【完結】呪われた双子 -犬として育てられた弟がよしよし♡され、次期当主として育てられた兄がボロボロ♡にされる話-

劣情祝詞

文字の大きさ
52 / 57
未来編 7年後の彼ら

7年後の彼ら 1

しおりを挟む
 三条ほつみは今日、26歳の誕生日を迎えた。
 誰かに誕生日を祝われるのは人生で7回目のことだった。
 大学を卒業してからは、自分の同居人兼、執事兼、恋人の神谷が奉公している巴家で、同じく世話係として働いている。
 巴家の長女は初めて会った時はほんの赤ん坊だった。
 しかし、それから7年の月日が経ち、今では小学生だ。
 なぜか、神谷には懐かず、ほつみに懐いた少女の親代わりの一部を担っていた。
 親に愛された記憶のない自分が、子どもと触れ合っている。
 それは奇妙なことだったが、失った自分を取り戻しているようで心地が良かった。

「誕生日だから、今日は早く帰りなさい、神谷さんも一緒に!」

 巴家のお手伝いさんたちに促され、ほつみと神谷は早く仕事を上がった。
 駅前のレストランで二人きりのささやかな誕生パーティーを行う。

「ほつみさん、また来年も、こうして祝いましょう。」
「来年も、再来年も、ずっとだ。俺の横で祝えよ、絶対。」

 幸せを噛みしめる。
 その幸せのままに、酔いが回ってくる。
 目の前で笑う神谷、その顔を見てぎゅんと心臓が高鳴った。
 ああ、今日、こいつ、俺を抱くのかな。
 ……抱かれたいな。
 セックスしてえ。
 興奮を押さえつけながら、俺は神谷との幸せなひと時を過ごした。

 レストランを出て、二人で並んで歩く。
 夜は少し肌寒い。
 神谷は酒が回った様子で上機嫌でニコニコとしていた。
 俺は先ほどの興奮が冷めやらず、気が付いた時には声を出していた。

「なあ、今日、抱いて。」
「はい!?」
「…………セックス…したい。」

 顔を真っ赤にしながら口を尖らせるほつみの顔を見て、神谷は素っ頓狂な声を上げた。
 
「……コンビニ、寄ってもよろしいですか?」
「……わかった。」

 その神谷の意図を察して、俺はこくんとうなづいた。
 ゴムを買うのだろう。
 照れ臭いけど、なんだか愛おしくもある。
 ちょうど歩いている通り沿いに、コンビニが見えてくる。
 
「では、行って参ります。他のものも諸々買ってきますね。」
「おう、俺は外で待ってる。」

 神谷は足早にコンビニに駆け込んでいった。
 ほつみは道の端に寄って待っていたが、立っているだけでは暇だった。
 少しくらい離れてもいいだろう。
 ほつみは神谷を待っている間、周辺をぶらぶらと歩き回り始めた。

 ん?こんなところにこんな道あったか?
 そこは、裏通りにも関わらず、なぜだか人通りが多かった。
 
 そこに入ってみる。
 ネオン街だ。
 夜の街、だと一瞬でわかった。
 酔っ払った男、水商売の女、店の前でたむろする複数のゴロツキたち、因縁でもつけられちゃたまったものではない。
 しかし好奇心は抑えきれず、ほつみの中で膨らんだ。
 ずんずんと先へ進む。

 その時、細い裏路地に座り込む男の影を見つけた。
 ただの酔っ払いか、そう思って通り過ぎようとした。
 しかしその顔を見て、ほつみは心臓が爆発しそうなほどの驚きを感じた。

 その顔は、自分の顔と全く同じだった。
 こんな顔をしている人間は、自分の他に一人しか知らない。

 一綺……?
 
 路地裏で、ぐったりと弱って倒れていたのは、間違いない。
 三条家当主、兄の一綺だった。

 3年前、当時の三条家当主である父親が急病で倒れて、入院生活となった。
 母親はその介護でつきっきりだ。
 心労が祟ったのか、持病があったのか、数年離れて暮らしていたせいか、その理由は皆目見当もつかなかったが、ただざまあみろとだけ思った。
 一綺が若くして当主を継いだという話は聞いていた。
 当主が変わった事で、ほつみと神谷の解放は決定的なものとなったと言っていいだろう。
 一綺がほつみに固執することはなく、もう三条家に縛り付けるつもりもないらしかった。

 その当主様が、なぜこんな夜の街で、一人で倒れているというのか。

 疑問は絶えなかったが、正直な話もう関わりたくなかった。
 もう兄とも思ってなかったようなこの男に、なぜ構う必要がある?

 ほつみはその存在を無視して通り過ぎようとした。
 しかし、足が止まる。
 流石に放っておいてはいけないのではないか。
 そんな考えが頭を支配する。
 夜の屋外は寒く、そろそろ深夜に片足を突っ込んでいる。
 こんな狭く暗い路地裏に男が一人転がっていても、誰も気がつかないだろう。
 知らない他人だったとしても、これを無視して通り過ぎるのは、人間としてどうなのだろうか。
 それに、このまま死んだなんて報告でも入ったら、いくら憎らしい兄とはいえ寝覚めが悪い。

 ほつみは、意識を失う寸前でうなだれている兄の腕を掴んで、その体を自身の体に背負った。
 とぼとぼと、歩き出す。
 しかし、向かう先は三条家ではなかった。
 ほつみのトラウマである三条家には足を踏み入れたくなかった。

 ほつみと一綺がたどり着いたのは、近くの格安ビジネスホテルだ。
 自分のことを認識できない一綺の体を、ベッドにボフンと寝かせる。
 なぜビジネスホテルに来たか、それは一つの作戦を決行するためだった。
 一綺の近しい人物に連絡し、迎えに来てもらう。
 一綺の意識が戻る前に、自分は速やかに後を去る、という計画である。
 一綺と関わりたくない、ほつみの最大限の考慮だった。
 素早くやれば、コンビニに入った神谷との待ち合わせに間に合うだろう。
 早速、一綺のスマホを勝手に覗き見ると、一番最後に連絡を取っていた人間がいた。
 三条家の者の名前ではなかった。
 好都合だ、三条家の人間が電話に出れば、ほつみの声だとわかってしまうかもしれない。
 ほつみは迷わず電話をかけた。
 その名は、久留米だった。

「……あ、すみません、お知り合いの方ですか。」
『え、あ、はい、そうですけど。』
「なんか道端で倒れてて、はい、××の近くのビジホの803号室です。扉開けておくので迎えに来てもらえますか。」
『は、はい。大丈夫です!あの、一綺君は大丈夫ですか?』
「あー、多分寝てるだけなので、大丈夫です。」
『わかりました!10分くらいでいけると思います。』

 ばさばさと身支度する衣擦れの音がしながら、久留米は急いで電話を切った。

「さて、俺も出るか……。」

 そう呟いて、立ち上がろうとするほつみの服の裾を一綺が掴んだ。

「…………ほつみ?」

 一綺は酷く混乱していた。
 なんで、ほつみが俺の目の前に。
 そんなこと、あるはずがない。
 この弟は、家を出て行ったんだ。
 俺が乱暴して、虐待したから。
 俺のことを憎んでいて、一生許してもらえない。

ーーああ、これは夢だ。

 朦朧とする頭は、目の前の現実をうまく飲み込めない。
 夢ならば……。

「……ほつみ…………許して……くれ。」

 目の前の兄の口から、信じられない言葉が出てきて、ほつみは全身の血が沸騰するような、憤懣やるかたない思いがした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...