【完結】運命の番より俺を愛すると誓え

劣情祝詞

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後編

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 俺たちはホールの段差に腰掛け、顔を寄せ合って蚊の鳴くほどの小声で話し始めた。

「俺の方は書庫を見つけた。例の本を取って、今服の中にある」
「こっちはさっきのスタッフが向かった方に行ってみたんだ」

 蒼井の収穫はこういうものだった。
 先ほどのスタッフが名乗った役職は、団体の中でも権力を持ったポジションだった。
 何か核心に迫るだろうとついていくと、事務局らしき場所だった。

「その時点で関係者以外立ち入り禁止の場所だったんだが、尾行を続けて…」

 事務局の中には幹部と思わしき信者たちがたくさんいたが、入り口で耳をそばだてた。

『来月の会合…』
『……メガ保護団体…手筈が…』
『この書類に…トラック……内密に…』

 断片的にしか聞き取れなかったものの、そう言いながら何か書類を持っていた。

「詳しくはわからないが、おそらく賄賂の現金輸送の書類だろうと思われる」
「すげえな、核心に迫ってるじゃん。その情報を手に入れればミッションコンプリートってか?」
「じゃあ、早速行こうか」
「……?」
潜入調査ミッションインポッシブル


 俺の緊張はピークに達していた。
 事務局に潜入し、蒼井が見た「書類」を手にいれる。
 早々にその作戦を実行するため、俺たちは関係者以外立ち入り禁止の廊下を歩いていた。
 挙動不審になれば怪しまれる。
 そこにいるのが当たり前のように堂々と、俺たちは歩いていた。

 関係者が事務局から席を外す時、それは「礼拝」の時だ。
 信者たちが礼拝に向かうのを確認して、俺たちは事務所を覗いた。
 そこには狙い通り、人1人いなかった。
 
「やべっ礼拝遅刻する!」

 そう呟いて小走りで部屋から飛び出してくる男を俺たちはすっと避ける。
 心臓はばくばく、蒼井は俺の耳元で囁いた。

「あの男がさっきのこと話してた人だ」

 その男を最後に、部屋の中はしんと静まり返った。
 入れ替わるように平然と侵入する。
 窓一つない真っ白な壁に囲まれた中に、オフィスデスクが整然と並んでおり、その机の上には資料やファイルが乱雑に積み上げられている。
 ズンズンと一つの机に向かう蒼井についていくと、そこには一つのファイルが広げられていた。
 
トラック手配書
運行計画表

 賄賂輸送の関係書類がそのファイルには全て詰め込まれていた。

「運送は中型トラック一台、運送内容は、事務用品か。……そんなわけないな、これは現金輸送の虚偽申告か」

 目を通す蒼井の横で俺は無音カメラでひたすら資料を写真に収める。

「運行計画表の行き先は読み通り、Ω保護委員会の事務所だ」
「あ~あ~ホントに、正義もへったくれもねえな」

 証拠を集め終わった俺たちは、早々に退散することにした。
 都築に命じられた任務は、癒着の証拠を掴み、賄賂の現金輸送の情報を集めること。
 これだけあれば十分だ。
 蒼井がファイルを机に置こうとしたその時だった。

「おいっ!そこの二人何やってる!!」

 突然怒鳴り付けられる声に、蒼井はファイルを取り落とした。
 バサササと音を立てて紙が散らかる。
 扉付近には警備員のような格好をした巨躯の男が立っていた。
 まずい、なんで、誰もいないはずじゃ?
 混乱する俺を後ろに押し込め、蒼井は平然と笑った、

「……今日からここの担当になったんですよ、聞いていませんか?」
「そんな話は聞いていない」
「ほら、大きい声じゃ言えないけど近々大きな仕事があるでしょう?人員補充ですよ」
「……礼拝には参加してください」
「これは失礼しました、すぐに向かいます」

 行くよ、と声をかけ蒼井は俺の手を引っ張った。
 よくもまあ弁が立つものだ。
 警備員に見送られ俺たちは部屋を出た。
 しかしまずかった。
 入会手続きの時に説明をしていた団員が前から歩いてきたのだ。

「あれ、お二人何をやっているのですか?礼拝堂はあちらですよ。一日目ですから迷いましたか?」

 背後から警備員の「え?」という声が聞こえた。
 その瞬間、蒼井が目の前の団員を突き飛ばした。

「水無瀬くん、走るよ」

 小声で俺にそう言って、手を取ったまま走り出した。

 「追え!」という声が聞こえる。
 廊下を全力疾走、大きな音を立てて扉を開ける。
 とにかく出入り口を探し、走り続ける。
 追っ手は徐々に人数を増す。
 複雑に入り組んだ倉庫の隅に隠れ、なんとか追っ手を巻いたが、すぐそばで捜索している声が聞こえる。
 俺たちはすでに息を切らし、汗だくだった。

「奥にいくしかないか」

 蒼井はそう呟く。
 倉庫の奥の薄暗い場所には重そうな扉があった。
 俺たちはひとまずそこに身を隠す。

「はぁ、はぁ、くそ。なんなんだよ」
「水無瀬くん、大丈夫?」
「な訳あるか……こっちは煙草で循環器終わってんだよ……はぁ……はぁ」
「息整えて、落ち着いたら外まで全力疾走するから。車に乗り込んで逃げるよ」
「……わかった……わかったから手ぇ離せ……」

 ふと自身の手を見ると、蒼井はまだ俺の手を握っていた。

「わわわわぁ!すまない!」

 慌てて勢い良く離す。
 クソ、顔が赤くなっているのを認めたくない。
 俺はふいっとそっぽを向いた。
 そんな俺を察してか否か、蒼井は話を逸らした。

「それにしてもここは一体なんなんだろう。フロア案内にはこんな場所、載ってなかったぞ」

 俺の呼吸が落ち着くまで、少し歩いて探索してみることにした。
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