼井がそう助言する。
都築があらかたの作戦を伝え、蒼井がそれに肉付けしていく。
俺には理解が追いつかなかったが、要するに作戦はこうだった。
事前に宗教団体Sに潜入し、情報を得る。
賄賂の現金輸送の確証と、輸送方法を突き止める。
おそらくなんらかの手段で、車で運ぶと予測される。
その車を襲撃し、ジャックをする。
カージャック事件として、緊急ニュースが流れる。
詳細が調査され、宗教団体SとΩ保護委員会の癒着が暴かれる。
「その後はどうすんだよ、金も奪うのか?」
「まさか、活動資金は欲しいところですが、こちらが事を荒立てれば、人々の関心が癒着から離れる。それは目的に反します。」
計画は固まったようだ。
都築は立ちあがって、パンと手を軽く叩いた。
「さて。では早速ですが、お二人にミッションを与えます」
「ミッション?」
「宗教団体Sに潜入し、情報を集めてきてください。」
「はあ?なんで俺たちが!」
「お二人とっても『仲良し』みたいなので、僕の助けがなくてもお二人でなんとかできるでしょう?」
俺はバツが悪くなり、頭をかいた。
別に恋愛関係というわけではないのだ、まだ。
実際、蒼井が俺に好意を抱いているのかは、定かではない。
「運命の番」は勘違いだったわけだし……。
俺だって、蒼井のことが、その、恋愛として好きなのかは、まだわからない。
ただ、空虚な俺にとって、自分にないものを持ってるから憧れてるだけなのかもしれない。
しかし側から見れば言い訳しようがないほどに、俺たちは「仲良し」に見えるらしい。
蒼井は意味がわかっているのか、わかっていないのか、都築の言葉を意にも介さず、ニッコニッコと笑っていた。
都築の作るCASは、絶対王政ではあったが、無駄な暴力はしなかった。
俺や蒼井が逃げられないことには変わりなかったが、それでも殺されかけたり、精神を擦り減らさせられることがない分、マシだ。
蒼井は家に帰ることは許されなかったが、夜は冷暖房のある仮眠室のベッドで休むことができるようになった。
鎖がついた足枷で足首とベッドの足をつなげられて、夜逃げなどはできないようになっている。
しかし、血まみれで拘束され1畳の倉庫に転がされることを考えれば、だいぶマシだった。
一方、俺が最初にやったことと言えば、蒼井の替えの眼鏡を買いに行ったことだ。
捕虜だった蒼井はさておき、現CASメンバーの中では一番最初に都築側に寝返った俺は、団長から都築への引き継ぎ役を任されていた。
「連絡は基本このチャットアプリでやってるから……招待するからスマホ出せ」
「持ってません」
「スマホくらい持ってんだろ、中学生だか高校生だか知らねえけど」
「保護者が買ってくれないから。……僕から水無瀬さんに言いますから、連絡は水無瀬さんがしてください」
厳しい家なのだろうか。
あるいは、貧しい家なのかもしれない。
それに気になる。
かしこまっていたとしても、両親を「保護者」なんて呼ぶだろうか。
いくら大人びているとはいえ、まだ子どもだ。
俺は無性に、あの子供の育った環境を知りたくなった。
どう成長すれば、あんな大それた大義を抱くようになるのか、聞きたいができそうもない。
きっと何か、複雑な家庭事情でもあるのだろう
社会に不満なく生きているのであれば、あんなに革命に心血を注ぐ理由はない。
都築はCASが新しくなったことを誇示するために、大きなテロ事件の計画を俺たちに話し始めた。
日本で幅を利かせる大きな宗教団体S。
数多の政治家との汚い関係が明らかになっている団体だ。
宗教団体SはΩ差別的な教えを掲げていた。
そんな宗教団体Sが、Ω保護委員会に多額の賄賂を贈り、宗教活動を黙認させるように癒着しているとの噂があるのだ。
蒼井は深刻そうな顔で都築の話に補足する。
「癒着の噂は、俺も以前から耳にしている。Ωから団体Sに対する裁判もいくつかあったが、勝訴になった例は一度もない」
都築の話はこうだった。
来月、この宗教団体とΩ保護団体の表向きの会合がある。
それは、世間の注目を引きつけ、賄賂の現金受け取りを隠すためではないかと。
「んな大金だったら、現金輸送じゃなくて振り込みなんじゃないのか?」
「振り込みは足がつきます。……ここ数ヶ月、団体の口座から用途不明の金がちょっとずつ引き出されているとのタレコミが、週刊誌に載っていました」
会合までにまとまった金を作り、キャッシュで渡す手筈でしょう、と都築は言った。
「……驚いたな。先月の週刊誌の小さなコラム欄だろう、それ。よく調べてるな」
「攻め時は、いつだって血眼で探しています。……僕がこのタイミングで、組織に入ったのはこの計画には人数がいるからです」
一人でできるなら一人でやっていた、とでも言わんばかりの都築の態度に、俺はこいつの覚悟を改めて感じ、そして戦慄した。
「情報は確かでも、内情はあくまで推定でしかない。確かな内情を掴むべきだ。」
蒼井がそう助言する。
都築があらかたの作戦を伝え、蒼井がそれに肉付けしていく。
俺には理解が追いつかなかったが、要するに作戦はこうだった。
事前に宗教団体Sに潜入し、情報を得る。
賄賂の現金輸送の確証と、輸送方法を突き止める。
おそらくなんらかの手段で、車で運ぶと予測される。
その車を襲撃し、ジャックをする。
カージャック事件として、緊急ニュースが流れる。
詳細が調査され、宗教団体SとΩ保護委員会の癒着が暴かれる。
「その後はどうすんだよ、金も奪うのか?」
「まさか、活動資金は欲しいところですが、こちらが事を荒立てれば、人々の関心が癒着から離れる。それは目的に反します。」
計画は固まったようだ。
都築は立ちあがって、パンと手を軽く叩いた。
「さて。では早速ですが、お二人にミッションを与えます」
「ミッション?」
「宗教団体Sに潜入し、情報を集めてきてください。」
「はあ?なんで俺たちが!」
「お二人とっても『仲良し』みたいなので、僕の助けがなくてもお二人でなんとかできるでしょう?」
俺はバツが悪くなり、頭をかいた。
別に恋愛関係というわけではないのだ、まだ。
実際、蒼井が俺に好意を抱いているのかは、定かではない。
「運命の番」は勘違いだったわけだし……。
俺だって、蒼井のことが、その、恋愛として好きなのかは、まだわからない。
ただ、空虚な俺にとって、自分にないものを持ってるから憧れてるだけなのかもしれない。
しかし側から見れば言い訳しようがないほどに、俺たちは「仲良し」に見えるらしい。
蒼井は意味がわかっているのか、わかっていないのか、都築の言葉を意にも介さず、ニッコニッコと笑っていた。
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