葛宮葬儀屋の怪事件

劣情祝詞

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第二話 兄弟喧嘩は葛宮しか食わない

1 あぁ剣!どこ行ってたんだ!

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第二話 兄弟げんかは葛宮しか食わない





つるぎ、お前が殺したんだ」
「……ちが……俺は……」
「父さんと母さんと、兄弟を見捨てた」
「見捨ててなんか…ない……」
「お前は幸せになっちゃいけない人間なんだ」
「…兄さん……っ!」


「だけど……俺だけは、お前を許してやる、剣」


「っ!……はぁ…はぁ……は……」

 覚醒。
 汐見は勢いよく瞳を開け、先までの出来事が夢だったと自覚する。
 目が覚めた瞬間、うなされる汐見を嬉々として爛々として覗き込む葛宮と目が合う。
 うっすら汗をかく汐見を見つめて、葛宮はニンマリと笑った。

「悪夢なんて見るんだねえ!」
「……見ますよ、人間ですから」

 荒い呼吸を一瞬で抑えて、汐見はいつもの冷淡な口調で至極当たり前のことを答えた。
 そんな二人と同じ空間で、俺と晴瀬も仕事をしている。
 もとい、晴瀬は手持ち無沙汰でスマホをいじっているだけだが…。
 汐見は一時間ほど前に、葛宮葬儀屋の事務所のソファで寝落ちしてしまった。
 悪夢を見てうなされていたから起こそうとしたのだが、オーナーに「起こしたら殺すぞ」と言わんばかりの殺気立った目で止められてしまった。
 本当に悪趣味だ。
 忍耐強く、自分を殺して家族のために生きている男だ、密かに心労も溜まっているのだろう。
 せめてここでは、神経を張り詰めずにリラックスして過ごしてほしいものだ。

「お水、机に置いときましたよ」
「……ありがとうございます」

 俺が先ほど用意した水を一口。
 無表情に見えるが、嬉しいのかちょっと微笑んでいる。
 0.1ミリの口角の動きを見逃さない。
 俺はここ一ヶ月ほどで、汐見の表情には敏感になった。
 ちょっとした笑み、怒り、悲しみなどをなんとなく察せるようになってきた。
 感情が少しでも見えてくると、さらにこの男の好感が持てるところが露になる。
 本当に素直で、純粋なものだ。
 三つ上の23歳で、身長190cm越えだとしても、なんだか田舎の無垢な子供のようで可愛くすら思えてくる。
 まあ、犯罪者じゃなければもっと可愛いのだが。
 そうだ、この男は一ヶ月前ここ、葛宮葬儀屋に客として訪れた。
 「自分に取り憑いた霊を火葬してほしい」と。
 霊の声を聞くことで事件の真相に近づいていくと、この男が家族ぐるみで殺人の隠蔽工作に加担していたことが判明した。
 なんやかんやあって、その男がうちで働くことになった。
 なんだよなんやかんやって!話飛びすぎだろ!
 殺人はしていないまでも、犯罪者と同じ空間にいること自体が俺にとっては恐怖以外の何者でもない。
 しかしまぁ、家族を守るためにやったのだという動機はわからんでもないから、とりあえずは例の事件のことは忘れて、新しい同僚と良好な関係を築くつもりはある。

 さて、その被害者のことなんだが……。
 今は捜索願いが出されているようだ。
 しかし警察も親族も本気で探しているような素振りはない。
 本当かは定かではないが、泥酔して道に転がっていたくらいだから、日頃の素行に両親も呆れていたようだ。
 本気で捜索する気がないなんて話もある。
 それかあるいは、実家の太い葛宮が圧力で揉み消している……などという妄想まで抱く。
 いや、妄想ではないかもしれないが。

「汐見くん、もっと顔をよく見せてくれ」

 汗が滲み束になって額に張り付く前髪を、葛宮が優しい手つきで搔きわける。
 汐見はどう反応したらいいのかわからず、目を伏せながら、ただ照れて頬が赤くなるのを押さえつけていた。

「初めてここに来た時よりも人間らしい顔になったね」
「……人間らしくなったら俺には興味がなくなりますか?」
「とんでもない。それでもなお死を纏っている君の存在が愛おしくてたまらない」

 うげ~~~昼間っからやめてくださいよぉ。
 この一ヶ月間、ずっとこんな感じだ。
 半住み込みで働く汐見とは、ほぼ同居状態だと聞く。
 さぞ友情(愛情?)も深まっているのだろう。
 
「おっ、おっぱじまるか?久遠、俺らも混ざって4Pしようぜ」
「ちんこもげろ」
「……言うようになったな」

 俺は作業の手を止めずに晴瀬をあしらう。
 結局汐見の事件の件で約束通り100万円のボーナスを貰った。
 実際には借金の額が減っただけなので現金を手にした訳ではないが、負債が300万から200万に減っただけでも最高にありがたい。
 そもそも利息ゼロで借金を肩代わりしてくれているのがとんでもないことだ。
 葛宮に利はないから完全に慈善事業なのではないかと思うが、その代わり俺をバイトとしてこきつかっているのでおあいこだと信じたい。

 そんな俺たちの日常を、バタンと大きな扉の音が遮った。
 誰かが入店。
 俺は反射で挨拶。

「いらっしゃいませ~、葬儀のご依頼で……す……か?」

 その客は俺のことなんか見えていないかのように、無遠慮にズンズンズンと奥に入り込んできた。
 身の丈が高く全身真っ黒で、まるで黒い影のように、バサリと外套を翻したかと思えば、キョトンとした顔で立ち尽くしている葛宮の肩をぐいっと押し退ける。
 衝撃の強さで華奢な葛宮の体はふらりとよろめいた。
 葛宮とは違うベクトルの非常識人の登場に一同面食らう。
 
「あぁ剣!どこ行ってたんだ!」
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